平和を支配するのは誰か

フィリス・ベニス
英語原文
2003年4月3日

米英によるイラク攻撃に反対する活動を精力的に行っている川崎哲氏は、3月28日の国連安保理決議1472について、次のように述べています(『週刊イラQ』第17号の概要、4月4日、AMLメーリング・リストより)。


国連安保理は2003年3月28日、「石油と食料の交換」プログラムを戦時下の人道援助のために「調整」するという安保理決議1472を、全会一致で採択しました。この決議に関して、米国は自らの描く戦後シナリオへの第一歩として国連を活用するものと位置づけており、かたやシリアやロシアは、あくまで戦時下の臨時的なもので人道目的に限定的な措置とすべきだと主張しています。このように各国が実質的には対立しながらも、同じ文言で一致したという微妙な関係にあります。

交渉の結果、決議1472には、イラク国民の自決権と石油管理権やイラクの主権と領土保全が明記され、「例外的な状況のもとでの技術的かつ臨時的な調整」であるときわめて限定的な表現がされています。採択にあたって、シリアやロシアが、この決議は軍事行動を「正当化するものではない」と明確に声明を発していることも重要です。

また、戦時においては「占領国が、住民の食糧および医薬品の供給を確保する義務を負う」としたジュネーブ第4条約の規定も、決議1472は再確認しています。現実には、バスラ等で電力や水道がストップし、赤十字などが復旧作業を行おうとしても実質的妨害にあっていることが報告されています。こうした状況の改善を行う義務が米英にあることが明示されたと言えます。

こうした戦時下の人道援助活動が、なし崩し的に戦後体制へのレールを敷くものになってしまえば、「イラク国民の自決権」は完全に形骸化されてしまいます。日本政府など各国は、戦時下の援助の問題と、戦後復興プロセスの議論を明確に峻別すべきです。そのためにも、停戦という明確な「仕切り直し」の線を即時に引く必要があります。

ここでご紹介するフィリス・ベニスの記事は、こうした「背後」での「人道援助」や「戦後(!)処理」に関する米国の政策をめぐるものです。


米国のイラク攻撃は、国連の承認なしに行われているもので、国連憲章に違反している。これは、侵略戦争である。ジュネーブ条約に従えば、占領国である米英がイラクの人々に対する人道的ニーズを提供する義務を負う。それには、食料や医薬品、水、シェルターなどが含まれる(ジュネーブ条約第四条約の第55条および第一議定書の第69条)。紛争期間中において、そして戦後に米国がイラクを占領するとすると、その期間において、この義務は、議論の余地のないものである。

米国によるこの戦争そのものが違法であるため、いかなる「戦後」の米国による占領も違法である。これは、「戦後」イラクの経済・政治・社会体制を決める権利を米国が主張することは許されないということである。おうではあれ、米英は占領下のイラクの人々に対して、戦中も戦後も、その人道的ニーズを提供する義務を負う。イラクの現政権が追放されたときに、統治およびイラク新政権と市民社会の再建援助について権限を持ちうるのは国連のみである。

国連は緊急得所において中心的な役割を務めようとしている(特にUNICEFやWFPなどの大規模国際人道組織を通して)。攻撃開始後まもなく行われたコフィ・アナン国連事務総長との困難な会議の中で、米国国家安全保障顧問のコンドリーザ・ライスは、「戦後」イラクをめぐる国連の役割を米国が指示する権利を主張した。アナンは、この違法な戦争の事後的な正当化を米国に与える役割を採るよう国連が説き伏せられるべきだとは考えていないと示唆した。けれども、攻撃開始後2週間たったときの米国国務長官コリン・パウエルは、「我々がしなくてはいけないのは・・・何とか国連の役割を利用して、我々の行動、イラクにおける[アメリカの]同盟国の行動に、何らかの賛同を与えることである」と述べている。

戦争終結後、米国は米軍にイラクを支配させる決意でいる。ペンタゴンが選んだ総督と、米国国務省が指名した様々な陰の大臣候補者たち −この各々に、イラク亡命者の中から米国が任命した顧問が数名指名される− との権力バランスについては、意見の相違がある。国務省の官僚たちは、ペンタゴンのイデオローグたちが国務省の使命候補者を、たとえばジェームズ・ウールセー元CIA長官のような人物に差し替えるのではないかと危惧している(ウールセーはイラクに対する戦争を以前から提唱してきた)[ちなみにウールセーは。2001年12月、イラク侵略を提唱して、次のように述べている。「アフガニスタンにおけるアメリカの勝利に際してアラブ人が示した沈黙は、『米国への敬意を再生させることができるのは恐怖だけである』ことを証明している」]。けれども、ここでは、コフィ・アナン事務総長が「イラクを占領する交戦国」と呼んだ国に課される国際的義務は全く認識されていない。

2003年3月26日に米国議会で証言したコリン・パウエル米国国務長官は、「戦後」イラクにおける統治をめぐる意志決定に関して国連が採るべき役割の制限について述べた。ある議員がパウエルに、「特に人道的な側面に関して、国連の役割についての国連決議があるべきことと、国連決議が戦後イラクのロードマップを提示して意志決定と統制を[米英の]同盟国から国連の手に移すこととは、別の問題であるように思える。・・・国連決議が採択されるときに、国連がそうしないよう確約することはできるのか」。パウエルはこれに対して次のように答えた。「現在のところ、そうした可能性すらないと考えている。・・・我々は、国連に全てを手渡すこと、そして国連が指名した誰かがこの全作戦を担当することは、支持しない」。パウエルは証言の中で、また、次のようにも述べている。「同盟国のパートナーとともに我々が将来の事態について重要で支配的な統制を取れないならば、こんな巨大な負担を負わなかったであろう」。

緊急支援と再建の費用をめぐる質問に関しても、パウエルは同様にあからさまだった。3月26日の議会に対する同じ証言の中で、彼は次のように述べている。「国連には果たすべき役割がある。ほかの国々から支援を得たいと我々が望むとき、我々がそれらの国の議会や国会に対して資金提供の承認を求めるとき、国際的なお墨付き−こんな言葉を使えるのなら−があれば、ただ単に「アメリカに提供するための資金をくれ」というよりも、こうした国々が資金を確保し、それを再建/再開発に拠出することははるかに容易になるだろう。ただアメリカに資金を提供せよといってもうまく行かないだろう。それゆえ、ここにおいて国連が役割を果たすことにはかなりの利点がある」。米国は、米国が果たすべき人道的義務に必要な資金を国際的な財政支援として求める一方で、実際の承認権、権力、意志決定を他国と分け合う意図はさらさらないことを明らかにしている。BBCワールドは、ブッシュ政権高官が、フランスは役割を果たすべきかと問われたときに答えた言葉を伝えている。この高官は、フランスにあるとされる「反米主義」に言及し、「参加したいなら、ゴミ拾いくらいはさせてやろう」と述べている。

欧州諸国の政府は、米国の中枢的同盟国である英国のトニー・ブレアも含め、米軍によるイラク統治計画に強く反対している。ブレアは、国連の役割を増大させようしできれば再建プロセスを国連に統制させようとする汎ヨーロッパ的な努力の先頭に立っているほどである。これは、どうやら、特にフランスとドイツを中心とするヨーロッパの戦争反対諸国との関係を修復するための一方法と見なしているようである。国連のオフィシャルたちは、英国の提案は、単なる人道救助以上の国連の役割を決定するために、英国提案は有用な出発点であると考えている。けれども、ある国連職員によると、「それについてさえ、アメリカは、『それについては忘れろ』という信号を送ってきている」と語る。

イラク攻撃から2週間が経過し、ブッシュ政権の上級官僚たちは、自分たちの「戦後」計画の基本にあった「過度に楽観的な」仮定(特に軍事作戦が30日以内に終わるだろうという点)に対して、「アメリカ軍は、当初予想していたよりも長期にわたり強固な統制を続ける必要がありそうである」(ニューヨーク・タイムズ紙・2003年4月2日)と述べている。「イラク暫定統治機構」を発表する計画もお流れになった。地方権力をイラク人に手渡す計画も、細部まで規定された条件が整わない限り遅らされる。この条件は、バスラをはじめとする諸都市において軍と民兵組織を完全に平定し敗北させること、バグダッドの制圧、イラク政権の破壊などを含む。けれども、米国国務長官パウエルは、米国はNATO軍に役割を果たすよう求めるかも知れないと示唆している。

緊急人道援助の組織について、米軍作戦立案者たちは、戦闘が終了し次第、援助組織がイラクに殺到し、十分な食料、医薬品、シェルター、浄水設備などをイラクの人々に提供するだろうと予想している。それも、米軍の統制のもとで。ペンタゴンは、人道支援活動にあたる人々に、米国国防省が発行した識別のためのバッジを付けさせたがっている。一方、様々な援助組織は、いくつか重大な問題を認めている。(1)戦闘がすぐに終了すると、現在のところ、イラク内の食料・医薬品・水の量は、家族の貯蓄が尽きた後、人々のニーズをカバーするには不十分であること、(2)米国は、援助組織がイラクに入って需要の評価を行い、物資をイラクに運び込むことを拒否していること。米国はイラクの国境の大部分を統制しており、誰がイラクに入れるかを決定している、(3)米国が支配する経済制裁が今も存在しているため、援助組織は安全に運び込むことができる規模の限られた物資をさえ、イラクに運び込むための承認を得ることができない、(4)援助組織は一般に軍事統制下での活動の準備が出来ていない。というのも、そうした条件は、援助組織の原則にある中立性を犠牲にし、ほかの場所での援助組織の相手組織との関係を危険にさらすことになる。というのも、米軍統制下で活動する援助組織は、米軍によるイラク攻撃の側に見なされるからである。

ペンタゴンは、再建人道補助局を設置した。この局長にはジェイ・ガーナー元将軍が運営する予定であり、ガーナーは、米軍中央軍司令官であり米軍攻撃の総司令官であるトミー・フランクスのもとに置かれる。ガーナーは、イラクでの新しいポストにもかかわらず、SYテクノロジー社の社長職にとどまる。SYテクノロジー社は、イラク攻撃に現在用いられているミサイルシステムの技術支援を提供している会社である。ガーナーの指名は、数層にわたる問題を反映している。(1)彼は、全く疑わしい軍関係者と兵器製造諸企業との接点を代表している、(2)彼は、武器の威力について(パトリオット・ミサイルに関する広く批判された発言を始めとする)挑発的な発言をしており、また、イスラエルについても挑発的な発言をしている(「パレスチナ当局の指導者が扇動している致命的な暴力に直面する中で、イスラエルは驚くほどの自制を示した」)。それゆえ、アラブ世界で極端な反応を引き起こすことは確実である、(3)彼の国連との関係は「冷え切っており」「緊張したもの」であることが知られている、(4)違法な戦争のあとでアメリカ人をイラクの総督に指名することは、さらに国連憲章を公然と無視することであり、国連の権威を無視することになる。

米国は、米国国際開発局(USAID)の職員を、戦後、ペンタゴンの統制下で援助活動の調整のために働かせようと計画している。これは、ワシントン自身の主要な援助組織をも軍の位置部門に追いやろうということである。

ブッシュ政権は、石油メジャーの一つシェルの元最高責任者であるフィリップ・E・キャロルを、戦後のイラクにおける石油生産の「監視」役に指名する可能性が高い。この人物は、最近フルール社の理事長兼最高経営責任者職を退いた。フルール社は、イラク「再建」のためにペンタゴンとの大規模な契約に名乗りを上げた5つの米国建設企業の一つである。ニューヨーク・タイムズ紙によると、キャロルは人々をミクロ的に管理しないことで知られており、「米国政府がイラクの人々に石油をコントロールさせるならば」、彼によく奉仕するおとになるだろうと述べている。


必要なこと

米国ではなく国連が緊急再建計画と「戦後」の再建を管理しなくてはならない。

侵攻当事国としてイラクを占領している米英は、ジュネーブ条約に従い、緊急支援と戦後再建支援の費用を支払う義務がある。

紛争中、侵攻国である米英は、民間人の必需品を提供する義務を負う。人道組織はイラクに自由に入り活動することが認められなくてはならず、軍事的な制限や経済制裁による制約を受けずに人的・物質的提供を行えなくてはならない。また、人道組織自身が、いつイラクに入って安全かといった点についての意志決定を行えるようにしなくてはならない。人道支援組織は、米軍から独立していなくてはならず、米軍の統制下にあってはならない。

ペンタゴンにつながりがあったり、現在イラクの人々に対して使用されている武器の製造企業につながりがあったりする人間は、誰も、「戦後」の人道活動において何らかの地位を得てはならない。


日本の小泉首相は、イラクの「戦後」再建に日本が資金を提供すると述べています。税金から。大多数の人々の反対を無視して不法な侵略戦争を支持する小泉首相は、こんどはそれによる破壊からイラクを「再建」するために、人々の税金から喜んで資金を提供しようというのです。「人道援助」の名のもとで。米英には援助と再建の支払いを行う義務があるという点を隠蔽して、国連を含む世界を、米英の戦争の尻拭いに必要な資金提供者に仕上げようという米国の意図に、従順に応じようというわけです。しかも、川口外相が述べているように、今の時点で「停戦を求めるということもない」ままに。人道援助は、むろん必要です。けれども、米国や日本の態度は、「人道援助」の観点から見ると、「援助をするために破壊する」という倒錯に似た状況になっています(支配が主目的なので、全体から見るとそうした構図にはなりませんが)。

嬉々として破壊と殺害に協力し、「再建」資金を提供する。この倒錯で、誰が得するのか。私たちの税金で、誰を潤すのか。単純ながら、この記事には、その点についてもはっきり書かれています。援助を巡る倒錯については、拙訳の『アメリカの人道的軍事主義』(チョムスキー)でもユーゴ爆撃後の状況を巡って指摘がありましたが、今回の侵略と破壊で、「復興援助」の契約を少なからぬ建築会社は待ちかまえており、また、武器製造業者は、「ブーム」を予期しています。まさに、破壊と死のビジネスです。

なお、米国の国連に対する今回の態度は極めてあからさまですが、これまでも、一貫して米国は国連と対立し国連を軽視してきました。その一部については、国連安保理における米国の拒否権行使米国対世界:国連総会を舞台にをご覧下さい。

国際的にも国内的にも、政治や法の再編成をごり押ししようとしているようです。これらに対して、戦後国際法・国際政治の理念的枠組みをきちんと踏まえて批判し批判行動を展開すると同時に、政治的なもの・法的なものの、米国がゴリ押ししようとしている像とは別の姿を構想していくことが必要であるように思います。元気を出して。
益岡賢 2003年4月5日 代々木発ピースパレードから帰って

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