パウエルに応える

Rahul Mahajan
2003年2月6日
ZNet原文


仮にコリン・パウエルが安保理で2月5日に言ったことをすべて信じるとしよう。 そのとき、最初の対応は、それならば、戦争をする理由などない、というものになる。 というのも、米国の監視能力は極めて優れているというわけだから、イラクの大量破壊兵器(WMD)を見つけだすことはいとも容易であり、戦争など必要ないだろうから。 そして、最初の疑問は、なぜ、この重大な証拠を、2カ月間も、武器査察団に対して隠していたのか、というものになろう。 この情報があれば、査察団はそれを検証し、WMDのストックと製造施設を破壊できたであろうに。

仮に、提出された証拠がパウエルが主張するような性質のものだったとすると、米国は、国連安保理決議1441の第10項をサボタージュしていたことになる。 そこには、「すべての加盟国に対し、UNMOVIC[査察団]およびIAEA[国際原子力機構]の任務遂行に全面的な支持を与えるよう要請する。それには、禁止品目を獲得しようとする1998年以降のイラクの試みを含め、禁じられた計画あるいはほかの側面の両機関の任務に関連した情報を提供すること・・・が含まれる」とあるのであるから。

しかしながら、実際に提出された<証拠>は、サボタージュを示すほどのものですらないかも知れない。 パウエルが安保理までわざわざ持ち出したのは、情けなくなるほど混沌としたボヤけた建物の航空写真と、イラク内でのアルカイーダの活動とされるものについてのちょっとした「組織図」と、多義的な解釈を許す2、3の録音テープと、名前のはっきりしないイラク脱走者による日付すらない報告書である。

1990年にサウジアラビア侵略のためにイラクが兵を進めているとサウジ政府を信じ込ませるために衛星写真をちょっといじるといったことから、1998年にイラクが武器査察団を「追放した」という信じがたいほど粗野なものに至るまで(実際には当事の報道からもわかるように査察団は米国の命令で撤退した)、戦争への支持をとりつけるために米国が情報操作を行ってきた歴史を考えるならば、今回提出されたどの証拠も、額面通り受け入れる必要はない。 そうであっても、検討するのは有用であろう。

イラクとアルカイーダに関する証拠

パウエルの発表のなかでも特に弱いところ、そしてもっとも重要な部分は、イラクをアルカイーダの作戦と関連づけようとしている部分である。 これまで、この関連は、モハメド・アッタというたった一人の人物に関する主張に関係していた。 このアッタが、プラハでイラク諜報筋と接触していたというのである(その後、アッタは接触していたとされる時期に米国にいたことがほぼ確実となった)。 このたび、関連は、たった一人の人物アブ・ムサブ・アル=ザルカイにかかっている。

アル=ザルカイは、アンサル・アル=イスラムというイスラミスト・グループの順位の高い活動家であり、北部イラクで活動しているとされる(現在は、米国と同盟している暫定的なクルド政府により自治状態にある地域である)。 この組織とイラク政府とのあいだに明らかなリンクはないにもかかわらず、パウエルは、イラク政府はアンサルにハイレベルのエージェントを送り込んでおり、そのエージェントが「アルカイーダに避難場所を提供している」と主張する。 けれども、イラク政府による「避難場所」提供を受け入れたものはほとんどいないようである。 というのも、アンサルがいるのは、イラク政府が統制していない地域なのであるから。 そして、アル=ザルカイとイラク政府との関係の全体は、彼がバグダッドの病院で治療を受けたということに尽きる。 米国の標的に対するテロ攻撃にイラク上層部が関係しているという証拠を示すものにはなり得ない。

さらに、アンサル自体を2001年9月11日の米国に対する攻撃と結びつけることもなされていない。 アンサルの組織員に過ぎないアル=ザルカイがイラクにいることが戦争の理由として十分だというなら、アンサルの指導者であるムラー・クレカルが何の問題もなくノルウェイに住んでおり、米国は、身柄引き渡し要求すら出していないのはどういうことなのだろうか。 ちなみに、クレカルは、アンサルがアルカイーダと関係があるということを全面的に否定している。

パウエルはまた、アルカイーダの囚人の一人が、イラクがアルカイーダのメンバーに生物兵器と化学兵器に関する情報を伝えたと述べたと主張している。 アルカイーダの囚人が拘束されている条件と、そして囚人たちが米国政府が聞きたがっていることを話す誘因とを考慮するならば、これは、まともな証拠というにはほど遠い。 常識から言っても異様である。 サダム・フセインは、アルカイーダからずっと敵視されてきた。 一方、サダム・フセインは、イスラミストを、自分の支配にとって最大の脅威と見なしてきた。 イスラミストたちにサダムが生物兵器や化学兵器 −自らの体制存続にとって必須のものと見なしている兵器(多くのアナリストたちが、1991年に米国が「体制変更」を行わなかったのは、サダムが自衛のために化学兵器を使うかも知れないと考えたからと思っている)− 製造能力を提供することにより、サダム自身の支配が揺らぐ可能性があるのである。

イラクの大量破壊兵器(WMD)に関する証拠

パウエルの発表の中心は、イラクが国連安保理決議1441に違反しており、WMDを入手しようと試みているということに関する。 この証拠には、倉庫と壕の隣のトラックの写真といったものがある。 これについては、トラック(「汚染除去」トラックらしい)と倉庫がこうしたかたちで配置されているのは、壕に化学兵器が格納されていることを示す反駁しがたい証拠であるという。 また、イラクの無人航空機(UAV)の姿が「どのようなものか」を示したという写真さえある。

パウエルは、イラクが核兵器を入手する試みを再開しているとも述べ、3要素のうち2要素を入手しているという。 三番目の要素は核分裂性物質で、これがつねに障害となっていた。 パウエルによると、「われわれは10年以上にわたりフセインが核兵器を入手しようと決意しているという証拠をもっている」と述べたが、10年以上にわたり、彼がまったく成功しなかったことについては言及しなかった。

また、IAEA(国際原子力機構)のイラク核武装解除団の代表であるモハメド・エル・バラダイが、次のように安保理に対して述べていることについても、パウエルは言及しなかった。

現在まで、禁止されている核あるいは核に関する活動が続けられているという証拠は見つかっていない。 査察団は、新たな核施設も、いかなる核活動を直接指示する兆候もこれまでのところ発見していない。 IAEAは、向こう数カ月のうちに、例外的な状況がなければそしてイラクによる協力があれば、イラクには核兵器開発計画はないという信頼できる確証を提供できると期待している。

パウエルはまた、イラクがある種のアルミニウム・チューブを入手しようとしたことは、核分裂物質を製造する遠心分離器のためであるという主張をふたたび持ち出した。 IAEAは、これらのチューブは通常の砲身に適したものであると結論したにもかかわらずである。

ほかの「証拠」のほとんどは、出元が明らかでないか、あるいは、米国が便利なときに必要に応じて取り出してきた脱イラク者軍団の一人によるものである。

もっとも重要な証拠は、2つの会話を記録したテープで、これは、イラクが査察官から証拠を隠そうと試みていることを示しているものとされている。 そもそもテープが本物であるかどうか知ることはできず、また、それが最近のものなのか、以前の査察時のものなのか、さらには、会話が実際に何を指しているのかもわからない。 これらすべての問題をおいておいても、イラクが実際のWMDではなく12月7日の宣言に記載しなかった小さなもの(たとえば最近見つかった空の化学兵器薬莢)を隠そうとしていたり、内緒で記載漏れの物質を査察官に見つからないよう除去したりしようとしていた可能性は大いにある。

パウエルは、発表全体を通して、1998年にUNSCOMが結論し、また、最近UNMOVICが確認した、イラクにおける化学兵器と生物兵器の実状についての承認をしていない。 それは、次のようなことがらである。

イラクが西洋の企業(特に米国とドイツの企業)から輸入した化学物質や生物媒体、その他の物質の量についての記録がある。 査察官がどれだけ破壊したかの証拠もある。 イラン・イラク戦争でどれだけそれが使われ、またイラクが自主的にどれだけ破壊したかについてのイラクの主張がある。 イラクは、査察団に対して、数値の違いについて整合性を取れるような十分な証拠を提供できていない。 それゆえ、化学弾薬について数量のギャップがある。 たとえば、イラクは550のマスタードガスを充填した弾薬が湾岸戦争で失われたと主張しているが、それを証明できていない。 生物媒体についてもギャップがある。 そして、イラクの生物兵器製造者たこれまでずっと継続的に生物教材を育ててきたというまったく非現実的な仮定を置くならば、イラクは炭疽菌のような生物教材を理論的にはかなり大量に保有できると試算することができる。
このギャップは、査察官が生物兵器と化学兵器に関する査察を終えることができない程度のものではある(核兵器については基本的に査察を終了したが)。 このギャップが生じた理由の少なくとも一部は、イラクが、イランとの戦争、湾岸戦争における史上もっとも破壊的な空爆を被ったこと、そして12年にわたる過酷な経済封鎖により、こうした記録を完全なかたちで保持できていないことによるものと思われる。

イラクの脅威なるものは存在するか?

イラクが査察との協力を避けようとかなりの力を注いでいたのは疑いない事実である。 現在それが起きている可能性はある。パウエルの証拠の一部は本物かもしれない。

けれども、パウエルの発表には、イラクによる脅威をめぐる真面目な議論はまったく欠けていた。 米国に対しての脅威も、湾岸地域の近隣諸国に対する脅威も。 大量破壊兵器(WMD)を所有していることが明らかになったとしても、所有しているだけでは、攻撃意図を証明することにはならない。 そして、事実として、湾岸戦争以来、イラクは頻繁に攻撃を受けてきた(米国と英国による爆撃、トルコによる北部への周期的侵攻、南部におけるイラク領土のクウェートによる実質的併合)が、イラクが他国を深刻に脅かしてはこなかった。

イラクの攻撃意図についての証拠は次のようなものであるようである:サダムは1988年「自国民に毒ガス攻撃を浴びせた」ので、2003年の現在、サダムがわれわれを攻撃するという差し迫った脅威が存在する。 しかし、この「差し迫った脅威」は、われわれが1年間にわたって攻撃準備のために好戦的戦争レトリックを展開することを妨げるほど「差し迫った」ものではなかったようである。

そしてこの論理は、フセインの攻撃に関する歴史の核心的事実を都合良く無視している。 例外なしに、サダム・フセインが犯した最悪の犯罪は、物質面と外交面の双方にわたる、米国の全面支援のもとで犯されたという事実である。 イランに対する戦争、1980年代後半のアンファル作戦におけるクルド人大虐殺、そして、1991年の「イラク民衆蜂起」に対する残酷な弾圧さえも、米国からの明らかな支援を伴っていたのである。 軍事情報の提供や、生物教材や化学物質の輸出許可、「農業」貸付の提供、反乱派の武装解除などを始め、多くの米国の支援のもとでフセインはこうした最悪の犯罪を犯してきた。 クウェート侵略も、米国は気にしないだろうという意図的に信じ込まされた考えにより行われた。 米国の支援なしには、フセインはせいぜい内部の政敵に対してしか脅威でないということは、フセイン自身もよく知っている。

パウエルはこうした事実に言及しなかったが、「先制攻撃」の議論において、イラクが真の脅威であるという証拠が欠けていることを基本的に認めている。 彼は次のように述べた。 「世界の対応がもっと弱々しいような、そんなある時に、彼がこれらの武器を、自分の決めた場所と時間に自分の決めた方法で使うかも知れないという危険を犯すべきだろうか」。 むろん、確固たる証拠がない状況においては、いかなる国もほかの国に対してこのような議論を提起することができる。 それだからこそ、「先制」は国際法にはっきりと対立するのである。

イラクが協力しなければどうするか?

現在イラクが査察に全面協力していないならば、その理由を考える必要がある。 1998年に最初の査察活動が崩壊しはじめた理由は一つである。 イラクが武装解除したら経済封鎖を解除するということを、米国が拒否したことにある。 これは、米国自身が国連安保理決議687に従わないということであった。

今回の状況はそれよりも悪い。 米国は、イラクに対する爆撃を継続的に進めている。 そして、この爆撃は、もはやそれ自体不法な「飛行禁止ゾーン」の適用と何らの関係もなく、米国が戦争を開始するときに行う対空防衛機能の破壊にある。 米国は大規模な部隊を湾岸に派遣している。 そして、誰にでもはっきりと聞こえるように、イラクが何をしようと、国連安保理による承認の有無にかかわらず、戦争を行うと、はっきりと宣言しているのである。

実際、米国のコラムニストの一人ビル・ケラーは、2002年11月16日に掲載されたニューヨークタイムズ紙の記事「査察に期待できるものは何か」のなかで、査察は戦争の序曲としてはすばらしいものである、というのも、査察により「サダムの火器を大規模に減ずることができる」ので、米国が報復の恐怖なしに戦争を容易に推敲でき、また、「査察はイラクを不安定化する」からだとまで述べている。

それゆえ、イラクは、他国による攻撃を受けながら武装解除を要求され、それから、「国際社会」に部分的にしか協力しないと罵られるという、奇妙な立場に置かれている。

米国が安保理による戦争の承認を手にする可能性は高まっている。 そうすると、米国は、イラクに対して戦争をしかけるのは、国際法を維持するためだという議論をするだろう。 事前に、こうした議論がどこまで嫌らしいものであるか理解しておくのは重要である。 米国が、イラクに関して、武装解除に対して経済封鎖を解除するという決議の基盤を認めることを拒否し、繰り返しイラクを不法攻撃し(例えば「砂漠のキツネ」作戦での爆撃)、純粋に政治的理由で経済封鎖がイラク社会に最大の苦痛をもたらすようにし(これについては、Joy Gordon, "Economic Sanctions as a Weapon of Mass Destruction," Harper's, November 2002を参照)て、国際法を体系的に阻害していたという理由だけではない。 また、米国が二枚舌を用い、自分の仲間には何ら法的基準を適用せず、一方、標的とした国家についてはそうしなかったという理由だけでもない。

そうではなくて、戦争は、至善の国際法を犯すものだからである。 戦争は「平和に対する罪」であり、攻撃行為である。 この戦争はかなり前にホワイト・ハウスで決定されたもので、他国がそれを支援するとすると、その唯一の理由は、他の国の意思にかかわらず、米国は戦争をすると述べていることにある。 米国が捕虜にしているのはイラクだけではない。全世界を捕虜にしているのである。



Rahul MahajanはNowar Collectiveのメンバー。 The New Crusade: America's War on Terrorism (April 2002, Monthly Review Press) および近刊のThe U.S. War on Iraq: Myths, Facts, and Liesの著者。 メールはrahul@tao.ca

すでに(そもそもの最初から明らかでしたが)、米国や英国が、戦争をしたいがためだけにことを進めているのは、本当にあまりに明らかです。 ブッシュは「ショーは終わった」と言いましたが、これははからずもこの事態を暴いています。 紛争の平和的解決を求めることが「ショー」で、国際法に違反し、無辜の人々を何万人・何十万人と 殺害する戦争は「ショー」に対して推進すべき「現実」なのでしょうか。


一つ上へ   益岡賢 2003年2月7日
トップページは http://www.jca.apc.org/~kmasuoka/です