コロンビア:米国人権モニタリングの弱点

ダグ・ストークス
2003年9月8日
コロンビア・ジャーナル原文


レーヒー修正は、大規模な人権侵害を犯した外国の軍隊に対する米国の軍事援助流入を制限することを意図した法律である。1997年に発効して以来、米国による世界規模の軍事資金提供のあらゆる形態に対して適用できるよう拡張されてきた。とりわけ、レーヒー修正はコロンビアに対する米国の軍事援助にも適用されてきた。コロンビアは、米国軍事援助第三の受取手であり、また、ゲリラとコロンビア軍/準軍組織との間で永年にわたり内戦が続いている国である。コロンビア軍への軍事援助を正当化するために、ワシントンは、人権モニタリングがあるので、米国の援助が人権侵害に用いられることは防止できると主張する。レーヒー修正は、人権モニタリングを保証する重要なメカニズムである。けれども、この法律の適用には、実質的にそれが効果のないものになってしまうほど危険な弱点がある。

コロンビアでは、人権侵害を犯してきた兵士たちの属するコロンビア軍部隊を調べるかわりに、軍事援助の対象として、「対麻薬」部隊が新規に結成された。コロンビア軍に対する検査は、既存の部隊の人権侵害に対してではなく、新たに結成され調べられた部隊に対するものに重点を置くこととなった。レーヒー修正適用に際してのもう一つの欠点は、援助を禁止された部隊に属している兵士でも、兵士自身の人権記録さえクリーンであれば、軍事訓練を受けることができるという事実にある。こうした兵士は、訓練を受けた後に部隊に戻って新たに身につけた技術を教え込むことができる。こうして、実質的に、米軍顧問から直接にではなく二次的にであれば、援助を禁止された部隊も、訓練を受け続けることができることになる。

レーヒー修正は、かなりの部分、米国政府の透明性に依存している。それに対し、政府は毎年、海外軍事援助報告(FMTR)を発表している。ワシントンに本部を置くシンクタンクである国際政策センター(CIP)は、FMTRをモニターし続け、その情報に基づく調査結果を公開している。CIPは、1999年以来、米国がそれ以前のFMTRに含まれていた情報の機密レベルを引き上げたことを示しており、これにより「レーヒー法の人権制限の適用をモニタリングすることが阻害される」と述べている。機密レベル引き上げ以前のFMTR報告は、レーヒー法に違反して、「部隊レベルでの援助を禁止されたコロンビア旅団の兵士たちが訓練を受けている」ことを示していた。FMTRの機密レベルが引き上げられたことにより、「米国政府がレーヒー修正を適用しているかどうか監視することが不可能」となった。つまり、FMTRの透明性が減じたことにより、今や、不法訓練が行われているかどうか知る手だてがなくなったのである。

レーヒー法はほとんどのかたちでの軍事資金援助を対象とするが、国防省による軍事援助に適用されるレーヒー修正は、麻薬戦争の資金援助---それには大部分が軍事援助からなるプラン・コロンビアの13億ドルの援助パッケージが含まれる---に適用されるものよりも遙かに制限が弱い。例えば、米国国務省の「第1004項」のモニタリングは、軍事演習や武器売却、そのほかのいくつかの情報共有には適用されない。

コロンビアでの人権検査を適用するにあたり、米国政府はコロンビア国防省に、人権侵害を行なっていないようなコロンビア軍人のリストを提出するよう求める。訓練候補がクリーンであるかどうかを決定するために、コロンビア国防省はコロンビアの法廷や内務局をチェックする。重要なのは、この検討では、信頼できる人権侵害の証拠が存在しても公式の告訴にまで至っていない場合は、そうした人権侵害は無視されることである。

ヒューマンライツ・ウォッチは、コロンビアの司法体制のもとでは、資金やスタッフが足りないため、公式の告訴までには、しばしば数年かかると述べている。さらに、とりわけコロンビア軍人を人権侵害で批判する市民が頻繁に標的にされることにより醸し出された、コロンビアに蔓延する恐怖の雰囲気により、米国の人権モニタリングはさらに一層弱いものとなる。

最後に、米国政府が契約私企業を使っているために、訓練と武器売却に関する法的な見落としや最終的な利用を巡るモニタリングが曖昧になっている。ディンコープのような米国傭兵企業はコロンビア軍に対して兵站支援と訓練を提供している(「コロンビアにおける米国の傭兵たち」を参照)。もう一つの米国契約私企業であるミリタリー・プロフェッショナル・リソース社(MPRI)は、コロンビア軍のレビューのためにコロンビア政府と協力して活動しているほかに、1万1000人以上の個人---ほとんどが元米国軍人---のデータベースを維持し、必要に応じて一時的な任務として現地に派遣する。

この「官民連携」は多くの点で好都合である。これにより、ワシントンは戦略目標を追求するにあたって軍事ノウハウを提供しながら、公式の軍人を海外に派遣することを巡る議会の目を逃れることができる。契約私企業へのアウトソーシングにより、政府は、米軍兵士の犠牲者からしばしば引き起こされるメディアの否定的な報道を迂回することができる。私企業の契約者たちは、雇用主である企業にのみ責任を負っているため、宣伝上マイナスとなるような行動に誰かが関与したとしても、米国政府は直接の責任をもっともらしく否定できるのである(Are They Civilians or Mercenaries?)。

元駐コロンビア米国大使だったマイレス・フレシェットは、傭兵を使うことの利点について、「米軍の一部ではないチームを持っているのはとても便利である。誰かが殺されたりなんだりしても、軍の兵士ではないと言うことができるのだから」と語っている。こうして、官民連携は、公共の資金と米軍兵士及び装備のみを扱うレーヒー法の透明な適用を深刻なまでに弱体化させている。究極的に、アウトソーシングは、米国軍事政策立案者たちに、相当なまでの「もっともらしい否定」の手段を与えることになる。

これらの要因すべては、コロンビアにおける米国の政策、とりわけ米軍援助とコロンビア軍におけるその利用に対する関しに、に非常に深刻な影響を与えている。実効的な人権モニタリングもなく、また、コロンビアにおける人権侵害の8割を行なっている右派準軍組織とコロンビア軍との密接な関係があることを考えるならば、米国の軍事援助は、実質的に、コロンビア最悪のテロリストたちに与えられることになるのである。


ダグ・ストークスはウェールズ大学国際政治学部の助教授で、特にコロンビアを中心に、ラテンアメリカにおける米国の対ゲリラ戦略について記事を発表している。他の記事はwww.dougstokes.netで読める。

9月8日(月)コロンビアの人権団体及び国際人権団体数十グループが共同で、ウリベ大統領の「対テロ政策」は民間人を標的として人権侵害を犯しているという報告書を発表しました(現在ボゴタで人権関係者の会議が続いています)。これに対してウリベ大統領は、「人権活動家はテロリストの手先だ」と発言(「対テロ戦争」の意味するところについては対テロ戦争フランチャイズを、コロンビアにおける人権活動家への弾圧についてはまた別の敵:人権活動家たちをご覧下さい)。概略は、コロンビアのニュースをご覧下さい。

米国政府は、以前から、議会の制限により自らやりにくいことを、イスラエルや台湾などにやらせていましたが、「官民連携」で軍事作業を私企業に外注することによる議会のチェックの迂回は最近ますます強化されてきているようです。イラクにおける兵站支援をネオコン系の私企業に外注してがたがたになっているのは、そうした大枠の中の一例です。

今日は2003年9月11日。1973年9月11日、チリでピノチェト将軍が起こした軍事クーデターの30周年記念です。クーデターを後押ししていたヘンリー・キッシンジャーは、その後、1975年12月7日のインドネシア軍による東チモール全面侵略にもゴー・サインを出すなど、戦争犯罪への荷担を重ねていきます。1973年9月11日に逮捕されたチリの音楽家ビクトル・ハラは、軍による収容所とされたチリ・スタジアムで5日後に虐殺されます。ハラはスタジアムで人々を励ますために歌を歌い続け、軍人に射殺されたのでした。『歌ってみろ、それでも歌えるものならな』、と。
益岡賢 2003年9月11日

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