コロンビアにおける暴力の政治学

2002年3月18日
ギャリー・M・リーチ
コロンビア・ジャーナル

2002年2月20日の真夜中、コロンビアのアンドレス・パストラナ大統領は、彼がFARC(コロンビア革命軍)に譲歩した非戦地帯を再奪取するようコロンビア軍に命じることにより、3年間続いた和平プロセスに終止符を打った。実際には、コロンビアでの暴力の大きな部分は、大きな政治的アジェンダとはあまり関係のない、希望を失い周縁化された人々によりなされているので、コロンビア政府とFARCの一時的停戦や和平合意は、コロンビアの暴力を終わらせるためにあまり意味がなかったのかも知れない。

パストラナ大統領は、大規模な援助と訓練を米国から受け取ったコロンビア軍は、過去最強であると言っている。けれども、FARCもこれまでになく力をつけている。対立の激化は、いずれの側も勝利できないような長引く暴力的な膠着状態を生むであろう。平和を戦場で達成することはできない。また、停戦や和平合意も、コロンビアの巨大な社会経済的不平等という暴力の根にある原因を扱わない限り、平和を生むことはできないだろう。

毎年、3万5千人のコロンビア人が殺される。けれども、このうち様々な武装集団の対立による暴力で殺されるのは、10%すなわち約3500人の人である。コロンビアにおける殺害の大部分を引き起こしているのは、コロンビア内戦の根にある社会経済的不正から引き起こされる都市部の犯罪暴力である。

コロンビアには、エリートたちが起こした暴力、そしてより最近では、麻薬商人や都市部の犯罪者による暴力という伝統があり、これが今日まで続いている。1948年から1958年の<ラ・ビオレンシア>の最暗黒期には、20万人もの人が暴力的に殺された。この大部分は、コロンビアの二大政党支持者がお互いに殺し合ったことによる犠牲である(暴力の50年参照)。1980年代には、都市部の頻発する暴力は、政治的腐敗と、メデジン・カルテルをはじめとする麻薬商人の犯罪行為から起きたものだった。

過去10年には、記録的失業を生み出した新自由主義政策により悪化したコロンビアの急激に増大する都市人口の絶望的な経済状況が、麻薬暴力とあいまって、今日のコロンビア都市部での犯罪暴力の増加につながった。

もしコロンビア政府、FARC、ELN(民族解放軍)、準軍組織のすべてが停戦に合意したとしても、コロンビアにおける暴力の90%を実行するものたちは、同じ行いを続けることができる。コロンビアにおける高い失業率はまた、元戦闘員が仕事につくことを難しくしている。その結果、武装集団を解隊したとしたら、3万人にのぼる元ゲリラや準軍組織兵士の多くは、特に貧困が広がる都市部のスラムで軍事技術を犯罪目的に使うことになろう。

こうした筋書きは、1992年に和平合意によって内戦が終結し、武装集団が解散したエルサルバドルでも過去10年の間に現実のものとなった。12年に及ぶ内戦とその後10年間の新自由主義改革により経済が疲弊し、エルサルバドルでは、多くの元ゲリラや兵士が生存のために暴力的な犯罪行為に手を染めることとなったのである。

つまり、エルサルバドルでの暴力の性質は、政治的アジェンダを巡って戦う組織化された軍による内戦から、絶望的状況に置かれた個人が生き延びるための経済目的による犯罪暴力へと変化したのである。10年前に内戦が終結したにも関わらず、現在のエルサルバドルでの殺害数は内戦下と同じくらい悪い。実際、1998年には、内戦下のどの年よりも多くのエルサルバドル人が暴力的に殺されたのである。

現在のエルサルバドルでの暴力は、内戦の基本的原因を効果的に扱うことなしに和平合意が結ばれたことから来ている。エルサルバドルでは、コロンビアと同様、内戦の原因は富と土地所有の極めて不平等な配分にあるのである。さらに、こうした社会経済的不正は、IMFがエルサルバドルに強制した内戦後の新自由主義経済アジェンダにより悪化したのである。

エルサルバドルのエリートもワシントンも、現在のエルサルバドルの暴力は、基本的に、経済に困窮した貧困層がお互いに殺し合っているというものであるため、そのまま放置している。この点では、米国都市部の暴力と似ていないこともない。貧しい人が経済的理由で別の貧しい人を殺害するのである。エリートたちや政治機構が暴力を憂慮し始めるのは、貧しく周縁化された人々が自らを組織し体制を標的とした政治的アジェンダを発展させるときだけである。

1980年代に、コロンビア政府が政治的に組織された農民の武装抵抗組織であるファラブンド・マルチ民族解放戦線(FMLN)ゲリラと戦うために、レーガン政権が40億ドルの援助と軍事訓練を提供したのは、まさにそのためである。7万人以上が死亡した後、和平合意がエルサルバドル社会の抜本的な構造改革をもたらせなかったため、寡頭支配体制は温存された一方、エルサルバドルの絶望的なまでに貧しい何百万もの人々にはたくさんの約束がなされながら何ももたらされなかった。

コロンビアでも、40年以上続く内戦の根本原因を扱わない停戦や和平合意は、現在のエルサルバドルの危機を繰り返す結果となる可能性が高い。実際、既に述べたように、コロンビアにおける暴力の大部分は、既に、政治的というよりは犯罪的な性質のものである。悲劇的なことは、経済的要因による暴力は、コロンビアのエリートやワシントンにとって、特に左翼ゲリラが関与する暴力の10%ほども関心を持たれないのである。

コロンビアでの停戦や和平合意は、誘拐数を減らすであろうが、誘拐の半分は、政治目的ではなく経済目的での犯罪集団によるものである。誘拐を監視する非営利組織パイス・リブレ(自由の国)によると、2001年にコロンビアで起き3041件の誘拐のうち、FARCによるものは840件、27%に過ぎないのである。

そして、強制的に移送されたコロンビア地方部の200万人以上の人々は、いずれかの武装集団に関与していたために移送されたのではなく、コロンビアの寡頭支配層や多国籍企業が目を付けた豊かな資源の土地を所有していたために標的とされたのである。難民・移送問題とそれを引き起こす経済的要因に対処しない停戦や和平合意は、IMFがコロンビアに強制した新自由主義経済政策のもとで搾取するために貴重な土地を奪取する準軍組織によるテロ作戦を止めることはできない。また、交渉による問題解決のシナリオのほとんどが、コロンビアで犯される虐殺の75%を行っていると見積もられる準軍組織を視野に入れていないことにも注意しなくてはならない。

最近の出来事に照らして考えると、政府とFARCが近い将来に停戦や和平合意に到達する可能性はほとんどない。政府軍はFARCの元非戦地帯に進行し、ゲリラはジャングルに戻った。その一方で、この3年間、コロンビアの中で最も安全な非戦地帯に暮らしていた人々は再び他のコロンビア人が面していたと同じテロの犠牲者となることになる。

さらに悪いことに、ワシントン=ボゴタ枢軸は今や米国の対テロ戦争を拡大してFARCをその標的に加えようとしている。FARCが最近橋やその他の社会基盤を攻撃しているからという理由であるが、矛盾することに、ワシントン自身は、自らユーゴスラビアで行った橋やインフラの爆撃を、合法的な軍事標的として正当化しているのである。こうした内戦の激化は、希望を失い周縁化されたコロンビア人による生存のための暴力的犯罪行為の増加を招く結果となるのみである。

コロンビアの政治指導者たちと経済エリートたちは、自らの支配を脅かす政治暴力を、交渉でだめなら武力ででも終わらせる意図を持っていることは明らかである。けれども、毎年3万1500人の死者を生み出す犯罪暴力については、コロンビアの寡頭支配者たちは関心をそれほどもっていない。というのも、貧しい人々によるそうした暴力はミクロ経済的要因によるものであり、政治的アジェンダに関わるものではないからである。

  益岡賢 2002年3月24日

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