ハイチ:民主主義に対する拷問

フェイズ・アフマドによるノーム・チョムスキーへのインタビュー(全文)
ZNet原文
2003年1月25日


ハイチは、長いことフランスの植民地だった。フランスに膨大な富をもたらしたことで知られている。 その一方、ハイチの人々は、極めて貧しい状況に置かれ続けていた。 ハイチでは、1957年以来、デュバリエ親子の恐怖政治が続いていたが、1986年に崩壊。 1990年には、草の根の活動を続けてきたジャン・ベルトラン・アリスティド神父が大統領に当選した。 米国の傀儡候補は14パーセントの票しか得なかった。 1991年には、デュバリエ時代からの軍と秘密警察がクーデターを行い、アリスティドは米国に亡命した。 1994年には、国際社会の調停のもとで、アリスティドは大統領に復帰した。 米国は、表向き、アリスティドの復帰を指示したが、実はクーデター政権と密接な関係を持っており、クーデター政権とその準軍組織の文書をハイチから押収したまま返却していない。 西半球でもっとも裕福な国である米国は、もともと、もっとも貧しい国であるハイチに対して、繰り返し介入してきた。 2002年11月8日、フェイズ・アフマドがノーム・チョムスキーに対して、ハイチの状況をめぐるインタビューを行った。


私たちのすぐ近くで起こっていながら、ここカナダではほとんどメディアの注目を浴びていないハイチの状況について、あなたの意見を聞きたいと思います。 米国政府は、米州開発銀行(Inter-American Development Bank)によるハイチに対する5億ドルの貸付に拒否権を発動しました。 この貸付は、特に、教育と保険、きれいな飲み水のために使われることを目的としたものでした。 表向き、米国が貸付を阻止したのは、2000年5月のハイチ選挙で上院8議席の票集計が適切でなかったと、米国政府と米州機構が考えているためと言われています。 関係した上院議員は全員辞任したにもかかわらず、(不正に選出された米国の政権により)経済封鎖が続けられています。

言語道断なことです。ハイチは西半球でもっとも貧しい国です。悲惨な状況にあります。 ハイチはまた、20世紀に、米国の介入の標的にもっとも多くさらされた国の一つでもあります。 ウッドロー・ウィルソンがハイチを占領して、奴隷制を回復し、議会制度を転覆し、実質的な米国のプランテーションとして以来、米国は、残忍で多くの人々を殺した独裁者を支援してきました。 こうした独裁者がどんな残忍なことを行っても、米国は経済封鎖など一度もしてこなかったのです。 1990年代初頭に、ハイチで最初の民主的選挙が行われました。 北米の人々にとって驚いたことに、このとき、大衆的な聖職者アリスティドが圧倒的な勝利を収めました。 彼は、誰も注意を払っていなかったスラムと丘の貧しい人々を支援する組織に関わる活動をしてきたのです。 米国はすぐに、この政権を弱体化させるために対処策を講じ始めました。 あらゆる援助を停止し、反アリスティド分子を支援しました。 その数カ月後にクーデターが起きました。

ブッシュ政権(一世)とその後のクリントン政権は、クーデターを支持していました。 米国の両政権は、米州機構がハイチのクーデター指導者(恐ろしい残虐行為と拷問を行っていました)に反対して適用した経済封鎖を破ったのです。 私は当事ハイチにいました。 かつて私はあれほどのテロを見たことがありません。 人々は、本当に恐怖に陥っていました。 ブッシュ政権とクリントン政権はこのクーデターを支持して、軍事政府と裕福なその支援者たちに対し(大統領令に反して)石油を不法に提供しさえしたのです。

ハイチの人々が十分テロの恐怖を味わったと判断したあとで、米国政府は介入し、「解放」と呼ぶ行為を行いました。 実際、アリスティドの復帰を許したのですが、けれども、このとき非常に厳しい条件を付けました。 1990年のハイチにおける選挙で米国が支援した傀儡候補が予定していた政策を実施することを条件としたのです。 この候補は、たった14パーセントの票しか得なかった候補で、人々の大部分が反対していた候補でした。 つまり、アリスティド政府は、ハイチに残っていたわずかなものを破壊する極めて過酷な新自由主義政策を適用すべしという米国の要求を受け入れる限りで、復帰を許されたわけです。 そして、今、米国は苛立って経済封鎖を適用しようとしています。

ハイチで独裁者デュバリエが権力を握っていたときに、米国は一度でも経済封鎖を適用したでしょうか? 1990年代にOAS(米州機構)が経済封鎖を適用したときにも、米国はそれを破っていたのです。 あまりの無法さに、言葉も出ません。

実際、西半球で経済封鎖の対象となっているただ2つの国、キューバとハイチが、ともに奴隷制の国だったことは注目に値します。 奴隷制に対して賠償を支払うべきだという議論があります(実現はしそうにありませんが)。 けれども、今起きているのは、全く逆に、元奴隷だった人々の子孫がわれわれに支払いを行うという事態なのです。 キューバとハイチの2国だけが、経済封鎖の対象となっています。 そして、多数の奴隷がいたもう一つの国ブラジルに対して、現在、米国やカナダをはじめとする富裕国は、民主的に選ばれた大統領を弱体化しようとあらゆる手だてを取っています。 人々が反対した政策をブラジル政府に適用させようと、金融財政的な圧力をはじめとする様々な圧力をかけているのです。 多少なりとも私たちに誠意があるならば、こうしたことに注目すべきでしょう。

米国が、ハイチに対するこの経済封鎖を維持する目的は何だと思いますか?

一つには、現在の大衆的で独自路線を行く指導者に対する復讐があると思います。 汚職はまったく関係ありません。 現ハイチ政権は腐敗し、残忍で、また、米国政府が指摘する様々な問題をもっていると思いますが、米国が支援するほかの国々以上のひどさではありません。 米国が支援する諸国を並べ上げて比べてみるならば、ハイチは、かなり良好な国に見えるほどです。


ファイズ・アフマドはカナダのマッギル大学医学部の学生で、マッギル国際保健イニシアチブのコーディネーター。

現在のハイチに対する経済攻撃とそれに対抗する支援に関する情報は:
Let Haiti Live Campaign - Melinda Miles, at Haiti
Reborn/Quixote Center. Melina Milesがキャンペーンのコーディネータ。
 Melinda Miles, Coordinator
 Haiti Reborn/Quixote Center
 P.O. Box 5206
 Hyattsville, MD 20782
 (301)699-0042, fax: (301)864-2182
 email: melinda@haitireborn.org
 website: www.haitireborn.org

あるいは、ボストンのPartners in Health
 Juan Javier Salazar
 Partners In Health
 641 Huntington Ave., 1st floor
 Boston, MA 02115
 (617) 432-6003
 email: juan_salazar@hms.harvard.edu
 website: www.pih.org
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  益岡賢 2003年1月28日
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