原子力ロビーによる放射線被曝の押付けを拒否しよう!
その34   2021年7月19日
UNSCEAR2020年報告に騙されてはいけない
〜黒川、榊原、牧野、平沼らが指摘する「被曝影響評価をめぐる問題群」〜
岩波科学6月号特集「被曝影響評価をめぐる問題群」が興味深い。UNSCEARをはじめ国内外の組織・個人が、福島における被曝影響を小さくみせようとしている。とりわけ国連科学委員会のUNSCEAR2020年報告に潜む歪みと、およそ科学者といえない早野龍五氏の著作や言動に、騙されてはいけない。
 以下では目次を参照しながら、一部論者の主張を要約して紹介する。


  

黒川眞一「科学の危機が映し出す社会の危機―マートン規範と宮崎・早野論文」
 今年2月に早野龍五が<「科学的」は武器になる>(新潮社)を出版したが、早野氏が発表した二つの論文に対して、4つのLetter to the Editorが論文における数十の不整合を指摘され応答が求められていることの記述が、同書に無い。1942年にマートンが指摘した科学の規範(普遍性、公有性、無私性、組織された懐疑主義<批判的知性を働かせよ>)から「専門家としての権威の悪用と偽科学の創造」を指摘。

景浦峡「科学の破壊を防ぐメタ科学としての知識情報分析は可能か―その前提/対象について」
 Journal of Radiological Protection誌に掲載された宮崎早野論文について5つの問題を指摘。第1:論文に多数の問題、第2:科学的な共同検討の拒否と責任放棄、第3:早野氏の行為と発言に矛盾、第4:科学の基礎を破壊する行為を隠蔽、第5:科学と非科学を混同し混同を積極的に擁護(ラジオ番組に早野氏を呼んだ高橋源一郎)。

榊原崇仁「UNSCEAR2020年報告に潜む歪み―甲状腺被ばくを巡るミスリード」
 本年3月9日に公表したUNSCEAR2020年報告を読売新聞は<被曝線量は高くないと推定し、『将来にわたり被曝を直接原因とするがんなどの健康影響が増加する可能性は低い』と予測した」と報じた(他紙も同様)。
 しかし、英文の20年報告を読み込むと、大きな問題が潜むことが分かった。線量推計の仕方は乱暴で、覆い隠せない深刻さはプレスリリースの段階で歪曲されたよう。
・政府が放射線ヨウ素の甲状腺集積量を調べたのは1080人だけ。
・20年報告では、5〜15mGy(最高30)と、13年報告(最高値83)より低下。
・2011年3月15日に原発の北西38kmで123万Bg/kgの放射線ヨウ素を検出。
・20年報告でも、「200人強が100mGy超」と推計。
・つまり20年報告は「推計した線量の水準だと、被ばく由来でがんが増えたか識別が困難」と見通す一方、被ばくの影響でがんがそれなりに増える可能性は認めている。
・しかし、UNSCEARのサイトに掲載される20年報告の日本語版プレスリリースには「被ばくが直接の原因となる健康影響が将来的に見られる可能性は低い」「いずれの年齢においても甲状腺がんの発生は見られそうにないと結論付けた」と記されていた。本文の内容をゆがめて伝えている。
・甲状腺被ばくの問題は事故直後から話をおかしな方向に進めた「いわく付き」の放医研(放射線医学総合研究所)がUNSCEARや20年報告に深く関わってきた。

牧野淳一郎「3.11以後の科学リテラシーno.102」
 UNSCEAR2020レポートにおける「被曝量推計からは小児甲状腺がんの統計的な増加はみられないはず」という主張には
・係数が参考にされている論文から推定できるものに比べて明らかに小さい
・より差が顕著であるはずの男性ではなく女性の数値をあげている
・福島県内での被曝量の分布があることを無視している
という明らかな問題があり、適切な係数を使うと統計的な増加がみられないとはいえません。(実際の福島のデータの扱いは次月に。)

平沼百合「福島県の甲状腺検査についてのファクトシート(21年4月アップデート版)
 次の様に、被ばく線量推計値の信頼性の問題がある
・UNSCEAR2020年報告書では、1歳児で最大83mGyから30mGyへと大幅に下方修正されている。
・日本人の甲状腺へのヨウ素取り込み率が修正され、甲状腺への吸収線量を下げているが、実際には現在の食生活でのヨウ素の摂取は十分と言えない。
・1〜4巡目で事故当時4歳以下が1人しかいないと記述されているが、実際には最新データでは3人(事故当時0歳、2歳、4歳の女性)で、集計から漏れている症例数が一定数あると思われる。
 歪の連鎖が続く。

 以上、長文になったが、UNSCEAR、放医研、早野龍五他多くの国際組織や学者が露骨に被曝影響の過小評価をしていることが良く分かる。
 皆さんもUNSCEARの「realistic」(現実的)の嘘に騙されないように。
以上