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書籍紹介

(12/2/2002新設)


 このページは、憲法に関わる問題を扱った最近の書籍を紹介します。


もくじ


斎藤貴男『小泉改革と監視社会』岩波ブックレット573
(2002.7/本体価格480円)

本 秀紀(名古屋大学)

 2002年の夏、「住基ネット」の稼動で日本は揺れた。頼みもしないのに国民一人ひとりが番号をつけられて、あれこれの個人情報とともに「お上」(国家)に管理される気味悪さ。おまけに個人情報保護法制は棚上げにされたままで、それなのに行政の情報管理は杜撰きわまりない。とくれば、住民の暮らしを守るべき自治体が離反をしたり、住基ネット登録を拒否する市民運動が広がりを見せるのも当然だろう。

 「住民票を取ったりするのに便利になります」。これが住基ネット施行の(ほぼ唯一の)ウリであるが、果たしてそれだけのために、膨大な費用をかけて「お上」がネット構築をするだろうか。あるいはまた、個人情報保護法ができれば、住基ネットに特段の問題はないのだろうか。気鋭のフリー・ジャーナリストの手になる本書は、そうした素朴な疑問に答えてくれる好著である。

 本書のポイントは、その題名が示すとおり、住基ネットは日本を「監視・管理社会」化する諸施策の一環であり、しかもそれは、小泉首相の唱える「構造改革」と切っても切れない関係にある、という点にある。小泉改革の方向性は、福祉や医療の分野で国の負担を軽くし、郵政や道路公団を「民営化」するなど、グローバル化に対応した「小さな政府」(=「自由な」市場と競争)をめざすもので、一見したところ、個人生活への権力介入を強化する監視・管理社会とは相容れないように見える。しかし、著者によれば、監視社会化は小泉改革の重要な一部なのである。

 現在、経済のグローバル化のただ中で、日本はアメリカに付き従いながら、アメリカに似た「国のかたち」を目指している。対外的には、圧倒的な経済格差に起因する矛盾の顕在化(テロリズムなど)を力で押さえ込むために軍事力の整備・強化が必要になる(→有事法制)。国内では、弱者切り捨ての「構造改革」によって階層間の格差が拡大し、その矛盾暴発を防ぐために監視・管理社会の構築が急がれているのである(→住基ネット、メディア規制法案、盗聴法)。

 本書の魅力は、そうした監視社会化の背景事情をきちんとふまえながら、諸分野で進む監視社会の近未来像を具体的に描いているところにある。名古屋のコンビニの監視カメラ網など、知らないこともたくさんあって、読むほどに恐ろしくなる。住基ネットに「気味悪さ」を感じる人は、ぜひ本書を読んで、感性に知力をくわえていただきたい。パッと読めて500円そこそこ、小泉改革の背後にあるからくりを知るには、何ともお得な一冊だと思う。

追記:本書の著者は、日本の監視社会化にストップをかけるべく、弓削達・元フェリス女学院大学学長らとともに、住基ネット差し止め違憲訴訟を提起しました。ペンだけでなくアクションをもって闘う著者に敬意を表するとともに、本書を読んで住基ネットの危険性を感じた方も、まずは訴訟を支援するところから行動を始めてみてはいかがでしょうか。http://www005.upp.so-net.ne.jp/jukisosho/

「愛知憲法通信」368号(2002年9月)掲載文を一部改稿


水島朝穂編著『知らないと危ない「有事法制」』現代人文社
(2002.5/本体価格800円)

清水雅彦(和光大学)

 先の通常国会で提出された有事三法案は、政府・与党の敵失と国民の反対運動により継続審議となった。もちろん、反対運動もさまざまであるが、法案の危険性を喚起し、反対運動に理論提供を行うことで運動を支えた一つが、この間、有事法制に反対する個人・団体から出版された数々の有事法制批判・検討本である。本書はこのような書籍のなかの一冊である。

 といっても、本書が他の書籍と異なる点は、憲法研究者による早い時期(二〇〇二年五月)に出された一般向けの批判本ということである。本書は、憲法学界における軍事法制研究の第一人者であり、平和主義に関して積極的な発言を続ける水島朝穂氏(早稲田大学教授)と、水島研究室所属の新進気鋭の憲法研究者・馬奈木厳太郎氏(早稲田大学大学院)との共著となっている。本書は、水島氏による論稿と馬奈木氏によるQ&Aから成る。

 水島氏の論稿は、有事法制の歴史、狙い、問題点、賛成論への反論、対案と、かぎられた字数の中で、氏の持論のエッセンスがたっぷりと盛り込まれている。本書は一般向けのため、有事法制について簡潔にかつわかりやすくまとめなければならないのだが、そこは平和主義研究の専門家である氏により手際よく「料理」されていると言えよう。

 馬奈木氏のQ&Aは、「師」の論稿の約三倍の分量でまとめられている。全体は十三の質問に対する回答という構成になっているため、時間のない場合はどこからでも読めるようになっているが、もちろんどの問題も重要なので、全部読むべきである。このQ&Aでは、法案の問題点を中心に、水島氏の論稿をさらに補いつつ展開されているが、類書であまり触れられていない有事と教育・防衛予算・外国人・文化との関係にも言及している。

 ところで、類書(特に法律家が執筆していない批判本)の中には、法解釈として問題のあるものもあるのだが、その点、本書は心配ご無用である。さらに、類書と比べても、憲法の専門家として豊富な法的問題点の指摘をしつつ、一般向けの本として、図表や写真(水島氏の「お宝写真」など)を多用しているところは、一般読者にとっても親切である。

 一部報道によれば、有事法案は臨時国会での成立はあきらめるとも言われているが、臨時国会でも審議はされるし、情勢の展開によっては油断できない。まだ本書を読まれていない方は、ぜひ本書の一読をお薦めする。そして、本書により新たな知識と理論を吸収し、有事法案廃案に向けてたたかっていきましょう。

青年法律家380号・2002年10月掲載文を一部改編。


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