物書きの世間的認知と活字媒体業界の未来

ある席で、「メディア論を勉強している」という大学院生が、「私もエディター・スクールに行っているんですよ。ライターで喰えていますか?」と失礼なことを僕に聞いてきた。そういう質問は、僕の仕事の実績----これまでの仕事の質と量----を知ってからしてほしいと思った。怒鳴りつけようかと思ったけども、世間知らずの学生には酷かと思い、「相当の努力は必要だよ」とだけ答えておく。メディア論を勉強していて、エディター・スクールに通っている人ですらこれである。「へえ、文字媒体にも興味があるんですか? あなたは月に何冊の本を読みますか? どんな本を読みますか?」と聞けばよかった。

それから数日後、何人かで喫茶店でお茶を飲んでいたのだが、ある若い人が、僕と同業者の○○さんの名刺を見て、「ライターって、どうやって喰っているんですか?」と聞いた。すると○○さんは、「原稿料で喰ってるに決まっているだろ」と憮然として答えた。キレかけているように見えたが、当然である。○○さんがどのような質と量の仕事をしているのかも知らずに、そんなこと聞くべきではない。というか、それ以前の問題として、この若い人はものを書くということの価値をまったくわかっていないようだ。○○さんは「たとえば、コンビニで働けば、その時給に見合っただけのお金がもらえるでしょう。それにはそれだけの価値があるからだ。でもあなたは雑誌を読んで、そこに400字当たり何千円かの価値がそこに存在することがわからないのでしょう?」(大意)と彼に言った。たぶんこの若い人は活字媒体を読まない人なのだろう。

どちらも単なる世間知らず、礼儀知らずの人に腹が立ったというだけのことだが、物書きという職業が世間的にあまり認知されていないことを思い知らされるようなエピソードでもある。

2人ともきわめて若い人であることを考えると、もう一つ気になることがある。いま若くて、将来クリエイティブな職業につきたいと望んでいる人たちのなかで、活字媒体の分野に行きたいと思っている人はどれだけいるだろうか? たぶん年々減っているのではないか。もっと言えば、優秀でやる気のある人たちほど、将来が有望な媒体----インターネットや映像媒体に流れていくのではないだろうか?

活字媒体業界が人材不足になることは目に見えている。意気消沈する今日この頃である。(2000年7月31日記)

※このコラムは以前に『鉄亀』で書いたものを組み合わせたものです。
 
 

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