急性アル中事件とアフガン爆撃

 

 数年前のこと----。何人かの友人といっしょに居酒屋に入ったのだが、僕はアルコールが一滴も飲めないため、グレーフルーツ・ジュースを頼んだ。しかし店員が間違えてグレープフルーツ・ハイを持ってきてしまい、僕はうっかりそれを飲んでしまった(笑)。その結果、僕はみっともないことにトイレで吐いてしまい、お座敷でしばらく寝させてもらったのだがよくならず、結局、タクシーで慈恵医科大病院に運ばれて、点滴を受けた。
 そのとき、『逆襲するテクノロジー』(早川書房)をいっしょに訳した山口剛がいっしょにいたのだが、彼は、店員が注文を間違えたという事実を知っていながら、そのときはそのことを僕には伝えなかった。「カユカワが知ったら感情的になって店でわめきたてる」とでも思ったのだろう(笑)。僕はてっきり、煮込みに使われた日本酒のアルコールが十分に蒸発していなかったのではないかと思っていたのだが、店員のミスだったと山口から電話で教えてもらったのは翌日である。山口の判断は正しかったと思う。その後、店長が謝罪しに来たのだが、僕はそのときにはすっかり冷めており、「間違えた店員をあまり責めないで下さいね」と言っておいた。飲み代をタダにし、病院にタクシーで連れて行き、自宅まで送り、治療費を負担してくれれば、それでいいのだ。店員や店長をぶん殴ろうとは思わない。
 これを国家にたとえてみよう。A国(居酒屋)のミサイルの誤射があってB国(カユカワ)に被害が発生したが、A国は非を認め、B国に対して謝罪と補償を行なった。A国に対してとくに敵意を持っていなかったB国では、国内の一部で報復論が持ち上がったが、友好国であるC国(山口)の助言もあり、最終的にはそれを受け入れた、というところだろう。もちろんこのたとえは、A国とB国がともに民主主義国家だから成立することであって、冷戦自体の西側諸国と東側諸国とのあいだや、現在のように、「唯一の超大国」(とその属国)とイスラム文化圏あるいは独裁政権国家とのあいだだったら、そんなにうまくいくわけがない。
 それでもなお、C国のような国が、対立する2国のあいだで調節機能を果たすことが望まれるだろう。残念ながら、その気配がまったくないまま、アメリカはアフガニスタンへの空爆を開始した。仮に9.11のアメリカ同時多発テロの首謀者が、アフガンに潜伏するイスラム原理主義者だとしても、彼らに制裁を加えるために、一般市民をまきぞえにしていいはずがない。アルカイダへの報復がタリバンへの攻撃へとすり替えられ、さらにアフガニスタンへの攻撃にすり替えられている。報復への報復が行なわれる可能性も無視できない(注記----その後、アメリカ各地で生物兵器にも使われる炭疽菌がマスコミ等に送りつけられるという事件が起きたが、その犯人はいまだに明らかになっていない。一説では、アメリカ国内の極右グループであるという)。
 たとえば日本に本拠地を置くカルト宗教団体が、たとえばソウルで爆弾テロあるいは毒ガスによるテロを行なったする。韓国軍がそれへの報復として、東京にミサイルをぶち込んできたとしたら、それを正当化できる論理はあるのだろうか? ブッシュが行なったのはまさしくそれであり、小泉は何の迷いもなくそのようなを支持してしまったのだ。01.10.8(02.3.28に修正のうえUP)

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