不戦へのネットワーク


申し入れ書(2020年12月26日)

小牧基地司令 佐藤網夫様
自衛隊員の皆様

 2020年12月23日、防衛省は元防衛大学生に対するいじめ・暴行事件の福岡高裁判決への上告断念を決めました。上級生による、下級生へのいじめ・暴行について12月9日、福岡高裁は、国の安全配慮義務違反を認める判決を出しました。防衛省が上告を断念した以上、「防衛大学生いじめ裁判」は国の敗訴が確定となりました。上官と部下、上級生と下級生との間には権力関係があります。上の立場での権力を利用すれば学校であれ、会社であれ、自衛隊内であれパワハラとなり、罰せられなければなりません。一審判決は、「予見は不可能」と国には安全配慮義務違反はなかったという主張を認めたものでした。原告やその母親が一審で諦めていたら12月9日の判決はありませんでした。この判決確定は、原告のみならず、命令関係の中で働かざるを得ないすべての自衛隊員の皆さんが泣き寝入りをせず、希望をもって任務に集中できる法的基準です。ドイツでは、市民や弁護士などで構成される軍事オンブズマン制度という、日常的に兵士の苦情や意見を受け付け、それを軍隊内の民主化につなげている制度はあります。防衛省は本気になって自衛隊内の民主化ということを展望しないと、少子高齢化の時代、定員割れはさらに拡大するでしょう。年末にあたり、何か希望の持てる申し入れをしたいということで他意はありません。

 昨日の国会における、安倍元首相の弁明をテレビで見ていて、ただただ情けないという想いで一杯でした。「私は知らなかった。部下が勝手にやったことであり、私に責任がないことを東京地検が認めてくれた」要約すればそういうことです。このような人物が7年以上も自衛隊の最高司令官だったのかと思うと恐ろしくなります。しかも辞めるにあたって次の内閣に対し、「敵基地攻撃能力」の保有という中国包囲の安保政策の継続強化を指示し、菅政権はそれを引き継ぐと表明しています。

 これからの日本政府の安保政策が自衛隊員の皆さまひとり一人の業務に強い変化をもたらし、やがて日本社会全体に今以上の変化を強制してくると私たちは考えます。その変化が、自主的な判断からくるのであれば、自衛隊の皆さんも有権者の皆さんも納得するかもしれません。しかし、日本の安保政策に大きな影響を与えてきたクリントン政権、オバマ政権、そして次期大統領のバイデン政権の日本への代弁者である、リチャード・アーミテージ氏やジョセフ・ナイ氏による「第5次アーミテイジ・ナイ報告」を見れば、強制であることがはっきりしています。読売新聞12月20日付けの一面でアーミテージ氏は「日本は地球規模の役割を」と題して「日本を変貌させた功績の多くは安倍前首相と菅前官房長官に帰せられる。懸案だった憲法9条の解釈変更を実現し、インド太平洋の自由を妨げる中国の野望に対する枠組みを構築した。この勢いを維持し、成功を積み重ねることがバイデン次期政権の課題である」と述べています。もうここまでくると「日本政府は覚悟をしています。国民の皆さんも覚悟をしてください」と菅首相は言わざるを得ませんが、そのような度胸も信頼もありません。

 12月18日のミサイル防衛の閣議決定後の岸防衛大臣の「国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、引き続き防衛力の強化を図っていく」と発言しました。しかし、75年前の沖縄の地上戦を忘れていない沖縄の人々は、この防衛大臣の発言を「その国民の命と平和な暮らしに沖縄の人々は入っているのか」と厳しく問います。「また、東京を守るための軍事拡大か」という疑問に岸防衛大臣はどのように答えるでしょうか。1年延長されたジブチ基地も南西諸島への軍事拡大も、そこで働く自衛隊員の皆さまには最前線での任務です。それを命令した最高責任者が「私は責任がない」などと国会で言ってしまうのが日本の現状です。小さな平和運動を担っている私たちにも、政権内部まで深くしみ込んだモラルの崩壊や無責任体質の現状を打破する責任があると自覚をしています。

 アメリカの要求を唯々諾々と受け入れ、「敵基地攻撃能力」の保有で実現しようとする無責任な政権の政策が行き着く先は、この社会や全体の変化はもちろん、自衛隊員の皆さまの任務の変化をもたらすことは明らかです。自衛隊員として、憲法を遵守した政策を求めるよう、意見具申をしていただくよう申し入れます。

2020年12月26日
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