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イラク~湾岸戦争~イラク戦争空爆下のバグダッド目次

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緊急報告:空爆下のバグダッドにて・伊藤政子

(その5)第4次攻撃 1998年12月20日(月)朝

 昨夜から継続して今朝になっても攻撃がありました。今日から断食月が始まったというのに、やめる気配もありません。昨日「ラマダーンの昼間は攻撃しない」と聞いたばかりなのに、言った端からくつがえしていきます。

何故、世界のジャーナリストたちは、こんなに根拠の無いことを言いつのり、ころころ言ったことを変える人が、

『化学兵器』『生物兵器』と言うと、それだけで真実味を帯びるような報道を流すのでしょう。

 私は、この4日間で、光や音だけで「あれは巡航ミサイル、これは戦闘機」と判断したり、どこの方角から来るからサウジアラビアの米軍基地からだとかアラビア湾に展開する空母からだなどと考えてみたりできるようになってしまいました。「たった 4日間ホテルの窓から爆撃を眺めていただけで、お互いに兵器評論家になったみたいね」と同行の人たちと苦笑し合ったものです。イラクの人たちが、湾岸戦争中に各種の光や音や煙から、例えば劣化ウラン弾の実戦使用について名前も知らないまま憶測していたことも、こうして現実に体験してみると、

かなりの確度をもった直感だと思えてきます。何しろイラクの人たちは、各方面の専門家も含め湾岸戦争当時でも1800万人もいたのですし、42日間も実体験を積まされていたのですから。

 今日の攻撃では、報道陣が滞在するアル・ラシッドホテルの近くにも被弾したと各国のジャーナリストたちが浮き足立って話していました。その他では、ワゼリヤ地区の住宅や旧国立図書館も爆撃の被害を受けました。労働福祉省の庁舎も、向かいにある発電所への攻撃の影響で破壊されました。ニューバグダッドにあるアル・バッカリ軍学校などが爆撃されました。

 イラクでは、湾岸戦争で徹底的に壊されたインフラを経済制裁で修理・整備することもおぼつかないため数年前から計画停電が行われており、今年の夏には 1日に電気がつくのが 2時間という地区だってあったのにさらなる破壊です。部分解除を含めたイラクへ入る物資をイラク側が管理する税関も各所で狙い撃ちされています。どこまで人の当たり前の暮らしを奪えば気が済むというのでしょう。

 労働社会福祉省は、生活保護や寡婦・障害者・老人の扶助を担当している役所です。

(蛇足ですが、何故日本のマスコミは『社会福祉省』を『社会問題省』と訳すのでしょうか。イラクが省の名前に使っている Social Welfare という英語は一般に社会福祉と訳します。社会問題という意味の Social Affairs とは違うのですが、「イラクには福祉などなく、問題は山積している」というさりげなくも露骨な世論形成を助けていると感じるのは、うがちすぎでしょうか)。

 この役所は、私の孤児院や障害児施設での活動も支えてくれています。先日も、省主催の『生活困窮下で学校をやめて増え続けるストリート・チルドレンたちに、どのような手を差し伸べられるのか』という会議に参加したばかりです。困難な状況の中でも現場で頑張っている人たちが、事態を打開しようと真剣な議論を交わしったとてもよい会でした。例えば、報告者が「小学生から売春をする少女が出ているが、その子たちを救うには学校を離れさせ収入になる仕事を与えれば良い」と提案すると、会場から非難の声がわき起こり「学校から追い出すなんてもっての他だ。学校でこそ、その少女たちに何が良いことで何が悪いことなのかを自分たちが教えなくてはいけない」とか「売春に追いこまれる少女たちよりも、その子たちを買おうとする男たちにこそ、買春は人権を踏みにじる非道な仕打ちなのだと徹底しなくてはいけない」という発言が相つぎます。「刑務所の囚人たちの人権はどうなっているのか」と質問が出たときも、議長が「それは自分たちの管轄外で今日の議題ではない」と制すると、大臣が議長に異議を申し立て、「現在刑務所に収容されている人の76%が窃盗犯で、刑期満了後のケア、特に就業訓練を受け入れる会社を増やすように偏見を排除する世論形成が重要課題だ」と議論を促すように発言します。大臣も、外国人の私も、現場の先生たちも、調査研究員やイスラムの高僧も大学の先生も、平場で真剣に子どもたちの現状を改善できる道を捜そうとする素晴らしい会議でした。当たり前だけど、労働社会福祉省は、経済制裁下で一番苦しんでいる人たちの身近にある役所です。そこが破壊されたため業務は滞り、NGOの(この省の管轄下の)活動も一時休止状態になってしまいました。対象になる最も弱い人たちは、支えの手が止まってどんな状況に追いこまれているのでしょうか。

 旧国立図書館に撃ちこまれたミサイルには、友人の元図書館長の話によれば『これは断食月のプレゼントだ

Gift for Ramadan』との米兵による落書きがあったそうです。被害者の顔を見ないで済む攻撃は、爆弾投下する側の人々を限り無く残酷にできるのだと、改めて痛感しました。

 「断食になれば攻撃は終わる」と信じていた人々は、断食の始まった今朝になっても続く爆発音に茫然としながら「アメリカの今までのやり様だって同じだった」「いつもイスラムの聖なる日をねらって攻撃する」と納得しています。

 ターリック・アジズ副首相は「軍人だけで68人の死者、180 人の負傷者」と発表したそうです。民間人の死者数は、50人以上とか、68人とか、 100人以上とか言われていますが、私自身の実感では確実に100 人以上にはなっていると思います。負傷者は病院へ行かない人々も含めると数千人規模ではないでしょうか。

 悲しい事実も重ねて伝わってきます。サダム医科大学付属病院では、他病院に移送された患者のうち25人が亡くなったそうです。こんな数字は、直接の爆撃によるものではないので、どこからも出てきません。直接、間接の死者数は増え続けています。

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