緊急特集  ノ ッ ク 問 題   

文書リスト

 横山ノック前知事側最終弁論の要旨  2000年6月29日

■事実関係

 弁護人らは、本件犯行の着手時期は大阪府堺市のガソリンスタンドでトイレ休 憩後、ここを出発し、被告人(横山前知事)がたばこを吸い終わった後と確信する。

 これに対し、検察官は被告人がワゴン車に乗り込んだ直後からと主張し、被害 者も「いきなり体に触ってきたので、その場を逃れて候補者カーに乗り移るため 『トイレに行きたい』と言った」旨述べている。

 しかし、被害者が口実として「トイレに行きたい」と言ったのであれば、(ワ ゴン車を降りて)すぐ候補者カーに乗り移れば済むことである。
 さらに、ワゴン車には運転手、警護の私服警察官がおり、被害者が少しでも声 を上げれば、たちどころに被告人の行為が公になる状況にあった。

 そのような場で犯行に及んだこと自体は責められるべきだが、少なくとも被告 人がワゴン車に乗り込んで毛布を掛けるや、いきなり体に触ったということは考 えにくく、不自然である。さしたる抵抗がなかったため、たまたま行為をエスカ レートさせたというのが自然であり、真相であると考える。

 後部座席において被害者が脚を踏ん張って抵抗し、その身体が左石に傾くほど の状況にあったとすれば、当然、警察官として気付くはずである。にもかかわら ず、警察官が全く気付かなかったということは、後部座席の状況が被害者の証言 するような状況ではなかったと考えられる。

 ■情状

  1.  被告人は犯罪の成立を認め、反省悔悟し、本法廷で被害者に深謝している。
     被害者が告訴の事実をマスコミに公表したことから、被告人は連日のように 激しい取材攻勢や報道にさらされ、いったん事実を認めれば、芸能人としての下 積み生活を経た後、営々として積み上げてきたものすべてを失うとの恐怖感にさ いなまれ、事実を否定してしまった。

     被害者の受けた多大な苦痛を考えれば、このような態度が決して許されるもの でないことは当然だが、なかなか真実を言い出せなかった心情については、一個 の人間の弱さとして理解できる部分も存在する。

     被告人としてはこの間、一片の反省の情もなかったというのではなく、むしろ 知事という要職にあったが故、周りのだれにも打ち明けられず、もんもんとした 日々を過ごしたであろうことは容易に推察できる。

     本法廷における被告人の言動は逐一、報道され、被害者のもとにも伝わってい るものと考えられる。マスコミを通じて、より被害者を傷つけた被告人として は、手紙や面談による直接の謝罪よりもふさわしい選択と考えたうえで、本法廷 において謝罪の言葉を述べたものである。

  2. 被告人は、被害弁償として千百四十四万千四百四十六円(遅延損害金など含 む)をすでに支払っている。 
    検察官は、民事訴訟の敗訴に伴う当然の債務の履行と主張するが、賠償金額は いわゆるセクハラ裁判史上最高額であると言われ、その支払いを誠実に履行した 被告人の誠意は認められるべきである。

  3. 被告人は知事の職を辞するとともに、大きな社会的制裁を受けている。
     被害者が当初考えていた「このような者が知事の職にあってはならない」とい う思いの一端は果たされたのではないか。

    また、被告人はあまりにも有名人でありすぎた故に本件があまねく知れ渡り、 どの世界にも復帰は見込めない状態にあり、社会人としては完全に抹殺された状 況に置かれている。

  4. 当日、被告人はかぜによる発熱のため午前中の選挙運動を休み、その後、自 転車で選挙運動中に転倒するという事故も発生した。
    その様子から、被告人の体調を心配した候補者カーの運転手は被告人にワゴ ン車で休むように勧めている。

     そのような釈況のなか、被告人は次の目的地まで時間があったことから、休憩 のために毛布を持ってワゴン車が)ガソリンスタンドを出てから、たばこを一服した 後、今回の事件を起こしたのであり、その事実関係の流れから考えても、偶発的 な犯行であることは明らかである。

 ■まとめ

 被告人が知事の要職にありながら破廉恥な行為に及んだことは、強く非難され るべきであるが、贈収賄などの職務犯罪と異なり、強制わいせつ罪が個人的法益 に関する罪であるという性質を考えれば、知事であったが故にことさらに重い刑 を科すのは相当ではない。

被告人に対しては執行猶予の寛大な判決をお願いする次第である。