緊急特集  ノ ッ ク 問 題   

文書リスト

 検察側論告 要旨  2000年6月20日

   ■横山前知事の弁解について

 被告人(横山前知事)は 公判で「わいせつ行為に及 んだことは事実であり、強 制わいせつ罪として裁かれ ることに異議はない」と述 べながら、被害者の女子大 生に対し、わいせつ行為を 開始したのは大阪府堺市の ガソリンスタンドで停止し て休憩した後の走行中の車 内であり、時間も十分間程 度のことであるとし、「被 害者が抵抗しなかったの で、嫌がっているようにも 思わなかった」と弁解して いる。

 被害者は、被告人からい きなり体を触られたときの 恐れおののいた心境や、ガ ソリンスタンドで(前知事 のわいせつ行為から逃れる ため)候補者カーに乗り移 ろうと考えたのに、トイレ から出てくると、すでに候 補者カーが先に出発してし まっていた時の困惑に満ち た気持ちを自分の言葉で素 直に表現しており、事実を 経験したものにしかできな い自然な供述内容である。

 一方、被告人が被害者が トイレに行きたいと言い出 したことはないと否定した り、場当たり的に供述を変 遷させたりしているのは、 結局、被告人がワゴン車に 乗り込んで被害者にわいせ つ行為を始めてまもなく、 被害者からトイレヘ行きた いとの申し出があった事実 を認めてしまうと、被害者 が嫌がっているのを認識し ていたことが明白になるだ けでなく、その後、さらに ワゴン車内でより程度の強 いわいせつ行為を継続した 自己の犯行の悪質性が露見 するからである。

 自己の刑事責任の軽減を はかる意図のもとに、本件 がさして悪意のない偶発的 な犯行で、被害者が嫌がる 様子もなく、犯行に及んだ のも短時間だったかのごと く主張しようとするための ものと認められる。

 被告人は世間に名前の知 られた著名な芸能人で、知 事選に立候補した現職の知 事であり、被害者は一選挙 運動員という関係にすぎな かった。被害者が被告人か ら突然、しかも選挙運動中 のワゴン車の中で予期しな い性的被害に直面した際、 なんとか理性を保ちながら 脚に力を込めて、そのよう な状況から逃れようとする 行動に出ることは至極当然 のことである。なんら抵抗 されなかったとする被告人 の供述内容自体、極めて不 自然、不合理で、その信用 性はない。

 被告人は当初から、被害 者の承諾など得られるはず もないことを十分認識して いたにもかかわらず、現職 知事という心のおごりか ら、被害者がかぜを引いて 体調が悪いことを知りなが ら、被害者が声を上げて助 けを求めるなど、あからさ まな抵抗はしないであろう と見越して犯行を開始し た。その後も図に乗って執 ように強いてわいせつの犯 行に及んだというものであ って、「嫌がっているとは 分からなかった」とする供 述は、明らかに責任逃れの ための虚偽の弁解と言うほ かはない。

 ■情状

@動機

 本件は、現職の知事で八 百八十万の大阪府民を代表 する立場にある被告人が、 府民の審判を仰ぐべき選挙 運動期間中のさ中に、あろ うことか運転手と警護の警 察官が同乗する選挙用のワ ゴン車内において、体調不 良の身をおして懸命に選挙 運動に取り組んでいた年若 い女性運動員に対し、その 立場に乗じて強いてわいせ つな行為に及んだという、 前代未聞の破廉恥な事犯で ある。

 被告人はおよそ分別ある 年齢の、しかも知事の職に ある公人としての自覚も責 任感もなく、自己の本能の 赴くまま本件犯行に及んだ ものであって、その動機に は酌量の余地がない。

 A犯行は計画的

被告人は、本件犯行の二 日前にも別の女性運動員を ズボンの上から触る行為に 及んでいる。その経緯は、 休憩するとして候補者カー から毛布を持ってワゴン車 に乗り移り、女性運動員に 毛布を掛けてその下でわい せつ行為に及ぶ点で本件犯 行とそのやり方が共通して いるうえ、被告人はワゴン 車に移動した直後から本件 犯行を開始しているのであ って、その犯行は意図的か つ計画的である。

 また、犯行場所は白昼、 警護の私服警察官らが同乗 している選挙運動用のワゴ ン車内で、傍若無人で大胆 な犯行であるだけでなく、 犯行途中には被害者に、ず り落ちようとする毛布を持 つよう命じたり、被害者に 取り出させたたばこを吸っ たりなどし、さらに犯行直 後には「お前の誕生日にヴ ィトンのバッグと財布を買 うてやった」などと口止め しており、被害者の人格を まったく無視し、その心情 や苦痛を意に介さず、罪悪 感の片りんすらも見ること ができない傲岸不遜(ごう がんふそん)な態度であっ て、その犯情は悪質この上 ないというべきである。

 H被害者の苦痛

 もとより被害者に落ち度 はまったくないばかりか、 現職知事という要職にある 被告人から突然、わいせつ 行為を受けながらも、何と か理性を保ち、あからさま に抵抗もできず、これに耐 えていた被害者の驚愕(き ょうがく)、恐怖、無念の 思いは多大なものがあると いうべきである。

 被害者は、弁護士の助言 により勇気を振りしぼって 被告人を告訴したものの、 被告人から何らかの形で報 復されることを恐れて、し ばらくの間、親せきの家に 身を寄せるなどしていた。

本件被害後は、精神的スト レスがこうじて眠れなくな り、一週間で体重は七`も 減り、体調を崩して一時入 院したほか、精神面でも変 調を来し、精神科クリニッ クで治療やカウンセリング を受けることを余儀なくさ れた。本件犯行がいかに被 害者に甚大な肉体的、精神 的苦痛を与えたものである かを端的に物語るものであ る。

 被害者は公判において、 現在の状態について、「被 告人ぐらいの六十代前後の 男性を見ると、そのときの 状況が思い出されたり、夢 に毎日出てきたりとか、性 に対する恐怖もいまだ取れ ていません」と証言してお り、いまなお精神的被害の 後遺症を訴えている。

 C乏しい改しゅんの惰

 被告人は本件で告訴され た後、知事選で再選された 自己の知事たる地位の保身 のため、被害者を逆に虚偽 告訴罪にあたるとして大阪 地検に告訴し、他方、被害 者が大阪地裁に提起した本 件に関する損害賠償請求訴 訟の場ではあえて事実を争 わなかったのに、一転して 記者会見の席や府議会にお ける公の答弁に際しては、 犯行を全面的に否定し たうえ、告訴を「でっち上 げ」 「真っ赤なうそ」など と平然と切り捨てて、被害 者の人格と名誉に対し激し い誹誘(ひぼう)と中傷を 加えた。

 さらに、被告人は捜査段 階では全面的に否認しなが ら、公判ではこ転して、こ れを認めながらも、なお不 自然、不合理な弁解を種々 構え、自己の刑事責任の軽 減に急である一方、これま で被害者に直接謝罪をした ことはまったくないのであ る。

 このような被告人の態度 に照らすと、被告人は破廉 恥な自己の犯行を省みて、 真に自責の念と改しゅんの 情を深めている様子はうか がい得ないし、被害者の苦 渋に満ちた心情をくみ取っ て、心底から謝罪するとい う真しな態度も欠如してい ると断ぜざるを得ない。

 D府民や社会への影響

 被告人は府民の信頼を裏 切り、これを著しく愚弄 (ぐろう)したばかりか、 こうした知事を選挙で選出 した府民に計り知れない衝 撃を与え、府政を混乱させ たものであり、その責任は 誠に重く、本件犯行が社会 に与えた影響も極めて大き い。