特集  ノ ッ ク 問 題   

 

「怒る女たち」の決意        

〜終わりの鐘はまだ鳴らない〜

        岡本 京子(ネッ関ニュース No.27より) 2001年 1月 1日

去年のあの騒動のころ、挙げた拳をいつ下ろすの か、と聞かれたことがあった。「ノックが辞職する まで」「ノックの起訴が確定するまで」「ノックが有 罪になるまで」長い闘いを予想しながらどれも答え ではないと思っていた。

 私たちが揚げた手を下ろせる日は、ノック本人は もとより、この社会の人々が、「知事がなぜあのよ うな行為をしたのか」を不当に理解するときなのだ。 「本当に」というのはつまり「彼が変態であったか ら」とか「彼が迂闊であったのだ」という類の言説 をささやかなくなるということだ。

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 8月に判決が言い渡された直後から、落合さんに ラブコールを送っていた。受信装置のミスがあった ために、一月半もかかって彼女は発信者を探し当て てくれた。彼女の方も私たちの活動に、あるメッセ ージを伝えたいという思いをずっと抱いてくれてい たのだった。

 落合恵子さんが自らの体験をふまえて数々の著書 に託している「彼女の拳」は、フェミニズムを理論 で説くというより、生き方で貫く揺るぎなさを感じ させて、少し痛ましい。方法は違ったにせよ、 母娘二代にわたって「闘って生きている」 人生が彼女の言葉で語られるとき、差別がどんなに巨大な壁を作 っても強靭に生きる力が女たちにはあるのだと、励 まされる。息次ぐ間も惜しんで語る彼女の話と歌声 は、その日も会場を埋めた参加者の心を揺さぶった。

 12月2日、ドーンセンターで「私たちの『ノッ ク事件』終わりの鐘はまだ鳴らない」が、「横山ノ ック知事のセクハラ訴訟回避に怒る怒る女たちの 会」の総括として開かれ、一連の運動に参加した市 民や団体関係者が100人あまり参加した。

 落合恵子さんの基調講演に続くパネルでは、まず 被害者の弁護団長、石田法子さんが口火を切り、「検 察を動かしたのは正直に言って世論の力、それを喚 起し支えたのは私たちの運動です」と一連の運動を 評価した。

事件直後から被害者「萌子さん(仮名)」 をサポートしてきた「性暴力を許さない女の会」の 栗原洋子さんは、現在もサポートが続いていること を報告した上で、「彼女の勇気、彼女のがんばりを 称えます。」と萌子さんを力づけた。また、「現在も残る疑念」として、 「当初この会の名前に『疑惑』 の文字が入っていたのは、性暴力の本質が分かって いないのではないか。」という厳しい指摘をされた。  

あれは『セクハラ疑惑訴訟』ではない、という発 言の意味の重さは、しっかりと受け止めねばならな いだろう。事実は「セクハラ疑惑」などというモノ ではまったくなく、「行為」そのものはもちろん、 あとの「否認」の態度まで厚顔無恥な権力者の許す ことのできない犯罪行為そのものであった。

 真実は一つしかないのに、それがかけらほどの 「?」であっても、「疑惑」として人々の口から語 られるというこをは被害者を孤立化させる。しかも 自分を支援するという女性たちの発言となれば、彼 女を少なからず傷つけたことは間違いない。

フェミニストがシスターフッドの精神でサボートするとい う原点は「あなたの身に起こったコトは私の問題」 という視点であったはずだ。今回の栗原さんの指摘 で、「フェミニズム」の立場を知った市民も多いだ ろう。

 この点について主催者代表の森屋裕子さんは、「会 を作る時点で、当事者とコンタクトをもっと持ちた かった」「市民運動として底辺を広くしていくため に譲歩せざるを得なかったのは残念」と述べた。

 これは大事な教訓である。以前に、私もシンポジ ウムで話したが、「中立」は「他者の視点」と同じ である。女性の人権を語るとき、私たちに必要なの は常に「当事者」の視点で見、聞き、口を開くこと なのだ。女性問題を主流化するということは、フェ ミニズムの視点で語りながら揺るぎない世論を喚起 できる力を持つという事でもある。

 電車の中での痴漢行為を訴えられた男性が、裁判 で無罪を勝ち取った話が伝えられた時、女性を責め るのは間違っている。彼女が被害者である事実は変 わらないからだ。責めるなら、電鉄会社を責めよ。 「安全運転とは、安心して目的地まで乗っていられ るということも込みである。不安に駆られて乗るた めに運賃は払っていないのだ。」と。そうした世論 を私たちは作らねばならないのだ。

 森屋さんはまた、「終始、ある政党の運動に荷担 するものだという批判があった」ことや、「府議会 の女性議員は討議拘束に反しても、協力して団結す べきではなかったか」と、政治的アレルギーは女性 の問題を解決するのに決してプラスとはならないこ とを提言した。

 会場には、草の根の女性たちに混ざって辻本清美 さんと上野千鶴子さんも肩を並べて座っていた。
 拳は、もちろん下ろせない。