『広報つるおか・水道特集号(2000.06.15)』の内容を嗤う 

                             桑 原 英 夫

 この『特集号』の内容は、計画の過大予測など、都合の悪いことはすべてほおかむりし、時の経過・時代の変化は無視し、原則論を仰々しい言葉で列挙したものです。
 以下、大項目別に問題点を指摘しましょう。

【Q 水不足の問題とはどういうことか。】

A 「短い期間であっても『使いたいと思う水量』に見合う水量を供給できなければ、水不足問題を解決したとは言えません。水道を管理する市は、市民の皆さんが『使いたいと思う水の量』に対して、いつも十分に給水する責務があると考えています。」

 《コメント》

 「浪費」を煽る政策。

 「お任せ」民主主義を助長するもの。

 昔、「水道の使用量は文化のバロメーター」という言葉がありました。この度、『平成9年度水道統計』を調べて驚きました。鶴岡市の1人1日当たりの給水量が、東京都のそれを上回っているのです。平均給水量でいえば、鶴岡市428l、東京都415lです。先の言葉に従えば、鶴岡市民の文化度は東京都民のそれを抜いているのです。
 でも、何か空しい気がしませんか。「消費は美徳」という時代は終わったのです。今や、量より質が問われる時代です。
 20年余り前から「渇水都市」の名で呼ばれる福岡市の市民は、306lの水で九州一の大都会を支えています。
 早くから「村山広域水道」からの給水を受け、県内で一番高い水道料金を払わせられている村山市民は、312lで暮らしています。
 さらに、東京都営水道への移行を拒み、鶴岡市と同じように「100%地下水」を守っている東京都昭島市(人口10万8千人)は、372lで「おいしい水」を誇っています。
 いま、鶴岡市民にとって必要なことは「足るを知る」ことです。

 鶴岡市水道の給水人口は、1990年代に入って完全に横ばいです。給水量も、ほぼ横ばいですが、1994〜96年ころをピークにして、減少傾向が現れてきました。
 『広報つるおか(1999.06.01)』所載の数字、「1日最大72,602 m3、1日平均50,821 m3」を1人1日給水量に換算すると、2010年に、給水人口が計画通り106,400人に増えたとしても、最大給水量682l、平均給水量478lです。現在のままならば、最大726l、平均508lです。人口が減少すれば、さらに多くなります。こんなにたくさんの水が要るのでしょうか。

 1957年に制定された「水道法」は、その第一条に、法律の目的として、「清浄・豊富・低廉な水の供給」という、サービスを享受する国民にとって最大の利益を保証することを明記した。同時に、国民の側の義務も第二条に明記された。すなわち、「水源及び水道施設並びにこれらの周辺の清潔保持並びに水道の適切かつ合理的な使用に努めなければならない」と。すなわち、水道法の新しさは、国民の権利と義務を同時に明文化したところにある。
 ところが、1977年5月に改正された水道法では、第二条の主語が「国民」から「国および地方公共団体」に変わり、国民の義務規定から行政の義務規定に変更されてしまった。すなわち、国民の基本的人権として互いに尊重して守るべき基準でなく、国が定めた一定の水準としての「権利」を上から国民に「与える」という発想に変わった。

【Q なぜ地下水を使わないのか。】

A 「いつまでも大量の地下水を地殻の奥から汲み上げると、地域の自然環境に悪い影響を与えないだろうかと、たいへん危惧されます。」

《コメント》

 市水道部は、「地殻」という言葉の意味を理解して使っているのでしょうか。参考までに挙げれば、『広辞苑』では次のように解説されています。
 「地球の最外層。その下のマントルとはモホロヴィッチ面で境をなす。モホロヴィッチ面の深さは、大陸域で地表から20〜50km、海洋域で海底から約6km。」
 鶴岡市水道水源地の深井戸の深さは、せいぜい220mです。「『地殻とは、地表面までを含む地球の最外層』という意味で使っています」では言い訳にもなりません。

 さらに、「水循環」と「水循環における地下水の役割」を理解しているのでしょうか。

 地下水は、涵養量の範囲内で大事に使えば、永続的に使える水資源です。

 鶴岡市水道第三期拡張事業(1975〜80)に際し、水源計画の安全性を確認するための調査を、当時の東海大学教授・柴崎達雄先生に依頼しました。
 先生は、1977〜79年の3年間をかけて、綿密な調査結果に基づくコンピューター・シミュレーションを行い、1日量で52,700 m3の計画揚水案を示されました。さらに、水源地が属する地下水区880 haに対する持続性補給量は、1日に25万m3程度あり、計画揚水案が最大52,700 m3であることから、持続性補給量は十分にあると結論されました。ちなみに、1998年度の実績1日最大給水量は50,183 m3です。つまり、現在程度の水の使い方ならば、水源地のある地下水区には、持続的に補給される十分な水量があるのです。

A 「全国的には、地下水の過剰な汲み上げによる地盤沈下や水質汚染被害が起きた例をよく聞きます。」

 《コメント》

 地下水の過剰な汲み上げによって地盤沈下を起こした例は、全国的に数多くあります。しかし、幸いなことに、鶴岡市水道水源地を含む地域は、その地層構成から、地盤沈下の可能性は低いことがわかっています。

 なお、地下水が汚染されて、地下水の利用を止めた例は少なくありません。しかし、「地下水の過剰な汲み上げによる水質汚染被害」とは、どういうことを言うのでしょうか。臨海部における地下水の過剰採取によって、帯水層に海水が浸入する問題を指すならば、「地下水の塩水化」という言葉があります。

A 「そんな配慮もあるからか、上水道水源を地下水からダムや川の水=表流水にかえる傾向があるようです。」

 《コメント》

 そういう場合もあるようです。しかし、次のような場合もあります。東京都の例を挙げましょう。
 東京都は多摩地域の重要な水道水源である地下水を河川水へ全面転換する計画を進めています。転換の理由は地盤沈下対策と地下水汚染問題ですが、地盤沈下そのものは既に沈静化しています。例えば、近年、地下水位が上がってきて、上野駅や東京駅の浮き上がりが問題になっています。それなのに、都水道局は古い計画に固執しています。この都の行政姿勢の裏にあるものは何でしょうか。それは、水道拡張事業、ダム建設事業の大義名分を確保することにあるのです。
 都水道局は1970年代から第4次利根川水系水道拡張事業を進めてきました。その総事業費はダム建設の分担金を含めて約六千億円です。水源転換の事業費が巨額であるからこそ、土建会社、そして、それにからむ政治家と天下り官僚の利権が目的の失われたこの事業を推進してきたのです。宍道湖・中海の淡水化事業や長良川河口堰建設と同質の問題と考えて良いのです。

A 「なお今後も、市有地の井戸の地下水を、ダムの水と一緒に給水することを考えます。」

 《コメント》

 庄内南部広域水道からの受水予定量は「1日最大72,602 m3」、現在の「1日最大給水量は49,500m3」です。広域水道に移行した場合、「地下水をダムの水と一緒に給水すること」ができるのでしょうか。

【Q 月山ダムの水は使わなかったらどうなる。】

A 「広域水道のために投入するお金は、四百七十五億円ですが、仮に広域水道から受水しなくとも、このうち市が負担すべき巨額のお金は、きちんと払う責任があります。それでも地下水を使うのだといえば、いまの施設の更新や新たな井戸の掘削のためなど、二重の出費がかさみますし、これらも上乗せした水道料は、甚だ高い料金になるでしょう。」

 《コメント》

 家計に転嫁される「社会的リスク」。バブル崩壊後に国や公共団体、さらに、企業が抱えた巨大なリスクとコストが一般国民に転嫁されようとしている。

 水道法にもとづく「公営企業」である限り、水道事業者としての責任があるはずである。もし、過大な水源開発事業に投資したのだとすれば、その事業者自身に責任がある。市町村はその責任を受水費によって支払う。「責任水量制」以前の法の前提として、用水供給事業者側にも市町村と同等の責任は当然あるであろう。

 私は、どんなに高い料金になっても、現在の良質な地下水を飲みたい。そして、おそらく、日本一になるであろう「高い鶴岡市の水道料金」を天下に知らしめて、国・県・市の愚行を明らかにし、その責任を追及したい。

【Q 水道料金はどうなるか。また味は?安全性は?】

A 「鶴岡市の水道料金は、本格的な浄水施設もないなどから、県内では最も低料金です。」

 《コメント》

 地下水は、地表からしみ込んだ水が、土壌でろ過・浄化されて、細菌や不純物が取り除かれ、有機物も大部分が分解・除去されている、衛生的に最も安全な水です。しかも、地層中のミネラルがほどほどに溶け込んでいる、おいしい水が多いのです。この地下水を汲み上げ、法律で義務づけられている最少限の塩素を加えただけで給水しているのが現在の鶴岡市の水道です。まさに、第一級の水道水です。
 それを、「本格的な浄水施設もないなどから」などと書く、市水道部の見識を疑います。

A 「味については、充分においしい水をお届けできると思います。ダムが建設される梵字川は朝日連峰が源で、生活排水などの汚れもなく、ミネラルも含んだ、県内でも有数のきれいな川だと言われています。」

 《コメント》

 『広報つるおか(1998.6.1)』には、「梵字川は平成8年度に県が行った水質調査で、水源の川の中で「きれいな川」の第1位になっています。今の鶴岡の地下水と比べて、有機物等が若干多く、夏に水温が高くなることを除いては、大変良質な水です」とあります。
 これは事実です。雨が降らないときの谷川の水は、流れ下る途中で、木の葉や腐植、生物の影響などで有機物が加わりますが、本来は湧水が集まった良質な水です。
 しかし、雨が降ると様子が変わります。雨水が、流域の地表に溜まっている、さまざまな物質を洗い流してきます。さらに、土砂を流してきます。雨が降ると川の水が濁るというのがこれです。つまり、川の水は、状況によって水質が変化するのです。平成8年度の県の調査で、「きれいな川」の第1位だった梵字川(立岩橋地点)も、平成10年度の県の調査では、最上川下流(両羽橋地点)の水と同程度の水質になってしまっています。加えて、流れている川の水と、ダムによって貯えられた水とでは、水質が変化する例が多いのです。

A 「朝日村にできる浄水場の方式は、全国七〇l以上の水道で行われている一般的な方法となっており、安全な水をお送りします。」

 《コメント》

 『平成9年度水道統計』によれば、年間浄水量165億m3の浄水方法別の割合は次のようになっています。
    消毒のみ  20.5%
    緩速ろ過   4.0
    急速ろ過  75.5
 「消毒のみ」は、現在の鶴岡市水道と同じように、特別な浄水を必要とせず、原水を「消毒のみ」で給水しているものです。「緩速ろ過」は、薬品を使わず、自然の浄化力を使って原水を浄化する方法です。そして、「急速ろ過」とは、原水を薬品の力で浄化する方法です。
 ここで、寒河江ダムの水を急速ろ過法で浄水している「村山広域水道」と、汲み上げた地下水を消毒するだけで給水している鶴岡市水道とで、使用している薬品がどれほど違うかを、『平成9年度水道統計』所載の数字でお目にかけましょう。
 平成9年度、村山広域水道の年間浄水量は3,122万m3ですが、これに使った薬品は次の通りです。
   前処理および後処理(消毒)剤:次亜塩素酸ナトリウム   357.02 ton
   凝集剤:ポリ塩化アルミニウム              843.98 ton
   アルカリ剤:カセイソーダ                292.16 ton
 一方、鶴岡市水道の年間浄水量は、前者のほぼ半分の1,553万m3。使った薬品は消毒剤だけで、浄水1m3当たりの使用量は村山広域水道のそれの約4分の1に過ぎません。
   消毒剤:次亜塩素酸ナトリウム               46.27 ton
 浄水に際して投入された薬品が、そのまま給水される水道水に残留するわけではありませんし、水道水の水質基準には合格しているのですが、その味にはかなりの差が出ましょう。

 去る6月2日の朝日新聞「声」欄に、「ガソリンより高い水は変だ」と題する、水処理の専門家、中本・信州大学教授の投稿が載っています。その一部を紹介しましょう。
 「井戸水や伏流水を塩素消毒だけして給水している水道水はおいしい。次は生物処理の緩速ろ過処理の水道水だ。自然界の仕組みを上手に活用した緩速ろ過処理による浄水場は、五十年でも百年でも安くおいしい水道水を供給し続けている。 飲みたくない水道水は、薬品処理の急速ろ過による水である。高いお金をかけても塩素臭い水道水は信用されない。ガソリンより高いペットボトル入りの水を容認している日本社会は、おかしいと思いませんか。欧米では安全な水道水ということで、現代に通用する古い技術の緩速ろ過の見直しが始まっています。」

 「全国七〇%以上の水道で行われている一般的な方法」。まさに、「みんなで渡れば怖くない」。これでいいのでしょうか。

A 「発ガン物質と騒がれているトリハロメタンについては、WHOが定める基準数値より、さらに十倍も厳しい基準で抑えることにしており、全く心配はないと言えます。」

 《コメント》

 WHOの基準値については、もう少し調べてからコメントする。

 「基準値」、「許容量」、「警告量」、「リスクと効用」などについて考える。

 『平成9年度水道統計』の「浄水の性質」に載っている総トリハロメタン値
    鶴岡市水道   0.002 mg/l
    村山広域水道  0.011
    村山市水道 0.014
    酒田市水道 0.027