毎日新聞1/15

水道料金押し上げるダム建設 水源開発をダムに頼るな
佐藤敬一(地方部)
 
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神奈川県の宮ケ瀬ダム。今年度から本格的な取水が始まり、横浜市 の水道料金は12.1%値上がりした  ◇「使える水」他にもある

 水道料金の値上げが全国で相次いでいる。主に高度成長期の過大な需要予測に基づいて計画されたダムや堰(せき)が建設され、その建設費用が料金にツケ回しされているためだ。大型公共事業による水源開発のせいで「使わない水」も増えている。いつまでも建設・値上げの循環でいいのか。山梨県の天野建知事は昨年末、「給水人口が大幅に減った」との理由で、大月市の笹子ダムの建設中止を表明した。料金値上げにつながらないで「使える水」をどう増やすか。発想を変えるべき時期にきていると思う。

住民や企業の払う水道料金は、使った「量」だけで決まるわけではない。市町村など事業体によって異なる「基本単価」を使用量にかけて算出される。同じ事業体でも「基本単価」が上がれば、料金も上がる。00年度は全国の事業体中8・1%にあたる154が平均13・8%の値上げをした。

私の前任地・山形県の鶴岡市では、水源に豊富な地下水を使っていたため、水道料金は県内で最も安かった。だが、昨年10月20日に水道料金は28%も引き上げられた。水源を国が建設した月山ダムに切り替えた結果、市はダムからの取水量に応じたダム建設負担額を負担するようになり、それが「基本単価」にはね返ったのだ。

また、横浜市が昨年4月から水道料金を値上げしたのは、神奈川県内の宮ケ瀬ダムと相模川河口の相模大堰からの取水を本格的に始めたためだ。新たな施設から取水するには年間約50億円かかる。その分が12・1%の値上げにつながった。

両市とも決して水が足りないわけではなかった。

 鶴岡市は、ダムの水に切り替えた後、1日で最大7万2600トンの水を使えることになった。しかし、昨年度に最も多く水を使った日でも使用量は4万8300トンでしかない。横浜市では、この差は単純計算で1日当たり30万トンになる。現時点では、住民は「使わない水」のための料金を負担していることになる。

「受益者負担」の原則から水需要が将来、大きく増える見込みならば、値上げも仕方ないかもしれない。しかし、人口は今後、緩やかな減少に転じ、不況で企業も節水に努めている。国の試算も水需要の大幅な増加には否定的だ。

旧国土庁(現国土交通省)は、99年策定の「新しい全国総合水資源計画」で、水需要予測をそれまでの右肩上がりから、ほぼ横バイに近い形に修正した。

総務省は昨年7月、国土交通省などに勧告した国の水資源開発基本計画に対する行政評価・監視結果で、需要見通しに対して実績が大幅に下回る「水余り」の状況を指摘した。首都圏の都県が多くの水を取っている利根川・荒川水系の水道水では、需要見通し(毎秒147トン)に対して、実際には44%(同64トン)しか使われていないという。

それでも、首都圏では、八ツ場(やんば)ダム(群馬県、国土交通省)、霞ケ浦導水事業(茨城県、国土交通省)、思川開発事業(栃木県、水資源開発公団)などと、大規模公共工事による水源開発計画が目白押しだ。

開発で供給を受ける下流の都県は「供給の安定度を高めるためには絶対必要」と口をそろえる。しかし、「ほしい」「足りない」と新たなダムを求めるだけでは、水道料金が上がり続けるのは必至だ。

少し立ち止まって考えてみたい。水源開発は何もダムをつくることだけではないのではないか。

 渇水期に、余っている農業用水や工業用水を水道にうまく転用することも可能なはずだ。上流の森の保水力を生かすことも重要だ。

 東京都墨田区は82年から区庁舎や国技館、家庭など約300施設に約9000トン分の貯水タンクを置き、雨水を「街の小さなダム」として活用している。

 同区環境保全課雨水利用主査で「雨水利用を進める全国市民の会」事務局長の村瀬誠さん(52)は「ダムをつくり続けるだけでは、際限なく水を使うことになる。水を大事にし、需要を抑えることだって『水源開発』だ」と強調する。

 もちろん、ダムには利水だけではなく、治水などの役割もあり、すべて悪と切り捨てるつもりはない。しかし、蛇口をひねって水を飲む時、あるいは風呂につかる時、たまには水道料金がなぜ上がり続けているのか、思いをめぐらせてみてほしい。ダム建設の是非は「九州の山の中の問題」とか「公共事業費削減のための課題」ばかりではない。

(毎日新聞2002年1月15日東京朝刊から)


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