スターン考現学

1998.2/27、赤川を漕ぐところから僕の鶴岡での活動がはじまった。

そのときの川下りを踏まえて、酒田の情報誌「ナイス酒田」に寄稿した文章です。


神戸と水辺からの発見と

「とにかく漕ぎだします」

神戸、御影公会堂で仲間が催してくれた私の送別会で、僕は、みんなの激励文が書かれたパドル(カヌーでつかう櫂)を授かった。そして僕は、こう宣言した。神戸で授かった力をなんとか古里で活かしたい。とにかく動いてみることが、いかに大事かを神戸で学んだような気がしていた。

今年の2月の終わり、神戸から鶴岡に戻ってきた私は、さっそく次の日、カヌーを水の上におろすことにした。赤川、羽黒橋のたもとである。

その日のカヌーは、儀式のようなものであった。何をはじめよう、どう古里でやっていこう。様々な不安を胸に、漕ぎながら流れを読む感覚をもう一度よみがえらせたくて強行した。以前から情報交換をしていた書店主のAさんと一緒に、まだ両岸に雪ののこる川の流れにでることにした。目標地点は、さっき、車を一台置いてきた三川町の我眉橋のとなり。

青空で太陽の陽射しが心地良い。カヌーをおろした土手にはまだ雪がびっしりついていて、ちょっと冷たい。カヌーをソリのように土手のザラメ雪を滑らせて水におろす。冬なので、川の中に落ちることは許されない。このコースならまずは沈することはないとたかをくくる。

Aさんにひととおりパドルさばきを教え、流れの中に浮かんだ。まずは上流に向かって漕ぎ、流れとバランスを保つ。前方には月山の姿がどっしりと見える。まるで鶴岡を見守っているように構えるこの月山は、月読神をまつった聖なる山だ。赤川は、この山から流れている梵字川を支流のひとつとし、大梵字川ともよばれる聖なる川だとある本で読んだ。

カヌーの方向を下流にむけ、流れに乗る。ダウンリバーのはじまりだ。

川の流れは、私たちを乗せたカヌーをゆっくりと下流へと運ぶ。

カヌーは主に東海岸のアメリカの先住民族の人たちが、川で漁をしたり、毛皮を運ぶために使った道具だ。これに乗り込んで川にくりだすと、たちまちゆったりとした川の時間に私たちは導かれ、自然に風や川の音、小鳥のさえずりや、川面の波や波紋の様子に注意を傾けるようになる。パドルで水をつかむと、いにしえの先住民の意識がわいてくるようにも感じる。雪解けが混じりはじめた赤川の水は、思ったよりも透明度があって美しかった。川には、様々な水の流れがある。波立つ本流。岩がかくれている波、上流に逆流しているところ。そんな川面を楽しみながら、僕らは、まだ岸辺に雪が残る赤川を下っていった。

川は適度に蛇行しながら、様々な姿を見せてくれる。コンクリートの護岸で殺伐としている場所。うっそうと草がしげった場所、ふと見るとネコヤナギが太陽に照らされて輝いている。時にはじんわりとまた時には急激に回りの景色が変わる。コガモやカルガモたちが僕らに気がついて飛び立っていく。美しいオシドリの夫婦も発見。

岸をみると、川船が一双、くくられていた。収穫したアサツキを川の水で洗っている人がいる。三川橋を越えるとすぐのところにちょっと段差がある。後で漁協の人に聞くと、サケ漁のヤナだと聞いた。この川にも生活があるんだなあとまたまた発見。

内川の合流点からは、鶴岡の雑排水が流れ込み、さすがに水がにごる。

何回か大きくカーブをきると、今度は前方に雄大な裾野をもつ鳥海山がでんと姿をあらわす。両側には草木がしげり、枝が水辺から空にむかってたくさん生えている。

「なかなかいいぞ」と思っているとその枝に臼汚れたビニルの袋がひっかかっている。そう思うと、次々とそのビニルの「花」は現れ、「うーむ」とうならずにはいられなくなった。

出発から2時間。僕らは我眉橋のとなりに到着した。この川はまんざら悪くない。小学生以来まともに見たことのなかったこの川を惚れなおした。同乗したAさんも「まったく知らない赤川の姿を見た」と喜んでくれた。

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「とにかく水辺を見つめてみよう」それを合い言葉に僕らは活動をスタートした。ビーチクリーンアップ、内川のカヌートレック。やるたびに思うが、それらはびっくりするほど「気づき」の宝庫だ。そして改めて経済優先の現代社会を見せつけられる。町にポイと捨てられるゴミは川を下り、海へとたどりつく。プラスチックゴミは、今や水辺を埋め尽くすかのようだ。

私たちと自然はつながっている。大地の上に生かされている私たちが、自然に悪さをすれば罰があたる。良いことをすれば恵みを授かる。自然災害は大いなる学びとしてのしっぺ返しだ。未来の子供たちのためにも、庄内の大地や山々、川、海に、僕ら一人一人の愛を向け、動き出す時がきているような気がしてならない。夢をもって、みんなで動き出そうよ!



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