チェチェン総合情報

チェチェンニュース
Vol.02 No.11 2002.06.14

【チェチェン関係イベント情報】

■第58回 みみの会/インドネシアで何が起こっているのか? 現地からの報告

インドネシアと聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか? リゾート地として有名なバリ島の風景、あるいは大統領になった闘争民主党のメガワティ党首の顔?

インドネシアでは、豊富な天然ガス資源を持つために国軍の抑圧にさらされているアチェ州など、多くの人権問題が存在します。これらの問題はODAによる最大の支援国である日本の存在を抜きにしては語れません。

チェチェンニュース編集室では、インドネシアとチェチェンでの人権状況との類似にも注目し、お話しを伺いたいと思っております。

今回のみみの会では、インドネシアの民主化支援の試みを続ける佐伯奈津子さんをお迎えし、現地の映像と、ユーモラスな体験談も交えて報告していただきます。お気軽にご参加ください。

 講師:佐伯 奈津子(インドネシア民主化支援ネットワーク) 聞き手:大富 亮(チェチェンニュース編集室) 日時:6月19日(水) 午後7時より 会場:千代田区中小企業センター 505号室 地図:http://www.chiyoda-business.or.jp/files/info/counter.html 会費:1000円 備考:現地で撮影されたビデオ上映、アチェの民芸品販売(収益は夫を殺害された女性たちの支援に使われます) 交通機関: 地下鉄/竹橋駅下車徒歩5分(東西線・3b・KKRホテル東京玄関前出口) 神保町駅下車徒歩10分(三田線・新宿線・半蔵門線 A8出口 JR/神田駅下車徒歩15分 (西口出口・出世不動通り) 主催:みみの会 連絡先:はる書房:佐久間(03-3293-8549)     または北斗出版:森(03-3291-3258) e-mail: miminokai@yahoo.co.jp みみの会とは: 中小出版関係者、フリージャーナリストを中心とした研究会。隔月開催。

■マスケル-ユルト村で大規模な掃討作戦/遺棄死体25体との報道も

5月15日、チェチェン独立派のWebサイトkafkaz.orgが、「メスケル・ユルト村でロシア・チェチェンの小部隊同士の戦闘があった」(2002.5.15 Kafkaz.org)と報じた。これ以降、最近でも有数の大規模な掃討作戦が開始された。

5月22日にロシア軍はメスケル・ユルトを包囲したことを、ロシアの人権団体prima-news.ruが初期に報道した。これによると村人のビラル・アブドルサルノフらが連行され、ロシア兵による暴行を受けるなどした(2002.5.29 prima-news.ru)あと、ロシア軍は村長のウマル・イスラミロフに対して、「パスポートチェックの際、人権侵害等は発生しなかった」という文書への署名を強要した。しかしイスラミロフはこれを拒否した。ロシア軍は今月中旬まで村に駐留すると通告した(2002.6.1. CHECHENPRESS.com)。

5月31日にラジオ・リバティーが報じたところでは、村のモスクが臨時の収容所となり、男性のほとんどがそこに集められて取り調べを受け、負傷者が続出した。主な容疑は武器の隠匿。しかしこの時点では村から武器は見つからなかった。(2002.5.31 rferl.org)。同日、ロシア政府側は、軍隊による虐待行為はすべて捜査されると発表した。2002.5.31. AFP)

事件はこれにとどまらない。6月4日、メスケル・ユルトとツォタン・ユルト間の道沿いで、2人の女性を含む、25体の遺体が発見された。犠牲者たちは射殺されたものと見られている。チェチェンにおける親ロシア政権の副長官であるアリ・アラヴィノフ(メスケル・ユルト生れ)は、この虐殺事件に対して非難を表明した(2002.6.5 rferl.org)。

その一方、イタリアを訪れていたアメリカのパウエル国務長官は、ロシア側との会談のあと、次のようなステートメントを発表している。「チェチェンは、目下国際社会の注目を集める問題となっている。ロシアがチェチェンにおいてテロリストとの戦闘を続行していることに疑義はなく、わが国としてはこれを理解している。しかし同時に、政治的解決こそがロシアにとって最良の道だと信じる。そして、われわれはこれまでもロシア側に対し、この対テロ戦争の中でロシア軍の行動が、文明国としての人権保証の基準に合致しているかどうかは確認するべきだと伝えてきた」 (2002.5.28 www.state.gov)とし、暗にメスケル・ユルトなどでの掃討作戦に対して批判を加えたが、9月11日の同時多発テロ事件までのアメリカ政府の姿勢と比べてかなりロシア寄りの発言となっていることには注意をしておきたい。

チェチェン政府側はメスケル・ユルト掃討作戦に関連し、次のような緊急声明を公表している。「チェチェン共和国外務省は、最近のパウエル米国務長官の発言「ロシア軍の行動が、人権保証の基準に合致しているかどうかの確認」(という考え方)を支持するとともに、メスケル・ユルトでの無実のチェチェン市民に対する虐待行為を停止するよう、ロシアのプーチン大統領に対して働きかけることを要望する」

またこの声明は、チェチェン戦争とユーゴ内戦を直結し、「パウエル国務長官が道義的勇気を発揮し、公式にロシアのチェチェンに対する攻撃を批判すること---同長官の前任者であるマデリーン・オルブライト女史が、セルビアのミロシェビッチ氏によるボスニア市民への攻撃を強く非難したことと、同様の道を採ることを---を期待するものである」とした上、メスケル・ユルトでの状況について触れている。

「ここ数日、メスケル・ユルトの数百人の住民が、違法に逮捕され、あるいは行方不明になるなどしている。3人の女性と2人の子どもを含む21人の村人が、ロシア軍に射殺された。すくなくとも、7人の女性が強姦された。これらはロシア国内の報道、そして、米国をはじめ国際社会が、チェチェンの人権状況の悪化を座視し、沈黙してきた結果である。

状況の悪化に鑑みて、イチケリア・チェチェン共和国外務省はパウエル米国務長官にあて、メスケル・ユルトでの残虐行為を終わらせるための介入を要望する。これは、同国務長官に、ロシアのイワノフ外務大臣と接触し、ロシア軍の行動の中止と、これ以上の無益な犠牲を止めるため、メスケル・ユルトからの撤退を要求すること、人権NGOの現地展開と、必要不可欠な医療援助を行うことを含む」(2002.6.5 www.chechenpress.info)

ドイツのフィッシャー外相はメスケル・ユルト事件に関して、「チェチェン問題に対して強く憂慮する。チェチェン市民に対するロシア軍の懲罰は容認できない」と発言した(2002.6.7 RFE/RL)。

日本の外務省は、5月の「最近のロシア情勢」と題する情勢分析の中で、「チェチェン武装勢力は散発的に破壊・ゲリラ活動を行っているが、徐々に縮小傾向にある」との見解を明らかにした。ロシア政府による「チェチェンでの戦闘行為はすでに終了した」という発表に沿ったもの、あるいはかなり近いものと言える。この分析では人権問題については一切触れていない。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/russia/josei.html

メスケル・ユルトをロシア軍が包囲して20日以上が経過した。一部では包囲の解除が伝えられているが、ロシアの対チェチェン政策が変更されないかぎり、今後も同様の事件が続くことは想像に難くない。