イー・モバイル基地局建設計画と格闘した日々

 突然持ち上がった、アンテナ基地局建設。たった1軒の反対から、3ヵ月後には仲間も増えて、反対運動に。建設予定地は、同じ地主の土地を5ヶ所転々と移動して、10ヵ月後には、市外の離れた場所に建設されました。その体験記です。

 私の家は、田んぼと林に囲まれたのどかなところです。ところがある日突然、我が家から50mの空き地に、イー・モバイルと言う携帯電話会社の、アンテナ基地局が建つという話が持ち上がったのです。平成19年11月25日のことでした。
 ここ1ヶ月ほど前から、荒地を整地したり、杭を打っていたりしたので、近所に住む地主に問い合わせると、「ケータイのアンテナ塔を建てるのよ」とのこと。血の気が引きました。その地主は、2年ほど前にも、ソフトバンクの基地局を建てました。自宅の裏4〜500mのところにです。
 高さ40mの塔は、そびえ立ち、威圧感があります。私は、「何かいやだな」と思いながらも、地主の家の裏に建てたのだから、「仕方ないか」とあきらめていました。しかし、今度は、我が家から50mしか離れていなかったので、黙っているわけにはいきませんでした。
 地主の奥さんに抗議すると、「高速通信ができるようになり、このあたりも便利になるよ。アンテナ基地から出る電波は、まっすぐにしか飛ばないから、頭上を越えていくだけだし、高圧線の方が、小児白血病になるかもって言われているようだけど。」と言うのです。「白血病!?」初めて聞く情報に、私は、漠然とした不安だったのに、電磁波って怖いものかもしれない・・・と思い始めました。

 それから2日間は、インターネットで調べ続けました。すると出るわ出るわ!!「電磁波」でも、「アンテナ基地局」でも。見えてきたのは、ケータイのアンテナが、全国でトラブルになっていることでした。
 「私だけじゃなかったんだ」と思うと、食い入るように記事を読みました。「まずは、知らせなければ」と、プリントアウトした記事を、隣近所に配りました。
 すぐに、市役所や県庁にも問い合わせてみました。役所も色々調べてくれたのですが、建築確認などの書類は、まだ提出されていないようでした。イー・モバイルは、市の別の場所にも1本建っていて、それは書類が揃っているそうです。アンテナ基地は、総務省が管轄だというので、市役所に紹介してもらった関東通信局にも問い合わせてみました。
 そこで言われたのは、「アンテナから出る電磁波の影響は、心配ない。今はデジタルだから。一応、アンテナから2m以内には近寄らないように指導していますが。アンテナ基地の下にいても、体は熱くならないでしょう?そんなこと言ったら東京タワーの下に住んでいる人は、みんな病気になってしまう。私に言わせると、道路の方がよっぽど危険だ。」と言う説明でした。「総務省は、企業の方を向いているんだな」と感じました。「しかし、近隣住民には、説明をするように言ってあるので、それがなかったのは問題だ。」と言っていました。どれくらいの範囲で説明をするのかは、企業によるとのことでした。住民の不安を聞いて、対処してくれるのかと思ったら、全くそうでない事が分かりました。
 今の法律では、「いつここに建てられてもおかしくない」。不安と焦りが出てきました。地主に抗議した翌日には、施工会社の日立電線の下請けだといって、湘南送電工事という会社の担当者が来ました。
 じつは、建設予定地に境の杭を打つときに、隣接する土地の地主に話はあったようなのですが、会社の主張する、「仮に塔が倒れた時に影響する高さと同じ40m以内の土地の地主全員」には話がありませんでした。我が家の土地もその範囲にかかっていたのにです。
 土地の持ち主をよく調べもしないうちに、地主とイー・モバイルは契約をしてしまったようです。

 私が納得できなかったのは、40mの塔を建てるのに40m以内の人しか承諾が要らないのかと言うことと、塔を建てるのが先で近隣住民に話がなかったのはなぜか?と言うことです。担当者には、「アンテナ基地の必要性は分かるが、この場所に建てるのは反対する」と言って帰しました。
 施工会社の日立電線からも、3人の担当者が我が家にやってきて、「私たちは、悪いものを作っているつもりはない。国の基準を守っている。あなたの土地、40m以内に掛からない場所に移動させますので、それで理解してください。」私はこう言い返しました、「悪いものを作っていない?今のところ、危険とはいえない、でしょう?24時間365日、電波を浴びせられて、10年後20年後に同じ事が言えますか?毎日、鉄塔に見下ろされて生活するなんていやです。第一、この計画を知ってから、私は毎日ストレスを感じている。クリスマスもお正月も、全く楽しくなかった。心の底から笑えたことはない。いつ、うつ状態になってもおかしくない。それでも悪くない物って言うんですか?」と。
 業者は、「もともと、アンテナ基地局は、近所の人の許可が必要な建築物ではない。地主がこの場所でOKを出しているので、私たちは建てるしかないんです。」と言ったので、私も反撃しました。「あの場所にアンテナ塔を建てるというのであれば、地域住民にも話をして反対運動をしようと思っています。今までは近所の恥だと思って言ってなかった。しかし、できればそんな反対運動はしたくないので、話し合いで解決したい。」と。
 地主はそれ以来、逃げの姿勢です。電話にも応じてくれなくなってしまいました。「どうしよう。どうしよう?」で、何も出来ずに3週間が過ぎてしまいました。
 そのうち、地質調査のボーリングも、終了してしまいました。

 しかし、その頃、インターネットで調べているうちに、「電磁波問題市民研究会」の存在が分かりました。わらにもすがる思いと、「アブナイ団体だったらどうしよう?」と、半々の気持ちで、メールで問い合わせてみました。
 電磁波問題市民権研究会の事務局長さんから返事が来ました。
ファックスの返事には、

  1. ある程度の電磁波の知識がないと、業者とやりあえない。
  2. 半径500m以内の住民説明会の要求周辺住民が納得しないうちは、工事をしないように要求すること。
  3. 周辺住民に、反対のビラをまき、自治会役員にも、住民説明会を開いてくれるよう御願いすること。
  4. 電磁波の勉強会を開き、多くの人に参加してもらい、仲間を作ること。
  5. 総務大臣、県知事、市長、イー・モバイル社長宛に、住民が納得するまでは工事をしないように、内容証明を出す事。
の旨、書いてありました。

 アドバイスのメールを見て、がぜん力がわいてきましたが、正直、住民説明会や勉強会は、今の状態では無理だろうな・・・と思いました。今のところ、反対者は我が家だけなので、周りの住民が時間を割いて、出席してくれるとは思えなかった。あまりに無関心だったからです。

 事務局長さん著の「誰でもわかる電磁波問題」と、「電磁波過敏症」を送ってもらいました。今まで知らなかった世界が、この本には書いてありました。
 そして、アンテナ基地局が建ってしまったら、自分も、この本に出てくる人のように、いつか電磁波過敏症になってしまうかもしれない!
 しかし医学的には、認められていない!
 誰も、アンテナ基地局が原因だと証明できない!
 私の、高校と中学の息子が発病し、「あの時、どうしてアンテナ建設を反対してくれなかったんだ?」と言われるかもしれないと思うと、何としてもここに建てるのは、止めさせなければという思いが、大きくなっていきました。

 事務局長さんに、これまでのアンテナ建設反対運動の、ビラや資料を送ってもらい、とにかく住民のみんなにこの事実を、知ってもらわなければと思い始めました。
 事務局長さんの助言通りに、総務大臣、県知事、市長に、「イー・モバイルは、住民に説明無しに建てようとしている。説明するように指導してほしい」と、社長には、「住民が納得するまで、建設しないように」の旨、内容証明で郵便を送りました。少しでも工事を遅らせ、その間に、一人でも多くの人に、知ってもらおうと思いました。
 慣れないパソコンで、ビラを作り、資料をコピーしました。
 怪文書にならないように、私の名前と住所、連絡や問い合わせに応じられるよう電話番号も入れました。

 始めは、両隣の家から。反応はあまりよくありませんでした。
 地主も、私たちと同じ地区なので、冠婚葬祭の付き合いもあるし、いざこざに巻き込まれたくない思いと、できれば建てて欲しくないが、反対運動をするほどでも・・・と言ったところでしょうか。「電磁波が、体に良い訳はないんだろうけど」「あなたのように、表だって反対はできない」私が、あまりに何度も行くものだから、「もう来ないで」と言う人もいました。
 近所の人のやりとりで、思ったような成果は出ず、2ヶ月近くも寝てもさめてもアンテナ基地局の事で、同居している夫の両親も、だんだんとあきらめモードに。しかも、夫は言葉だけで、私一人だけが走り回っている状態だったので、精神的にも、参ってきてしまいました。夜中に目が覚めたり、家の中でじっとしていると、悪い事ばかりが想像されて、何もする気が起こらない・・・といった日が、何日も続きました。茶の間は電磁波の書類だらけ。ささいなことで夫とケンカ。
 「家の中が暗い」と言う言葉がぴったりでした。クリスマスとお正月は、何を食べたか覚えていません。

 しかし、ちょうどその頃から、2〜300mほど離れた新興住宅地へも、ビラと資料を持って、回ることにしました。しがらみのない人の方が、分かってもらえるかもしれないと思ったからです。
 1日5軒以上、説明しながら手渡しする・・・というノルマを自分に与えました。ポストに投げ入れても、効果は上がらないと思ったからです。

 新興住宅地の方たちは、面識もなかったのですが、話は聞いてくれました。ただ、「電磁波の危険性」の事に関しては、「知らなかった」人がほとんどでしたが、それでも何人かは、「知っている」人もいたのです。
 近くに建つ予定だというと、そんな気持ちの悪いものを建てて欲しくないと言った意見がほとんどで、手応えを感じました。

 新しい資料が手に入るたび、同じように配っていきました。
 40軒ほどだったのですが、1軒につき3〜4回は回ったでしょうか。始めは玄関も開けずに、インターホン越しに話をしていた人も、わざわざ外まで出てくれて、話を真剣に聞いてくれるように変わっていきました。
 今まで1人でやってきたのですが、協力してくれる人も出てきて、連絡を取り合ったり、作戦を練ったりするようになっていきました。

 総務省への内容証明が効いたのか、施工会社の担当者が、「指導が来ました。地主の持ってる、違う土地に移します。」とのこと。しかしそこは、心臓にペースメーカーを入れている人の家の、直ぐ近くでした。
 当初、その人も、アンテナ基地建設に反対していなかったのですが、私が資料を持って説明したものだから、考えが変わって、「そんなもの、近くに建てるな」と、直ぐに反対したのです。その人の土地も、半径40m以内に掛かっていましたので、拒否権の発動です。

 次の候補地は、新興住宅地の目の前。
 現在建っているソフトバンクの塔の100mとなりです。
 この場所なら、我が家の田んぼが40m以内にあるので、すぐに拒否することもできますが、施工会社には、「周辺住民が反対したら、賛成できない」と言っておきました。

 候補地が目の前と言うことで、新興住宅地の人たちも黙っていません。
 ちょうど3月で、自治会の集まりがあり、基地局のことも議題にあがりました。ここで、中心に動いてくれている人が、進捗状況を回覧板で回したり、他の人たちも、イー・モバイル社長あてに抗議の内容証明郵便を出したり、署名運動をする人も現れだしたのです。数日で、80筆以上が集まり、署名のコピーを社長宛に送りました。(実物は送らないほうがいい)
 我が家1軒だけだった建設反対者が、一気に増えました。

 今までは施工会社と話をしていたのですが、電磁波問題市民研究会事務局長さんのアドバイスにより、イー・モバイルと直接交渉するようになっていきました。日立電線は、あくまで建設するだけなのであって、電波使用の免許を持っているのは、イー・モバイルだからです。
 内容証明を送ってきた家に、1軒ずつ話をして回ったようですが、住民説明会は開かない姿勢に変わりはありませんでした。こんな状態で開いたら、ますます大きな運動になってしまうのを恐れた為だと思います。
 結局この場所は、下草を刈り込んで杭を打っただけで、ボーリング調査にまでは至らず、次の場所に変わっていきました。

 次の候補地は、最初の計画から5番目の場所。地主の土地も、これが最後です。あとは、家の庭しか残っていません。
 近くに住んでいる住民は1軒だけでしたが、日立電線から建設予定の連絡に、当初は「仕方ねえべ、いいよ。」と言ってしまったのですが、奥さんが猛反対で、「とんでもない。そんなもの建てられたら、具合が悪くなっちゃう。そんじゃなくても調子悪いのに!」夫婦喧嘩になってしまうのかと思いました。
 この場所も、我が家の畑が40m以内にあったので、拒否することもできたのですが、前回同様、「周りの人の同意がなければダメ」と言っておきました。
 奥さんも本気で、近隣住民だけでなく、お嫁さんのママさんバレーの仲間から通りすがりの人まで、署名を集めていました。
 結局署名提出までに至らず、この場所も候補地から消えていきました。5月の頃の話です。

 それからしばらく、何の音沙汰もなかったので、8月に入って、イー・モバイルに電話をして、その後、どこに計画されたのかを聞いてみました。すると、「これまで反対をした人たちの家から、離れた場所を探しています。」とのことで、「具体的な場所は、教えられない。」とのことでした。何度も、日立電線にはだまされた経緯があるので、新興住宅地の人にも話をして、「みんなで目を光らせていようね。」と話しました。

 結局、9月の始めに、我が家から450mほど離れた、市外の土地に、周りを塀で囲んで見えないようにして工事を始め、9月下旬に、イー・モバイルのアンテナ基地局は建ちました。

 何の知識も持っていなかった主婦の私が、今回のことで、様々な経験をさせてもらいました。
 どうせ、何をやっても建ってしまうんだろうなと、あきらめかけた事も何度もありました。地主とは、未だにしこりが残っています。しかし、反対運動をする前に、夫と話し合って、ある程度の覚悟はしていたので、その事では全く後悔していません。
 やれば出来るんだという自信と、同じ地域に住んでいながら、話をしたこともなかった人たちと、気持ちを一つにして戦えた事。

 何よりも、電磁波問題市民研究会のアドバイスがなかったら、ここまでやって来れませんでした。定例会に参加して、電磁波過敏症の方、すずかけ台の変電所問題に関わっている方、そして、全国から寄せられるアンテナ基地の相談。暗闇の中でもがいているような自分でしたが、力が湧いてきました。
 兵庫県川西市の方にも、本当にお世話になりました。電話で話すたび、元気をもらいました。送ってくれたビデオと資料は、大いに役に立ちました。
 改めて、電磁波問題市民権研究会の事務局長さん、スタッフのみなさん、お礼を申し上げたいと思います。

 私の経験はこんなものですが、連絡くだされば、資料など差し上げます。


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