<携帯電話・PHS基地局設置問題についての市議会への陳情報告>

基地局の電磁波問題について、国の規制が無いため、市議会を頼りにする気持ちで、昨年(平成12年)に市民として小田原市議会に対し、見直しを加えながら計5本の陳情を提出しました。その経緯と結果を報告します。


<陳情の経過>

陳情1
審査日: 平成12年3月21日 総務民生委員会
表題:「携帯電話およびPHSの無線基地局の設置規制条例の制定を求める陳情書」
陳情項目:
 1.住宅地に電波が及ぶ地点に基地局を新設する場合、当該自治会に対して説明会を開催し同意を得ることを電話会社に義務づける。既設のものについては、住民から要望があった場合、自治会長が電話会社に対して説明会の開催を要望することができ、自治会の同意が得られない場合は撤去することとする。
 2.文教育施設・医療福祉施設からは、PHS基地局については通常型で60〜120メートル、高出力型で300メートル、携帯電話基地局については1キロメートル以上離すとの指針を制定する。既設のものについては、施設長が電話会社に対して移設を求めることができるものとする。施設利用者の電話利用に対する需要が多い場合は、公衆電話を設置する。
(距離設定の根拠:PHS基地局の電波到達距離は通常型で100〜200メートル、高出力型では500メートル、携帯電話基地局では数キロ〜十数キロである。PHSの電話会社の資料を見て、通話が可能であり、かつ、電力密度も低くなる距離として提案した。電話加入者の利便と身体への影響の低減を両立させるための折衷案である。)
審議で出た意見:
・事前説明が無いために、基地局設置反対運動が全国各地で起こっている。当市においても然りだ。共産党は小田原市議の要請を受けて99年4月13日参議院交通・情報委員会で郵政省電気通信局長に対して事前説明と了解を得るよう指導すべきではないかとの質問し、「事前の住民への理解を徹底して欲しいと電話会社に要請している」との答弁を得た。
・安全性の保証についてはっきりとした説明が無い
・基地局の電磁波による健康被害が明らかになっていない現時点では「条例」の制定はできない。
審議の結果:「継続審議」

法律の枠規制が無いものについての条例化は困難、との意見を踏まえて本件は6月9日付けで取り下げた。二点の陳情項目は所管が異なるため、6月の議会には2本に分けて書き直し新たに提出した。(下記陳情2、陳情4)

陳情2
審査日: 平成12年6月22日 総務民生委員会
表題:「電磁波の恒常的発信源で人体への無害性が確立されていない携帯電話およびPHSの無線基地局を設置する際、事前に近隣住民に通知し了承を得るよう電話会社と設置契約者(地主)に指導を求める陳情書」
陳情項目:市は、携帯電話およびPHSの基地局の設置にあたっては、電話会社は近隣住民および当該自治会長に通知し、了承を得るよう指導する。既設のものについては、近隣住民から撤去の要望があった場合、自治会長と設置契約者、住民とで納得のいく話し合いをするよう指導する。
審議で出た意見:
・自治会長に責任と判断を負わせるのは無理がある
審議の結果:「継続審議」

「自治会長」の字句に議論の争点が集中したことを踏まえて本件は9月1日付けで取り下げ、9月の議会には自治会長の字句を削除したものを新たに提出した。

陳情3
審査日:平成12年9月14日 総務民生委員会
表題:「人体への安全性が証明されていない電磁波の恒常的発信源である携帯電話およびPHSの無線基地局を設置する際、事前に近隣住民に通知し了承を得るよう電話会社と設置契約者(地主)に指導を求める陳情書」
陳情項目:市は、携帯電話およびPHSの基地局の設置にあたって電話会社は近隣住民に通知し了承を得るよう指導する。既設のものについては、近隣住民から撤去の要望があった場合、電話会社と設置契約者、住民とで納得のいく話し合いをするよう指導する。
審議で出た意見:法律に抵触しないものを指導することはできない
審議の結果:共産党議員のみ採択に挙手したが、多数決により「不採択」

陳情4
審査日:平成12年6月21日 福祉文教常任委員会
表題:「免疫的弱者で身体機能の発達途上にある子供を健康への悪影響の可能性がある電磁波の被曝から回避させるため、幼稚園・保育園・小中学校の近くに携帯電話およびPHSの無線基地局(アンテナ)を設置しないよう勧告を求める陳情書」
陳情項目:市は、携帯電話およびPHSの無線基地局を幼稚園・保育園・小中学校の近くには設置しないよう勧告する。
審議で出た意見:
・市立小中学校敷地内のものについては撤去することができるが、民間地内の契約に市が介入することはできない。
・採択は困難だが無下に不採択にするわけにもいかない問題なので、国への意見書の提出ということにしてはどうか。
審議の結果:「継続審議」

「国への意見書の提出」との意見を踏まえて、次のように書き直し新たに提出した。

陳情5
審査日:平成12年12月8日 福祉文教常任委員会
表題:「1.9GHzのマイクロ波を常時発信するPHS用無線基地局の人体への影響について国が早急に調査を開始し無害との結果が出るまで、免疫的弱者で身体機能の発達途上にある子供を健康への悪影響の可能性から回避させるため、電話会社に対して基地局設置場所は幼稚園・保育園・小中学校の近隣地を避けるよう配慮を要請する意見書を郵政省および環境庁に提出することを求める陳情書」
陳情項目:小田原市議会に対して、以下の内容を盛り込んだ意見書を郵政省および環境庁に提出することを陳情致します。
 1.1.9GHzのマイクロ波を常時発信するPHS用無線基地局の人体への影響について調査を早急に開始すること
 2.上記の調査から無害との結果が出るまで、免疫的弱者で身体機能の発達途上にある子供を健康への悪影響の可能性から回避させるため、PHS基地局の設置場所の選定に際し、電話会社に幼稚園・保育園・小中学校の近隣地を避けるよう配慮を要請ること
審議で出た意見:教育総務課長に市立小中学校敷地内に今後、新規の基地局は設置しないことを確認したのみ。後で不採択の理由をある議員に尋ねたところ、あくまで個人的意見として、「1」のみであれば採択可能であるが、設置場所の制限について記載した「2」は現行法においては不可能である、との答えを得た。
審査結果:8名の委員のうち1名は採択に挙手したが、多数決により「不採択」


<陳情を終えての感想>
 法律を遵守した民間の経済活動について電磁波の有害性が確立されていない現段階においては、地方自治体が独自に規制したり有害性の懸念を示したりすることは困難であり、小田原市議会の審議結果は、地方自治体としてやむを得ないものである。一度の審議で不採択にせず、一年をかけて審議したことについては、この問題を軽視しなかったということで、陳情した市民として満足し、評価している。
 携帯電話の利便を安心して享受し続けるために、国が諸外国の調査を真摯に受け止めるとともに自ら積極的に調査に取り組むべきである。特に、子供への電磁波の影響を警告した昨年5月に発表されたスチュアート報告を無視すべきではなく、裏づけ調査をしたり、小学校・幼稚園など子供の集まる施設付近の基地局設置は遠慮するよう業界に申し入れるなどの予防対策に取り組むべきである。
 最近、「電磁波の影響無し」との総務省の中間報告が発表されたが、私たちが懸念しているのは微弱マイクロ波の長期被曝の影響であり、ラットなどを使った短期間の調査では、その結果は意味が無い。3年程度の影響を早く明らかにするためには、疫学調査の早期開始が望まれる。
 特に、日本の家屋が欧米と異なり電波遮蔽力が小さい木造である住宅事情や、欧米には受入れられていないPHSの普及、さらに少子化や学力低下など最近の社会問題を重く見て、日本人の将来に関わる問題であるとの認識を持って現状の携帯電話/PHS基地局についての非熱効果を含めた安全性調査の推進に積極的に取り組んでいただきたい。
 また、基地局からのマイクロ波の被曝量の地域格差が無くなるように、地上基地局の周波数はメガ単位に抑え、ギガ単位の周波数についてはBSデジタル放送のように人工衛星を使った基地局を実用化・普及させるべきである。


<公立小中学校敷地内におけるPHS基地局の設置許可についての意見>
市の教育担当部署による市立小中学校敷地内におけるPHS基地局の設置は不適切な許認可である。
理由:
・PHS基地局は教育に必要な設備ではないため、職権を逸脱することにならないか?
・行政が学童へのPHS所持を奨励しているとも受け取れる。
・PHS基地局はその会社の契約者のみが必要とするものであるため、特定業者への利便供与にあたらないか。

以上

(寄稿者:神奈川県在住)

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