[投稿]沖縄戦と「集団自決」を明らかにする本の紹介



『証言 沖縄集団自決−−慶良間諸島で何が起きたか』 
(謝花直美著 岩波新書2008年2月20日 777円)

『新版 母の遺したもの−−沖縄座間味島「集団自決」の新しい事実』 
(宮城晴美著 高文研 2008年1月30日 2100円)

『沖縄戦の真実と歪曲』 
(大城将保著 高文研 2007年9月10日 1890円)

「世界」臨時増刊『沖縄戦と集団自決−−何が起きたか、何を伝えるか』 
(岩波書店 2008年1月1日 1100円)


 07年高校日本史教科書検定での沖縄「集団自決」軍強制の否定の動きが出て以降、あらたに沖縄と「集団自決」に関する本が次々と出版された。その中のいくつかを紹介したい。歴史ねつ造の動きが出るごとに、とりわけ教科書の書き換えが問題になるごとに、生き残った体験者たちが重い口を開いて新たに証言を行い、ますますその悲惨な戦場の実相、戦争の客観的状況が明らかになるというのはこれまでも繰り返されてきたことである。私たちにできることは、それらの証言をしっかりと受け止め、真実を真実として伝え、歴史歪曲を許さず二度と戦争を起こさない世論を作り上げることである。

 『証言 沖縄集団自決』は、沖縄タイムスの記者謝花直美が本紙キャンペーン「挑まれる沖縄戦」の記事を下敷きに、慶良間諸島−−座間味島、渡嘉敷島、慶留間島などでの「集団自決」の証言の丹念な発掘・聞き取りによって実態を浮き彫りにしていくものである。証言からは、軍が強制したという自明のことがなぜ問題になるのかという怒りが伝わって来る。冒頭では本土決戦のための捨て石作戦、「軍官民共生共死」という慶良間戦と「集団自決」を生み出した軍事作戦の性格がはっきりと描かれる。「鬼畜米英によって女は陵辱されて殺され、男は八つ裂きにされて殺される」という恐怖を与えて「集団自決」へ追いやったこと、筆舌しがたい恐るべき現場を証言する重み、それだけでなく生き残った家族や集落での深刻な人間関係など幾重にも「集団自決」がもたらした被害を提起している。

 『新版 母の遺したもの』は、著者宮城晴美が、軍(戦隊長)命令否定の最大の根拠の一つとされることになった母宮城初枝の「悲劇の座間味島」とノートを検証し、集団自決のために忠魂碑への集結を呼びかけたとされる村助役・兵事主任宮里盛秀の2人の妹宮平春子と宮村トキコの新証言、「軍からの命令で、敵が上陸してきたら、玉砕するように言われている・・・国の命令だからいさぎよく一緒に自決しましょう」という盛秀の父に語った言葉を元に、「集団自決」が軍の命令であったことを明らかにしている。
 この本は、軍強制が政治的焦点になったことから軍強制を明らかにすべく「第4部母初枝の遺言−−生き残ったものの苦悩」が全面的に書き改められ、「なぜ《新版》を出したのか」が付け加わっている。軍と一体化させられ、戦争を共に闘ったという同志的な感情を軍に対してもちつづけたのではなかったかという母初枝に対する思い、それに対して、著者が出会った梅沢の「集団自決」犠牲者への驚くほど冷淡な態度など、深く考えさせられる内容だ。
 祖父が祖母ののどを切り、息子を死なせてしまう、辛くも一命をとりとめたが声が出なくなった祖母がそのことをなじり続け、祖父は一度も口答えをしなかったという著者自身の原体験は、「集団自決」の人々に与えた重大さを示す。

 『沖縄戦の真実と歪曲』は、自身が沖縄戦の体験者でもあり、沖縄県史などの編纂に携わってきた著者が、書き留めてきた原稿の一部を教科書検定問題の急浮上で緊急出版した。著者は、歴史歪曲のために、軍の命令を「戦隊長の命令発言」に矮小化しいかに都合のいい部分がつなぎ合わされて歴史のねつ造が行われてきたのかを暴露する。そのためには自著も利用されたという。彼が特に強調するのは、「集団自決」と日本軍による住民虐殺の一体性だ。陣地形成や連絡、輸送など軍業務に総動員したことから軍事機密の一切を知ることになった沖縄の人々を「総スパイ視」し、「米軍の捕虜になれば米軍に殺される」という宣伝とともに、捕虜から解放された者、「怪しい者」はスパイとして虐殺、このような軍の恐怖支配が住民を「集団自決」追い込んだ大きな要因とする。第一部「教科書検定はなぜ『集団自決』記述をゆがめるのか」の末尾に添付されている「日本軍による虐殺事件の主な事例一覧」「『集団自決』の主な事例一覧」はあらためて犠牲の大きさを物語る。第二部「沖縄住民が体験した『軍隊と戦争』」は米軍上陸・支配も含めた沖縄戦の全貌が描かれる。
 著者が沖縄人として、被害体験だけでなく戦争に協力したという加害体験、さらには抵抗体験を教える意義を説き、チビチリガマだけでなく、軍の自決命令に抵抗して1000人が投降して生き残ったシムクガマのことも伝えるべきだという平和教育論は多くの示唆に富む。

 「世界」臨時増刊『沖縄戦と集団自決』は、教科書検定問題を機に「今まで話したことはないが、一回だけ話す」などとして新たに証言に立った体験者の声が丹念につづられ、2007年9月29日空前の11万6千人の集会をもたらした沖縄の人々の怒りと闘いが記されている。

2008年3月18日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局  N