[投稿]傲慢な勝訴判決では困る(在韓被爆者新手帳裁判第9回法廷)

 去る12月27日、新手帳裁判第9回法廷があった。
 今回は原告側の陳述のみ。調査嘱託によって明らかになった「法一号該当と認む」という文言。被爆確認証を持っている人は実務的に被爆者であると認められており、被告の「来日しなければ本人確認できない」という主張は、いわば役所の窓口で本人確認のために運転免許証を見せるようなレベルのものに過ぎず、わざわざ渡日させるほどのものではないのだと陳述した。
 この調査嘱託の内容によって、国側の主張は完全に論破されたものと思う。

 しかしここで裁判長が気になる発言を。
 「それは被爆確認証という制度が出来たから、来日の必要がないということなのか」と。

 もちろん原告の考えはそうではないのだ。
 被爆者援護法の第2条「被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は、その居住地(居住地を有しないときはその現在地とする)の都道府県知事に申請しなければならない」という文言は在外被爆者の権利を制限するものではなく、法律より下位にある政令で在外被爆者の届け出の実務を定めればいいと主張しているのだ。事実原告の被爆者たちは、被爆確認証の実務の中で「法一号該当と認む」、つまり被爆者であり「手帳の交付を受けたもの」であると、ハッキリそう記載されているではないか。
 被爆確認証という制度によって来日する必要がなくなったのではない。元々来日する必要など法律のどこにも書いておらず、被爆確認証の実務の中でもハッキリそれが証明されているではないかということなのだ。

 でもどうやら裁判官はちょっと違うことを考えているのかも知れない。
 被爆確認証を受けている在外被爆者に被爆者健康手帳を交付しないのは「違憲」であるが、来日しない在外被爆者一般に手帳を交付しないのは「合憲」と考えているのだろうか? 
(この理屈を適用違憲というらしい。)
 在外被爆者全体を救うのではなく、この原告7人だけを救えばいいと考えているのだろうか?
 もしもそのような判決が出たとすれば、それは勝利判決には違いがないが、思い違いも甚だしい傲慢な判決だ。敗訴よりはもちろんマシだが、そのような判決が見たいわけではない。
 日本政府は郭貴勲勝訴判決を受けて打ち出した施策の中で、「ベッドに載せてでも日本に連れてきてください」と言っていた。もちろんその際の費用も日本政府で負担させていただきますよと…………。そうじゃないだろう?! 
そのような傲慢なやりかたが許されてよいわけがないのだ。

 また今回の法廷でも、402号通達の国家賠償に関する認否を巡って、やり取りがあった。
 国会では舛添厚労相が広島三菱徴用工裁判最高裁判決を受けて「きちんと誤りを謝罪」すると発言し、日本に来ることのできない高齢の被爆者の被爆者認定のために「なんとか自分の国の大使館の中でチェックできないか」「事実関係の認定、それから今、迅速にお支払いをなんとかできないか、財務省と折衝中」と答弁していた。
 しかしこの大阪地裁の法廷では、被告は「国家賠償部分の訴えも認諾しない」とし、その主張を次回するとしている。
 被告の最高責任者である厚労相が言っていることと、法廷の中で言っていることが180度違うのである。
 このことを問いただすと、被告人弁護士はあろうことか「法務省から来ている私に分かるわけがない」と開き直ったのである。
 訟務検事といって、国賠裁判などでは検事(法務省検察庁)が国の代理人を務めることがある。目の前の被告席に座る弁護士も、そういう訟務検事の一人だったのだ。しかし元々の所属は法務省でも今は被告・厚労省としてここにいるのだ。言い訳にしてもみっともない。
 いずれにせよ国家賠償に関しては国の採るべき方針は認諾以外になく、それ以外の主張は破綻が必至。次回法廷で国はどんな主張をするのか、見物でもある。

 さて法廷外の動きが活発だ。
 自民党が被爆者援護法の改正案を作成した。そして民主党も法律案の要綱を発表した。自民党の改正案は第2条だけを改定し、海外からでも手帳交付の申請ができるようにしたもの。民主党案はそれだけに留まらず、健康診断なども加えられ、在内外の不平等をフォローした内容になっている。内容的には民主党案の方がずっといいに決まっている。しかし被爆者には残された時間がない。
 1月15日までに再延長されている今国会で法案を成立させるには、民主党が自民党案に賛成するしかない。次の国会となればまた政治状況がどう変わっているか分からないし、1日遅れてしまったために援護を受けられず亡くなってしまわれる被爆者もいるだろう。何よりも在外被爆者自身が、「まずは手帳を」と切望している。
 韓国では、被爆者協会に加入していて手帳を取得していない人が約220人いる。他にも名乗り出ていない被爆者が100人くらいいるのではないかと言われている。ブラジルとアメリカでは未取得者は数人程度、日本に親戚などがいるためだ。他にも朝鮮民主主義人民共和国に約1000人の被爆者がいる。
 被爆者援護法を審議する厚生委員会は、C型肝炎薬害問題でも活発化しており、今がチャンスだ。今国会で被爆者援護法の改正が果たされるか、この数日間を注目しよう。

 もちろん、被爆者援護法が改正されても、この裁判は続く。
 次回に国側の弁論があり、次々回に最終弁論・結審となる見込みだ。次回は2月28日(木)大阪地裁806号法廷にて。

(2007年12月31日 おーたからん)