小泉首相の靖国神社参拝と有事法制
−−「戦争国家体制」作りに不可欠の戦死者賛美−−

「靖国参拝違憲アジア訴訟」をあざ笑うかのような、
第2回口頭弁論を前にした小泉首相の挑発的違憲行為


[1]許せない小泉首相の靖国神社参拝強行
 4月21日朝、小泉首相が突然靖国神社を参拝した。昨年あれだけ大問題になり対中外交、対韓国外交が行き詰まるほどの物議を醸したはずだ。それでもあえて強行した。断じて許すことのできない暴挙である。
 しかも首相及び与党幹部たちは、「8月15日を外したのだから容認せよ」とばかりに、マスコミでも「異例の譲歩」を大げさに宣伝し、中国や韓国政府関係者との会談などでも、相手に承認を迫った。しかし問題は参拝日ではない。参拝の如何が問われているのだ。
 この日は靖国神社の春季例大祭前日の清祓の日だった。当日朝、小泉首相は複数の首相秘書官に電話で靖国神社へ集まるよう指示し、更に福田官房長官や山崎自民党幹事長らと充分に打ち合わせたうえで、公用車で乗り付け、テレビの取材陣がそろうまで、わざわざ時間をつぶし、マスコミの前で正々堂々と本殿に向かった。「内閣総理大臣 小泉純一郎」と記帳し、「献花料」として3万円を支払った。さらに、小泉首相は参拝にあたって、「今日の日本の平和と繁栄は多くの戦没者の尊い犠牲の上にある」とする「首相の所感」なるものまで準備していたのである。「どうだ。俺は絶対譲歩しない」と言わんばかりの挑発的な態度であった。
 かつて5度目の「靖国神社国家護持法案」廃案後、三木武夫首相は1975年8月15日に靖国参拝を強行した。その際、公的参拝ではなく私的参拝であるとこじつけるために、以下の4条件を確認している。4条件を満たせば公的参拝ではないのだと。曰く、「@公用車を使用しない、A記帳に際して肩書きを使用しない、B公職にあるものを随行させない、C玉串料を公金から支出しない」である。
 この手前勝手な条件からしても、今回の小泉首相の靖国神社参拝は、“公式参拝”を明確に意図した用意周到な、いわば確信犯の“計画的犯行”である。
 参拝後、記者団の前で小泉首相は言い放った。「二度と戦争を起こさないために参拝した」と。バカなことを言ってはならない。現に、首相自ら強引に通した「テロ対策特措法」に基づいて、アメリカの対アフガン侵略に参戦しているではないか。米軍に加担することでアフガン民衆が何万人も皆殺しにされたことなど何とも思っていないのであろう。このような人物が次に有事法制を強引に押し通すと考えるだけでゾッとする。


[2]近隣諸国からの、特に中国からの厳しい批判
 小泉首相の今回の「電撃的」な靖国参拝に対して、近隣諸国から、特に中国から「予想以上の」厳しい批判がなされている。中国政府は即座に、4月27日の中谷防衛庁長官の訪中受け入れ拒否、5月に予定されていた中国艦艇の日本寄港拒否を通告した。江沢民国家主席は公明党代表との会談で「私は小泉首相の靖国神社参拝を許さない」と言明して強く抗議した。韓国でも同様の制裁措置が検討されている。
 中国は、靖国問題を過去の戦争責任の問題としてのみとらえているのではない。小泉政権になって以降の急ピッチの軍国主義化・反動化を脅威に感じ、対中を狙い撃ちにする日米軍事同盟の強化を極度に警戒しているのである。
 就任直後に靖国参拝を公言した時の小泉首相の記者会見の発言、「万が一のとき、命を捨てる覚悟で訓練をしている集団に敬意をもって接する法整備、環境を作るのが政治の責務だ」は、その後の軍国主義路線の狼煙であった。「テロ対策特措法」と戦後初めての自衛隊海外派遣、それに続く今回の有事法制は、「つくる会」教科書や靖国参拝というイデオロギー的な側面とは異なる現実の脅威である。中国は、小泉首相靖国参拝への批判という形をとって、ほかならぬ台湾海峡有事や朝鮮半島有事を想定した有事法制の強行、「戦争国家体制」作りに対する批判を行っているのである。


[3]戦死者賛美−−靖国参拝は有事法制と一体のもの
 小泉首相は、有事法制関連3法案の審議入り直前に、靖国神社参拝を強行した。有事法制は、国民全体に、市民一人一人に、アメリカの侵略戦争への協力を義務付けている。「お国のため」なら権利制限や言論統制はもちろん、国民は命までも差し出さなければならない。その代わりに政府は靖国神社を復活させ「差し出された命を神として祭り上げてやる」とのメッセージを打ち出しているのである。
 「不沈空母」論を打ち出して対ソ軍拡を推進した中曽根元首相は、「国のために倒れた人に対して、国家が感謝を捧げる場所がなくて、誰が国家のために命を捧げるか」と発言し、「公式参拝」を強行した。小泉首相のやり方も、この中曽根元首相のやり方とそっくりである。
 平和憲法を否定し、アメリカの戦争に自衛隊と日本全体が参戦する枠組みをつくる有事法制、それに反対する世論を圧殺するメディア規制法、国家のために死ぬことを「尊い犠牲」として賛美する靖国参拝、これらは、「戦争国家体制」作りの舞台装置として一体のものなのである。


[4]突然の靖国参拝のもう一つの意図−−政権浮揚のためのテコ
 小泉首相のこの時期の突然の靖国参拝の意図は、政権浮揚のために、特に日本遺族会の支持を引き戻し小泉政権への求心力を再び取り戻すことであった。早朝に靖国を参拝したその足で、首相は和歌山に飛び補選の応援演説を行った。
 戦没者は日本の侵略戦争の加害者であると同時に天皇制軍国主義のために“犬死に”した犠牲者でもある。戦没者は、そして遺族の人たちは、戦死者が戦後50数年たってこのような形で政権運営の薄汚い手段に使われることをどう考えるだろうか。
 しかし4月28日に行われたトリプル選挙での1勝2敗で小泉首相の意図はもろくも崩れ去った。国政選挙での小泉首相初の敗北は、最近の支持率低下を反映している。保守王国、元首相田中の牙城での大敗北、吉野川河口堰に反対する大衆運動に押し込まれた形での徳島知事選での敗北は、今後小泉政権にボディブローのように効いてくるだろう。


[5]靖国合祀取り下げを求める犠牲者遺族の叫びをこれ以上踏みにじるな
 東京で行われている在韓軍人軍属裁判の原告は、法廷で靖国合祀について次のような意見陳述を行った。
 「父親が靖国神社に合祀されているということは、いまだに父親の霊魂が植民地支配を受けていることだと思います。靖国合祀以前に被害者の遺族にそのような事実を知らせなかったことについてはとうてい納得できません。・・・昨年8月15日に合祀取り下げを要請するために靖国神社を訪ねました。しかし、日本の右翼たちが人を動員して(私たちを)阻止する光景を見て、父の霊魂が靖国神社に祭られていることに子としてなによりも胸が痛みました。」(李煕子さん)
 「靖国とは・・・我々にとっては願ってもいない所に強制連行され、その上我が国では後ろ指指される『日本人軍属』の家族として生きなければならない象徴です。・・・我々韓国人が『靖国』に祭られているのは、『恥』であり、子々孫々まで拭うことのできない『侮辱』であります。」(李洛鎮さん)
 日本政府が、どこまでも謝罪し補償を行うことを拒否し続け、首相の「靖国参拝」で「国家のために命を捧げる」ことを賛美し続ける限り、犠牲者とその遺族に2重3重の苦しみを強要し続けることになる。


[6]有事法制反対と靖国参拝反対を結合して闘おう!
@アメリカの侵略戦争への加担、A国内の治安弾圧・言論統制、戦争への国民の動員、B靖国神社を梃子とした戦死者賛美−−この三つは「戦争国家体制」作りとして一体のものである。
 そしてこの「戦争国家体制」作りは、かつて天皇制軍国主義日本が軍靴で踏み荒らした中国・朝鮮を初めアジア・太平洋諸国全域、更にはアメリカが侵略対象にしている全世界の貧しい途上諸国全体に対する脅威となるのだ。
 「戦争国家体制」作りに反対する声をあらゆるところから上げていこう。アジア・太平洋の戦争犠牲者とその遺族に対する政府の公式謝罪と補償を要求する取り組みと連携して闘おう。

202年5月1日
「日の丸・君が代による人権侵害」市民オンブズパーソン
井前





「靖国参拝違憲アジア訴訟」をあざ笑うかのような、
第2回口頭弁論を前にした小泉首相の挑発的違憲行為

−首相参拝に勢い付き訴訟妨害を活発化する右翼−

 「首相の所感」は、「靖国合祀者」を「国のために命を奉げられた方々」と褒めたたえ、靖国神社を(「戦没者」に対する)「追悼の対象として、長きにわたって多くの国民の間で中心的な施設となっている」と位置付けた。小泉首相の靖国参拝と「所感」は、これを支持する日本の右派勢力を勢いづかせている。この意味でも、私たちは今回の靖国参拝に満腔の怒りをもって抗議する。
 以下、小泉首相靖国参拝違憲アジア訴訟団の抗議声明を紹介し、訴訟団に対する新たな攻撃について報告する。


抗 議 声 明

 内閣総理大臣小泉純一郎は、昨年(2001年)8月13日の靖国神社公式参拝によって、私たちをはじめ各地の多数の市民、さらには在韓国の戦争被害者や遺族から、「再度の参拝差し止め」と「損害賠償」を求める裁判を提訴されているにも関わらず、本日午前(4月21日)、再び同様の違憲行為を行なった。
 靖国神社は、日本の侵略戦争に動員され命を失った人々を「神」と祀り、それらの死を「英霊」と讃え、その死に見習ってあとに続けという宗教教育施設として今日まで機能している。8月の参拝を4月に変更したとしても、この機能は何ら変わることはない。したがって参拝の違憲性も同じく変わらない。
 被告・小泉が昨年に引き続きこのような宗教的機能を利用したことは確信犯的違憲行為といわなければならない。
 被告・小泉は、昨年の参拝時と同様、「ここに祀られている『み霊』に対して敬意と感謝を捧げる」と述べた。私たち原告一同は、こうした平和を損なう靖国独特の教義を押しつけられ、宗教的・民族的人格権が侵害される苦痛に対して損害賠償を請求している最中である。
 日本の侵略戦争に役立ったとして、日本軍の協力者として「感謝と敬意」をささげられることが耐えがたい苦痛であり、侮辱であるという私たちの「訴状」を被告・小泉は真摯に読んだのか。すでに、各地で口頭弁論が開かれているのにも関わらず、まともに答弁することもなく、再び違憲行為を重ねたことは、まことにもって許しがたい。
 われわれは、この愚行に満腔の怒りを持って抗議する。

内閣総理大臣 小泉純一郎 殿
2002年4月21日 
小泉首相靖国参拝違憲アジア訴訟団



 4月26日の小泉首相靖国神社公式参拝違憲訴訟第2回口頭弁論で、原告側は在韓原告1名と在日原告1名の意見陳述を予定していた。ところが大阪地裁第3民事部は、この原告側の意見陳述をさせないとの決定を、前日の(25日)夕刻になって突然、原告側に伝えてきたのである。理由は、「『補助参加』を申し立てている人との間で混乱が生じるおそれがある」というのだ。小泉靖国参拝翌日の22日、あの「新しい歴史教科書をつくる会」と深いつながりがあると思われる6人が代理人弁護士4人を立てて訴訟への「補助参加」を裁判所に申し立てた。彼らは、靖国違憲訴訟は「靖国神社の宗教活動の自由を侵害し、祭られている戦没者の遺族らの信仰や思いを踏みにじる」のだと主張し、裁判で靖国神社側を「サポート」するのだとしている。彼らは、「我々にも第2回口頭弁論で意見陳述をさせろ」と裁判所に迫り、結果としてすでに来日している在韓原告の意見陳述の機会を押しつぶしたのである。意見陳述を予定していた在韓原告は、父親を浮島丸の沈没により亡くし、昨年になって初めて靖国神社に合祀されていることを知り、今回が意見陳述のために初めて来日された方である。父の靖国合祀の取り下げと首相の靖国参拝の違憲性を訴えるために来日した犠牲者遺族の目の前で、小泉首相は再び靖国参拝を強行し、裁判所は意見陳述を門前払いしたのである。
 以下、小泉首相靖国参拝違憲アジア訴訟団の抗議文を参照していただきたい。


抗議文

 小泉首相靖国参拝違憲訴訟の第2回口頭弁論(4月26日)における、原告意見陳述を認めない裁判所の姿勢に抗議します!

 貴裁判所は、4月26日午前11時から1時間の開廷を約束していました。私たちは、この時間内に準備書面の陳述と原告の意見陳述を準備していました。陳述予定の原告のひとりは、そのためにわざわざ韓国から出廷するので、前日(25日)に日本に到着しました。その前日になって、突然陳述を認めないという、貴裁判所の決定は不誠実極まりないものであって、許し難いものです。
 被告靖国神社に関して「補助参加人」の申し立てのあることをわれわれは知っています。このことと意見陳述を認めないという決定に関係があるのでしょうか。申立て人は今のところ「申立て人」にすぎないのであって、当事者ではありません。この人たちが意見陳述を申し立てても、それはそれで毅然と断れば済むはなしです。それとの関係で原告に意見陳述をさせないというのでは、裁判所が法廷以外からの圧力に屈して、私たち原告の公正な裁判を受ける権利を侵害していることになります。これでは司法の独立・司法の権威は地に落ち、主権者である国民からの信頼も失うことになりかねません。
 今後けっしてこのような無責任な対応をされることのないよう、厳重に抗議します。

大阪地方裁判所第三民事部御中
2002年4月26日
小泉首相靖国参拝違憲アジア訴訟団


※さらに裁判長は、第2回口頭弁論当日、損害賠償(一人あたり1万円)の原告639人全員分に加え、違憲性を問う金額に換算できない訴えは訴額95万円とみなす部分も原告全員分に換算すべきだとして、訴額を6億1344万円と主張した。これにより訴訟に必要な手数料を195万円として、191万円分の印紙代追加を要求した。


202年5月1日
「日の丸・君が代による人権侵害」市民オンブズパーソン
HP: http://member.nifty.ne.jp/eduosk/index.htm
井前