2003年度版『防衛白書』を批判する−−
「保有する軍隊」から「戦う軍隊」への脱皮を宣言
○米軍下請けのグローバル海外派兵部隊の創設を追求
○対北朝鮮戦争準備、対北朝鮮の大軍拡を目論む


T.はじめに−−「専守防衛」の破棄。軍事力の“保有”から“使用”へ。日本軍国主義の戦略転換を露骨に宣言。

 8月5日、03年版「防衛白書」が閣議決定されました。今回の白書は、恐ろしいほど政府・防衛庁の自己主張、政治主張が露骨です。防衛問題、防衛政策をめぐる直近の出来事を機械的、網羅的に記述した従来のものとは様変わり。小泉政権の下で急速に進められてきた日本軍国主義のエスカレーションを反映していることは明らかです。

 今回の「防衛白書」は、日本の防衛庁・自衛隊が日本の軍国主義の戦略転換を図ろうとしているその内容が露骨に語られているのです。
 日本の「防衛構想」の根幹は「専守防衛」です。この基本原則の下、1957年の「国防の基本方針」に基礎を置き、70年代以降「基盤的防衛力」構想を長期に渡って踏襲してきました。「基盤的防衛力」とは、「我が国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となって我が国周辺地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限」の防衛力を“保持”しようとするものでした。すなわち「防衛力」を“保持”することで「抑止」を効かせるという原則でした。今防衛庁・自衛隊はそれから脱却しようとしているのです。

 どのように戦略転換しようとしているのか。これまでは、仮想敵国ソ連の着上陸を阻止する膨大な正面装備を「保有」することで「脅威」に立ち向かってきた。その「保有で大綱」という原則をかなぐり捨てるというのです。すなわち「保有」に意義があるというのではなく、テロ、ミサイル攻撃、工作船・武装工作員、生物・化学兵器への対処能力の強化など、「目前の」脅威、「今、そこにある危機」と実際に「戦える」「使える」軍隊の創出を目指すというのです。これが対北朝鮮戦争準備であることは言を待ちません。

 さらに、日米同盟の「実効性」を確保するために、海外派遣に関する恒久法を念頭に置いた専門部隊の創出を目論んでいるのです。これは北朝鮮へはもとより、米軍が侵略を試みる世界中の国に米軍と一体となって、下請け部隊として補完しながら戦う軍隊を目指すということなのです。従来自衛隊の海外行動には国連の「お墨付き」を求めていましたが、白書では国連の限界を認め、米主導の“有志連合軍”でも結構と主張し始めています。PKO法、周辺事態法、テロ特措法によって次々うち破られた憲法9条の「交戦権放棄」条項を最後的にうち破る試みを今回の白書は行っているのです。


U.海外派兵部隊の創設と実戦化、MD開発への参加と導入――最終章「今後の防衛庁・自衛隊のあり方」で2つの柱を打ち出す。

 今回の白書は、「今後の防衛庁・自衛隊のあり方」と題する最終章を設け、その中で米と一体となった日本の、非常に侵略的な将来の軍事政策の方向付けを狙っているのが最大の特徴です。
 これは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による「拉致問題」「核開発疑惑」を最大限に利用して有事法制やイラク特措法を成立させた下で、さらに米軍との一体化を進めグローバルな侵略軍として海外への派兵を目指す政府・防衛庁と自衛隊の意図を露骨に示したものです。

(1) 海外で実際に「使える」軍隊を強調。
 最終章で強調されていることの一つは「国際的な安全保障環境の安定化などのための積極的・能動的な取組」ということです。まずこの10年の自衛隊での海外での「活躍」を例示し、「自衛隊の国際的な任務は国民から十分理解され、かつ期待されている活動であり、自衛隊の主要な活動の一つになったといえる」と総括します。その上で「今後の軍事力の役割は、単に脅威に対して防衛するだけではなく、平和や安定のために積極的に働きかけることが求められるとともに、自衛隊の国際的な努力・活動を国連や関係国との協力の下で、タイムリーかつ柔軟に行う重要性は引き続き高まっていく」と指摘しています。

 要するに軍事力は「防衛」のためでなく、「平和や安定」のために積極的に行使せよというのです。「平和」や「安定」を軍事力によって創造するというのはまさに「力の論理」であり、米主導の帝国主義・植民地主義の論理に他なりません。しかもそれを「国連」や、国連が機能しない場合は「関係国」(要するに米国)との協力の下で、「タイムリーかつ柔軟に」行使せよというのです。まさに軍事力を米軍と一体となって行使せよと言っているに他なりません。

 白書はさらに一歩踏み込んだ内容を展開しています。「自衛隊は存在することで脅威に対する抑止効果を果たすだけでなく、実際に、いかに積極的にその任務を果たすかということが問われ」ているというのです。これは70年以来日本の「防衛政策」の基礎となっていた「基盤的防衛力」構想から脱却し、実際に「使える」軍事力に転換せよと言っているのです。決して防衛庁はそのことを隠そうとしていません。実際次にこのような文章が続きます。
 「事実上『運用の時代』へと変化している状況に併せて、統合運用の検討を推進し、統合運用態勢の確立を含め、今後より実効的な自衛隊の体制を構築」すると言っています。軍隊は「保有」ではなく「運用」の時代に入った、そのためには「統合運用態勢」が必要だというのです。まさに実際に使える軍隊の創造という軍国主義の新たな段階に突入することを宣言しているのです。

(2) MD配備の研究・検討の加速化を宣言。
 最終章はまた北朝鮮のミサイル・ミサイル開発を何よりも念頭に置いた上で、弾道ミサイル防衛(MD)について「重要かつ喫緊の課題」としてMD配備に向けた研究・検討を加速化させる考えを打ち出しています。
 「現在、国際社会において急速に弾道ミサイルの拡散が進み、アジアでも多数の弾道ミサイルが配備され、わが国を射程に収めるものもあると考えられる」とした上で、「わが国が弾道ミサイル対処を想定した有効な防衛システムを保有していないという現状を踏まえると、弾道ミサイル防衛(BMD)はわが国の防衛政策上の重要かつ喫緊の課題である」としているのです。こうした認識の上で、米のMD開発の現状を示し、現在進めている日米共同技術研究の推進にとどまらず、「わが国のBMDのあり方についての研究・検討を加速化させていく」と宣言しています。まさに米と一体となってそのMD計画への参入を宣言しているのです。


V.米軍の対イラク侵略戦争を支持・礼賛。自らを米軍の下請け・グローバルな侵略軍として位置づける――「国際軍事情勢」「より安定した安全保障環境の構築への貢献」。

 米軍との一体化追求は、自衛隊の統合運用を通じた米軍と一体の侵略軍創設の宣言、MDへの参入加速にとどまりません。「防衛白書」全体が、大量破壊兵器が未だ見つからずその正当性が米国・英国本国でも疑われているイラク攻撃を手放しで支持・礼賛するなど、米軍の軍事行動への賛美に満ちあふれ、それとの一体化を目指す姿勢にあふれています。

(1)「同盟」しているだけでは駄目。戦争で実際に血を流すこと。
 第1章「国際軍事情勢」の「概観」のまとめからして、日本が米国と同盟しているのみならず、同じく「血と汗」を流さなければ今後の世界ではやっていけないという政府・支配層の本音が透けて見える表現となっています。
 すなわち、「圧倒的な国力を背景として、国際関係は米国を中心として新たなものになりつつあり、同時多発テロとその後のテロとの闘い、さらには本年のイラクに対する軍事作戦を通じて、この動きはさらに加速されている。このことは、米国を中心とした同盟関係にも影響を与える可能性があると考えられる。かつて冷戦時代には、同盟の存在そのものに価値があったが、今日、米国が単独でも軍事行動を行い得る能力を備えていることなどを踏まえると、米国にとっての同盟の価値は、同盟の存在そのものだけではないとの指摘がなされている。」つまり、同盟しているだけでは駄目であり、共に闘ってくれるものこそ、「有志」「同志」だと言うのです。
 この引用された文章のすぐ横には2002年米国防報告の引用があり、この解釈にだめ押しを加えます。「戦争は有志の連合によって最もよく闘われるのであり、他国とのコアリション(連合)が任務を決めるのではなく、任務がコアリション(連合)を決める」のだ、と。米国に見捨てられないためにはどこまでも追随すると主張しているのです。

 同じ箇所で白書は国連の権能について「今回のイラク問題への対応など、複雑な背景を有する問題について、主要国の利害関係や思惑が錯綜している場合には、対応策については必ずしも合意が形成されない例が見られ、国連がその機能を発揮するためには多くの問題がある」と限界を指摘しています。自衛隊の海外の活動については必ず国連の「お墨付き」を求めた防衛庁・自衛隊の姿勢を一歩脱して、国連のお墨付きがなくても、米とのコアリション・「お墨付き」さえあればという、より危険な動向が表れています。

 この姿勢は3節「米軍などによるイラクに対する軍事作戦」のまとめ「軍事作戦の影響」にも一貫しています。ここでは「米国などによる今回のイラクに対する軍事行動は、こうした問題に、国連を中心に国際社会と協調して対応することを基本としながら、安保理が有効な手段をとれない場合には、脅威を放置するという妥協的な態度をとらず、米国と同盟国・友好国のためには、断固たる手段をとるという米国の強い意志と能力を示したといえる。さらに、米国は、戦争は有志の連合によって最もよく闘われるのであり、他国との連合が任務を決めるのではなく、任務が連合を決めるという立場をとりつつあり」と叙述しています。
 すなわち国連の頭を超えてでも米国と共に利益を追求せよと言っているのです。この部分が恐らくは国連もしくは安保理での一致を得られないであろう北朝鮮に対する戦争を念頭に置いて書かれてあることは言うまでもない所です。

(2)「恒久法」にらみ海外派兵を「本来任務」に。
 白書は第4章「より安定した安全保障環境の構築への貢献」の中で、自衛隊の国際平和協力の取組について「若葉マーク」は卒業する時期に来たとして、「今後、自衛隊が国際平和協力を行うにあたっては、より一層自衛隊の特性を活かし、今まで以上に困難な任務を的確に遂行することが求められているということを自覚すべき時期に来たと考えられる」としています。また「防衛庁・自衛隊は、わが国の国際平和協力のための様々な取組の中で、人的な貢献の主体となるべきと認識しており、より効果的な国際平和協力業務を行うため、国内外の情勢を見極めつつ、今後のあり方について検討することが必要であると考えている」としています。
 この「より一層自衛隊の特性を活かし」、「今まで以上に困難な任務を的確に遂行」する「より効果的な」「人的な貢献」がいかなるものであるかは、すぐ次のページのコラムとして紹介している「『国際平和協力懇談会』の提言」が言うところの、「自衛隊法を改正し、国際平和協力を自衛隊の本務として位置づけるとともに、適切な派遣を確保するため、自衛隊の中に即応性の高い部隊を準備する」ということであり、「国連決議に基づき派遣される多国間の平和活動(いわゆる多国籍軍)へのわが国の協力(例えば、医療、通信、輸送などの後方支援)についての法制度の検討」すなわち「恒久法」の検討であることは間違いありません。
 要するに海外派兵専門の部隊を創設し、憲法によらない「恒久法」の定めに従って、米軍と一体となって世界中に侵略行動を行おうというわけです。その部隊が従来までのいわゆる「後方支援部隊」なのか、米軍と一体となって闘う戦闘部隊をイメージしているのか、それは今の所明らかではありません。しかしこのまま行けば、そう遅くない時期に、米軍と共に直接戦闘する方針を打ち出すでしょう。
「恒久法」と日本軍国主義の新しい危険−−国際平和協力懇談会の「提言」について(署名事務局)参照。

 後に述べますが、政府・支配層は、北朝鮮有事が現実化した場合、北朝鮮領土への打撃力を持たない日本にとっては日米同盟の「実効性確保」が命綱を握ると考えています。自衛隊の海外派遣の目的や内容をその都度定める現在の時限立法方式と比べ、恒久法を制定しておけば迅速で機動的な対応が可能となり、日米同盟の強化に役立つと判断しているのです。


W.対北朝鮮戦争準備、対北朝鮮の大軍拡を正当化。

 白書は冷戦崩壊後10年が経過した現在の軍事情勢として「現在の周辺諸国の状況にかんがみれば、近い将来、わが国に対する大がかりな準備を伴う着上陸侵攻の可能性は低い」との把握をしています。これ自身ふざけた話です。なぜなら有事法制の前提となった情勢はまさにこういう事態だったのではないでしょうか。政府・防衛庁自ら有事法制そのものが虚構の上に創り上げられたものであることを自己暴露しているのです。こんな欺瞞はありません。虚構の上に作られた有事法制はただちに廃案にすべきです。

 さておき白書はさらに続けます。「専ら本格的な着上陸侵攻に備えた装備などの規模は縮小を検討する」と。これは戦車や火砲など大規模な地上戦を想定した装備を「縮小」するという意味です。冷戦時代、旧ソ連を「潜在的な脅威」と位置づけ、その着上陸侵攻を阻止することに重点を置いた部隊の編成と調達を見直すということなのです。

 では現在軍事力の矛先をどこに向けようとしているのか。それが北朝鮮であることは間違いありません。これはテロやミサイル攻撃という直接的な脅威への対処を重視し、北朝鮮を「潜在的脅威」としてでなく、事実上の敵とみなす方向に舵を切ったことを意味します。これは米の軍事戦略と合致する方向でもあるのです。

(1)北朝鮮をめぐる情勢を一方的に記述、対北朝鮮の大軍拡を正当化する。
 白書は第1章「国際軍事情勢」において、誹謗や中傷も含め多くのページを北朝鮮批判に費やしています。
 まず第3節「アジア太平洋地域の軍事情勢」の中でこう述べます。「昨年来、北朝鮮による核問題に対して再び国際社会の懸念が高まっている。この問題は、東アジアの安全保障に深刻な影響を及ぼす問題であるのみならず、大量破壊兵器の不拡散の観点から、国際社会全体にとっても重要な問題である。また、北朝鮮については、国際社会との協力のもとに解決されるべき、工作船事案や日本人拉致問題などの懸念も存在している。特に、拉致問題は、わが国の国民の生命と安全に大きな脅威をもたらすことから、テロともいうべきものである」と。まず北朝鮮が核開発を進める「国民の幸福を最優先の政治課題としない」「専制独裁国家」であり、かつ具体的にアル・カイーダ等(支配層の言うテロリスト集団)との結びつき等は立証できないところから工作船を持ち出したり、「拉致」をテロと認定し、いかに危険な国家であるかということを印象づけます。

 さらに加えて、「北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発や配備、拡散を行うとともに、大規模な特殊部隊を保持するなど、いわゆる非対称な軍事能力を維持・強化している」と述べ、「北朝鮮のこうした軍事的な動きは、朝鮮半島の緊張を高めており、わが国を含む東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因となっている」と東アジアの不安定化の原因を一方的に北朝鮮におしつけます。まるで東アジアには北朝鮮を包囲し、威嚇・脅迫・恫喝する、強大な核戦力を含む在韓・在日米軍も存在しないかのようです。
※両方の軍事バランスをトータルに捉えないこと、米日韓軍事同盟の側の圧倒的な軍事力、ブッシュ政権による先制攻撃戦略とイラク侵略の恫喝、米朝交渉をやる気がなく体制崩壊を目指すブッシュの対北朝鮮政策等々、米日韓の側の危険性について全く触れないことは、「北朝鮮の脅威」を過度に強調し、対北朝鮮戦争を推進する側の常套手段である。「イラク戦争後、3ヶ国協議後の米朝関係、朝鮮半島情勢と有事法制の危険」(署名事務局)参照。

 その上で北朝鮮がいかに国際社会に背を向けながら核開発を進めてきたかを描いてみせます。ただ北朝鮮の意図に関しては二つの分析をしてみせます。すなわち、「北朝鮮のこうした行動は、意図的に緊張を高めることによって何らかの見返りを得ようとするいわゆる瀬戸際政策であるとの見方がある一方で、北朝鮮の最終的な目的は核兵器の保有であるとの見方もある。北朝鮮の究極的な目標は体制の維持であると言われており、こうした観点を踏まえれば、これらの見方はいずれも相互に排他的なものではないと考えられる」と。
 核疑惑の最後に「過去の核兵器開発疑惑が解明されていないことに加え、最近の一連の北朝鮮の行動を考えれば、既に北朝鮮の核兵器計画が相当に進んでいる可能性も排除できない」と少ない情報の中で最大限の危機を煽ることも忘れません。

 日本全土を射程に収めるといわれる中距離弾道ミサイルのノドンについても、「発射の兆候を事前に把握することは困難」と危機感を煽る表現になっています。

(2)北朝鮮との戦争準備のための軍事政策転換。
 正面装備の縮小、MD配備の重要性の強調、北朝鮮の核兵器開発の「疑惑」にとどまらない「相当に進んでいる可能性」の指摘、ノドンへの警戒感、拉致をテロと書き込むこと、これらが全体として北朝鮮との戦争を強く念頭に置いて書かれたものであることは言を待ちません。自衛隊の「国際平和協力」を「本来任務」に格上げし、「恒久法」を意識しながら専門部隊の創設検討を盛り込んだり、後に述べますが統合運用を強調するのも、北朝鮮戦争における日米同盟の「実効性確保」と強化・一体化を強く意識しているからに他なりません。

 大規模な着上陸侵攻阻止という戦略から、テロやミサイル攻撃、不審船・武装工作船、生物・化学兵器への対処という「目の前の」直接的な脅威への対処を重視する方向への戦略転換への舵を切ったのも北朝鮮戦争を意識した結果です。

 それにしても実際北朝鮮で戦端を開くかどうかを決定するのは、北朝鮮でも日本でもなくアメリカそのものです。先制攻撃も含めて北朝鮮への攻撃をしかけるのはアメリカです。従って日本は最大限それに「追随」し、一体化しようとする姿勢を示しているのです。しかし、万景峰号の寄港阻止の姿勢に端的に見られる、日本の実質的な経済制裁が戦争への敷居を一挙に低める可能性があることに常に警戒を払う必要があります。またいわゆる6ヶ国協議に向けての準備過程の中でもほの見える日本の北朝鮮への徹底した敵対姿勢・軍事姿勢(北朝鮮が核放棄に応ずるなら先制攻撃は行わないと米が約束することに、日本は反対したと伝えられています)には注目が必要ですし、さらに日本の軍事政策に影響を与える部分の一部に、米に頼らず独自に北朝鮮を叩く軍事力を、との主張があることに注意が必要です。現に北朝鮮向けの空中給油機、巡航ミサイル、はては空母まで取り沙汰されています。
※「ブッシュ・小泉両政権による対北朝鮮「経済封鎖」=戦争挑発政策に反対する!」(事務局)参照。


X.「背広組の制服組に対する優位」記述を削除しシビリアン・コントロールを崩す。「使える」軍隊目指し「陸・海・空統合運用」を強調。

(1) シビリアン・コントロール破壊に一歩踏み出す。
 今回の白書では、文民統制の記述で、内局官僚の制服自衛官に対する優位を示すと受け取れる表現が削除されました。
 それは、「文民統制の確保」の項目に昨年版まであった「事務次官が防衛庁長官を助け、事務を監督する」との表現が削除された箇所です。今年度この部分は、「防衛庁では、防衛長官が自衛隊を管理し、運営している。その際、副長官と二人の長官政務官が政策と企画について長官を助けることとされている」と記述され、「副長官及び政務官」との部分だけが残されています。その上には防衛に関する大臣はすべて文官であることが強調され、すなわち制服自衛官は官僚でなく、国民に選ばれた政治家が指揮・監督する体制こそがシビリアン・コントロールであることが強調されています。これは制服組が久しく望んでいた記述とも言われています。
 産経新聞などは社説で「日本の文民統制は、政治の軍事に対する統制ではなく、文官優位の悪弊をもたらしただけに当然だ」と賞賛していますが、これはきわめて危険な事態です。そもそもシビリアン・コントロールは軍事が政治を左右する、武官が文官を指揮・命令するような軍事独裁政治、まさに戦前の日本のような軍部主導政治を排除することを保証する制度です。これをいささかなりとも否定することは制服組がその軍事における専門性や特殊性をふりかざして政治家を黙らせる道を開くことに他なりません。政治的判断より軍事的な判断が優先することになるのです。逆に言えば日本でも制服組がそれだけ発言力を持てる、政治のコントロールを離れて自由に振る舞える、また現実に政治より軍事が優先される時代になってきたというべきかも知れません。警戒すべき事態です。

(2) 自衛隊の機能強化・米軍との一体化のための「陸・海・空統合運用」。
 白書は最終章で「陸・海・空自衛隊の統合運用のあり方」を強調しています。具体的には「新たな統合運用の態勢の考え方」として「@統合幕僚長(仮称)が、自衛隊の運用に関し、各自衛隊を代表して一元的に長官を補佐する。A自衛隊の運用に関し、自衛隊に対する長官の指揮は統合幕僚長(仮称)を通じて行い、自衛隊に対する長官の命令は統合幕僚長(仮称)が執行する。Bこのための幕僚機関として統合幕僚組織を設置するとともに、自衛隊の部隊を統合運用に適合し得る態勢とする。」の三点を挙げています。

 何のための統合運用か。いくつかの理由が考えられます。まず、陸海空の三自衛隊が相互に重要な情報を伝えられないなど縦割りの弊害を抱えていたこと、第二に米軍が主導する軍事技術革命にも取り残される状況になっていること、そして何よりも「日米安全保障体制の実効性の向上」すなわち、「自衛隊の運用の態勢を米軍との共同が容易な統合運用の態勢とし、平素から米軍との調整を円滑に行い得る態勢を構築すること」。要するに米軍と一日も早く一体化するためには、実際に「戦える」「使える」軍隊とするためには統合運用が必要だ、ということです。現に「イラク特措法」に基づく自衛隊派遣の際には統合運用で行くと言われています。また北朝鮮との戦争準備のためにもどうしてもそれが必要となっているのです。


Y.遂に出た改憲具体化の動き。日本軍国主義の新たなエスカレーションに何としても歯止めをかけよう。

 今日本の反戦平和運動は大きな節目に立たされようとしています。8月25日、遂に小泉首相は改憲の具体化に着手するよう自民党に指示しました。思いの外簡単に有事法制が通り、イラク特措法も通ったために、調子に乗っているのでしょう。私たちは何としても歯止めをかけなければなりません。
 日本軍国主義の新しい方向は、これまで展開してきた今回の「防衛白書」に明らかです。米国に追従しよりグローバルな海外派兵を実現する、対北朝鮮先制攻撃戦争に参戦する、この2本柱です。世界中で戦争と軍事介入を繰り返す米主導の「有志連合軍」への参加です。それを通じて、戦争と軍事力を武器に石油資源を略奪し世界覇権を確立しようとするブッシュの石油・軍事帝国主義に便乗して、自らもその「戦利品」の分け前を頂こうというのです。否、米軍の下請け部隊として「血と汗」を流さなければ、分け前にあずかることは出来ないと思い込んでいるのです。

 しかし、日本の反戦平和運動にとって明るい兆しも見えています。白書が手放しで賛美するイラク戦争で短期圧勝した4月はじめの戦勝気運は、もはや米国にもありません。イラク民衆の抵抗と反対で明らかにイラク戦争は「泥沼化」しています。イラク戦争をやるための唯一の大義名分だった「大量破壊兵器」が結局はでっち上げであったことがばれてしまい、追及を受ける立場となりました。今年2月、3月にイラク戦争に反対する2千万人、3千万人もの全世界的な反戦平和の大行動は戦争を止めることは出来ませんでしたが、ブッシュ政権に対して、戦争を起こすには大変な反対を覚悟しなければならないことを事実で示したのです。この民衆のエネルギーは今、じわじわと効いてきています。
 アメリカべったりの小泉政権の調子の良さはあくまでもブッシュの調子の良さがあってのことだったのです。現にこの白書が準備されたのはブッシュとアメリカ軍が「行け行けどんどん」の時期でした。制服組が官邸にともかく「国益」のためにはイラク戦争に加わらねばと直訴した時期でもありました。

 米の戦勝気運に悪乗りして次々と戦争法を強行してきた小泉首相も形勢が悪くなってきました。8月19日の国連事務所の爆破事件は、イラク特措法の虚構を全面的に突き崩しました。秋の臨時国会で再び、イラク特措法の廃止を政治問題にする可能性が出てきたのです。「恒久法」はイラク特措法の地理的限定を取っ払ったものに過ぎません。もしここでイラク特措法を廃止に追い込むことが出来れば、「恒久法」阻止に向けた展望が出てきます。有利な条件を活かし、もはや「防衛」の名に値しない「防衛白書」の侵略性と危険性を最大限に暴露し、反戦平和の取り組みを粘り強く継続していきましょう。

2003年8月25日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局