「対テロ戦争」への加担に反対し、イラク・インド洋からの自衛隊撤退を求めるシリーズ(その7)
[投稿]ペシャワール会中村医師が語るアフガンの実状とテロ特措法の批判
「数百人単位でアフガン人の命が落とされている。この油の元が日本から来る」
「戦争どころではない。アフガンの最大の問題は砂漠化をどうくい止めるかだ」



 アフガニスタンでハンセン病患者の治療活動をしながら、「砂漠化した畑を緑に返す」と各地で井戸掘りを進めるペシャワール会の中村医師が出演するテレビ番組が先月続けて放送されました。10月20日(土)、読売テレビの『ウェークアップ!ぷらす』では中村医師が出演してテロ特措法必要を訴える論客を喝破し、10月21日(日)の『サンデー・モーニング』では中村氏のインタビューが放送されました。この2つの番組を見た方から、ホームページで掲載してほしいと、かなり詳しい番組の発言記録が送られてきました。以下、投稿された原稿をもとに中村氏の発言を紹介することにします。私たちは改めて、アメリカのアフガン侵略戦争を一刻も早くやめさせなければならない、給油活動を再開させさせてはならないという思いを強くしました。
(中村医師の言葉と番組でのナレーションなどを青字太字で書いています。『ウェークアップ!ぷらす』での発言を基本にし、最後に『サンデーモーニング』での発言を入れています。)

2007年11月17日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


□もの事をアフガニスタンの人々の立場で考えるべき

 中村氏は、干ばつで苦しみ、米軍の侵略にさらされるアフガニスタンの実状をリアルに語り、「肝心のアフガニスタンの人たちの事が抜け落ちている」と、現地の住民ではなく日本の利害、日米同盟の利害だけで自衛隊を派兵する日本政府のやり方を厳しく批判します。

 中村医師:「アフガニスタンは、大干ばつの真っ最中。おそらく日本人は知らない。国民の半分が食っていけない。この中で、日本で議論されているのは、日本にとってどうなのかと、国際社会の中でどうなのかと。肝心のアフガニスタンの人たちの事が抜け落ちている。他にやらなければ我々がやると言うことで、コツコツとやってきた。」
 2003年、中村医師たちは巨大用水路の建設に取り組んでいた。大干ばつで、1200万人が被災し、今も190万人が食糧危機に直面している。かつてアフガニスタン随一の穀倉地帯と言われていた東部農村地域でも事態は深刻だ。井戸や水路は干上がり、田畑は次々と荒れ地と化している。
 中村医師:「アフガニスタンの9割近くは農民なんです。その人達が食っていくためには耕さなくてはいけない。そう考えると砂漠化した畑を緑に返す。これが何よりのアフガン復興の基礎だと思う。」
 さらに中村さんが懸念する事態が進行している。貧困にあえぐ農民が乾燥に強く利益の高いケシを栽培している。タリバン政権時代に一度は激減したケシ畑が急速に広がっている。こうした現実を脱し、人々がかつての暮らしを取り戻すには、農村を再生するしかない。中村さんは独学で土木工学を学び、用水路の計画を練り上げた。建設費は全て募金で賄われる。
 2003年、9億円の巨大プロジェクトが始動した。作業に参加したのは600人に上る地元の人々。農民に元タリバンや軍閥の傭兵など立場を越えて、人々が結集した。すぐ隣では、米軍の武装ヘリが駆け抜ける戦乱の地。だが人々は家族と共に田畑を耕し、平和に暮らす日を夢見て、荒野に格闘を挑む。


□タリバン掃討作戦の影響で、二つの診療所を閉鎖 

 中村氏は、「アフガン人を助けると言っておきながら、どうして軍隊が必要なのか」「『殺しながら助ける』支援というものがあり得るのか」と実に素朴で本質的な疑問を突きつけます。そして、自らの経験をもとに、米軍の侵略戦争の不当を批判します。特に今年に入って米軍による空爆は激しさを増し、毎日何十人、何百人が殺されているといいます。中村氏は「我々は米軍から攻撃されたことはあるが、『テロリスト』からは攻撃されたことはない」と「対テロ戦争」の虚構を暴きます。

 水路建設に使われるのは土と石で、人々は一つ一つ手作業で石の壁を築いていく。地元に根付いた伝統的な工法を用いることで、住民自らの手で補修をし、長く使い続けることができるという。この地に根を下ろし、活動を続けてきた中村さんの援助に対する考えが反映されている。
 中村医師:「(彼らは)石の作業が好きなんです。石を扱う仕事は彼らの日常です。それがコンクリートを打ったりだとか近代的な建築物になると彼らの別世界の出来事です。日本で言えば熟練労働者に近い。」
 一日の作業を終えた人々には日本円でおよそ240円の日当が支払われる。これまで作業に参加した人は延べ38万人。用水路建設は、仕事のない東部農村地帯最大の雇用の場となっているという。
 しかし、アフガンでの戦闘が激しさを増し、新たな事態が生じた。長年、医療活動をしてきたアフガニスタン東部の山岳地帯がタリバン掃討作戦の舞台となり、二つの診療所を閉鎖しなければならなくなったのだ。さらに、米軍のヘリから突然機銃掃射を受けるという事態まで生じた。発破作業を攻撃と間違えたのだというが、本当にそうか。
 中村医師:「3機は武装用のヘリコプターで、2機はプロペラ1つでした。攻撃用なんですかね。それが旋回してきて、ここを機銃掃射したわけです。危なかった。」


□戦争どころではない。砂漠化を阻止することこそが最大の課題

 中村氏は、戦争どころではない、アフガンの砂漠化こそが最大の問題だといいます。その原因は温暖化にあり、雪が春先に急に融けて大洪水が発生することで、農業用水が確保できなくなる現実を訴え、自然環境を無視した先進国による利潤追求の産業活動がアフガンの被害をもたらしていることを示唆します。これは、アメリカが戦争を押しつけることによって、アフガニスタンの人民が最大の問題である砂漠化と真剣に立ち向かう余裕を奪うことを意味しています。中東支配・軍事覇権のために、アフガニスタン人民を犠牲にしているのです。これは2重・3重の犯罪です。

 今年、総延長13kmの用水路が4年の月日を経て完成した。住民達が一つ一つ手作業で作り上げた石組の護岸は、度重なる洪水や土石流に耐え水路を守る。のどかな水辺の風景の先には黄金色に輝く麦畑が広がる。かつて草一本生えなかった不毛の地に確かな命がよみがえっていた。用水路によって復活した田畑はおよそ900ヘクタール。これにより数万人が飢えることなく暮らしていけると言う。アフガニスタンに小さな希望の光をともした。既に、水路をさらに延長するための工事がスタートしている。
 中村医師:「アフガニスタンで最大の問題というのが戦争どころではない。国民の半分が生きている空間を失いつつある。これがアフガニスタンにとっての何よりの恐怖なんです。」砂漠化が、「2000年以来毎年事情は悪くなっています。」昔はゆっくり雪が融けていて一年を通じて潤いをもたらしいいたが、温暖化によって雪が春先に急に融けて、そのために大洪水が発生し、一気に川の水が無くなる。「アフガニスタンでは次々と砂漠化が広がっている。これが本当の恐怖なんです。」「6年前、空爆前、200万人のペシャワールの難民が、今、300万人になっている。これは干ばつなんです。」


□OEFもISAFも殺戮部隊として同じ。その殺戮に日本の油が使われる

 中村医師の批判の矛先は、テロ特措法だけでなく、民主党小沢氏が参加を主張するISAFにも向けられます。さらに「数百人単位でアフガン人の命が落とされている。この油の元が日本から来る」とアフガンでの無差別殺戮と日本の給油活動との関係を明確にします。20日の番組に出演しているアジア経済研究所研究員窪田朋子さんも、ISAFなどの評価で中村氏とはすこし距離を置きながらも「2年間カブールにいたが、2005年は電気がなくて、夜は真っ暗だった。」「OEF(不朽の自由作戦)による攻撃によって、外国人に対する感情というものが全般的に悪くなってきているように思います」と、米と多国籍軍の軍事行動に対して否定的な意見を述べます。

 中村医師:「(ISAF)は、テロリズムと似たり寄ったりです。」「ある意味では米軍よりも我々にとっては狂暴です。日本に行われている議論というのを私はよく分かりませんけれども、ともかく地元の人たちは、特に最近、今年になってから、毎日、毎日ですよ、数百人単位でアフガン人の命が落とされている。この油の元が日本から来るとなると私たちとしては面白くないのは当然でありまして、『テロリスト』、『テロリスト』と言うけれど、我々は『テロリスト』からいっぺんも攻撃されたことはない。米軍から攻撃されたことはありますけれども。つまり、自分たちのためになることなら、地元に人が守ってくれるというのが私の体験なんです。外国人が行くと先々で騒乱が起きて、診療所を閉鎖し、というのが実態でして、私はこんなインチキはそう長続きしないと思います。ISAFは撤退すべきです。これで絶対にアフガニスタンは収まることはないと思います。」

□偏見を捨てるべき。アフガンの国情を日本の尺度でみてはならない

 中村医師は、「国際社会」というようなあいまいな概念を持ち出したり、タリバン=悪の権化ととう図式で「対テロ戦争」を正当化するプロパガンダに警告を発します。ところが、これに対して、森本敏氏は、「地上でこのような民政支援をすることは重要ですけれども、だからといってインド洋で行っている給油活動が必要でないということにはならない」などと、全く根拠の無い反論を行い、塩川正十朗氏に至っては、「アフガンはちゃんとした政府を持ってちゃんとした国家になって欲しい。盗賊みたいなタリバンとかごちょごちょやっているから不安が起こる」などと、タリバンとは土着のアフガン農民であるという中村氏の話を聞こうとせず、偏見だけでものを言っています。彼の言う「ちゃんとした政府」「立派な国家」とは日本のような「民主国家」をさしているのは明らかですが、汚職と腐敗まみれで対米最優先、貧困と格差が拡大し生活保護切り捨てで餓死者までもが出る、年間自殺者が3万人を越え、医療や福祉切り捨てを進める日本をどうして「立派な国家」と言えるのでしょうか。アメリカの侵略戦争を支持する意識の中に、アフガンや人民に対する蔑視と侮辱、偏見、見下し、差別意識などが横たわっていることを考えさせられます。この意識こそが、中村医師が最も危険と考えるものです。

 中村医師:「アフガニスタンの国情を理解するのは難しい。アフガニスタンそのものが、日本や北朝鮮やヨーロッパのような議会中心の国民国家ではありえなかったということです。誰の立場でISAFの存在意義を主張するか。私は国際社会という意味や実態がよく分からない。アフガン人を助けると言っておきながら、どうして軍隊が必要なのか。素朴な疑問を皆抱くわけです。タリバン、イコール悪の権化と言う図式、それに対する「テロリストとの闘い」、これが正当であるという図式が定着してきて。タリバンというのは土着の田舎者の国粋主義者なんです。これは英語を流ちょうにしゃべり、コンピュータは使って、飛行機を乗っ取って、『テロ』をすると言うのはあり得ないわけで、タリバンが何故受け入れられるかというと、実は、農民の考え方とほぼ一体であると言うことです。その辺の分析がまだ足りない。第一、『テロ』の温床というのは、先進国社会であって、『テロ』実行犯というのは、ドイツやアメリカや先進国で育った人たちです。あのアフガン農民が『テロ』の温床とは考えにくいと私は思います。」

○『サンデーモーニング』での中村医師インタビューより

 中村医師:「ジェット戦闘機がわずか数名の容疑者を殺すために、建物は爆撃を打ち込むというのは、普通になってきている。」「1回の爆撃で数十名から数百名が死にます。これがほぼ今年になって毎日起きていると言う状態です。タリバンがやったと言うけれども、私の推測では、空爆で何万人と死んでいますから、親族は復讐のためやったというケースがたくさんあるんじゃないかと思います。」
−−アフガン政府の発表でも、今年4月から8月までの5ヶ月間で民間人が1000人以上死亡し、すでに昨年一年間の死者の2倍以上に上っている。
 中村医師:「アフガン農民そのものが武装勢力であると言うことをみんな忘れていると思います。しかも、タリバン、タリバンと言うけれども、このタリバンというのは土着のいわば、国粋主義運動であると言うことは、アフガン農民なら誰でもタリバン的な要素があると言うこと、『テロリスト』集団とひとまとめにして言われますけれども、実際には、人々の心に訴える何物かを持っているわけで、ほとんどの民衆はそれを支持している。」

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※2007年10月20日(土) 8時〜9時25分 読売テレビ(日本テレビ系列) 
『ウェークアップ!ぷらす』
※2007年10月21日(日) 8時〜9時54分 TBS放送
『サンデー・モーニング』