「対テロ戦争」への加担に反対し、イラク・インド洋からの自衛隊撤退を求めるシリーズ


 シリーズの開始にあたって
 
(1) ブッシュの「対テロ戦争」を批判し、自衛隊のイラク・インド洋での対米協力の犯罪性を暴露するシリーズを開始する。
 安倍首相の突然の政権放り投げ・退陣によって、安倍が進めてきたような急テンポの憲法改悪路線は大きく後退することになった。しかし、日米軍事一体化=軍国主義化はまだブレーキはかかっていない。戦争国家化、日米軍事同盟強化、海外派兵等が日本の支配層の強い衝動としてある限り、ポスト安倍政権の政策に対する絶えざる警戒と批判が必要である。中でも安倍がブッシュに対して「国際公約」とした「対テロ戦争への協力」=テロ特措法延長・テロ対策新法とインド洋での給油継続問題が臨時国会での最大の焦点になるのは確実である。
 日本政府は国連安保理に対して、ISAFの延長決議に海上阻止行動への謝意を付け足すという姑息な決議を促して給油活動の権威付けを図り、さらに18日の閣議決定では、供給燃料のイラク戦争転用を否定しながら「艦船が補給を受けた後に従事した活動の詳細は、政府として承知する立場にない」と開き直るなど、あの手この手で海上自衛隊の給油継続の道を開こうとしている。しかしこんなものが、インド洋給油継続の根拠になるはずがない。大手メディアも最悪だ。政権を放り出して国民無視・国会無視の自民党総裁選を朝から晩まで垂れ流し報道しているだけである。テロ特措法に関しても自らの調査報道は全くせず、福田や麻生の延長発言だけをこれも垂れ流している。
 一方小沢民主党はテロ特措法の延長反対の姿勢を改めて確認すると共に、19日にはイラク特措法廃止法案を臨時国会に提出する方針を固めた。臨時国会は、衆参ねじれの全く新しい状況の下で、イラク戦争への航空自衛隊の派遣、インド洋への海上自衛隊の派遣と給油活動、「対テロ戦争」への日本の支持・加担が真正面から問題になる。民主党がふらつかないように国会外の広範な反対世論と運動で圧力をかけていく必要がますます高まっている。

(2) アフガニスタンへの侵略戦争からちょうど6年が経とうとしている。そしておびただしい破壊と犠牲者を生み出したあげくに、いわゆる「対テロ戦争」とはいったい何なのか、そもそも「テロ」「アルカイダ」とは何なのか、もうそろそろ結論を出す時期に来ている。事柄に誠実に向き合うならば、「テロ」は、戦争・大量殺戮・大量破壊なんかでなくすことはできないという結論になるはずだ。「テロとの闘い」を何の説明もなく是認し平気で使う政府与党の政治家たちや、マスメディアに対して、この根本的な疑問を投げつけていきたい。
 ブッシュの「対テロ戦争」とは、文字通りの侵略戦争である。「反米国家」への「予防戦争」「先制攻撃戦争」であり、民間人の殺戮を何とも思わない大虐殺であり、インフラや国土全体の大量破壊である。イラクやアフガニスタンのように、主権国家をメチャメチャにしてしまうことである。それはまた、国内外至る所での「人間狩り」・拷問・虐待・虐殺を展開する「秘密戦争」、国連憲章やジュネーブ条約など今日の国際条約と国際原則や戦時国際法をことごとく無視する侵略戦争と人権蹂躙・抑圧そのものである。
 だが、イラク戦争の泥沼化はいよいよ最終局面に入ろうとしている。アフガニスタンでは、反米武装闘争の攻勢が強まっている。「対テロ戦争の拠点」と呼ばれているパキスタンでは、軍事独裁政権であるムシャラフが大統領選を控えて最大の危機に陥っている。アメリカでは、「9.11」6周年を機に、あらためて「9.11」の真相究明の動きが活発化している。9月15日にはワシントンで10万人の大規模反戦集会が敢行された。私たちは改めてブッシュの「対テロ戦争」とそれへの加担の犯罪性を明らかにし、反対世論を喚起したい。

2007年9月19日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局




「対テロ戦争」への加担に反対し、イラク・インド洋からの自衛隊撤退を求めるシリーズ(その一)
海上阻止行動(OEF−MIO)で拘束したのは「海賊」なのか、「テロリスト」「アル・カイダ」なのか−−日本政府は明らかにせよ!


 産経新聞の9月12付朝刊は、一面の「インド洋海賊など 5年半で8件摘発」という記事で、「日米軍事筋」の話として、海自の自衛艦派遣の開始から今年の6月までに、摘発事例が8件あったこと、「摘発された8件の大半が、同海域でタンカーや商船を狙った海賊で、アル・カイダやタリバンなどイスラムテログループは含まれていない」としている。産経新聞はこれを持って、なんと「多国籍軍と海自の活動がテロリストの海上移動を封じ込めるための抑止力となっていることを示しているといえそうだ。」と結論付け、給油活動継続を正当化する根拠にしようとしているのだが、こじつけも甚だしい。
※海賊摘発など8件、海自補給の多国籍軍 テロ抑止
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070912-00000901-san-int

 日本政府が明らかにしている、海上阻止行動(OEF−MIO)による無線照会14万回、臨検11000件という数字と「海賊8件」とのギャップも大きすぎる。一年に1〜2件の海賊の捕捉のために何十隻もの護衛艦、補給艦を常駐させ、臨検をやりまくっているているということになる。「テロリスト」摘発のための無線照会・臨検はパフォーマンスであること、脅威の存在しない「テロリストの海上移動」を目的としてでっち上げていること、本当の目的は、インド洋・アラビア海での有志連合軍常駐態勢の維持と、イラク戦争に向かう米艦船向けの給油活動を通じて、また「テロ」や「海賊」など屁理屈を付けて、中東の石油を軍事力を背景に支配すること、中東で軍事覇権を維持すること−−このような疑惑がますます膨らむ。

 さらに、これまで防衛省や政府がおこなってきた説明との矛盾がある。私たちがすでに明らかにしたように(「テロ特措法の延長を阻止しよう!−−戦争国家づくり、改憲策動に痛打を!−−」)、防衛庁パンフレット「国際テロの根絶を目指して−テロ特措法の4年−」において、「海上阻止活動」の具体的成果として「乗組員の拘束」を挙げ、「このうち数十名はアル・カイダとの関係も疑われています。」と「アル・カイダの拘束」を明言しているのである。
 これによると、「OEFにおける成果の例」として15年12月15日、15年12月20日、16年1月1日、16年5月7日、16年9月、17年3月6日、17年5月20日があがっている。その中で「テロリスト」「アル・カイダ」を明記した以下の記述がある。
−−15年12月20日「12月15日分と併せて拘留した33名のうち、10名はアル・カイダへの関与の疑いあり。」
−−16年1月1日「大麻を発見、押収し、乗組員を拘留(アル・カイダその他のテロリストグループとの関係について疑いあり)」「乗組員15名拘束」

 実に2003年12月15日から2004年1月1日のわずか半月の間に48名もの乗組員が拘束され、その内の10名あるいは25名が「アル・カイダ」との関係が疑われているのだ。 
 このパンフレットは、あいまいな「日米軍事筋」ではなく、防衛庁が出している公式の広報用のパンフレットである。
http://www.mod.go.jp/j/library/pamphlet/tero/003.pdf

 もし産経新聞が言う「海賊が8件摘発」というのが本当であれば、OEF−MIOの活動根拠は完全に破綻する。海賊の摘発は各国の海上警察の仕事であって、有志連合軍の仕事ではないのは明らかである。また、防衛庁(当時)の公式発表はウソであり、「対テロ活動」の成果を誇示するためにデッチ上げたということになる。
 産経新聞の記事が不確かな軍事筋からのねつ造情報であって、防衛庁(当時)のパンフレットのほうがが正しいとすれば、ジュネーブ条約や国連憲章に違反するおぞましいグァンタナモへの「アル・カイダ」収容の直接的加担が問題になる。防衛省は、このパンフレットの情報源とその根拠、事態の詳細を明らかにすべきである。乗組員拘束の事例は何件あったのか、臨検・拘束を実行したのはどこの国の何という艦船か、同じく臨検・拘束の対象となった船舶の国籍と船名は何か、それはどの海域でいつ行われたのか、これまで何人の乗組員が拘束されたのか、「テロリスト」「アル・カイダ」の疑いで拘束された乗組員は、本当に「テロリスト」「アル・カイダ」であったのか、それ以前に「アル・カイダ」とは一体何なのか。そして、彼らはどのように処遇されたのか、今どこでどうしているのか、すべてを明らかにすべきである。
 あるいは、産経新聞の記事も防衛庁のパンフレットも正しいということがありうる。それは、当時「テロリスト」「アル・カイダ」として拘束されたが、実は調べてみると単なる海賊であったという場合である。もしかしたらこれがもっともリアルかもしれない。2003年末から2004年はじめにかけて厳しい無線照会、臨検活動が行われ、「テロリスト」として不当拘束されたが、結局は「証拠」をでっち上げられず、海賊として処遇せざるを得なくなったという可能性である。
 そもそも「アル・カイダ」とは何なのか。誰なのか。「アル・カイダ」というテロ組織の存在自体が極めて疑わしい。また「テロ」とは何なのか。「テロとの戦い」とは何なのか。−−これら全てが曖昧できちんとして規定がなされていない。従って、変幻自在の説明や議論が今もまかり通っている。たとえば、産経新聞は「アル・カイダやタリバンなどイスラムテログループ」としているが、タリバンは、米が侵略戦争で倒したアフガニスタンの旧支配政党である。「テログループ」でおよそ連想されるような存在ではないのだ。
 日本政府は、自衛隊が給油活動で協力する海上阻止行動(OEF−MIO)の「成果」の全容を明らかにすべきである。そこで拘束した人たちが「海賊」なのか「テロリスト」「アル・カイダ」なのか−−明らかにすべきである。もちろん私たちは、彼らが海賊と言おうと、「テロリスト」「アル・カイダ」と言おうと、ブッシュの「対テロ戦争」、有志連合軍による海上阻止行動に断固反対する。


(防衛庁作成パンフレット『国際テロの根絶を目指して−テロ特措法の4年−』より)