シリーズ<安倍の教基法改悪と反動的「教育改革」>その4
日本軍「慰安婦」の存在を否定し、被害者を侮辱
下村発言を徹底して追及し糾弾する!
−−日本軍「慰安婦」=性奴隷制問題を踏みにじり、教科書から排除することによって台頭した安倍と下村−−


はじめに

(1)安倍首相の盟友、下村博文官房副長官は10月末、「慰安婦」問題を認めた「河野談話」の見直しを要求する発言を行った。これが、安倍首相が進めようとしている「教育再生」がめざすものなのか。彼らの言う「自虐史観からの脱却」は、単なる歴史認識の問題ではない。自らが犯した侵略戦争、その中でも最も忌まわしい戦争犯罪である日本軍「慰安婦」=性奴隷制度の事実を歴史の闇に葬り去り、今なお謝罪を要求する被害者たちを侮辱し、その声を押しつぶすという、日本政府による最も卑劣な政策である。安倍政権の「教育再生」の中心人物、下村官房副長官によってなされた「河野談話見直し」発言を私たちは絶対に許すことはできない。国会はこの破廉恥きわまりない発言を徹底して問題にし、撤回・謝罪させるべきである。

(2)教育基本法改悪法案の強行採決の危険が高まっている。与党・自民党は、大学受験優先と学力偏重主義が生み出した「必修逃れ問題」やいじめ問題の本質的な検討は何一つせず、当面の「補修対策」のマニュアルだけを提示しただけで無理矢理「決着」させ、8日に宮城、栃木、三重、愛知で教育基本法に関する地方公聴会をアリバイ的に開催し、10日の強行採決へと突き進もうとしている。参議院の審議日程を考えるならば、10日の採決を許すか、さらに次の週へともつれ込ませることができるかが、今国会で成立させるかどうかの決定的な分岐点となる。我々は全力を挙げて、強行採決阻止のために闘わなければならない。

 このような中で、日本軍「慰安婦」問題に関する「河野談話の見直し」や「核武装の議論」など、安倍政権の要人による極めて危険な発言が、何のとがめもなく繰り返されると言う事態が生じている。野党は安倍政権の「閣内不一致」として批判を強めているが、与党の強硬姿勢の前に十分な追及ができているとは言えない状況である。
 中川昭一自民党政調会長は「核保有の議論はあっていい」などと繰り返して発言し、与党内からさえ反発を生み出しながら、安倍首相は「マスコミからいろいろ聞かれる」などと応じるだけで、事実上野放しの状態になっている。一方下村博文官房副長官は10月25日に「河野談話の見直し」発言を行って以降目立った動きは控えているものの、右翼マスコミからそれを煽るような論調が出始めている。下村氏の発言を批判する野党の姿勢をやり玉に挙げ、それを逆手にとって「この発言のどこが問題なのか」(読売新聞)、「問題視される発言とは思われない」(産経新聞)などと主張し、下村発言支持キャンペーンを始めているのである。
※【主張】河野談話 再調査と見直しが必要だ(産経新聞)
http://www.sankei.co.jp/news/061030/edi001.htm
※10/31[河野談話]「問題の核心は『強制連行』の有無だ」(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20061030ig90.htm

 進行している事態は、安倍首相が政権運営を優先させる立場からとってきた「あいまい戦術」の破綻を表すものであり、安倍政権が本質的に抱えている右翼的反動的性格の弱点を露呈している。自民党内からさえ反発の声が上がっている。しかし、運動の側がこれを放置し、見過ごすならば、彼らをつけあがらせ、このような右翼的な言動を、いわば安倍政権の公式見解としてしまうことになりかねない。

(3)私たちは、現在焦点になっている教育基本法との関係で、特にこの下村発言を徹底して問題にし追及しなけれればならない。この問題を絶対にあいまいにしてはならない。なぜならば、まず第一に、「慰安婦」問題とは、日本の戦争責任という政治問題・外交問題であるだけでなく、教育問題、教科書問題でもあるからである。「慰安婦」問題は、中学校教科書への記載をめぐって先鋭化した。「つくる会」教科書もこの問題が発端となった。
 第二に、発言を行った下村氏は、安倍政権の「教育再生」の最重要人物の一人だからである。それは、愛国心をはじめとする徳目の注入、「自虐史観からの脱却」をスローガンとしている。日本軍「慰安婦」制度=性奴隷制問題を取りあげる歴史教育は自虐史観の象徴であり、南京大虐殺と並んで彼らがどうしても消し去りたい、あるいは限りなく過小評価したい「皇軍」の最大の汚点なのである。
 第三に、下村発言は、就任早々自らの歴史認識をずるずると後退させられた安倍首相が、腹心を使って河野談話の見直しを煽らせているという側面を持っているからである。従ってこれは下村氏個人の問題ではなく、右翼勢力に基盤を置く安倍政権の問題である。
 そして第四に、中川氏が主張するような核武装の議論は、日米軍事同盟のあり方などとの関係からすれば、日本の保守・右翼勢力の中でも特異な主張という面を持っているが、「慰安婦」制度という忌まわしい過去を否定したいという衝動は、一部右翼勢力に限らず、戦争責任と補償問題の放棄の問題とも絡めて、程度の差はあれ支配層全体に共通したものだからである。
 右翼的・反動的安倍政権が最重要課題と掲げる教育基本法改悪と「教育再生」をストップさせるためにも、下村発言を徹底して批判し追及しなければならない。

2006年11月5日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



[1]「河野談話」の見直しを主張する下村発言は、安倍首相の代弁

(1)下村博文官房副長官は10月25日、東京都内の講演において、日本軍「慰安婦」問題に関する1993年の河野洋平官房長官の談話(河野談話)について「もう少し事実関係をよく研究し、考えるべきではないか」と述べ、日本政府が、日本軍「慰安婦」制度に対する国家としての関与と強制を認めたことを見直す必要性を主張した。しかも、「修正するなら閣議決定をし直さなければならない」などと続け、閣議決定による修正の必要性を主張したのである。発言そのものは、「事実関係の再考を促す」としか表現していないが、その焦点は「慰安婦」制度への「軍による直接的関与」「強制連行」に向けられている。彼らは、「義務教育の中学校の教科書に載せることが問題」「強制があったかどうかが問題」等々と「慰安婦の存在は否定していない」などといいながら、実際には、「慰安婦」の存在そのものを否定し、歴史の闇の中に葬り去ることを目指しているのである。
※従軍慰安婦問題:河野談話の見直し必要 下村官房副長官(毎日新聞)
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20061026k0000m010123000c.html


(2)安倍首相は、総裁選での威勢のいい選挙演説とは打って代わって、就任以降その強硬姿勢を後退させた。アジア諸国への侵略と植民地支配についての「村山談話」(1995年)、「河野談話」(1993年)を政府として踏襲することを早々と表明し、戦争指導者の「結果責任」を認め、東京裁判に対しても「異議はない」などとまで発言し従来の政府見解を繰り返すことになった。そして、靖国神社参拝問題についても「行くか行かないかは言わない」という「あいまい戦術」に徹し、日中および日韓首脳会談にまで持ち込むことに成功した。まさに、政権運営のために、安倍首相は自らのもつ右翼的、極右的思想信条を封印する事を余儀なくされたのである。

 しかし、「あいまい戦術」による政権運営が一定の成果を上げてくるにつれて、取り巻き右翼連中が言いたい放題を始めた。そして安倍首相は、これらの発言について「議員として言うのは全く問題ない」「私も官房副長官時代に議員としての資格でいろんな意見を言ったことがある」「言論封鎖することはできない」等々と容認し、公然と擁護し始めた。下村氏自身が「安倍首相は村山富市首相談話についても、河野談話についても100%そのままというのではなく、首相の立場から答弁をしている」「一国会議員の発言と首相の発言は違って当然。首相がひよったのではない」などと、安倍首相を代弁していることを表明した。また、首相のブレーンの一人、高崎経済大の八木秀次教授は「首相の支持者は就任後の発言に違和感を持っていただけに、下村氏のような説明がほしいと願っていた」と大歓迎した。組織的な発言であることをにおわせている。
※従軍慰安婦問題:下村発言、首相の「本音」を代弁? 閣内不一致、与野党から批判(毎日新聞)
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20061027ddm002010044000c.html

 しかし、首相としての立場と議員としての立場、閣僚としての立場と議員としての立場、一国民としての立場の区別など存在しない。それは、靖国参拝で小泉首相がとった詭弁である。外交上の首脳会談や政策協議において、「あれは、首相ではなく一議員としての立場」「あれは大統領ではなくて、アメリカ市民としての意見」というような発言がまかり通るようになったらどうなるのか。一般社会でも同じである。「あれは社長ではなく一社員としての発言」「あれは校長ではなく、一市民としての判断」等々。社会の枠組そのものが崩壊してしまうだろう。ところが、不思議なことに国会議員だけはそれがまかり通ろうとしているのである。


(3)下村発言も、中川発言も国会の反応と世論の反応を見るためのアドバルーンであるという側面を持っている。世論がそれほど騒ぎ立てないのを見るや、次の一手を考えてくる。事実、安倍首相自身、就任当初は封印してきた右翼的な発言を言い始めた。首相は、11月1日、就任以降はじめて憲法改悪に言及し、「自民党総裁としての自分の任期は3年で、2期までしか務められない。任期中に憲法改正を目指したい」と任期中に改憲を強行する姿勢を明言したのである。
 右翼議員の発言を放置し、のさばらしておいてはならない。安倍政権の問題として、徹底して追及しなければならない。
※首相、英米メディアに「任期中に改憲」 9条含め意欲(朝日新聞)
http://www.asahi.com/politics/update/1101/002.html?ref=rss


[2]戦争犯罪を否定するための詭弁=「狭義の強制」

(1)右翼連中は、下村発言に「我が意を得たり」とばかりに勢いづき、「強制の証拠」を見せろとわめいている。しかし彼らの言う「狭義の強制」とは何か。それは彼らが戦争犯罪の事実を否定するために頭の中で考え出した虚構であり、本質をすりかえる詭弁にすぎない。事実から出発するのではなく、意図的に極端な事例を想定し、これを否定することで事実そのものがなかったかのように問題をすりかえ、事実をまるごと否定しようとするやり口は、「つくる会」教科書にも共通する歴史歪曲の常套手段である。すなわち、現実の諸過程、証言、証拠、資料に即してではなく、「強制とはこういうものである」「虐殺とはこういうものである」等々と勝手に決めつけ、自分たちが考え出したその「定義」にあてはまる「証拠」を出せと迫るのである。彼らはそうやって、おびただしい証言も資料も無視・黙殺し、あるいは根拠もなく偽証・捏造と罵声を浴びせ、被害者を愚弄し続けてきた。


(2)問題の本質は「狭義」か「広義」かなどにあるのではない。強制かだまされたか(両者は混在する)が問題なのではない。直接連行したのが軍であったのか民間業者であったのかが問題なのではない。日本の侵略戦争の全過程を通じて「皇軍」のあるところ全域で、計画的・組織的に行われた、非道にして残虐極まりない日本軍「慰安婦」制度=性奴隷制そのものが、紛れもなく「天皇の軍隊」が犯した消し去ることも忘れることも決して許されない戦争犯罪なのである。
 計画から「慰安婦」の徴募、連行、移送、その過程での暴行、陵辱、拷問、脅迫。「慰安所」=強姦所における絶望的な日々、繰り返された集団レイプ、みせしめのための虐殺、性病、精神的疾患。日本の敗戦後には証拠隠滅のための「慰安所」丸ごとの爆破、焼き払い、虐殺、置き去り。さらには被害者でありながらその被害事実を隠さねば生きるすべのなかった、戦後半世紀におよぶ気の遠くなるような過酷な生活。それら全てに日本政府は責めを負わねばならないのであって、「連行」の方法だけを意図的に切り離して問題にするのは、事実を切り縮め、矮小化し、本質を覆い隠そうとする卑劣な目論見でなくて何であろう。

 銃剣を突きつけられたのであろうと、「工場で働いて稼げる」「食事など兵隊の身の回りの世話をする」等々の甘言をもってであろうと、拒むことも逃げることもできず、多くは自分がいる場所さえ知らされぬ境遇で、言語を絶する悲惨な性奴隷生活を強いられた、その事実に変わりはない。苦痛と恐怖と耐えがたい屈辱に満ちた日々こそが、「慰安婦」被害者たちの怒りの根源であり日本軍「慰安婦」問題の起点である。だからこそ彼女たちは、日本軍と日本政府によって貶められた名誉と尊厳の回復を求めて15年の長きにわたって日本大使館前でこぶしを振りかざし叫び続けているのである。雨も雪も吹きすさむ風もいとわず、真夏の炎天下にも凍てつく冬の氷点下にも、死期迫る老いた体に鞭打つように水曜デモに足を運び、まやかしの「国民基金」の受け取りをも決然と拒否し、命がけの闘いをやり抜こうとしているのである。これこそが、「慰安婦」強制連行の証拠ではないか。
[訪韓報告]靖国参拝糾弾! 小泉はアジアの戦争犠牲者の声を聞け!第721回 水曜デモに参加して(署名事務局)


(3)1991年、故・金学順さんが初めて実名で「慰安婦」被害者であると名乗り出た時、それが日本全土を震撼させた時、「連行の方法」など誰が問題にしたか。彼女は、日本軍によって連行され、日本軍によって辱められ「慰安婦」を強いられたこと、すなわち、この戦争犯罪が日本政府の責任において遂行された事実をこそ告発したのだ。日本政府が、「民間業者の手によるもの」と責任のがれに終始していることへの怒りが彼女を突き動かしたのだ。
 そして彼女の証言の直後、吉見義明教授があきらかにした軍の関与を示す資料。決定的な動かぬ証拠が突きつけられて初めて、日本政府はしぶしぶ事実を認めざるを得なくなったのである。これが「河野談話」を引き出したのであり、政府はそれまで形式的な調査すら全く手をつけようともしなかった。
 「強制の証拠をみせろ」とは、証拠隠滅をはかった当の本人が、被害者にむかって厚顔にも居直っているに等しい。しかも、にもかかわらず、少なからぬ証拠も証言も存在し確認されていることを、だからこそ「河野発言」があることを、全てなかったことにしようとでもいうのか。それは無知以外の何ものでもない。


[3]安倍首相は自分の言葉で語れ! 

(1)右翼連中が河野談話にこだわるのは、これが政府の日本軍「慰安婦」問題に関する公式見解であり、日本の戦争責任問題についての一つの到達点を表すものだからである。それは、天皇制軍国主義の侵略戦争の責任を真正面から認め被害者やその遺族に謝罪するという点からすれば、極めて不十分なものであるのは間違いない。しかしそれでも、日本の戦争犯罪の最大の恥部の一つである日本軍「慰安婦」問題について、軍の関与と介入、強制を認めたという点で画期的な意義を持っている。われわれもこれに徹底してこだわらなければならない。そうしなければ、談話は、たんなる発言を記録した紙切れになってしまうだろう。


(2)「河野談話」は、「長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したこと」、「当時の軍当局の要請により設営されたものであ」ること、「旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」こと、「甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあ」ったこと、「官憲等が直接これに加担したこともあったこと」、「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」こと、その出身地は「我が国の統治下にあ」った「朝鮮半島が大きな比重を占めていた」こと等の事実を認め、日本軍「慰安婦」問題を「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」として明言した。そして「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明」したのであった。
 もちろん、「河野談話」には決定的な限界がある。現日本政府の責任の所在をあいまいにし、補償問題に発展することを巧妙に回避している。この談話は、直接被害者に向けられたものでもない。被害者たちが望む日本政府による正式な賠償も責任者処罰も、それ以降の真相究明の努力もなく放置されてきた。度重なる暴言、妄言の数々、歴史教科書からの抹殺、日本軍「慰安婦」制を裁いた2000年女性国際戦犯法廷を報道しようとしたNHK番組への露骨な政治介入による大幅改ざん、等々。これはまるで、口先で謝りながら被害者を殴りつけ、足蹴にし、つばを吐きかけているも同然ではないのか。どんなに「謝罪」を口にしたところで、誰が真面目なものと認めてくれるのか。被害者はどう納得しろというのか。ましてや、その形式的な上辺の「謝罪」さえも後退させあわよくば骨抜きにしてしまおうという下村発言は言語道断である。
「慰安婦」の存在と国家の関与を認め、「歴史教育」の意義を確認した「公式見解」としての意義を持ち、以降の歴代政権を縛り続けているが故に、かすかに日本の良心を示した「河野談話」は、これ以上後退させてはならない。これ以上日本を「醜い国」にしないための防波堤なのである。
※慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話 (外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html


(3)「河野談話」は、日本政府が自発的に出してきたものではない。河野発言は、内外の反戦・平和、戦争責任追及、日本の軍国主義反対の民主主義諸勢力が政府に押しつけ、勝ち取ったものであった。それはまず実名で名乗り出た金学順さんをはじめとする「慰安婦」被害者たちの名乗りと告発と証言、そしてこれに触発され目を覚まされた韓国と日本、アジア全域の運動、歴史研究者たちの研究、さらには全世界の戦争犯罪を裁こうとする熱意と粘り強い闘いが結実したものであった。さらに、1996年春検定を通過した中学校教科書の全てに、わずかな量で不十分な記述ながら「従軍慰安婦」についての掲載がなされた。
 これに危機感を抱いた右翼・反動勢力は、「自虐史観に基づく偏向教科書」として激しい攻撃を開始した。そして翌1997年1月「新しい歴史教科書をつくる会」を発足させ、「草の根」の歴史改ざん「国民運動」が開始された。つくる会教科書の作成と採択運動、全国的に展開された「慰安婦」問題と加害記述削除の議会請願運動等々。それは、「慰安婦」被害者たちの今を記録する映画「ナヌムの家T・U」とその続編「息づかい」や「南京1937」などの上映妨害にまで及んだ。


(4)それは国会内の動きにも連動した。南京大虐殺や「慰安婦」を否定する「歴史・検討委員会」や「歴史教科書を考える超党派の会」「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」などが次々とつくられていった。
 このような中で、安倍氏は1997年5月国会質問において、「談話の前提がかなり崩れてきている」と発言し、「広義の強制と狭義の強制」という詭弁を持ち出し問題をすりかえ、河野発言の見直しを迫る急先鋒に立ったのである。安倍氏は、日本政府の公式見解としての「河野談話」の意義を低め、くつがえし、日本軍「慰安婦」制度の加害事実そのものを認めない立場に引き戻そうとし、今もその下心は隠しようもない。「河野談話」の「継承」が彼の本心であろうはずがない。それは誰もが承知である。外交辞令、姑息な保身のためのリップサービス、それは無節操というものである。本心は周囲の人間に語らせ、「個人的な見解」ならば何を言ってもかまわぬと放置する無責任をこれ以上許しておくわけには行かない。

 この安倍首相に真の意味で「河野談話」を踏襲させるのかどうか、日本軍「慰安婦」被害者の存在と、国の関与、軍による強制を認めさせるのかどうかは決定的に重要である。
 反省し謝罪の意思が本当にあるのなら自分の言葉で語れ!そのためには、これまでの己の非を衷心から詫び、下村発言を撤回させ、今後このような暴言は認めぬと誓うのが筋である。でなければそれは被害者のみならず国民全てを欺く背信行為ではないのか。自らは本心を語らず、人の弁を借りて、虚言をもって場を取り繕い、本心は人に代弁させてこれを公然と擁護する。これが、およそ一国の政権の座についた人間のすることか。安倍晋三氏は恥を知るべきである。


[4]下村氏は、安倍「教育再生」の中心人物。徹底して追及を!

(1)河野発言見直し発言を行った下村博文官房副長官は、教育再生担当として首相補佐官となった山谷えり子氏(日本会議国会議員懇談会監事)、核武装発言の中川昭一政調会長とともに「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」を支える、安倍政権の教育再生の最重要人物である。
※『「安倍学校」の圧迫感』(『アエラ』2006年10月16日号)によれば、下村氏は、2004年9月文科政務官になるとすぐに教育改革に関する官僚中心の勉強会を始め、下村私案といわれる政策提言をまとめたという。ある文科省幹部は、その「下村私案」について、「バウチャー制を導入し、生徒数に応じて学校に予算を配分する」「国の責任で教育水準を確保する」「全国学力テストを毎年実施して学力向上につなげる」「英国型の学校評価制度を導入して問題校は閉校させる」など、安倍「教育再生」の原型とも言える中身が入っていたと語っている。
http://www.aera-net.jp/aera/pickup_dtl.php?mid=78

 下村氏は、右翼団体日本会議系の議員団体が企画した2004年9月の英国教育調査団のメンバーとしてイギリスに渡り、奴隷貿易などを批判的に取り上げたイギリスの歴史教科書を「自虐史観に基づく偏向教科書」として排斥したイギリスの「教育改革」を絶賛している。この調査団は、「新しい歴史教科書をつくる会」と深い協力関係にあった。
シリーズ<安倍の教基法改悪と反動的「教育改革」>その2 イギリス「教育改革」の悲惨な実態とその破綻 (署名事務局)
※『教育正常化への道』(中西輝政監修 英国教育調査団編 PHP)


(2)下村氏は、8月29日に行われたシンポジウム「新政権に何を期待するか」で、主として教育における国家主義の側面を強調し、「自虐史観に基づいた歴史教科書も官邸のチェックで改めさせる」、「一番大切なのは心であり、徳育だ。そういったものを、推進会議で一気に処方箋を作って実行に移す」、「奉仕活動、ボランティア活動を必修化しようという案がある」、「介護施設などで奉仕活動をしてもらい、その経験がなければ大学に入学させない」などと語っている。
※安倍政権でこうなる−−首相主導で「教育再生」 (産経新聞)
http://www.sankei.co.jp/databox/kyoiku/200609/060904b.html

 また、下村氏は『中央公論』11月号の特集「公立校は立ち直るか」の中では、安倍政権の下での教育再生会議のテーマを以下の四つに絞っている。まず第一に、「教員免許制の更新」である。その中で「適性のない教師を排除できる実効性のある制度を検討したい。」と語り「教職員組合」に対する敵意をむき出しにしている。第二に「学校選択制」である。彼は「一般に低所得層が多く住む地域の学校は敬遠されがちだ。・・・いったんその学校を廃校にしてしまう。」と学校選択制がもたらす地域格差と底辺層の排除の危険を隠そうともしない。第三に「学校評価制度」である。「国の基準を満たせない学校は廃校になっても仕方がない・・・そのような学校にいた先生は、廃校とともに職探しをしてもらうことになる。」と語る。ここでは「ダメ教師」の排除と「ダメ学校」の廃校はセットである。第四に「教育バウチャー制度」である。
※『中央公論』11月号 特集「公立校は立ち直るか」『安倍政権のキーマンが語る 水準を満たさない学校と不適格教師は退場してもらう』(下村博文)
※<日教組>中川政調会長の毎日新聞「闘論」発言で抗議文 (毎日新聞)
 この記事では、敵意をむき出しにし露骨な教職員組合批判をする中川昭一政調会長に、日教組が抗議する事態にまで発展している。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061023-00000083-mai-pol

 要するに下村氏は、右翼団体日本会議の思想そのままに、安倍政権での国家主義的・新自由主義的教育改革の中心人物として振る舞っているのである。特に「慰安婦」問題は、彼らにとっての「自虐史観」の象徴であり、攻撃の最大のターゲットなのである。 


(3)さらに下村発言は、日本国内の問題だけでなく、この間進行しているアメリカ議会下院での「慰安婦決議」採択の動きを牽制するものであるとも言われている。この決議は、アメリカ民主党のレイン・エバンズ下院議員が5月に提出したものだが、特に8月15日の小泉首相の靖国参拝以降、韓国系米国人による署名活動などの草の根活動を背景に、最終的には超党派議員55人の共同提案で9月13日に下院外交委員会ではじめて可決され、下院での採択を目指すところまで持ち込んだ。
※米国の下院、国際関係委員会で「慰安婦」関連決議が採択されました(女たちの戦争と平和資料館)
http://www.wam-peace.org/main/modules/news/article.php?storyid=26

 この決議は、日本政府に対して、日本軍「慰安婦」連行の事実を認めて歴史的責任を受け入れること、「慰安婦」問題について現在と未来の世代に対する歴史教育を行うこと、「慰安婦」問題を否定するどんな主張に対しても公に反論すること、今後慰安婦に対する追加措置を決める時、国連女性暴行特別調査官やアムネスティのような国際人権団体の勧告を真剣に考慮することなどを求めている。内容からもわかるように、この決議の根底には、日本政府に対する徹底した不信感がある。
しかし、この決議が9月に下院外交委員会で採決されるや、日本の右翼マスコミは下院本会議採択阻止にむけて非難キャンペーンをやり始めた。
※[『慰安婦』決議案]「日本政府はきちんと反論せよ」10月16日(読売新聞社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20061015ig91.htm
※米議会の慰安婦決議案、採択見送りへ 日本側の説得で(産経新聞)
http://www.sankei.co.jp/news/061001/kok006.htm

 それだけでなく、日本の外務省は水面下で卑劣な議会工作を執拗に行った。なんと大物ロビイスト、ボブ・マイケル氏を日本大使館が月額6万ドルもの高額報酬で雇い、本会議で可決しないようロビー活動をやらせたのである。
 日本では、下村氏が「河野談話見直し発言」を行ったのと同じ10月25日、共同通信の配信で、日本政府がロビイストを雇って決議を廃案に持ち込もうとしていることが各紙で報じられた。韓国系米国人団体はこれに強く反発し、決議採択に向けて活動を強化している。
※Cold Comfort: the Japan Lobby Blocks Resolution on WWII Sex Slaves (harpers.org)
http://www.harpers.org/sb-cold-comfort-women-1160006345.html
※米下院慰安婦決議案「事実上廃棄」…日本、また執拗なロビー(中央日報)
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=80843&servcode=200&sectcode=200



(4)このような日本政府やマスコミの常軌を逸した異常な対応は、2001年1月、当時の安倍官房副長官が中川昭一議員とともに、NHKに圧力をかけ、「従軍慰安婦」問題と天皇の戦争犯罪を裁く女性国際戦犯法定の番組をねじ曲げ、特に最重要の場面であった「昭和天皇有罪判決」部分を削除したNHK番組改竄事件を思い起こさせる。日本政府と右翼反動勢力は、口では「慰安婦強制は捏造だ」と言いながら、「慰安婦」問題がとりわけ国際問題・外交問題に発展することを恐れ、それを未然に防止するためにあらゆる手段を使っているのである。
 私たちは、下村発言を糾弾し、徹底して追及しなければならない。それは、安倍政権に「河野談話」を踏襲させ、日本軍「慰安婦」問題に真剣に向き合わせるための闘いである。それは、安倍首相が賛美するアジア太平洋戦争が侵略戦争であることを認めさせ、戦争責任を明らかにさせるための闘いである。それは、安倍政権の国家主義的・新自由主義的「教育改革」を阻止するための闘いである。そしてそれは、安倍政権の右翼・反動的諸政策に縛りをかけていくための闘いである。
※「女性国際戦犯法廷番組、改ざん強制問題(1) 中川昭一経産相、安倍自民党幹事長代理に抗議を! 国会とNHKに真相の徹底究明を要求しよう!」(署名事務局)
※「女性国際戦犯法廷番組、改ざん強制問題(2) 安倍・中川・NHKと右翼メディア総掛かりの開き直りと幕引きを許すな!」(署名事務局)




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日本軍「慰安婦」被害者の名誉と尊厳回復のための
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