<シリーズ憲法改悪と教育基本法改悪 その1>
戦争ができる国造り、グローバル企業のための国造りに反対しよう!
憲法改悪と教育基本法改悪に反対する5・1討論集会[基調報告] 第T部
“小泉改憲”の加速と諸矛盾。長期の構えで地道な反撃を組織しよう!
−−自民党・改憲派による憲法観・国家観の転換。権力を縛る規範から人民を縛り支配する規範へ−−


【1】政府・自民党、御用マスコミの憲法改悪キャンペーンに抗し、今こそ反撃を開始しよう。

(1)1990年代後半の軍国主義化・反動化の新段階とともに始まった戦後2回目の改憲の危機。“小泉改憲”をめぐる最新の局面。

@ 憲法改悪が具体的な政治日程にのぼっている。戦後2回目の改憲策動。
 1950年代、中国の内戦と中国革命、朝鮮革命と朝鮮戦争という戦後直後の東アジア情勢の大激動の中で、誕生間もない日本国憲法を破棄しようと圧力を掛けてきた米国、それに呼応した当時の保守支配層による戦後最初の改憲策動に次ぐ、第2回目の策動である。
 当時アメリカは、日本軍国主義の復活を抑え込むために政治的軍事的経済的基盤を解体するという占領統治の当初方針を転換し、日本をソ連やアジアの社会主義諸国、民族解放運動、新興途上国を封じ込める「反共の砦」に仕立て上げようとした。サンフランシスコ講和条約成立後、政界に復帰してきた公職追放解除組や巣鴨から出所してきた戦犯組は、堂々と政治の表舞台に登場、米のこの対日政策転換を機敏に察知し、鳩山、岸と、相次いで「再軍備」「憲法改正」の運動を開始した。

 とりわけA級戦犯である岸信介は、「新安保条約」の締結をバネに軍備増強を図り、内閣憲法調査会で改憲草案を作成し、一挙に改憲に持ち込もうとしたのである。(この事実からしても、実態的な現実の軍備増強や軍国主義復活と改憲は不可分に結び付いていることが分かる)人民大衆の一大闘争となった60年安保闘争は、文字通り安保条約の改定、日米軍事同盟の強化・再編を阻止する闘争であったが、同時にこの最初の改憲策動に反対する闘争でもあった。岸政権の崩壊とともに戦後最初の改憲の野望は壮大な挫折を遂げた。

 現在進行中の2回目の改憲策動は、第1回目以上に危険極まりないものである。私たちは大きな危機感を持っている。内外情勢と政治的力関係があまりにも不利であり、改憲派が主導権を握り続けているからである。第1回目には、社会党・共産党を中心とする革新勢力と人民大衆の大多数が反戦平和、改憲反対の巨大なエネルギーと運動を持っていた。今回のように、野党第一党を含む政界、財界、さらにはマスコミも一体となって改憲に動くのは戦後初めての異常な事態である。

A 1990年代後半以降の戦後2回目の改憲策動。その最新の局面としての“小泉改憲”。
 戦後2回目の改憲の動きは、米ソ冷戦が終焉しソ連社会主義体制が崩壊するという世界情勢の激変、細川・非自民党政権の誕生、社会党の消滅、目まぐるしい政界再編、「55年体制」の崩壊という国内情勢の激変の中で、1990年代に本格的に始まった。自民党・保守支配層は、1990年代後半、日本政治の力関係の劇的な変化に乗じて軍国主義化・反動化をエスカレートさせ始めた。日米安保の「再定義」と対北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の戦争体制の確立、日米ガイドライン体制と日米軍事一体化を推し進め、「草の根右翼」勢力と復古主義勢力を総結集し教科書・歴史問題、日の丸・君が代強制、教育基本法改悪で大攻勢を掛けてきた。

 小泉政権の成立によって改憲過程は一気に加速し新しい段階に入った。“小泉改憲”である。とりわけ9・11、アフガン侵略への加担、イラク侵略への加担・派兵など、ブッシュの侵略戦争への加担・参戦をテコにしながら改憲過程は加速した。
 衆参での憲法調査会の設置とこの4月の最終報告はこうした“小泉改憲”の最新の到達段階であると同時に、次のステップになるものである。改憲派は、次の手順を、国会法改悪、憲法改悪の手続きを定める国民投票法に定めている。そして改憲に弾みを付けるためにまず次期国会で教育基本法を改悪しようと目論んでいる。私たちの危機感は、改憲派がここまで具体的に手順を明らかにすることができるまで迫ってきているところにある。


(2)“小泉改憲”を加速してきた内外情勢が変化の兆しを見せている。危機感・切迫感を持つと同時に、内外情勢の変化と政府与党の矛盾を見据え、地道に長期戦を準備し組織しよう。

@ “小泉改憲”に逆風−−小泉路線の内外政策がここへきて一挙に行き詰まり始めた。
 “小泉改憲”が最新の到達段階に達すると同時に、一方では、9条2項改憲を中心とした“最小限綱領”に集約されてきたが、他方では、総論賛成・各論反対で百家争鳴の状況となり様々な諸矛盾が顕在化してきた。
 改憲勢力はどこまで来て、どこで難関にぶつかっているのか。小泉政権と改憲派の表向きの行け行けドンドンには、どんな弱点があるのか。決定的に不利な力関係を承知しながらも、内外情勢全体のしっかりとした把握を忘れてはならない。

 小泉路線とは、全面的な対米従属路線、軍国主義復活、新自由主義的な「構造改革」の3本柱から成っている。改憲も教育基本法改悪も、“小泉改憲”が一見順風満帆に進んできたのは、対米従属の小泉路線が曲がりなりにも失速しなかったからである。小泉が頼りにしてきたブッシュがアメリカが大統領選挙までは、政治・経済・軍事等あらゆる側面で好調だったからである。しかし、ここへきて、小泉政権の内憂外患が一気に噴出している。ブッシュの言いなりにさえなっておれば全てが順調に行くという状況が、暗転し始めたのである。
 米一極支配、米の世界覇権に食い込むことによって世界覇権の一角を担うという小泉路線全体が暗礁に乗り上げている。アメリカの軍事覇権もドル覇権も、ジグザグと小休止の過程を辿りながら揺らぎ始めている。「世界の多極化」の動き、世界的な力関係の変化、政治的地殻変動を無視した結果のしっぺ返しである。

<国内情勢に関して>
@ 「郵政改革法案」をめぐる政府・自民党の対立は、首相と党執行部の強引なやり方でメドが付いたかのように見えるが、火種はくすぶり続けている。衆院補選の連勝にもかかわらず、小泉の求心力、政治力が回復した兆候もない。連休明けから始まる後半国会のシナリオは全く不透明である。民主党の右傾化と「閣外協力」だけが頼りの状況である。

A 政府は、景気循環の悪化・低迷を、まずは「踊り場」、その次は「踊り場の長期化」、その次の次は「踊り場の長期化は変わらず」と、延々とごまかしてきたが、いよいよ「景気後退局面」、あるいは「不況・停滞局面」という現実をごまかしきれなくなっている。

<世界情勢に関して>
@ 何よりも、小泉政権の行き詰まりは対アジア外交に端的に表れている。中国・韓国・北朝鮮(これにロシアが加わる)と、近隣諸国から今や総スカンを食っている状態である。隣国全てとの外交関係の途絶状態は、戦後日本の外交史の中でも異例の事態だ。
 とりわけ中国の反日デモの衝撃は大きい。中国の学生や若者たちは小泉の靖国参拝、歴史・教科書問題、国連常任理事国に対する政策に不満を爆発させた。バンドンでの日中首脳会談でも、中国側は「言葉より行動」と、小泉の口先だけ、パフォーマンスだけの外交にクギを刺した。
 独島(竹島)問題、「つくる会」教科書問題は韓国民衆の怒りに火をつけ、韓国政府の態度をかつてなく硬化させている。北朝鮮との関係は、拉致問題・核問題による敵視でもとより冷え切っている。

A 何よりも小泉政権の浮揚力を支えてきた最大の支援者ブッシュが、第二期政権発足後3ヶ月になるが、その内外政策が手詰まり状態になっている。
−−ブッシュが命運を掛けている「年金改革」が世論の反対にあい、支持率も低下し始めている。ブッシュ路線の行き詰まりは、小泉路線の行き詰まりにつながるだろう。

−−昨年秋から今年にかけて米はイラク占領支配でその限界を端的に見せ始めている。イラク総選挙を成功させたかに見えるが、新しい傀儡政権がやっとのことで成立したが、武装勢力の抵抗は一向に収まりそうにない。軍事力は限界を超え、米軍死者の増加のみならず、負傷兵の激増、PTSDの発生、募集不足等々、米軍、特に陸軍に様々な問題が噴出している。多国籍軍の脱落が相次いでいる。

−−牛肉輸入再開問題はまだ完全には解決しておらず、日米関係と「日米同盟経済」に暗雲が立ちこめている。日本の景気局面の低迷の背景には、米経済の減速局面、原油高とインフレ懸念、過剰流動性とマネーゲームが引き起こす金利・金融情勢の攪乱、そしてそれらの根底には世界経済全体を揺さぶる米の「双子の赤字」と基軸通貨ドルの不安定がある。

−−第二期ブッシュの米軍再編は、中東・中央アジアなど石油資源が集中する「不安定な弧」に対する軍事覇権を維持するためであると同時に、対中国への牽制でもある。その意味では、日中関係悪化の背景には、日米同盟で台湾と中国に軍事介入体制を築き上げようとする米中関係の悪化がある。経済面でも人民元問題、貿易赤字問題で最近急速に米中関係が悪化しつつある。

−−「日中韓三角関係の軋み」。日中関係の悪化、日韓関係の悪化は、6カ国協議そのものを機能麻痺に追い込むだけではなく、これに米中関係の悪化が付け加わることで、日米同盟、日米韓同盟そのものが根底から動揺している。このアジア情勢を巡る深刻な軋みは、改憲と教育基本法改悪の背景をなしてきた日本の軍国主義化・反動化のエスカレーションとなって逆流となるだろう。

A 小泉の対アジア外交全体の破綻と改憲反対・教育基本法改悪反対の運動をめぐる情勢。
 東アジアとアジア全体をアメリカ帝国主義の一極支配、世界覇権の支配下に屈服させようとする小泉戦略、小泉・ブッシュの日米同盟は、中国・韓国を初めアジア全体から総スカンを食らい孤立しつつある。
 「つくる会」教科書と国連常任理事国入りで今のような孤立である。そんな中で、日本の軍国主義化・反動化の総仕上げとなる憲法改悪と教育基本法改悪を強行すれば一体どうなるかである。日本人民はもとより、日本の過去の侵略と植民地支配の歴史の犠牲となったアジア諸国人民の到底受け入れられる所ではない。過去の歴史の反省の上に成り立った憲法と教育基本法の改悪が易々と受け入れられるはずがない。
 内外情勢をきちんと踏まえていけば、間違いなく風向きが変わりつつあることを読みとれるはずだ。自民党内で、与党自民党と公明党の間で、また与党と民主党の間で、それぞれ改憲論議がかみ合っていない今こそ、改憲とそのムード作りを人民大衆の手で押し返すチャンスである。今こそ闘うべき時である。

 問題は日本の私たちがどこまで闘えるか、である。もちろん改憲反対勢力の側の弱さを承知しておかねばならない。改憲反対は、議会レベル、政党レベルでは共産党と社民党だけである。改憲反対の運動、教育基本法改悪の運動は、少しずつ広がりを見せているとは言え、民衆の多数を巻き込んだ大運動にはなっていない。世論形成に大きな影響を持つマスコミも、改憲推進派とシニカル・曖昧派に割れているだけで、改憲反対を真正面から主張する部分はない。改憲作業は、小泉の任期、郵政政局、自民党内の「理念派」と「現実派」の対立、公明党・民主党の消極的対応等々、どれ一つ依拠できないような危うい事情で一直線に進んでいないだけである。

 改憲反対の闘いは長期戦である。自民党の思惑通りに進んだとしても、改憲を実現するまでは、数年、5〜7年はかかると言われている。こうした決定的に不利な情勢の下で、政府与党内部の矛盾を利用して、どこまで反対運動が押し返すことができるのか。私たちの周辺に何をどのように訴えていけばいいのか。長期的な構えで地道な活動を積み上げていきたい。

B 長期戦の構えで地道に。署名事務局の諸課題。
 敵は大衆運動の形をとって裾野を急速に広げている。政府・自民党を中心とする改憲勢力は、「つくる会」教科書、歴史問題、靖国参拝でも推進派であり、東京都や広島県で日の丸・君が代「教育正常化」攻撃を仕掛ける勢力であり、教育基本法改悪を推進する勢力であり、イラク戦争とブッシュの侵略戦争を支持し、自衛隊の海外派兵と日米同盟強化を推進・支持する勢力である。これら全てが日本の右翼勢力であり一つの大きな軍国主義・反動勢力なのである。

 従ってこの奔流に立ち向かうには、個々の闘いを個別にやっていたのでは決定的に不十分である。改憲−教育基本法−軍国主義−日米同盟、それぞれの市民グループや反戦団体、教職員グループが、可能なところから統一した闘いを組織し構築していくことが重要である。
−−私たち署名事務局は、これまで立ち後れていた改憲反対の取り組みを、本討論集会を新たな出発点として更に強化する。特に、改憲派の様々なごまかしやトリックを暴き、護憲世論を拡大していかねばならない。
−−これまで取り組んできた、イラク反戦と自衛隊イラク派兵、有事法制と「国民保護法」など日本軍国主義の復活に反対する闘いと改憲反対の闘いを結合して進める。
−−学校現場で日の丸・君が代強制に抵抗する教職員、「日の丸・君が代による人権侵害」市民オンブズパーソン、「つくる会」教科書採択に反対する闘い、教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会、などと連携し、教育基本法改悪反対の闘いに合流する。




【2】支配層による憲法観の反動的転換。権力を縛る規範から人民を縛り支配する規範へ。

(1)自民党・改憲派が目論む憲法観の大転換−−「権力制限規範から国民の行為規範へ」。
 衆院憲法調査会最終報告は、「総論的事項」部分、「国民の権利及び義務総論」部分で、「近代立憲主義」を持ち出し、「憲法の役割」に関する論争を紹介している。実はここに重大な問題が含まれている。
 憲法は、国家の枠組み全体、国家像そのものを明らかにするものである。自民党や財界などの改憲派は、憲法改悪の草案を作る際に、彼らの憲法観・国家観を指し示している。9条改憲など各論に入る前に、支配層の驚くべき反動的な憲法観をまずは検討することにしたい。
 自民党「憲法改正プロジェクトチーム」が2004年6月に出した「論点整理」は露骨にはこう言い放つ。
 「憲法を論ずるに当たり、まず、国家とは何であるかについて、わが党の考え方を明らかにし、国民各層の理解を深めていく必要があると思われる。
  次に、憲法の意義を明らかにすべきである。すなわち、これまでは、ともすれば、憲法とは『国家権力を制限するために国民が突きつけた規範である』ということのみを強調する論調が目立っていたように思われるが、今後、憲法改正を進めるに当たっては、憲法とは、そのような権力制限規範にとどまるものではなく、『国民の利益ひいては国益を守り、増進させるために公私の役割分担を定め、国家と国民とが協力し合いながら共生社会をつくることを定めたルール』としての側面も持つものであることをアピールしていくことが重要である。 さらに、このような憲法の法的な側面ばかりではなく、憲法という国の基本法が国民の行為規範として機能し、国民の精神(ものの考え方)に与える影響についても考慮に入れながら、議論を続けていく必要があると考える。」
※自民党「憲法改正プロジェクトチーム」「論点整理」http://www.citizens-i.org/kenpo/data/jimin040630.pdf

 次いで自民党憲法調査会が2004年11月に出した「憲法改正草案大綱」は、国家権力が人民を縛り義務を課せ支配する最高法規に仕立てようとする。「二一世紀における現代憲法は、国家と国民を対峙させた権力制限規範というにとどまらず、『国民の利益ひいては国益を護り、増進させるために公私の役割分担を定め、国家と地域社会・国民とがそれぞれに協働しながら共生する社会をつくっていくための、透明性のあるルールの束』としての側面をも有することに注目するべきである。
※自民党「憲法改正草案大綱」http://www.kyodo-center.jp/ugoki/kiji/jimin-souan.htm この「憲法改正草案大綱」こそ、前代未聞の例の事件、起草委員会の中谷元座長(元・防衛庁長官)がこの草案大綱づくりを自衛隊幹部に依頼したことが発覚した事件である。内外の批判が集中し結局、この草案大綱を一旦撤回する。しかし、実際には、その後「神の国」発言の森元首相が座長となりこの草案を全面的に復活させた。
※「陸上自衛隊による組織ぐるみの改憲案提出を糾弾する! 自衛隊=“軍隊の政治化”は芽の内につみ取るべきだ!」(署名事務局)

 そもそも「近代立憲主義」は、絶対主義時代から近代ブルジョア国家誕生の過程で、ブルジョアジーが人民大衆の闘争を背景に絶対王政から勝ち取ったもので、専制権力に制限を加え、権力の自由を縛る規範として確立したものである。もちろんそれはブルジョアジーの経済活動の自由、私有財産の自由を原理としたものであった。だが、それは同時に人民大衆の獲得してきた歴史的成果として普遍化され、現代帝国主義国家の「統治権に対する制限」として受け継がれている。その意味で日本国憲法も、近代ブルジョア憲法として国民が国家権力を縛るための最高法規なのである。

 私たちは、現在の日本国憲法全体を無条件に擁護しようというものではない。現行の日本国憲法は、それ自身矛盾である。異質なものとして組み込まれている象徴天皇制の矛盾、共和制原理に対立する君主制の残滓はその最たるものである。しかし「近代立憲主義」を受け継ぐ現行憲法の進歩的人民的側面を完全に否定し、全く反動的反人民的なものに転換することは、何が何でも阻止しなければならない。
※立憲主義の否定については、「<国家を縛るルール>から<国民支配のための道具>へ?」(『現代思想』2004年10月号特集−日本国憲法 西原博史論文)、及びブックレット『改憲という名のクーデタ』(ピープルズ・プラン研究所編 現代企画室発行)の「憲法とは何か−−なぜ『国民の義務規定』としてはいけないか」が詳しい。「立憲主義は誰が権力を持つにせよ、その権力を『法』『憲法』で縛ることを求める。」「どんなに民主主義的な政府や権力であっても、政府への徹底した不信の上に立って、権力を制限し監視することに、憲法の本来的な役割があると言える」(p25)


(2)自民党の「改憲要綱」:政府を縛る規範から人民を縛る規範への180度転換の2つの方向性。9条改憲による侵略戦争の自由、派兵・武力行使の自由。国民の権利・自由の制限と義務・責務の強制。

 自民党の新憲法起草委員会は4月4日、森委員長試案のもとになる「要綱」をまとめた。最大の焦点の9条は2項を全面改悪し、「自衛のために自衛軍を保持する」と明記した。集団的自衛権の行使は、条文には盛り込まず、憲法解釈として容認するとしている。天皇を元首と位置づけるかどうかなど、両論併記にとどまった部分も多い。

 「要綱」最大のポイントは上述した「論点整理」「草案大綱」にすでに主張されていたように、「国家のための憲法」、国家が人民を縛り支配する憲法を作ろうとしている点である。帝国主義的軍国主義国家、抑圧国家への国家観・憲法観の危険な180度の転換である。
 自民党が目指す憲法観の反動的転換には2つの方向性がある。第一に、9条改憲による侵略戦争の自由、派兵・武力行使の自由。第二に、国民の権利・自由の制限と義務・責務の強制である。

 自民党が特に強調するのは、国家の言いなりにならなくなった人民の性根を叩き直すという傲慢極まりない思想である。公共的な責務や義務をないがしろにし自己の権利のみを主張する利己主義・個人主義に堕落し、社会道徳や倫理観を失っている人民に制裁を加えるという発想である。新憲法を、公共的・国家的な義務・責務を課すことによって叩き直す「行為規範」にするというのだ。もちろんここには、平和運動、労働運動、環境保護運動、消費者運動など、人民運動、民主主義運動全体に対する憎悪がある。
 個別的にも、ざっと以下のような国家への義務と奉仕のオンパレードだ。
−−国家の独立と安全を守る責務
−−社会保障その他の社会的費用を負担する責務
−−愛国心の涵養
−−環境保全の責務
−−条約及び国際法規に対する義務
−−国家緊急事態における基本的権利・自由の制限
−−憲法尊重擁護の義務

 仮に自民党の手になる反動的・軍国主義的な憲法が成立したとすれば、その内容に反対する国民は、憲法尊重擁護義務違反の罪をもって訴追されるという恐るべき事態となる。

 何ともグロテスク、時代錯誤! まさにこれは「つくる会」の「公民教科書」ではないか。



【3】“小泉改憲”の最新の到達点と諸矛盾。

(1)自民党内部の対立。自民党改憲要綱と根本的に対立しない民主党、公明党の改憲案。部分的戦術的な対立点と弱々しい警戒感の限界。

 自民党は当面、条文化を予定していた森試案は要綱の形にとどまるようであり、4月中を目標としていた要綱の取りまとめを5月以降に先送りした。しかし11月の結党50周年に、憲法改正草案を出すという方針に今のところ変更はない。
 新憲法起草委員会の要綱から浮かび上がるのは、安全保障や天皇といった国家観に直結する論点で「自民党らしさ」=保守・反動色を強めようとする「理念派」と、国会の多数派形成を優先する「現実派」の対立が解けていないことである。このことが4月中の条文化も断念させた。衆院憲法調査会最終報告で集団自衛権行使容認や9条改正を「多数」と明記しなかったのも、集団自衛権問題で党内が割れている民主党と、自衛隊の存在明記でまとまっていない公明党の党内事情を配慮したためともいわれている。

 民主党は、4月あるいは5月に「憲法提言」(仮称)をまとめる考えと伝えられたが、条文化は想定せず、各テーマごとに基本的な考え方を示すのにとどまっている。「憲法改正は、次の総選挙で政権をとってから、具体的に作業すればいい」(幹部)という基本戦略は変わっていない。
 公明党は2004年10月、とりわけ9条を「加憲」論議の対象とした党運動方針を決定した。2005年になっても動きに変化はなく、改憲問題については、党憲法調査会で論議継続とのみしている。

 民主党、公明党とも自民党ペースで改憲論議が進むことを警戒し、今のところ改憲論議に二面的態度を取っている。7月都議選、次期総選挙で改憲が争点になることは得策ではないと考えている。民主党には安保問題を深めれば党内分裂につながりかねない、公明党はこれ以上の右傾化は党内基盤との摩擦を更に先鋭化する、よって両党とも簡単に自民党に乗れない事情がある。しかし、補選の結果、総選挙結果、今国会の行方次第、何よりも世論動向次第で改憲論議が急速に進まないという保証はどこにもない。


(2)日本経団連は最近確定した国家戦略の中に改憲を位置付けた。(第U部 [1](1)A参照)


(3)政府与党・大手マスコミは憲法調査会の結果を改憲に利用しようとしている。

@ 衆院憲法調査会は4月15日、最終報告書を自民、民主、公明の賛成多数で議決した。「多数意見」をテコに改憲に先導する魂胆。
 与党・自民党が特に9条について「改正」意見が多かったことを明示し、改憲の方向に衆参憲法調査会の最終報告を利用しようとする魂胆は見え見えである。
 衆院の最終報告書では20人以上の委員が賛否を明らかにした論点のうち、3分の2以上の意見が一致したものを多数意見と明記した。
共産、社民両党は最終報告が、@同調査会を、憲法改正手続きを定める国民投票法案の審査権限を持つ組織に、衣替えするように求めている、A多数意見を明示していることを理由に議決に反対した。

 現在の国会の力関係の中で改憲派委員が結局多数を占める憲法調査会の最大のターゲットは、やはり9条であった。1項の戦争放棄の理念は堅持する一方、「自衛権の行使として必要最小限の武力の行使を認める意見」が多数意見とされ、さらに戦力不保持を定めた2項に関連して「自衛権及び自衛隊について何らかの憲法上の措置をとることを否定しない意見が多く述べられた」と、自衛隊の存在の明記を多数意見とした。
 「非軍事の分野に限らず国連の集団安全保障活動に参加」、「平常時の憲法秩序の例外規定(すなわち非常事態に関する事項)を憲法に置く」も多数意見とされた。
 一方現行の憲法解釈では認められていない集団的自衛権の行使については、@制限なしに認める、A制限つきで認める、B認めない、に意見が「ほぼ三分」されたとした。

A 参院憲法調査会は4月20日、最終報告書を自民、民主、公明3党の賛成多数で議決し参院議長に提出した。集約困難を反映。
 報告書は主要な論点を、@自民、民主、公明、共産、社民の5党で共通認識が得られた33項目、A自公民が一致した「趨勢である意見」6項目、B自公民でも意見が分かれた20項目に分類。衆院側が党派にかかわらず、発言者の3分の2以上を占めた意見を「多数」としたのに比べ、政党としての見解を重視した。

 とりわけ憲法9条をめぐっては、@戦争放棄を定めた1項の維持、A我が国が独立国家として個別的自衛権を有する、B自衛のための必要最小限度の組織は必要――は共通認識とされたが、そのことを憲法に明記するかどうかでは意見が分かれた。集団的自衛権については「認める」「認めない」「制限的に認める」に立場が分かれた、とされた。
 自公民が一致した「趨勢である意見」は環境権、プライバシー権など「新しい人権」の明記にとどまっている。

B 改憲絶対反対が皆無の腐敗しきったメディア。
 世論に大きな影響を与えるマスコミはどうか。以下は、衆院憲法調査会最終報告が議決された翌朝16日、各紙に一斉に掲載された社説の見出しである。一方では手放しの歓迎と礼賛、他方では集約の困難さや冷ややかな見方に大別される。しかし、現在日本の大手マスコミのうち改憲に真正面から反対している部分は一社もない。全体として見れば、極めて危険な世論作り、改憲へのムード作りが行われている。

 「改憲の『たたき台』になる」(産経新聞)。「時代は『新憲法』へと動いている」(讀賣新聞)。産経は国会が戦後初めて「改憲の方向性」を示したと報告を高く評価し、これが改憲案の『たたき台』になりうるから、三党は意見の違いを克服し、改憲案作りに入れとけしかけている。讀賣も「憲法改正の方向」を明確にし、「現行憲法の改正すべき点」についても「一定の方向」を示したと同様な評価を与え、時代は新憲法だと吠えている。
 日経新聞は「憲法論議の蓄積踏まえ各党は具体案を」である。報告書は必ずしも改憲の方向性を示していないが、自公民で大筋の共通認識が出来たことを評価するというものである。この議論の蓄積を踏まえ、世論調査も改憲を望んでいるのだから、各党とも憲法改正のより明確な具体案を示せと主張する。

 朝日新聞は「集約することの難しさ」。結局調査会報告は「改憲作業に向けて論点を絞り込むどころか、逆に集約することの難しさ」だけが鮮明になった。だから改憲論議を進めようというのなら、政党が自らの案をまとめるのが先決だと、むしろ政党に改憲案作りをけしかけている。
 一方毎日新聞の「論点は絞られてきたが・・・」。まず、この報告書が今後の憲法論議の「スタートライン」と評価する。その上で、報告書からは「改憲へのパワー」も改憲への「動機付け」も感じられないというのである。9条改正の部分の「腰の引けたような文言から緊急な改憲の必要性を訴える力は感じられない。」改憲論議は次のステップに進むが、情熱は感じられないという。しかし「パワー」があれば良いということなのか。


(4)改憲へ向けての当面の最大の焦点は、国会法の改悪、国民投票法案をめぐるせめぎ合い。

@ 自公民3党は、今後も憲法調査会を改憲の舞台にすることを目論んでいる。
 衆院の最終報告書「第3款 今後の憲法論議等」に、「現在の衆議院憲法調査会の基本的な枠組みを維持しつつ、これに憲法改正手続き法(日本国憲法96条1項に定める国民投票等の手続きに関する法律案)の起草及び審査権限を付与することが望ましいとする意見」が多数であったという文言を入れた。

A 当面の焦点は国会法改悪、国民投票法改悪。
 4月15日、自公民3党は、衆院憲法調査会が最終報告書を議決したのを受け、憲法改悪の具体的手続を定める国民投票法案に関する三党協議機関を設置することで合意した。今月下旬にも初会合を開き、共同提案を視野に投票方法などをめぐる議論に着手するとしている。ただし、同法案の今国会への提出は見送られる公算が大きいが、自民党は今年中の成立を目指している。
 国民投票法案の協議に先立ち、3党は、衆参両院の憲法調査会に国民投票法案の審査権を与えるため国会法を5月にも「改正」する方針と伝えられている。すなわち、この国会法改悪反対の闘いが、憲法改悪反対運動の最も差し迫った闘いである。

 一方参院憲法調査会の今後のあり方について参院最終報告書では「憲法改正手続きの議論を続ける」が「趨勢」とされたが、共産、社民両党の「強い反対」を付記。国民投票法案の起草、審議を多数意見として明記した衆院の報告に比べ、あいまいな表現になっている。
 参院憲法調査会会長と自公民3党の幹事は最終報告書提出の際、「調査会を存続し、改正手続き法の議論をさせてほしい」と参院議長に要望している。ことに自民党筆頭幹事は「国民投票法案を立案、審議する権限を付与したい」と、衆院と歩調を合わせ、国民投票法案を審議できるようにする国会法改正に意欲を示している。民主党は、国会法「改正」までするかどうか、25日の党憲法調査会総会で意見集約を図るとしている。


(5)「時代の変化」「現実からの乖離」「新しい権利」等々−−改憲派メディアによる欺瞞・ごまかし戦術、改憲ムード作り、世論誘導と改憲容認の増加。

@ 意図的なメディアの世論調査。徐々に増える改憲容認世論。
 毎日新聞の全国世論調査(電話、4月16、17日実施)によれば、憲法を「改正すべきだ」と答えた人は60%、「改正すべきではない」が30%。昨年4月に実施した同じ方式での調査には「改正すべきだ」が59%、「改正すべきでない」は31%。いずれも前回調査と、ほぼ同傾向を示したとしている。
 「改正すべきだ」と答えた人に9条1項と同2項について変更すべきかどうか尋ねたところ、戦争放棄を定めた1項は「変更すべきでない」が60%で「変更すべきだ」は37%。逆に戦力不保持の2項については「変更すべきだ」が58%で「変更すべきでない」の37%を上回った。
※「<憲法改正>『改正すべき』が60% 毎日新聞全国世論調査」(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050419-00000077-mai-pol

 日本経済新聞社が4月7〜10日に実施した世論調査では、現行憲法を「改正すべきだ」とした人が54%。「現在のままでよい」が29%。「改正支持」は昨年9月の前回調査に比べ5ポイント増える一方、反対は4ポイントの減少。国会などでの憲法論議を受け、有権者の関心も高まっている、としている。
 「改正賛成」の理由は「新しい考え方を盛り込む必要がある」が48%で最多。環境権やプライバシー権といった「新しい権利」を明確にする必要があるとの認識が背景にあると分析している。「現実とかけ離れた条文が目立つ」が26%で続き、「占領下で制定された憲法だから」は12%。
 一方、現行憲法のままでよいとした理由では「改正をきっかけに平和主義が変質する恐れがある」が47%でトップ。次いで「ほかに取り組むべき課題がたくさんある」(18%)など。

A 迫られる改憲反対派の反撃。改憲派メディアの宣伝、欺瞞とごまかしに具体的に反論しよう。
 改憲反対派は、反撃に打って出なければならない。改憲派メディアの宣伝、欺瞞とごまかしは徐々に世論を改憲容認の方向に誘導し始めている。各マスコミとも世論調査が衆院憲法調査会の最終報告書と共通する傾向にあるという結論に持って行こうと目論んでいる。すなわち9条関連では「1項の戦争放棄の理念を堅持」と「自衛隊及び自衛権について何らかの憲法上の措置をとることを否定しない」との、1条堅持と2項変更を求める傾向があると。

 「新しい権利」「新しい人権」を憲法に盛り込むという考えに、一定世論が幻惑されている。「新しい権利」を盛り込んだ改憲論がなぜ出てくるのか。それは何よりも第一に、保守支配層が依然として憲法「改正」に警戒心を持っている国民に改憲を承諾してもらうための目くらましであるということである。
 第二に、すでに述べた「権力制約規範から国民制約規範への転換」のトリックがここに含まれていることである。人権という権利を国民が一方的に有し、国家がそれを一方的に保障する義務を負うという片務的関係の解体、更にはその逆転である。つまり「国家と国民は同等」であり権利・義務関係で「共生関係」になければならないというごまかしを使って、事実上国家が一方的に権利を有し、国民が一方的に義務を負う方向に持っていこうとしているのである。例えばプライバシー権、環境権などには、表現の自由の制限や環境保護の義務が滑り込まされている。
※『改憲という名のクーデタ』(ピープルズ・プラン研究所編 現代企画室発行)の「基本的人権をめぐる改憲論とその問題点」参照。



【4】なぜ今憲法改悪、教育基本法改悪なのか−−“小泉改憲”の推進者と衝動力。

(1)政治の動きが決定的。自民党と「2大政党制」「自公民3党体制」。中央政治における権力構造、政治的力関係の急激な変化。政治権力の中枢で改憲派、改憲容認派が多数派に転化。

 改憲、教育基本法改悪の最大の衝動力は、日本の権力構造(政官財の権力構造)の中で力関係が大きく変化したことである。以下、4つの推進者と衝動力を取り上げる。
 “小泉改憲”の勢いが最も強かったのは2003〜2004年。イラク戦争と民主党の閣外協力が同時並行的に進んだ時である。2003年11月の衆議院議員選挙は自公民三党とも憲法「改正」で足並みをそろえた。これが、憲法改悪の動きが昂揚する直接のきっかけとなった。

@まず自民党の中で小泉・森派が実権を獲得。橋本派は分裂、影響力を大幅に後退させた。
 小渕政権時代、1999年の自自公連立、後の自公連立によって軍国主義化・反動化が一気に進んだ。とりわけ画期としての1999年の145国会。軍国主義・反動諸法案が一挙に成立した。周辺事態法、国旗・国歌法、盗聴法、住民台帳法改悪法などと共に憲法調査会設置法が強行された。この時はまだ自民党内の実権を握る橋本派の下で森派=復古主義勢力が推進者になった。憲法調査会をリードしたのはこの森派的復古主義勢力。次の森政権も背後で操っていたのは橋本派。

 しかし、小泉政権の誕生で権力構造は一変する。小泉・森派が自民党全体を支配したのである。本来伝統的な復古主義と改憲勢力の巣窟であり、右翼イデオロギー派閥であり文教族である森派は、同時に最強硬の日米同盟派・無条件対米追随派であり、新自由主義的・新保守主義的「構造改革」派である。
 「土建国家」「利権政治」で長期に渡り権力の中心を牛耳ってきた旧田中派・橋本派は財政危機の爆発と公共事業のやりたい放題が限界に達したことで、分裂し一気に凋落した。参院青木派を通じて小泉・森派に依存するしか延命する道はなくなっている。

A野党第一党民主党の右傾化。自民党の延命形態、新たな支配形態である「2大政党制」「自公民3党体制」。
 小泉政権誕生後、小泉の似非パフォーマンス「抵抗勢力をぶっ壊す」に惑わされた民主党が事実上の「閣外協力」(有事法制、年金など)を繰り返し、自民党支配の延命に積極的に手を貸した。民主党内で若い改憲派・タカ派が台頭、自民党内の改憲派・タカ派と連携し始めた。
 こうして自民党の延命に公明党だけではなく、閣外から民主党が手を貸すことで、改憲派が衆参両院の8〜9割を制し、改憲議席数を一気に射程に入れるようになった。

B財界の政治化、軍国主義化、反動化。
 2002年5月、経団連と日経連が統合し、日本経団連会長にトヨタの奥田が就任してから、財界は経済問題だけではなく、政治問題、内外政策全般、特に改憲や教育などの国家戦略に露骨に口を挟むようになった。一時、政治献金問題、金権腐敗問題で政治の表舞台から退いていた財界が、「2大政党制」を公然と掲げ、民主党とのパイプを広げた。

C復古主義的・天皇主義的右翼勢力の大同団結。政財界と宗教界を頂点に言論界、労働界、芸能界、スポーツ界など、ありとあらゆる領域を網羅する草の根右翼組織「日本会議」の結成。
 1990年代後半以降の軍国主義化・反動化の新段階の中で、1997年、右翼勢力が大同団結して「日本会議」なる草の根右翼運動団体が結成された。彼らは、元号法制化、靖国参拝、天皇崇拝祝賀行事、日の丸・君が代と教育正常化、歴史教育批判と「つくる会」教科書の編纂、自衛隊PKO活動支援などを経て、現在は改憲を最大の目標にしている。彼らはまた「日本会議国会議員懇談会」を設立し、与野党問わず政界への基盤拡大を図り、併せて、軍国主義化・反動化しつつある財界へも浸透しつつある。今では、上記@〜Bの全てと何らかの形で結び付き、支配層の民族排外主義、軍国主義、政治反動を扇動する最大の大衆運動的となっている。
 
 彼ら「日本会議」は、また「民間教育臨調」(「歴史教科書をつくる会」、「教育基本法を求める会」を経て結成)を前面に押し立てながら、教育基本法改悪運動の「真の組織者」となっている。


(2)アフガン戦争、イラク戦争、自衛隊のイラク派兵を転機として日米同盟はグローバル同盟になし崩し的拡大、日本軍国主義が復活。その一環として「最後の障害」を突破するための改憲。(詳細はU参照)

@“小泉改憲”加速の最大の衝動力は小泉軍国主義である。
 ブッシュ追随の小泉軍国主義と日米同盟の新しい段階が、改憲、特に9条改憲のベースにある。アメリカの一極支配、世界覇権を維持するために、日本が積極的能動的に同盟関係を強化し自発的に従属していく。その意味での日米同盟はなし崩し的に「再々定義」されてしまった。米の要求を無条件で受け入れ、歯止めも区切りも、真正面からの政治対決や国会論戦もないまま、「不安定の弧」と中国、北朝鮮を「仮想敵」にした米の軍事戦略、米軍再編に積極的に深くはまり込んでいる。9・11、アフガン戦争、「ショー・ザ・フラッグ」と「テロ特措法」、イラク戦争、「ブーツ・オン・ザ・グランド」と「イラク特措法」、自衛隊派兵、多国籍軍参加等々、イラク戦争をテコになし崩し的に、憲法の掘り崩しが進んだ。

A政府与党と改憲派は、自らが率先して北朝鮮バッシングを煽り、社会に好戦的雰囲気を醸成し、改憲に一役買っている。
 2002年9月の小泉の訪朝以降こじれた拉致問題、同年10月以降日朝関係改善に楔を打ち込むために、米側から仕掛けられた北朝鮮の核開発疑惑再燃をきっかけに、政府支配層によって反北朝鮮バッシングと好戦的世論誘導がメディア総動員で煽り立てられた。ウソでもデマでも何でもありの北朝鮮報道、好戦的意識・敵対意識を浸透させた。さらに、工作員、テロ、テポドン、核ミサイル攻撃など「北朝鮮脅威論」が扇動され、対北朝鮮軍拡とミサイル防衛=先制的反撃が正当化されていった。この「北朝鮮脅威論」と拉致問題を背景に、一旦継続審議となった有事三法案が2003年6月には民主党の賛成で成立させられた。


(3)「景気回復」を背景に、支配層は新たな「国家再生戦略」の策定に入った。グローバル企業の競争力強化のための国造り、グローバル企業の安全保障のための国造りのテコとしての改憲。

@バブル崩壊の後始末からグローバル企業主導の日本経済再生戦略へ。
 小泉「構造改革」も、当初は不良債権処理と金融再生政策、債務対策と産業再生対策といったように、バブル崩壊の後始末に振り回された。しかし、1997〜98年の金融危機が後景に退き、2002年1月以降の「景気回復」と共に、一息ついて余裕の出た政府与党と財界は企業再生戦略と併せて日本経済再生戦略、国家再生戦略を大急ぎで策定し始めた。世界市場を見渡したグローバル企業と政財界は異常な危機感を持った。

 というのも、1990年代、日本の政府と企業がバブルの後始末に追われている間に、気が付くと、欧米の多国籍企業がどんどんグローバル企業に進化し世界市場を席巻・制覇していたからである。日本企業もグローバル化と企業の多国籍化を進めたが、欧米から大きく立ち後れてしまった。バブル崩壊後の「失われた10年」、長期不況の中で、競争力を持っていたはずの日本を代表するグローバル企業が利潤率の低下に四苦八苦し、国際競争力を大幅に低下させていたのである。政府・財界と支配層は、試行錯誤の中で、衰退し始めた日本経済を復活させるためには、グローバル企業の復活しかないと結論付けた。

Aグローバル企業復活のための国家戦略から3つの方向性が打ち出される。
−−第一に、グローバル企業主導、財界主導を通じて国家再生を追求する方向性である。そこでは、国家再生=日本経済再生とは国の競争力=産業の競争力の復活であり、それはグローバル企業の競争力復活に集約されると位置付けた。ここでは、日本経済全体、中小零細業や労働者・勤労者をどうするかは差し当たり無視・軽視される。
 日本経済全体を救済する余裕はない。「勝ち組」(グローバル企業)が繁栄すれば自ずと「負け組」(中小零細企業)にも「トリクルダウン」で恩恵がしたたり落ちる、すでに6大金融資本と企業系列構造を通じた戦後日本の「フルセット型産業構造」は、海外進出と産業の空洞化の中で崩壊した、というのである。

−−第二に、グローバル企業の競争力復活との関係で、世界市場で勝ち抜くには、グローバル企業に課せられた様々な当然の負担を全面的に削減し、「高コスト構造」を是正する方向性である。企業の社会的責任の放棄である。筆頭に挙げられているのが法人税の大幅減税である。また、年金・医療・福祉などの企業側負担を労働者・人民の側に転嫁するための社会保障制度の解体・再編と財政負担の削減がある。また公的教育制度の解体・再編と特権的エリート教育中心の差別選別教育・能力主義教育の制度化。国家財政の破綻から国家を救済するには、企業に負担を求めるのではなく、消費税の大増税で賄えという、人民への大収奪が特に彼らの目標である。

−−第三に、「グローバル企業の安全保障」「国際安全保障環境」への関心が高まり、対米従属的軍事同盟の強化を追求する方向性である。米一極支配、米の世界覇権を全面的に支えることによって、米と米軍のヘゲモニーの下で企業活動、経済権益、経済圏を安全・安定的に確保することを意味する。

B小泉「構造改革」が、総花的な「構造改革」からグローバル企業の競争力強化と世界市場制覇ための「構造改革」へ。
 小泉政権は、誕生して以来、金融システム、財政再建、規制緩和、地方財政、更には道路公団民営化、そして現在の郵政民営化をはじめ新自由主義的「構造改革」路線を打ち出してきた。しかし財界は苛立ちを隠していない。
 日本経団連はこの4月、小泉「構造改革」推進機関である経済財政諮問会議において「骨太の方針2004」を総括し、社会保障改革、公務員制度改革、医療制度改革などが決定的に立ち後れていると不満を表明した。更にはこれとは別に税制改革(法人税減税、消費税増税)を求めている。改憲と教育改革、教育基本法改悪は、こうした財界とグローバル企業による、小泉「構造改革」の次の戦略の中に位置付けられているのである。

 こうした強い要求の背景には財界の危機感がある。グローバル企業を中心とする財界と各産業界は、2002〜2003年にかけて、「競争力」概念を再検討・再評価し、グローバルトップ企業の負担軽減を柱にするよう政府に圧力を加えてきた。新自由主義的「構造改革」の優先順位の変更を求め、グローバル企業の競争力強化のための「構造改革」を真っ先に実現するよう圧力を加えたてきた。にも関わらず進捗状況が遅いと主張しているのである。
※日本のグローバル企業は必死である。1998年に経団連が『産業競争力強化に向けた提言』をまとめ、これに基づいて首相主催の「産業競争力会議」が設立された。この第3回会議で経団連より提言された『我が国産業の競争力強化に向けた第一次提言』を踏まえ、政府が「産業競争力強化対策」が出され、「産業再生法」が制定された。その後、2001年には、日本政策投資銀行から米の『ヤングレポート』以降の米国競争力政策を研究した報告が出され、経済産業省の産業競争力戦略会議において、2002年に「中間まとめ」「競争力強化のための6つの戦略〜グローバルトップを目指した企業改革と産業構造への転換〜」が出された。
※財界が焦る理由に米政府の動きがある。巨人GMのかつてない危機に代表されるように、米がここへきて再び「1980年代の再来」と言われる製造業の危機に陥っている。今回の米製造業の苦境が1980年代と異なるのは、脅威の相手が日本ではなく中国だということ、苦境にある業種が自動車、半導体だけではなく、繊維や工作機械など全産業に及んでいることなどである。その中で再び昨年12月、米政府が米国製造業の新たな競争力強化戦略「ート・アメリカ」(委員長であるIBM会長の名をとってパルミサーノ・レポート)策定に動き出したのである。
※「平成15年度 製造業における競争力強化に関する調査報告書」(2004年3月 社団法人 日本機械工業連合会) http://www.jmf.or.jp/japanese/houkokusho/kensaku/2004/pdf/15sentan_18.pdf

2005年5月1日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


戦争ができる国造り、グローバル企業のための国造りに反対しよう!
憲法改悪と教育基本法改悪に反対する5・1討論集会[基調報告] 第T部