シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その6
次々と生み出される反軍隊運動の様々な諸形態−−新兵募集反対運動、反徴兵制運動
−−ますます深刻化する米陸軍の新兵募集危機。2005年度の目標達成はすでに破綻−−


はじめに

 以前、別のシリーズ[シリーズ米軍の危機:その5 新兵募集危機と徴兵制復活の脅威](4月21日)では、非常に厳しい状況におかれている米軍の新兵募集危機、とりわけ陸軍の三部隊−−現役部隊、州兵部隊、予備役部隊における深刻な新兵募集危機に焦点を当てた。今年2月度における陸軍の新兵募集は、募集目標に対して歴史的なマイナスを記録した。陸軍現役部隊においては−27.5%を記録した。その背景を明らかにすることが前回の目的であった。泥沼化するイラク占領支配と米軍兵士の犠牲の拡大、兵員供給ルートにおける大変動−−これまで人種構成比に不釣り合いなまでに大量の新兵を陸軍に供給してきた黒人層からの人的流れの劇的変化を見てきた。そして、新兵募集危機の深刻化とともに「徴兵制」復活への警戒感が高まっていること、「軍隊を学校に入れるな」をスローガンに掲げて若者への勧誘活動に反対し、ブッシュ政権の戦争拡大政策と闘う新しい反戦運動を見てきた。
※「米陸軍を襲う新兵募集危機――若者が中心となった新兵募集反対運動、徴兵制復活反対運動」(署名事務局)

 「米軍の新兵募集危機はまだ始まったばかりである」と前回指摘したが、新兵募集をめぐるその後の統計結果は、ますますこの流れが深まっていることを裏付けている。
 イラク移行政府が発足した4月以降、米軍のイラク占領統治の破綻、泥沼化は、誰の目にも明らかとなった。議会からも撤退期限を明確にすることを求める声が上がるなど、ブッシュ政権の「対テロ戦争」路線を支えてきた共和党や民主党の中からもイラク占領支配への疑問の声が急速に高まっている。それとともに新兵募集もまた、前回に取り上げた時期よりもさらなる苦境に直面している。今回は、さらに深化した危機の特徴を概観するとともに、苦境に陥りながらも強引な入隊勧誘活動を繰り広げる米軍のやり方、それに対して高まる批判の声を紹介したい。入隊勧誘活動に反対する取り組みは、ブッシュ政権の推し進める「対テロ戦争」の担い手である米軍そのものに対する闘いである。運動は着実に広がりを見せている。

2005年7月26日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



[1]陸軍の3本柱−−現役部隊、州兵部隊、予備役部隊−−のすべてにおいて深刻な募集危機が継続

(1)陸軍現役部隊の3〜6月までの募集実態−−6月は目標達成!しかしその実態は?
 今月、3〜6月度の各軍の新兵募集の状況が明らかになった。表は、陸軍現役部隊の新兵募集数に対する入隊数を各月度別に示したものである。1月度の目標達成後、2月に大きく落ち込んでいることが分かる。前回のシリーズではこの大きな落ち込みに注目し、その背景を考察した。しかしそのような低落傾向は3月度、4月度、5月度と続いていた。しかしながら6月度は、目標数5650人に対しておおよそ500人も上回る結果となった。この6月度の回復を受け報道機関は、「6月の新兵募集は改善(Army Recruiting Improves in June)」(NY times)との表題の記事を配信した。(1-1)しかしこの表題とセットで、「相変わらず年間目標を下回る」「FY2006はさらに困難な事態が予測される」等との指摘がされている。6月度の回復を受けて楽観的見通しを語ったのは、唯一陸軍系の報道機関のみであった。

表 各月度別の募集目標と入隊者数
(NY Times から) 

 たしかに6月度の新兵募集は回復したかもしれない。しかし実態は、特殊な要因によって目標が達成されたと見るべきである。表からも明らかなように、6月度の新兵募集の目標数はその他の月別目標数と比較しても低い数値に設定されている。低い目標数を何とかクリアしたというのが実情である。最大の新兵プールである高校生が、進学か就職かの選択を迫られ、この期間の入隊者数は少なくなるといった季節的な要因があり、この月度の目標値は低く設定されていると言われている。
 それでは新兵募集は本格的な回復に入ったのか、それともそうではないのか。2〜5月度の異常に低い充足率にもかかわらず、6月度の増大幅は小さい。新兵供給のプールが十分に満たされているならば、減少する期間が続けば次の増大幅は大きくなるはずである。しかし、5,6月度の増加はその前月までの不足分をまとめて回復するまでの増加になっていない。新兵供給のプールがないことを表しており、若者たちの中に深刻な軍隊離れ、とりわけ陸軍離れが進行していることを読み取ることができる。どうやら私たちが想像する以上に深刻なリクルート危機、新兵募集危機が進行しているようだ。

 年間目標の達成はもはや不可能である。2005年度の目標数は8万人。それに対して現段階の充足数は4万7121人である。9月度(2005年度の最終月度)までに目標数を充足させるためには、残りの月数で月別目標数の7000人前後にさらにプラスして7800人を入隊させなければならない。事実上、目標到達は不可能だ。志願制が施行された1973年以降、最も低い年間充足率にとどまることは必至である。イラク戦線に大量の兵員を割かざるを得なくなった米陸軍は昨年、イラクに大量の兵士投入を要することから、再編に向けた兵力拡大計画を発表した。その初年度が2005年度であった。しかし、早くも計画の破綻が明らかになったのである。米軍は従来の戦力を維持するのに毎年7万人の新兵補充を必要としてきた。増強のための8万人の目標が2万人も下回れば、増強どころか兵力縮小になりかねない状況なのである。

 しかも6月度の目標達成もまた、新兵募集に危機感を募らせた米軍司令部が前例のない程の人的資源と資金をつぎ込み、やっとのことで得た結果に過ぎない。このようななりふり構わぬ手段によって米陸軍は、かろうじて6月度の目標を達成することができたのである。しかし、これ以上残された対策はない。そうなれば、「徴兵制復活」の危険も高まる。これが新兵募集の実態である。(1-2)

@ 勧誘担当官の大増員
 今年はじめに1000人以上の勧誘担当官を増員した。それまでの6000人から一気に2割近くもの増員態勢をとったのである。
A 最前線の勧誘担当官の超過労働
 従来までなら1人を入隊させるのに数時間程度の労力で終わっていたが、今や10時間を超えるまでになっている。簡単には入隊しない若者たちに密着し、何とか入隊させているのである。勧誘担当官は疲れ切り、違法な入隊工作に手を染め、トラブルを引き起こしている。
B 好条件の提示。入隊時の高額ボーナス支給
 入隊時の待遇を向上させた。短くて15ヶ月の兵役服務期間、2万ドルもの入隊時のボーナス支給。


(2)陸軍現役部隊以上に悲惨な陸軍州兵の新兵募集状況
 新兵募集をめぐり、陸軍州兵部隊が現役部隊以上に悲惨な状況にあることについては、以前にも取り上げた。その基調は、最新の統計結果を見てもまったく変化はない。
 陸軍州兵部隊の6月度の新兵募集目標数は5032人であったが、4037人しか集めることができなかった。現役部隊が目標数を達成したにもかかわらず、州兵部隊は相変わらず大幅なマイナスを記録している。これで9ヶ月連続のマイナスとなった。2005年度の開始月度から現在までにおいて、目標数の4万5000人に対して約1万人も不足している。また過去18ヶ月のうち17ヶ月間もマイナスを記録しており、イラク占領支配の破綻と泥沼化の影響を陸軍州兵部隊はもろに被っている形である。この長期にわたる新兵募集難が「米国の伝統である市民兵士制度」の存立を根幹から揺さぶっていることについては、前回にも指摘した通りである。

 陸軍予備役部隊についても同様に深刻な募集難が続いている。予備役部隊は、現在までに1万5540人の応募者を集めたが、その数値とて目標の79%に過ぎない。このように陸軍の3本柱−−現役部隊、州兵部隊、予備役部隊−−のすべてにおいて、深刻な募集難が継続している。その他の空軍や海軍では新兵募集の目標数に到達していることからも、長期にわたりイラク、アフガンの最前線で戦い、犠牲者を積み上げている陸軍に、まさに「対テロ戦争」の矛盾が集中しているのである。(1-3)


(3)「2006年も極めて困難な状況になる」。公然と語られる悲観的見通し
 陸軍の新兵募集危機の要因は、上層部が語っているような「経済的好況」にはない。彼らは現実を直視することを避けているようだ。主要な、最大の要因は、まぎれもなくイラク占領支配の破綻と泥沼化である。誰もが、大義なき戦争に駆り出され、命を失いたくないのである。ブッシュ政権の下、いつ終わるともしれぬ「対テロ戦争」が続けられる限り募集難は続くだろう。2005年度を終えていない段階から、来年の目標達成を危ぶむ見通しが出されている。陸軍上層部は「2006年は、今年以上に困難な状況になるであろう」と公然と語るようになっている。(1-4)
 第一線に立つ勧誘担当官もまた、これからも続く荊の道に押しつぶされんばかりである。募集をめぐる数々のスキャンダル、兵士狩りから自分達の子どもを守る保護者の監視活動、持続する反戦運動、イラク占領支配の破綻と広がる厭戦気分等々。陸軍募集担当司令官は、1973年の開始以来「最も厳しい局面に陸軍の志願制が直面している」ことを率直に告白している。一方で、現場の勧誘担当官は、「幼少時代に聞くよりも、さらに多くの“ノー”をこれから聞かされることになる。髪が残っていたら、全部抜け落ちるだろう」と、我が身に降りかかる困難な状況を語っている。(1-5)

(1-1)「Army Recruiting Improves in June」2005/6/29 http://www.nytimes.com/2005/06/29/national/29cnd-recruit.html/
(1-2)「Army recruiting up for June but still down for year」2005/6/29 http://www.usatoday.com/news/nation/2005-06-29-army-recruiting_x.htm
(1-3)「Army National Guard misses recruiting goal ninth straight month」2005/7/11 http://www.woai.com/news/national/story.aspx?content_id=58D9D522-4A8E-4F8D-BD69-7749F169E73F
 海兵隊の新兵募集も同様に深刻な状況下にある。1〜4月の4ヶ月間、連続して目標数がマイナスとなった。「海兵隊志願者、4カ月連続で目標下回る=イラク戦と経済改善が影響」2005/5/3 http://news.goo.ne.jp/news/jiji/kokusai/20050503/050502220735.z18qhr2x.html
(1-4)「Army May Have Trouble Getting Recruits」2005/6/30 http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/n/a/2005/06/30/national/w131446D00.DTL
(1-5)「Oh Baby , It`s Drafty Out There」http://www.alternet.org/story/23308



[2]泥沼化するイラク情勢が背景にある

(1)毎日2人以上の兵士が犠牲。3巡目に突入したローテーション態勢

表 1日当たりの米・同盟軍の犠牲者数推移
 すでに述べたように、現段階における新兵募集の危機はイラク占領支配の中心部隊である陸軍に集中している。その理由は明白である。陸軍兵士の犠牲者数は拡大し1800人に到達する勢いである。毎日2人以上が死亡している計算となる。負傷者は公表数字で1万人を大きく越えている。若者とその家族は、イラクに派兵されることに怯え、陸軍に入隊することに慎重になっているのである。
 すでに34万1000人の兵士がイラク、アフガニスタンへの2巡目の派兵を経験し、今や次々と3巡目に入っている。不足する兵員数、それをやりくりするための過重ローテンション。予備役兵士は、平時であれば、年に数週間程度の軍事訓練に参加するだけで手当てが得られたはずだった。しかし現在、若者たちにとって陸軍に入隊することは、即イラク戦争に従軍し、最前線に身を置き命を落とすことを意味するようになっている。


(2)陸軍の身内の研究機関からもイラク政策批判が
 もはやイラク占領支配は、いつ抜け出すことができるのか分からない深い泥沼に陥っている。米マスコミは、ブッシュ政権の対イラク政策の失敗を公然と語り始めるようになっている。イラク議会選挙を何としても成功させなければならないとして、米軍撤退につながる批判を手控えてきた半年前の論調とはまったく異なる。米国内では今、これまでとは異なる政治状況も生じつつある。民主党だけではなくこれまでブッシュ政権を支えてきた共和党内からも、「撤退期日を明確にすることを求める」声が上がり始めている。

 陸軍に近い研究機関からも、イラク、アフガンへの米軍の関与のやり方を見直す提言が出されるまでになっている。米軍の任務はすでに延び切っており、「ほどなく米国は、陸軍が(現実に)どの程度の軍事能力を有しているのか、予想される熟考すべき危機がどのようなものなのか、を決断しなければならないだろう」とする報告書『薄く引き延ばされている。作戦継続のための米軍のあり方』(“Stretched Thin: Army Forces for Sustained Operations”)が、陸軍の身内の研究機関であるランド研究所(RAND Corp.`s Arroyo Center)から提出され話題となっている。今やイラクやアフガン政策をめぐっては数多くの批判が沸き起こっているが、ついに陸軍の身内からも批判が出るまでになったのである。報告書をまとめた研究員の一人は、「陸軍が直面している困難は、非常に根深い。陸軍の長期におよぶ目標に向けての莫大な支出と可能な改編とともに、いかなるアプローチもまた危険性と不確定性に直面している」と語っている。また報告書は、自国の安全保障と「対テロ戦争」を掲げながらも「同時二正面作戦」を維持する政策を基本とする国防総省の能力に対して疑問を投げかけている。(2-1)
(2-1)「Army study: U.S. facing hard choices」http://fullcoverage.yahoo.com/s/chitribts/20050712/ts_chicagotrib/armystudyusfacinghardchoices

 イラク、アフガン政策の破綻が誰の目にも明らかになるにつれ、ブッシュ政権の軍事外交政策への批判があらゆるところから沸き起こっている。そこに、ロンドン地下鉄爆発事件によって示された「教訓」−“海外でテロと戦っても米国内は安全にはならない”ことに保守的な米市民も気づき始め、終わりなき「対テロ戦争」に突き進むブッシュ政権への幻滅を募らせている。レイムダック化するブッシュ政権、社会に広がる厭戦気分等々。ますます新兵募集が困難になることは必至である。



[3]軍による露骨で強引な新兵募集に批判が集まっている

(1)なりふり構わぬ陸軍の新兵募集のやり方
 危機感を募らせる米陸軍は、あらゆる手段を講じて新兵募集危機に対応しようとしている。以前にも報告したような金銭的インセンティブをさらに高めること以外にも、人権無視と指摘されているような手段を取り入れている。成績の低い若者、問題を抱える若者の採用枠を拡大するなど、「質よりも量」を求める勧誘活動を繰り広げている。また、“軍事の民営化”を採用活動の面においても積極的に実践しようとしている。
 プライバシーを無視し個人情報をかき集めるような人権無視のやり方に対しては、人権擁護団体から強い批判の声が上がっている。また軍の質を低下させかねないようなやり方には、軍内部からも規律維持に問題が生じかねないとして批判が上がっている。以下では、米陸軍が繰り広げる勧誘活動の一端を見ていきたい。

● ボーナスのアップ。米軍は、現行の入隊時のボーナス2万ドルをさらに4万ドルに上げるための申請を議会に対して行っている。

● ホーム・スクーリング(自宅学習)の生徒にまで勧誘対象を拡大。米国には、110万人を越えるホーム・スクーリングの生徒が存在する(2003年の統計)。米陸軍は抜け目なく、この生徒たちにも照準を合わせようとしている。しかし現在のところ、なかなかうまく機能していない。その理由は、まさにホーム・スクーリングの形態、すなわち学校と比べてもなかなか軍が生徒と接触できないといった問題がある。(3-1)

● 軍による職業適性テスト(armed services vocational aptitude battery test)の得点結果に基づく採用ラインを下げる。ASVABテストは、名目は高校生への職業ガイドと言われているが、学内において実施される、軍隊へのリクルートを目的とした軍隊による適性試験である。軍は試験によって生徒の能力を含む個人情報を入手し、それを勧誘活動に利用するのである。陸軍は、入隊する新兵の2/3相当が50%以上の得点するように採用しているが、この2/3の枠を下げようとしている。要するに、テストの成績の悪い生徒の採用枠を拡げようとしているのだ。(3-1)

● 国防総省は、16〜18歳の高校生すべてのデータベース(4軍による新兵勧誘への宣伝・市場調査データベースJoint Advertising and Market Research Recruiting Database)を作成するために、民間会社と契約した。この計画には、個人情報保護を訴える人々から怒りの声があがっている。データベースには、生徒の誕生日、社会保険番号、メールアドレス、成績評価点、人種、勉強した学科、等が含まれている。すでに米国では、“No Child Left Behind”法に基づいて、新兵勧誘担当官は学内で活動している。従来と比較しても、さらに豊富なデータが軍に提供されようとしているのである。(3-2)(3-3)

● 入隊希望者の斡旋依頼。陸軍と同様に募集難に陥っている陸軍州兵は、非熟練労働者への職業を斡旋する企業と契約を結び、入隊の勧誘の強化を図ろうとしている。(3-4)

● 戦争ゲームによる勧誘活動。「America's Army」という現代の戦闘シーンをリアルに再現したゲームシリーズを2年前に米陸軍は発表した。昨年の段階で330万人がこのゲームのプレイヤーとして登録していると言われている(3-6)。最近、このゲームを体験した若者たちがこぞって入隊を希望している、まれに見る大成功例だと米陸軍が自画自賛する映像が民放において流れていた。笑止千万。このような手法を勧誘に利用すること自体、すでに末期症状である。ゲーム感覚で入隊を募る。このような動機で入隊した若者は、軍隊の現実に直面し、戦場に送り込まれ、想像を超えた辛苦を味わうことになる。イラクにおいて民間人犠牲者が多く出ている理由の一つとして、米軍兵士が銃を撃ちまくる点が指摘されている。ゲーム感覚とまでは言わないが、銃弾を撃ちまくることにあこがれた若者たちが戦場の第一線に立ったとき、まともな兵士として機能するだろうか。


(2)法律無視の強引なやり方に怒りが沸き起こっている
 違法行為まがいの勧誘活動、強引な手口に対する怒りの声が次々と湧き起こっている。先に述べた、16〜18歳の高校生すべてのデータベースを作り上げ勧誘活動に役立てる手段に対して、非常に強い批判の声が沸き起こっている。「データベースは違法であり、私たちの子供たちへの許し難い攻撃である。全米の母親に対する警告である。国防総省は、イラクへ出征する兵士を充足しようとしており、勧誘されない子供たちが一人もいないようにと環境整備を行っている」(Mothers Against the Draftの副代表)とその本質を批判している。(3-3)

 募集危機が続く中、勧誘担当官は疲れ果てている。精神的疾患に苦しみ、肉体的にも病む者も出てきている。各人に課せられた数値目標を達成するために、ダーティーなやり方がまかり通っている。陸軍による新兵募集における不正に関する調査は、5人に1人に当たる1118件の事件を指摘している。2004年には320ケースであり、1999年の199から2002年の213まで横ばいにとどまっていた。これまでには無かったケースも2例以上も発覚している。「私たちはせかされており、守らなければならない規則を無視している」と現役の担当官は語っている。その他の担当官は、入隊する若者について次のように語っている。「今や陸軍に加わるような奴と言えば、問題を抱えている奴らばかりだ。健康問題、警察沙汰、薬物問題を抱えた奴らさ」と告白している。違法覚悟の勧誘活動がまかり通り、入隊する「兵士の質」は低下する。これが勧誘活動の最前線の実態である。(3-5)

(3-1)「Army recruiting up for June but still down for year」2005/6/29 http://www.usatoday.com/news/nation/2005-06-29-army-recruiting_x.htm
(3-2)「Stealth Recruiting Database by Pentagon Violates Parental Rights and Student Privacy」2005/6/30 http://www.prweb.com/releases/2005/6/prwebxml256487.php
(3-3)「Pentagon Creating Student Database」2005/6/23 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/06/22/AR2005062202305_pf.html
(3-4)「Army National Guard enlists job agency」2005/6/25 http://seattletimes.nwsource.com/html/localnews/2002347968_recruiting25m.html
(3-5)「Oh Baby , It`s Drafty Out There」http://www.alternet.org/story/23308
(3-6)「米陸軍、ゲーマーに期待」2004/05/14 http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000047674,20066603,00.htm



[4]反軍隊運動の新たな形態−−“形を変えた徴兵制度”に反対する反戦運動の相次ぐ誕生

(1)“カウンター・リクルーター”(反入隊勧誘運動)の前進
 以前、私たちは、新たな反戦運動の課題として“カウンター・リクルーター”(反入隊勧誘運動)が誕生していること、この運動が多くの団体を糾合しつつ、反戦運動の一つの勢力となっていることを報告した。
※[シリーズ米軍の危機:その5 新兵募集危機と徴兵制復活の脅威](署名事務局) 
 反新兵募集を主張するスローガン、例えば『Stop the Military Recruiters! We Won't the Corp of the World! 』(軍への勧誘を止めろ!われわれは世界の侵略軍にはならない!)のようなものも散見されるようになっている。反ブッシュ、反戦平和の運動は、新兵募集に一つの焦点を当て、それを前面に掲げ行動を始めている。こうした取り組みはまだ大きな力を持つに至っていないが、泥沼化するイラク占領支配とそれに対して米国民の中に広まる不安、不満の声を吸収する形で、両親や本人たちの軍隊を見る目を厳しくさせ、結果として軍隊への新兵供給を阻止し始めている。ジワジワではあるが、反戦運動そのものがブッシュ政権の侵略政策に打撃を与えはじめているのだ。新兵募集反対運動は、徴兵制反対の運動と結合し、アメリカの反戦運動の新しい決定的に重要な一翼を担うまでになっている。


NO DRAFT, NO WAY! のサイトから
http://www.nodraftnoway.org/


http://www.stopthedraft.com/から
 その後、米国内の反戦運動を調べる中で、想像以上に多くの“カウンター・リクルーター”の取り組みが存在していること、それが“徴兵制復活”に反対する運動と結びつき、若者たち、母親たち、教育関係者たちの広範な運動として、地道な、多様な行動を提起していることを知った。私たちが前回にも紹介した反勧誘活動・反徴兵制復活を掲げる“NO DRAFT , NO WAY!”は、自らが作成した高校生向けの冊子を配布し、各地域における反勧誘活動の取り組みを呼びかけている。また軍隊への勧誘活動に反対することは、反人種差別、経済的不平等と差別への反対、あらゆる抑圧と搾取への反対と結び付くことを強調し、多様な民主的運動との連携を提起している。(4-1)
 “draftfreedom.org”は、「殺人からの自由」「違法な戦争からの自由」等を掲げ、イラク戦争に反対するその他の組織に向けて、徴兵制の動きに反対する取り組みを訴えている。“StopTheDraft .com”は、徴兵制が導入されるまでの時間をカウントダウンすることで、その危機が迫っていることを訴えている。(ちなみに徴兵時計の時刻は11時55分(7月中旬段階))(4-2)(4-3)


(2)様々な形態の“形を変えた徴兵制度”とこれに対する反徴兵制運動
 しかし、記事『Oh Baby , It`s Drafty Out There』の中で鋭く指摘されているように、実質的には徴兵制が存在しているかのごとく兵士が集められ、戦場に送り込まれている実態がある。この側面についても、関心を向けなければならない。

@ 貧困層の徴兵 貧しい若者たちにとって、キャリア獲得のための唯一の道。
A ストップ・ロス・プログラム いわゆる「裏口からの徴兵」。任務期間を終えた兵士たちをさらに24ヶ月も拘束する。
B シニアの徴兵 いったん退役した兵士が現役部隊に呼び戻される。
C 隠された徴兵 金によって雇われる傭兵、民間軍事会社の存在。

 これらの“形を変えた徴兵制度”に対する反対運動の主要なエネルギーはAに向けられている。すでにオレゴン州におけるエミリアーノ・サンティアゴによる訴訟は最高裁まで争われた。しかし結果は敗訴であり、訴えた兵士はアフガンの部隊に戻ることを命じられた。しかし、と『Oh Baby , It`s Drafty Out There』は指摘する。「敗訴であったにもかかわらず、非常に大きな意味を持つ裁判であった。若者たちが入隊を迫られる時、“think twice before signing up for the military”(=入隊の署名をする前にもう一度考えよ!)が、意識されるようになっている」と。そして徴兵制に反対する運動の声を紹介している。「反徴兵制運動は、考えたり、それについて書き物をする段階ではない。闘いに入っているし、学校、キャンパス、社会の軍事化に反対して戦わなければならない」。(Rick Jahnkow「Committee Opposed to Militarism and the Draft」(4-4)

ストップ・ロスと闘う運動、反リクルート活動、学校から軍隊を追放する組織化を進める若者たち、戦争を終わらせ部隊を国に戻す継続した取り組みは、今や共感を広げている。ブッシュ大統領が議会に対して、徴兵制を復活させようと迫ろうとも、そうでないとしても。これら運動は、希望をつなぎ、人命を助けるものである。……これらの運動は、私たちが徴兵制を待ち望んでいないことを明らかにするものである。(『Oh Baby , It`s Drafty Out There』)から(4-4) 

(4-1)「NO DRAFT , NO WAY!ホームページ」 http://www.nodraftnoway.org/
(4-2)「draftfreedom.orgホームページ」 http://www.draftfreedom.org/
(4-3)「StopTheDraft .com ホームページ」 http://www.stopthedraft.com/
(4-4)「Oh Baby , It`s Drafty Out There」 http://www.alternet.org/story/23308
(4-5)「Old Soldiers Back On Duty」July 3, 2005 http://www.cbsnews.com/stories/2005/06/30/60minutes/main705491.shtml