ベネズエラ革命[シリーズその3]
無料医療と識字学級の全国的広がり

「これまでのどの政府も、わしらに
こんなことができるようになんか、してくれたためしがない。」

(識字学級に通い始めた51才の自動車修理工ナウディ・ガルシア)


 シリーズ2で紹介した貧しい地域住民に無料の医療を提供する「バリオ・アデントロ(地域の中へ)」計画は、数々の厳しい困難に直面しながらも、ベネズエラ全土に拡大しつつあります。
 ここで紹介する2004年春の記事では、前回の記事にも登場したベネズエラの青年医師パントーハが再登場し、彼らが達成してきた成果とともに、一足飛びには進まない状況についての苛立ちを語っています。しかしながら、それは、変革を推し進める中での意見の対立やぶつかり合いを通じて、彼のような若々しい情熱をもった人々が、より大きく成長するための経験を積んでいく過程でもあります。

 この記事の後半は、識字学級など教育における画期的な前進についてリアルに伝えています。ここでもキューバからの支援が、人的にも物的(教育資材など)にも大きな役割を果たしています。しかしこの教育の分野では、医療の分野に比べて、ベネズエラ人自身の能動性が顕著に現れています。医療分野ではキューバ人医師が牽引者でありかつ主力部隊ですが、教育分野では主力部隊はベネズエラ人です。ここでは、約10万人のボランティア教師が活躍しています。(医療を含めてキューバ人のボランティアは1万5千人です。)

 貧困や劣悪な生活条件の下で、学校を途中でやめなければならなかった人々のために、初歩的な読み書き計算を学ぶクラス(「ミッション・ロビンソン」)から、ハイスクール卒の資格を得させるクラス(「ミッション・リバス」)、さらに大学への進学を目的とするクラス(「ミッション・スクレ」)まで、大きく3つのプログラムが用意されています。こうした識字学級の運営によって、これまで教育の面でも疎外されてきた数百万の人々が、新たな学びの機会を得ることができるようになりました。彼らが獲得しつつあるのは読み書きの能力だけではありません。それは、自分たちにはより大きな問題に立ち向かう能力があるのだという自信にもつながっているのです。

2004年6月28日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


翻訳紹介:
無料地域クリニック ベネズエラに広がる
全国に広がる識字キャンペーン 400万人が学ぶ成人教室
byアルヒリス・マラパニス(「The Militant」紙記者)
ベネズエラ・アナリシス2004年5月5日(原典:The Militant,Vol68/No.18)
http://www.venezuelanalysis.com/articles.php?artno=1170
http://www.themilitant.com/2004/6818/681856.html


Credit: Martin Sanchez, Venezuelanalysis.com

 バレンシア(ベネズエラ)−−「特に、この州と町は『バリオ・アデントロ』計画のテストケースでした。」と、昨年カラボボ大学医学部を卒業したホエル・パントーハ医師は述べた。パントーハ医師は、3月17日、カラボボ州の工業的中心であり州都であるバレンシアで、「ミリタント」紙の記者に語った。

 「バリオ・アデントロ」、これは大まかに訳せば「地域の真っただ中へ」という意味で、政府が出資しているこのプログラムの名である。そこでは、数千のボランティアのキューバの医師たちが招聘され、労働者と農民たちがほとんどあるいは全く保健医療を受けられなかった国中の労働者街と農村地区で無料の地域クリニックを展開している。これは昨年開始された社会プログラムの一つであり、いまや400万人を包括する全国的規模の識字キャンペーンとともに、キューバからの援助とボランティアを得て全国に広がっている。

 カラボボの州政府とバレンシア市行政部は、1998年にウーゴ・チャベスがベネズエラの大統領に選ばれてからも、親帝国主義的な反対派の手にあった。反対派勢力の連合である「コオルディナドラ・デモクラティカ(民主的調整者委員会)」と「ベネズエラ医療連盟」は、「バリオ・アデントロ」に対して敵意に満ちたキャンペーンを行い、ここに来ているキューバの医師たちは「フィデル・カストロのまわし者」であって、命を救うためにではなく、「貧乏人に共産主義を吹き込むために」やってきたのだと公然と非難した。 

 昨年10月における取材で、パントーハおよび他の数百のベネズエラ人の医師が「ミリタント」紙記者に語ったことによれば、彼らはバレンシアで「バリオ・アデントロ」を彼ら自身の手で始めたのであり、その理由は、地方と州政府が変わらない限り、キューバ人の医師がカラボボに足を踏み入れられるはずもないと思われたからである。2003年末まで、パントーハたちは、地方政府は、キューバ人医師の招聘に許可を出すよう要求していた。
[訳注:反チャベス派に属するカラボボとバレンシアの地方政府が、そのような要求に応ずることはなかった。そこで、チャベス政府は、2003年末に、キューバ人の招聘に地方政府の許可を不要とする法改正を行った。]

 パントーハ医師は、今や1,200人のキューバ人医師がカラボボにおり、彼らの約半分がバレンシアの労働者街にいると述べた。トータルで、10,000人のキューバ人医師が現在この国で働いている。このプログラムが開始されたカラカス市のリベルタドール(解放者)区当局による数値がキューバの報道機関や報告に掲載されたものによれば、、彼らの数は10月以来5倍に増えた。

 カラボボ州における「バリオ・アデントロ」のためのベネズエラ人コーディネーターとして勤務している心的外傷専門医師イラリオ・パドリーノは、彼のバレンシア診療所における3月17日のインタビューで、その数には間違いがないことを確認した。

 反対派の連合体である「民主的調整者委員会」と結びついた勢力によって支配されている8つの州で「バリオ・アデントロ」への障害を突っ切るために、政府は、キューバ人医師によって運営されている全ての地域クリニックが、厚生省の管轄下におけるプライマリー・ケア・センターとなることを宣言したと、パントーハ医師は述べた。その結果、ボランティアのキューバ人医師を招聘するための地方当局による認可は、もはや不必要になった。こうして、「バリオ・アデントロ」は、ほぼ国の隅々にまで行き渡った。「カラボボでの勝利はこのプログラムの普及のための分水嶺でした。」と、彼は述べた。
[訳注:プライマリー・ケアとは患者が最初に接する医療のこと。身近で簡単に診療を受けられ、以後の療養について正確な指導を受けられることが重視される。]

プログラムはどのようにして普及したか

 約250人のキューバ人医師、看護士、医療技術者が、チャベスの大統領選出の直後に来訪し、以来約5年、ベネズエラで勤務してきた。しかし、彼らの存在が爆発的に増えたのは昨年春以来であった。政府は、この時にカラカス市のリベルタドール区で「バリオ・アデントロ」を開始した。カラカス市の区長フレディ・ベルナルは、チャベスに率いられた党、「第五共和国運動」の主要人物の一人である。保健省はまず、ベネズエラ人医師に、政府から支払われる月600ドルの報酬で、労働者地区で生活し、住民のための無料医療サービスを提供する意志を持った者を求めた。応じた者はごくわずかしかいなかった。

 ハバナ(キューバ政府)との協定を通じて、数多くのボランティアのキューバ人医師(そのほとんどは他の国々で国際的なボランティア活動を遂行した経験をもっていた)が、2003年春に来訪し始めた。キューバ人医師は月250ドルの給与を受け取って生活費をまかなっている。彼らは勤務する地区の労働者の家に住み、コミュニティセンターやその他の施設を拠点としてそこからクリニックを展開している。彼らは、キューバから寄贈された多くの医薬品を無料で提供している。午前中に外来専門クリニックで患者の診療をしたのち、午後には、彼らに割り当てられた近隣の住宅を訪れ、予防医療を実施する。「ミリタント」紙のインタビューに答えたベネズエラ人は、ほとんど口を揃えて、このように述べた。キューバ人医師は、たいていのベネズエラ人医師とは違って、住民たちを人間として扱い、時間外、真夜中の診療にでも応えるのだという。(詳細は2003年11月3日「ミリタント」紙記事「ベネズエラにおけるキューバ人医師、無料地域診療所を運営」を参照。)
[訳註:外来専門クリニックとは、予約や紹介状なしで診察を受けることのできるクリニックのこと。]

 この計画の人気が昨年から高まり始めたため、「バリオ・アデントロ」は多くの資本家と上流・中流階級による非難の砲火を浴びた。「ベネズエラ医療連盟」は、キューバ人医師らの医療過誤を非難する虚偽の噂をまき散らし、6月1日にはこの国でのキューバ人医師の活動を禁止すべきだと法廷に訴えた。下級審は「医療連盟」側に有利な裁決を下したが、政府はその判決に対して上訴した。このプログラムへの法的な異議は完全に解決されてはいないが、キューバ人医師は、その模範的な行いによって、そのプログラムへの反共主義宣伝キャンペーンを打ち負かしはじめた。

 同時に、医師たちの身に危険が迫り、場合によってはそれが現実のものとなってしまったこともあった。カラカスの一月二三日地区で働いているキューバ人医師リカルド・ロペスが3月19日のインタビューで述べたところによれば、キューバ人医師の一人が、昨年アラグア州で殺害され、キューバ人医師の助手を務めるベネズエラ人が、カラカス近くのペタレで殺害された。2月にはカラカスの別の近郊で識字学級の推進者であったベネズエラ人もまた彼の車の中で殺害されたと、その地区の労働者たちが述べた。

 チャベス反対派の集会の間中「民主的調整者委員会」の支持者たちの一部によって「愛国者たれ。キューバ人医師を殺せ。」というスローガンが喧伝されていた、と多くの労働者は述べた。

 キューバ人医師のための警備は昨年以来実質的に改善された、とルイス・カサディエゴ氏は述べた。彼は、一月二三日地区のモンテピエダード区でキューバ人医師とともにクリニックを運営するコミュニティセンターのまとめ役である。「そのために、暗殺は少数にとどまっていますが、身体への暴行がベネズエラ人の助手に集中し始めています。」と彼は述べた。

鋭い階級分化

 しかしながら、「バリオ・アデントロ」計画の支援者の中でも、多くの階級矛盾が明らかになってきている。

 ホエル・パントーハ医師によれば、彼自身と、彼がバレンシアで知りあった10人の若い医師が、12月にバレンシアに到着したばかりのキューバ人医師を援助しようとさっそく志願した。「ぼくたちはパドリーノ医師(ベネズエラ人コーディネーター)によってきっぱりと断られました。」「彼は、ぼくたちをトラブルメーカーだと非難したのです。」パントーハと他の若いベネズエラ人医師たちは、選挙によって選ばれた政府を倒そうとする親帝国主義的反対派の経済力に対抗する、もっと徹底的な対策を要求して、都市部で多くの公然たる抗議運動を率いてきた。

 政府は約1年前に「バリオ・アデントロ」を開始した時、最初にベネズエラ人の医師に志願することを呼びかけた。この時志願したのは、全国で約50人だった。

 3月19日のインタビューで、パドリーノ医師は、昨年12月以来バレンシアに65人のベネズエラ人医師がやって来たことを認めた。「しかし、彼らはキューバ人医師たちが積んできたような訓練を受けていないのです。」「とりわけこの地域の労働者階級に奉仕し、そこで生活するための訓練を。」これらの医師たちへの再訓練プログラムは確立さています、とパドリーノ医師は付け加えた。「彼らは『バリオ・アデントロ』に登録するためには、医療と社会関係の追加的な課程を仕上げる登録をした方がいいでしょう。」

 国内の多くの地区で、「バリオ・アデントロ」は、パドリーノ医師のようなベネズエラ人コーディネーターの手の内にある、とパントーハ医師は述べた。それでもともかく、パドリーノ医師とそのグループは、キューバ人医師との協働関係を発展させてきたし、キューバ人医師が診療する多くのクリニックを援助してきた、とパントーハ医師は付け加えた。「ぼくたちはパドリーノ医師が設置した課程にも登録しましたよ。支障をなくすためにもね。」と彼は述べた。

 ベネズエラにおける目標は、キューバの医療システム、つまり全ての人々の権利としての無料の医療ケアの提供とビジネスとしての医療の排除を見習うことか、と尋ねられて、パドリーノ医師は、「正確には違います。」と答えた。

 「私たちの目的は貧困者にヘルス・ケアを提供することです。しかし、財産を持ち、個人クリニックに行きたがる人々はそれが可能であるままであるべきです。」とパドリーノ医師は述べた。

 パドリーノ医師自身、バレンシアにおける大きな個人クリニックのオーナーなのである。

 「これは、ぼく及びぼくと協力している他の医師たちが、親チャベス陣営の内部で闘っている事柄なのです。」と、パントーハ医師は述べた。パントーハによれば、彼らが主導している地域の政治グループ「エル・シマロン」は、今では次のような結論に達した。ベネズエラで必要とされているのはキューバのような保健医療システムであり、「それを実現するためには社会革命が必要である」ということである。

 パントーハ医師の指摘するところでは、今日ベネズエラにおいて遂行されている社会的プログラムの多くは、表面的には、キューバのそれと同じように見えるであろう。しかし、それらは、労働者階級が権力を握った国においてと、資本家の政府によって運営されている場合とでは、異なった階級的内容と原動力を持っているのである。

内実を拡大する「バリオ・アデントロ」

 これらの内部矛盾にも関わらず、「バリオ・アデントロ」は、今やボランティア医師の数と地理的な地域においてだけでなく、その内実においても広がっている。カラカスの一月二三日地区で、「ミリタント」紙の記者は、この地域のそれぞれの街区に建設されたいくつかの新しい「モジュール[訳注:母船から独立して活動できる宇宙船をイメージしたもの]」を訪問した。「38のモジュールが建設中です。」と、1500万の人口を抱えた近郊の町で、カサディエゴ氏は述べた。「二つはちょうど先週、落成式をしたところですよ。」
 
 これらは二階建てである。一階は、外来専門クリニックで、その上には二人の医師が快適に宿泊できる小さなアパートになっている。このモジュールは政府の資金で建設されていて、キューバ人ボランティアのためのよりよい施設を提供することになるだろう。これまで、全てのキューバ人医師は、これらの近隣地区で、彼らの受け入れを申し出た人々の家で暮らしていたのである。

 今年の開設をめざして建設が計画された大衆向けのクリニックは、キューバ人医師に運営されるモジュールで提供されるプライマリー・ケアを大きく拡大することになるだろう、とカサディエゴ氏は語った。それらは近代的な設備をもち、様々な医療技術を専門とする多くの医者を勤務させ、小さな領域の外科や歯科やその他のサービスを提供することができる。「これらのクリニックは国営のアンブラトリオス[外来専門病院]にとって代わることになるでしょう。」と、カサディエゴ氏は述べた。彼は、かつての政権の下で建設された外来専門のクリニックが、労働者階級の住む近隣地区のほとんどで機能停止に陥っていたことにも言及した。「大衆向けのクリニックは、所得にかかわりなく、全員に無料の医療を提供することになるでしょう。」と、彼は述べた。

 パントーハ医師は、バレンシアで革命的心情を持ったベネズエラ人医師たちが直面した「バリオ・アデントロ」の初めのころの難問からすれば、これがどううまく機能するかについては懐疑的であると述べた。

 「しかし、このことは確かです。」パントーハ医師は付け加えて述べた。「『バリオ・アデントロ』のインパクトは、今や、国中で感じられ、たいていの都市部の中心地で感じられます。ここ10年で初めて、多くの大病院の救急病棟における混雑した長い列は緩和し始めました。」これは計測しうる統計上の衝撃であり、我々は、カラカス、バレンシア、その他の場所で多くのベネズエラ人医師やその他の人々から、その話を聞いた。

 この2年間、全国でキューバ人ボランティアの活動が拡大・普及し、また、キューバの大学に三ヶ月の短期留学をするベネズエラ人学生の数が増大した結果として、以前2002年にベネズエラで「ミリタント」紙が取材旅行をしたときに目立っていた反共主義とキューバ革命に対する偏見とが、著しく減少していることは明白である。

「住民の半分が学習している」

 全国で約15,000人を数えるキューバ人ボランティアは、農業専門家や体育教師を含み、またベネズエラ人に識字を獲得するのに最も効果的な諸方策を教える訓練士を含んでいる。

 3月19日の夕方、15人ほどの“学生”が「ミッション・リバス」学級に参加した。その学級は、カラカスの繁華街を見下ろす丘の上にある一月二三日地区のシエラ・マエストラ区にある。全員が労働者である。最年長は54才のデウスデディット・パラシオス、自動車修理工である。最年少は23才のグラクソ・オレリャーナで、料理人をしている。“学生”のほとんどは女性である。例えば、25才のマルバーニ・カスティーリョ、彼女には3人の子供があり、失業中である。40才のエリダ・リエンドは、元縫い子であったが、縫製の仕事を失ったのち、今は自宅で近隣の人々を相手に洗濯屋をしている。

 「ミッション・リバス」は、二番目に大きな識字プログラムであり、国中でキノコのように急成長を遂げている。その目的は、数学、地理、文法、第二言語としての英語を、ハイスクールを卒業しなかった成人に教えることである。6ヶ月の予備コースののち、基本的なテストに合格した学生は、プログラムの最終段階に進む。それは2年間続く授業で、平日の夕方6時から9時まで行われる。これは、全ての者に、公的な学校で学ぶ半分の時間でハイスクール卒の資格を得させることを目的にしている。3月20日にカラカスの親政府派の集会で発表された政府の統計によれば、現時点で140万人がこのプログラムに登録している。

 「ミッション・リバス」に先行する、「ミッション・ロビンソン」の目的は、読み書きのできない150万人の人々に、読み書き計算を教えることである。これはこの国の2400万人の人口のうち、成人の約12%にあたる。識字学級は、約十万人のボランティアによって教えられている。そのほとんどが大学生である。キューバ政府は、これらの授業で使用される、100万以上のテレビ、ビデオ、老眼鏡、マニュアルを寄贈した。先住民カリニャ・インディアンの住むアンソアーテギ州のマピリクレ村(「ミリタント」記者は3月24日にそこを訪れた。)のような場合には、キューバのボランティアが、識字マニュアルをその土地の言語への翻訳を組織している。「ミッション・ロビンソン」の最初の段階は3ヶ月続き、その間に“学生”はアルファベットと基礎的な計算を習う。「ミッション・ロビンソン」の第二段階は6ヶ月続く。このプログラムが昨年7月に、キューバからの実際的な援助とボランティア訓練士を得て開始されて以来、およそ100万人の人々がその過程を終えた。かなりの数の卒業生が「ミッション・リバス」の段階に移っている。

 「ミッション・スクレ」、約1年間続くこのプログラムは、ハイスクール卒の資格者を大学や職業専門学校に入学させることを目的としている。

 3月19日にシエラ・マエストラの「ミッション・リバス」学級にいた労働者たちは、誰も「ミッション・ロビンソン」学級に通う必要はなかった。全員が小学校は終えたが、その後落ちこぼれたり、次の段階の教育を1年か2年受けただけだったりしてきた、と彼らは述べていた。

 「わたしは14才の時に妊娠しちゃったの。そんなわけで、ハイスクールをやめちゃった。」とマルバーニ・カスティーリョは述べた。「今、わたしには3人の子どもがいるわ。でも、家に閉じこもっていたくないと決めたのよ。」他にも多くの女性労働者が同じ理由で若年のうちに学校を離れている。

 「わしは今これができるんだっていう気になったんだよ。なぜって、わしが住んでるところのすぐそばの角を曲がったところで、授業をしているんだからね。」と51才の自動車修理工ナウディ・ガルシアは述べた。「これまでのどんな政府も、わしらにこんなことができるようになんか、してくれたためしがない。」

 インタビューを受けたほとんどの労働者たちは、彼らの地区から歩いていけるところで識字学級があるとまったく違う、と述べた。

 彼らの中には、いよいよ自信をつけ、希望を高く持つようになった者もいる。「わたしは、このコースを終えたら、『ミッション・スクレ』に行くつもりよ。それから医学部に入って、医者になるつもり。」元縫い子のエリダ・リエンドは述べた。「わたしは40だけどそんなこと気にしない。誰が何と言おうと気にしないわ。」

 “学生”たちはみんな、彼らの教師ライサ・ペーニャを賞賛した。「先生はわたしたちに語りかけ、一見難しく見えるような物事を、わたしたちが理解できるように手助けしてくれるわ。先生は昼間の仕事があるんだけど、毎日ここに来てくれるの。先生はこの仕事にやる気満々なのよ。」とイェニー・パラシオスは述べた。

 ぺーニャは、ハイスクールで正規の職に就いており、夕方の授業はボランティアで行っていると言う。特に、彼女もまたこの地区に住んでいるのでうまくいっている。多くの小学校やハイスクールの教師もこんなふうにやっているし、大学生やその他、ボランティアでやっている人はみな、このようにやっている、と彼女は述べた。

 昨年「ミッション・ロビンソン」学級で教えることを志願した学生は、当初から一ヶ月およそ80ドルの報酬を約束されていた。しかしながら、それは規則的に支払われないことも多かったので、数千人が脱落し、昨年秋から開始されたプログラムの第二段階に志願しなかった。「ミリタント」記者の昨年の10月のインタビューで、そう語った者もいた。しかし、政府統計によれば、7万人以上の大多数は、まさにボランティア精神で、クラスを教え続けた。

 政府は最近「ミッション・リバス」のクラスの推進者に少額の手当を与えるとアナウンスした。「わたしはそれを断ろうとは思わないわ。でも、それが、わたしがこのことをやり続ける理由ではないわ。近所の人たちが技術を向上させるお手伝いができるのは、わたしにとって名誉なことなのよ。」とペーニャは述べた。

 平日の夜およそ9時まで、一月二三日地区のような労働者街の家庭の多くは、空っぽか半ば空っぽになる。「今やこんなジョークもあるんだよ。平日に近隣地区で会合を開こうったって、ほとんどできやしない。だって、識字学級をやっているんだから。」と大学生イビス・ピーノは述べた。彼の母親も、その夜、別の「ミッション・リバス」に出席していたのである。「この国の人口のほとんど半分が今では勉強しているんだ。」

 400万人ほどの人々が今や国内の、この三つの主要な識字プログラムに登録している。公的もしくは他の通常の学校に通っている者を含めると、その数は1000万を超えると、我々は聞いた。

 「識字学級とキューバ人の医者なんかじゃ、おれたちの目の前にある根本的な経済問題は解決できないね。」と、一月二三日地区のシエラ・マエストラ区に住むトラック運転手、ホセ・ランディネスは言った。「けれど、おれたちはなんだかいい雰囲気になってきたよ。自信もついてきた。おれたちがこの状況を変えられるんだっていう自信がね。」