[2006年度ブッシュ予算教書の分析]
ブッシュの軍事予算:真の実態、急膨張構造、財政赤字急増の主因、社会的諸矛盾
−−イラク戦争とブッシュの戦争政策最大の障害に浮上する歯止めなき米軍事費−−


【1】はじめに−−第二期ブッシュ政権の歯止めなき軍事費急増が生み出す諸矛盾。

(1) 早くも予算の分捕り合戦。ブッシュ軍国主義の物質的基盤を急速に掘り崩しつつある歯止めなきブッシュ軍事費。
 今年2月7日に、米国2006年度(2005年10月1日〜2006年9月30日)予算教書が発表された。これは、1月の就任演説および2月2日の一般教書で示された第二期ブッシュ政権の内外政策と軍事外交戦略を集中的に表現するものである。
 就任演説での異様なほどの「自由の拡大」の連発、一般教書での「悪の枢軸」に代わる「専制の拠点の打倒」等、ブッシュ政権の軍事外交戦略は第一期と基本的に変わらない。単独行動主義も先制攻撃戦略も何ら変更はない。要するに、帝国主義的戦争政策である。予算教書は、それをカネの面ではっきりと裏付けるものである。

 来年度軍事費は「聖域」とはいえ、限られた予算の中で分捕り合いも始まっている。占領体制の泥沼化の中で地上部隊の訓練・装備費の予定外の出費に右往左往し、急増するイラク・アフガン戦費を捻出するために、ミサイル防衛システム(MD)や次期主力戦闘機FA22などの予算を減額するというものである。陸軍の通常予算に「特殊部隊」創設費用を追加する動きもある。軍事戦略そのものを揺るがすところまでには至っていないが、余裕がなくなってきているのも確かである。

 ブッシュ政権になってからの財政的バラまきは、急速な財政悪化をもたらしてきた。富裕層優遇の「ブッシュ減税」と軍産複合体への「くれてやり」が主たる原因であるが、9.11以降はアフガン戦争、イラク戦争と、軍事費の急増に歯止めが掛からなくなっている。それに伴って、財政赤字は歯止めなく膨張していこうとしている。ブッシュの帝国主義的戦争政策がアメリカの国家財政を破綻へ導こうとしている。ブッシュ軍国主義の歯止めのないエスカレーションがブッシュ軍国主義そのものの物質的基盤を急速に浸食し掘り崩しつつあるのである。


(2) 米景気後退、世界経済の危機と「対外不均衡」、ドル危機再燃の主因の一つに浮上する米軍事費の急膨張。
 ブッシュ政権の財政赤字予想は、2005年度に 4,270億ドル、2006年度には 3,900億ドル、2015年度までの10年間で 2兆5,810億ドルとなっている。この予想そのものが、アフガン・イラク戦費をはじめとする幾つもの項目を除外しているので過小に見積もられているのであるが(詳しくは後述)、それにしても莫大な額である。2006年度の予算要求総額が 2兆5,700億ドルだから、今後10年で1年間の予算総額に相当する赤字を見込んでいることになる(実際には除外されたものを加えるとおよそその2倍の5兆ドルと見積もられる!)。

 米の軍事費の膨張と財政赤字の急拡大は、歴史的な急膨張を続ける経常赤字とともに基軸通貨ドルの信認の動揺への、また金利急騰とバブル経済崩壊への、そしてそれを通じた米の景気後退と経済危機爆発への懸念を高めている。ブッシュの歯止めなき軍事費膨張は、世界経済と世界景気の危機と不安定を引き起こす最大の対外不均衡要因=「双子の赤字」の最大の原因の一つとなっているのである。グリーンスパンFRB議長も2月2日の下院予算委員会での証言で、「財政赤字の大規模な削減措置が必要だ。財政状況が今後数年間に大幅に改善されることはないが政府の歳出カットなどによる財政規律策をとるべきだ」との認識を示した。(3月10日にも改めて「双子の赤字」が長期金利を急騰させバブル崩壊とトリプル安からリセッションへという危険を示唆した。)

 ブッシュ政権は、一方では、表向きはこうした危機爆発への危機感から「財政赤字削減」を打ち出さざるを得なくなっている。昨秋10月半ばからドル相場は下落基調を強め始め、基軸通貨ドルの信認は動揺し始めた。ブッシュ再選が確実になったからである。国際金融・通貨市場は、ブッシュ再選=イラク戦争の泥沼化=更なる戦争の拡大=軍事費の更なる膨張=「双子の赤字」の深刻化と見なし、ドルを売り浴びせた。ドルを準備通貨としてきたロシア、中東諸国、果てはこれまで米国債を積極的に購入してきた中国・韓国などアジア諸国に至るまで、一斉に準備通貨をユーロに切り替える動きを見せ始めた。大統領選後ブッシュ政権は、こうしたドル危機の再燃に懸念を示し、年末から年初にかけて、膨張する財政赤字への懸念の高まりを鎮静化するために、軍事費までも含めた「削減」が演出された。

 しかし他方では、ブッシュ政権もFRBとグリーンスパンも、表向きの危機感とは裏腹に、繰り返し「双子の赤字」、財政赤字や経常収支赤字の爆発についての「楽観論」を吹聴し真剣な対応を取ろうとはしていない。 後に詳述するように、「軍事費削減」はパフォーマンスであり全くのごまかしにすぎないことが分かった。福祉・民生関連予算は、ごまかしではなくまともに削減されていくのだが、軍事費は「削減」の印象だけを広く内外に広めたにすぎない。実際には、「国防」予算が突出し、事実上の「聖域」扱いなのである。


(3) ブッシュ軍事費急増に手を貸し共犯者となる民主党。軍事費急増と民生関連予算削減が労働者・人民の生活を直撃。
 大統領選に敗北した民主党は、即座に手の平を返すようにブッシュに協力し始め、補正予算にも賛成している。この4月21日には、総額819億ドルにのぼる2005年度補正予算を民主党の支持のもと可決承認した。下院も3月16日にすでに可決しており、両院の間で調整された後、5月第一週にも執行される見通しだという。もともと民主党は「対テロ戦争」にもアフガン・イラク戦争にも賛成であったが、ここまでの放漫財政を反対や抵抗もないまま放置することは異常である。何の紛糾もなしに今回の補正予算がすんなり通過した現状を見るならば、議会レベル、政党レベルでは、もはや軍事費と財政赤字の膨張をストップする手立てはない。結局は、鉄の経済法則に基づいて財政危機の爆発に向かって突き進んでいるのである。

 戦前のあの世界大恐慌後の1930年代に構築され、戦前戦後を通じて米国の政治経済社会の枠組み全体を形作り、民主党を支えてきた「ニューディール連合」が崩壊しようとしている。共和党内部での右派と穏健派との亀裂の深まりとともに、米国の従来の二大政党制が揺らいでいる。軍事費と財政赤字の歯止めなき膨張は、既存の米国政治経済体制の枠内ではもはや押しとどめることができない状況となっている。

 国内では、福祉・民生関連予算の大幅カットが「裁量的支出」の領域からはじまり、「義務的支出」の公的年金や公的医療制度にまで及ぼうとしている。その犠牲は下層の人民大衆に押しつけられる。福祉・民生関連予算の大幅削減は、労働者・人民の生活を直撃することによって、国内の諸矛盾を激化させずにはおかないだろう。広範な人々の生活防衛の闘いが、軍事費削減要求と直接的に結びつき、日々の生活のための闘いが反戦平和運動とますます結びついていくにちがいない。

 この5月7日には、ANSWER連合を中心として全国的な反戦集会・デモが呼びかけられているが、そのメイン・スローガンは、「社会保障に手をつけるな! 予算カットをやめろ! イラク戦争にではなく、人民のニーズに金を回せ!」である。どこまで矛盾を蔽い隠して欺き続けることができるか、もはや時間の問題となっている。国際社会においては、ドルに対する信認をいつまでつなぎとめておくことができるか、これも時間の問題である。いつ、どんな形で、これまで蓄積されてきている諸矛盾が爆発するかが分からないだけである。
 ブッシュによる終わりの見えないイラク戦争、世界中の米の言いなりにならない弱小政権転覆を狙う「不安定化」戦略、どこまで広がるか分からない戦争拡大政策は、歯止めなき軍事費、歯止めなき財政赤字の膨張を通じて内外の様々な諸矛盾を生み出し、アメリカの帝国主義的軍国主義とその物質的基礎を根底から揺さぶる時を、不可避的必然的に招来するだろう。

2005年5月5日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局

(5月8日数値、字句の一部訂正)



【2】2006年度予算における軍事費の概要――隠された軍事費を含めると“広義の軍事費”は何と9400億ドル、公表の2.24倍に。

(1) “広義の軍事費”は国防総省予算の2倍、約8,400億ドル。
 2006年度予算教書は、「レーガン政権以来の厳しい歳出抑制」であるとか、「現政権が提出する最も厳しい緊縮予算」などと喧伝されている。「国防費も抑制された」ということが政府によって強調され、マスメディアもそれをそのまま垂れ流しているが、「国防費の突出とそれ以外の厳しい抑制」というのが実態に見合った形容である。国防総省予算は、実際のところは、「財政赤字削減」のための「緊縮予算」を演出しなければならかったために、当初予定の増加幅を多少切り縮めたにすぎない。
 予算要求総額は 2兆5,700億ドルである。うち、国防総省予算は 4,190億ドル(総額の約16%)、対前年度比 4.8%増(05年度は4%増)である。国防総省以外では、国土安全保障省予算が 320億ドル、対前年度比 3.2%増であるが、それ以外の諸省の部分は 0.1%減である。軍事費だけが聖域扱いで突出していることがわかる。

2006年度予算 義務的支出と裁量的支出

外務省のHPより。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/eco_tusho/us_2006.html

※外務省「2006年度予算教書(概要)」によれば、住宅都市開発省 11.5%減、農務省 9.6%減、運輸省 6.7%減、環境省 5.6%減、教育省 0.9%減などとなっている。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/eco_tusho/us_2006.html

 だが、軍事費の本当のレベルは、国防総省予算だけで論じることはできない。それは軍事費の真の実態を極度に狭くかつ低く表現しているのである。国防総省予算が軍事費の主要なもの、中心をなすものであることは間違いないが、それは米国の軍事費のおよそ半分であって、あとの半分はさまざまな名目でさまざまな省に分散しているのである。その主なものとしては次のようなものがある。

−−核弾頭経費はエネルギー省の管轄である。
−−国務省に対外軍事援助などの防衛関連諸活動がある。
−−退役軍人省が軍人恩給などの給付金を支給している。
−−国土安全保障省に沿岸警備隊の活動などを含む防衛関連諸活動がある。

 これらを総合すると軍事費はおよそ国防総省予算の2倍、8,400億ドルぐらい、従って予算総額の約33%にものぼることになる。だが、これでもまだ実際の軍事費のすべてではない。ここには、イラク・アフガニスタン戦費が含まれていないのである。
※参照:「ブッシュの新国防予算 Bush's New Defense Budget」2005.2.14 ロバート・ヒッグス Robert Higgs(後に翻訳添付)

(2) 年間900〜1000億ドルにも達するイラク・アフガン戦費を含まない詐欺的なごまかし。更に膨らむ“広義の軍事費”。
 イラク・アフガニスタンの戦費には、別立ての補正予算が組まれている。イラクとアフガニスタンでの米軍駐留経費は、現在、月々約50億ドル、年間にして約600億ドルぐらいとされるが、実際にはもっと大きいと考えられる。(最近の動向を見ても、イラク駐留軍が13.8万人から15万人に増員され、ここ2年間は減らせないとしていることに加え、さらに石油高騰や劣悪装備の改善などで経費がかさんでいる。)過去3年の実績では、年間約900億ドルのレベルである。

  補正追加予算の内訳と総額 (億ドル)


 3カ年合計は 2,730億ドル、年平均 910億ドルである。直近の2月の補正予算要求では、約820億ドルのうち750億ドルが国防総省へ配分されるとされている。
 2006年度以降も戦費は補正予算で調達する予定になっている。したがって、予算教書には、イラク・アフガニスタン戦費は当然のこととして含まれていない。もし、仮に1000億ドルが追加されるとすれば、広義の軍事費8400+1000=9400億ドル、これを加えた予算総額の35.2%に膨れ上がる。

 議会予算局(CBO)は、段階的撤退を前提にして、イラク・アフガン駐留経費を今後10年で 4,180億ドルと見積もっている。年平均 418億ドルである。だがこれは、来年度以降数年間の補正予算額の動向を示すものでは全くない。ブッシュの戦争が始まって以来、年々補正予算は膨らみ続けている(03年度 785億ドルから05年度 1,069億ドルへ)。現在のイラク情勢からしても、大幅に縮小することなど考えられない。

 そしてもうひとつ、今後補正予算がいっそう膨らむと予想される事情がある。それは、後で詳しく触れる「財政赤字削減策」とのからみである。2006年度予算教書発表の前後に、政府は軍事費にまで手をつけて財政赤字を削減しようとしている、という印象を内外に与える一大キャンペーンが行われた。しかしその中身は、ほとんど実質に乏しいものであった。それでも全く中身がないというわけにはいかないので、いくつか象徴的に実際に削減されるものもある。軍事専門家や関係者の間では、それらは後に補正予算で埋め合わされると考えられているのである。
※参照:『世界週報』2005.3.15「実際は増加を続ける米国防予算」江畑謙介

 ここで指摘しておかなければならないことは、米国の予算についての情報は非常に錯綜していてわかりにくいということである。この方面の真摯で誠実な研究者であるロバート・ヒッグス(後に2006年度予算教書についての彼の分析を翻訳添付)も指摘しているのであるが、政府が提示している統計数値に矛盾があったり、当初予算と実績とで含まれる対象に異同があったり、政府機関としての米国行政管理予算局(OMB:Office of Management and Budget)と米議会予算局(CBO:Congress Buget Office)とで数値が異なっていたり、とにかく分かりにくいのである。その分かりにくい数値を、さまざまな研究者や報道機関がそれぞれ勝手に加工したりするので、余計に混乱した事態になっている。おそらくは、政府・当局者たちはそれで良しとしているのではないかと思われる。国民にとっては一般的な印象だけが問題で、詳細はどうでもいいという状況になっていることが、彼らには好都合なのである。政府としては、翼賛メディアを通じて国民に好印象さえ与えればいいのである。そういう状況の中で、はっきりと確認できる数値で明瞭な認識を確立することが重要なのである。



【3】財政赤字急拡大の最大の原動力としての軍事費の急膨張。

(1) 第一期ブッシュ政権の4年間に黒字から赤字へ5,550億ドルも劇的に悪化。4年間の累積額は何と1兆5,000億ドル。
 米国の財政赤字は、ブッシュ政権になる前には、1992年度に記録した 2,900億ドルが過去最大の赤字であった。これは、80年代のレーガン政権から大幅な赤字が10年以上続く中で記録されたものであった。それ以降、クリントン政権は財政赤字縮小に取り組み、98年度には 690億ドルの黒字を達成し、2000年度には 2,360億ドルの黒字となった。2001年度には,ITバブルの崩壊による経済成長の急減速によって、黒字幅は 1,280億ドルに縮小した。ここまでがクリントン政権の結果である。その後、ブッシュ政権になってからは、赤字へと再転換しただけでなく、赤字幅の急膨張が驚くほどのハイテンポで進んだ。

 2000年度 : 2,360億ドルの黒字
 2001年度 : 1,280億ドルの黒字
 2002年度 : 1,580億ドルの赤字
 2003年度 : 3,770億ドルの赤字
 2004年度 : 4,120億ドルの赤字
 2005年度 : 4,270億ドルの赤字予想
 2006年度 : 3,900億ドルの赤字予想(ただしイラク戦費等未計上)



※このグラフを見れば以下のことが一目瞭然である。
@2000年度の財政黒字2362億ドルから、たった4年で財政赤字4121億ドルへの、すなわち6500億ドルもの落差を伴う劇的な赤字転換。
A2004年度の財政赤字の絶対額は、これまで最大だった1992年の2903億ドルを4割以上も上回る。
B財政赤字の対GDP比率は、1983年度が6.0%と戦後最悪だが、2004年度は3.6%にまで達している。
※米議会予算局(CBO)および米国行政管理予算局(OMB)の資料より作成
http://www.cbo.gov/showdoc.cfm?index=1821&sequence=0
http://www.whitehouse.gov/omb/


 第一期ブッシュ政権の4年間に 1,280億ドルの黒字から 4,270億ドルの赤字へと、単年度のレベルとして5,550億ドルも悪化したことになる。文字通り劇的な悪化だ。4年間の累積額としては 1兆5,000億ドルにも達する。2006年度の予算要求総額が 2兆5,700億ドルだから、1年間の予算総額の約6割にものぼる額を4年間にバラまいたことになる。
 この動向がさらに持続すれば世界経済の激変の引き金を引くことになる、という懸念が全世界的に高まった。その激変がどのようなものになるかは誰にも予測がつかないが、ただでは済まないことは誰にも分かる。だが、どこまで赤字が拡大しても大丈夫なのか、これも誰にも予測はつかない。少なくともブッシュ政権は、額の上で過去最大を更新し続けていても、対GDP比はまだ過去最大を更新していないということでタカをくくっている。(1960年代以降で対GDP比での最大は、レーガン政権時1983年度の 6.0%で、これまで額で最大だった92年度は 4.7%、04年度は 3.6%。)しかし、事態がこのまま進めば、何らかの破綻がおとずれるのは必至である。


(2) 財政赤字急膨張の主因は軍事費の歯止めなき急膨張。
 これほど急速な財政悪化の原因は、主に3つある。ブッシュ政権発足当初は、1)と2)が主な要因であったが、次第に、3)が主たるものになり始め、それが加速している。
1)ITバブル崩壊による2000年からの急速な経済減速による税収減。
2)それに対処するための大幅な減税。
3)「対テロ戦争」を口実にした軍事費の急膨張。

 2001年度予算は2000年10月1日から2001年9月30日までの予算で、クリントン政権の最後の年に確定していたものである。それが、史上最長を謳歌した経済成長の急減速で、財政黒字幅を前年度の 2,360億ドルから 1,280億ドルまで急減させていた。その後、2002年度(2001年10月1日 〜 )からのブッシュ政権の放漫財政が始まる。税収が減少した上に、経済悪化に歯止めをかけるための大盤振る舞い、「ブッシュ減税」による大企業と富裕層への優遇税制と軍産複合体への「くれてやり」および石油・エネルギー関連部門への優遇策などによって、財政は 1,280億ドルの黒字から 1,580億ドルの赤字へと一挙に悪化した。さらにアフガン戦争、イラク戦争を通じて、歯止めなき軍事費の拡大によって財政赤字も急膨張し、過去最大レベルを更新し続けている。

 税収減は2004年度に回復し、減税要因による財政悪化も04年度がピークで減少し始めているとされる。にもかかわらず財政赤字はいっそう膨張しようとしている。04年度赤字 4,120億ドル、05年度政府予想 4,270億ドル。06年度政府予想は 3,900億ドルであるが、イラク・アフガニスタン戦費や、年金改革、恒久減税経費などが未計上である。イラク・アフガニスタン戦費は、議会予算局の過小な見積もりでさえ駐留経費が年間400〜500億ドル、過去3年間の補正予算実績からすれば 900億ドル、現状と今後の動向からすれば 1,000億ドル以上と考えられる。2002年度から年々膨張し続けている軍事費の増大が財政赤字の主役になって、それに歯止めがかからなくなってきているのである。


(3) ベトナム戦争のほぼ半分にまで達したイラク・アフガン戦費。
 イラク・アフガニスタン戦費は、補正予算の累計で見れば 2,730億ドルである。米議会調査サービスは、9.11以降で累積 3,080億ドルとしている。対イラク開戦前に前大統領経済政策担当補佐官ローレンス・リンゼーが 1,000 〜 2,000億ドルと予測し、ホワイトハウスの予算長官ダニエルはこれを高すぎると批判して 500 〜 600億ドルと見積もっていたが、現実はすでにこれらの予測をはるかに超えてしまった。これを過去の戦争と比較するとどうなるか。ベトナム戦争の費用が現在価格で 6,230億ドル(議会予算局)、あるいは 5,840億ドル(議会調査局)、また朝鮮戦争の費用は3,500億ドル(商務省)、第一次湾岸戦争は 761億ドル(エール大学ノードハウス教授)と計算されている。したがって、イラク・アフガニスタン戦争はすでに、第一次湾岸戦争の4倍のレベルになり、朝鮮戦争に迫り、ベトナム戦争のほぼ半分に匹敵するまでになっている。しかも現在なお泥沼状態にあり、終結の展望は何ら見えていないのである。



【4】ドル危機の爆発の危険、金利急騰とリセッションを避けるための「財政赤字削減」の演出――軍事費の膨張は維持、福祉・民生関連は大幅削減

(1) 「財政赤字削減」の三文芝居。軍事費は増額、それ以外の福祉・民生関連は削減。
 昨年末から、政府と大手マスメディアが一体となった「財政赤字削減」の大々的キャンペーンがはじまった。「09年度には財政赤字を半減させる」という大統領選での選挙公約を実現するための緊縮予算が組まれると喧伝された。そこでは、MD(ミサイル防衛)予算まで削減対象となり、国防総省も削減を申し出たとされる。だが、メディアの見出しに躍った言葉とは裏腹に、発表された予算教書の内容には、2つの正反対の傾向が顕著にあらわれている。一方での軍事費の膨張の持続と、他方での福祉・民生関連予算の大幅削減である。

 政府は、2005年度の財政赤字を 4,270億ドルと予想したうえで、09年度には04年度当初見込み赤字額 5,210億ドルに対して「半減」させるとしている。つまり赤字を 2,600億ドルのレベルに縮小するということである。赤字削減を大きく見せようとして「半減」というところに焦点を当てているのだが、要するに、ブッシュ政権第一期の最終年度である05年度の予想赤字額が 4,270億ドルだから、そこから第二期の最終年度09年度までの4年間で、赤字を 1,670億ドル以上縮小させて 2,600億ドル以下にすれば「半減」ということになるのである。政府の09年度赤字見込みは 2,330億ドルとなっているので、ブッシュ政権第二期の4年間で 1,940億ドル赤字幅を縮小させるとしているのである。

 そのために、国防総省予算の削減まで含めてさまざまな歳出削減が提案され、「150の事業を廃止・縮小」したと誇示されている。しかし、軍事費の削減提案はほとんどが将来の話で、その時になればどうとでもなるという意味で関係者の間では「out(埒外)」のことだとされている。しかし他方、福祉・民生関連の方は、2006〜2010年度の5年間で 2,140億ドル削減するという具体的な提案なのである。「財政赤字半減」というセンセーショナルな見せかけの中身は、軍事費以外の福祉・民生関連での削減なのである。軍事費の方は言葉だけ、イメージだけで、実際にはほとんど削減されない。逆に増額さえされる。政府にとっては、軍事費の膨張をも抑制しようとしたという、一般大衆受けする見せかけだけが重要なのである。「ニューヨーク・タイムズ」や「ウォールストリート・ジャーナル」などでは、国防総省が財布のひもを引き締め、防衛予算が削減されるという見出しが躍った。しかし、実効ある形で即座に削減されるものはほとんどなく、すべてが政治的茶番であった。内情に精通している者にとっては、実際に削減されるのは軍事費以外であるということは分かっていたのである。
※参照:「ブッシュの新国防予算 Bush's New Defense Budget」2005.2.14 ロバート・ヒッグス Robert Higgs(後に翻訳添付)

 政府は、このような見せかけと中身の違いを関係各方面が詳しく吟味できるように、早めに(1月3日)予算教書の内容をリークした。そのことで教書発表時(2月7日)には、軍や軍需産業、議員などには、たいして衝撃は走らなかったのである。実際に削減が予定されているものがいくつかはあるが、それもさほど大きいものではなく、別立ての戦費特別予算で十分補われると予想されているのである。
※「2月7日に発表された米予算教書では、財政赤字削減策の一環として、国防予算支出計画の大幅な削減案が盛り込まれていたにもかかわらず、米軍や防衛産業界にはそれほど大きな衝撃は走らなかった。これには理由がある。ブッシュ政権2期目の国防予算支出計画を事前にリークする方法により、衝撃の緩和を狙うと同時に、その内容を精査させる時間を与えることによって、実際にはそれほど大きな削減ではない、ないしは将来、削減を取り戻せる可能性を周知させるという戦術が功を奏したためであろう。実際、2006年度から11年度までの国防予算支出計画は、予算金額では増加が続く。」(『世界週報』2005.3.15「実際は増加を続ける米国防予算」江畑謙介)


(2) 福祉・民生関連予算は大幅切り捨て。公的医療制度改悪による大幅な支出削減。
 軍事費の膨張が維持される一方で、福祉・民生関連予算は大幅に切り捨てられようとしている。2006〜2010年度の5年間で 2,140億ドルの削減が予定されているのである。予算教書で示された06年度での削減提案をもとに2010年度までの削減を具体的に試算した研究が、民間の超党派の研究機関「予算と優先政策に関する研究センター」によって明らかにされている(後に添付した翻訳参照)。
 その研究によれば、削減の中には次のようなものが含まれる。低所得女性とその乳幼児を援助する「WIC栄養補充プログラム」は、低体重新生児や虚弱児を減らすことに貢献してきたが、その対象者が67万人も減らされることになるという。また、冬期の高額暖房費補助を受ける低所得世帯や老人の数は、35万人以上削減される。低所得世帯、老人、障害者がアパートを借りる際に得られる援助制度の対象者も37万人削減される。環境保護関連は23%削減、等々。


ブッシュ予算、「国内裁量的支出」の大幅カットを要求

"Center on Budget and Policy Priorities"より。 http://www.cbpp.org/2-22-05bud.htm


 これらの福祉・民生関連予算の削減は、2006年度予算において、それ以降5年間の削減固定化を法定することが目論まれているのである。
※参照:「大統領の予算は2006年度以降いかに国内諸プログラムに影響するか?――州ごとの影響を含む研究―― HOW WOULD THE PRESIDENT'S BUDGET AFFECT DOMESTIC PROGRAMS AFTER 2006? / Study Includes State-by-State Effects」2005.2.24 「予算と優先政策に関する研究センター CENTER ON BUDGET AND POLICY PRIORITIES 」(後に翻訳添付)

 これらに加えて、公的医療制度改悪による大幅な支出削減が画策されている。メディケード(低所得者のための医療扶助制度)では、今回の予算教書で既に10年間で 1,370億ドルの削減が提案されている。そして、メディケア(老人・障害者のための公的医療保険制度)の改革が急務であるということが声高に語られはじめている。2011年度から戦後のベビーブーマーが65歳に達しはじめてメディケアの受給資格を得るのである。ブッシュ政権は今のところ、この問題には本格的に手をつけてはいないが、メディケアもメディケードもともに、財政支出を大幅に削減していく方針であることは、はっきりと見てとれる。保守系シンクタンクやジャーナリズムを動員してメディケア、メディケードを攻撃し、「改革」の世論を盛り上げようと画策しているのである。
※米議会予算局長ダグラス・ホルツィーキンは、最近、政府や議会が医療改革に本腰を入れるよう求めた。彼は、「医療の支出は今後50年間で現在の3〜5倍に膨らむが、年金の支払いはそれほどのペースで拡大するわけではない」と指摘した。(「日本経済新聞」2005.3.26「社会保障制度 / 米、改革2008年度までに / 議会予算局長会見 / 医療の支出削減急務」)
(注)米国の予算は、政府の裁量によって毎年決めなおすことのできる「裁量的支出」と、法律で支出が義務づけられている「義務的支出」とに大別される。歳出に占める割合は、前者が約3分の1、後者が約3分の2である。後者には、公的年金、公的医療制度(メディケア、メディケード)、国債費、国家公務員給与などが入る。



【5】「あとは野となれ山となれ」。ブッシュ予算案に組み込まれた財政赤字膨張メカニズム。粉飾決算と米国家債務の異常に高い対外・対日依存。

(1) 「招来へのツケまわし」を含めると、何と今後10年で少なくとも5兆ドルの財政赤字に。
 第二期ブッシュ政権の財政は、帝国主義的戦争政策を堅持しながら、また軍産複合体や富裕層への「くれてやり」を続けながら、そのことによって現在激化し始めている諸矛盾を、将来にツケをまわす形で糊塗しようとするものである。予算教書で打ち出されている政策は、軍事費の膨張だけでなく、年金改革、「ブッシュ減税」の恒久化、AMT(代替ミニマム税)改革など、財政圧迫要因が膨らむものばかりである。にもかかわらず、歳入面で過大な増収を見込んだ上で、政府は財政赤字を削減しようと努力しているし赤字は縮小していくであろう、という幻想を振りまいている。そこでは大きく2つの段階が区別される。ひとつは、ブッシュ政権終了時までの在任期間のつじつま合わせ、もうひとつは、ブッシュ以後の将来へのツケまわしである。

 ブッシュ在任中の当面する矛盾の糊塗、つじつま合わせは、歳入面と歳出面の両方で行われている。そのうち歳入面での過大見積もりは、常套手段であるが、成長率の過大評価の上に立った過大な歳入増である。マスメディアでは全くと言っていいほど報じられていない。05年度は、増収に転じた04年度実績より 9.2%もの激増を見込んでいた。06年度は、その05年度見込みからさらに 6.1%もの大幅な増加を想定しているのである。

 次いで歳出面であるが、赤字が「09年度で半減」しても「今後10年で 2兆5,810億ドルの赤字」と政府自身が予想している。ここには二重のごまかしが含まれている。既に述べたように、赤字削減幅を大きく見せかけようとして「半減」を強調していることがひとつ。もうひとつ重要なことは、単年度の赤字額を「半減」するというだけで、実際には国債などの公債の累増という形で赤字が累積していくということである。それが、政府自身の予想でも今後10年で 2兆5,810億ドル(ほぼ1年間の予算総額に匹敵)になるのである。
 しかし更に、それには次のものが除外されている。イラク・アフガニスタン戦費、社会保障の一部民営化計画(年金改革)の費用、恒久減税の経費(一部しか計上されていない)、AMT(代替ミニマム税)改革などである。これらを入れると、「今後10年で 5兆ドルの赤字」が見込まれると言われている。
※「間違った選択:大統領2006年度予算教書の分析 Making the Wrong Choices : An Analysis of the President's 2006 Budget」Center for American Progress
http://www.americanprogress.org/site/pp.asp?c=biJRJ8OVF&b=327039

 予算教書には計上されていない4つの大きな赤字拡大要因を、もう少し詳しく見てみよう。報道機関や論者によって多少の異同はあるが、今後10年の赤字について、政府予想の 2兆5,810億ドルには含まれていないものを合計すれば、ほぼ2兆5,000億ドルぐらいになるのである。つまり、今後10年で約5兆ドルの赤字が累積していくということである。

 第一に、イラク・アフガニスタン戦費。2006年度分(もちろんそれ以降も)は全く計上されていない。政府は当然のごとく補正予算を組む予定である。既に述べたように、議会予算局(CBO)は、段階的撤退を前提した上で、イラク・アフガン駐留経費を今後10年間で 4,180億ドルと見積もっている。これ自身がかなり過小な見積もりである。

 第二に、「ブッシュ減税」の恒久化にともなう負担。現在の時限立法の期限は多くが2010年度で、それまでの負担額約 1,000億ドルは既に山を越している。これを恒久化すれば、11〜15年度の負担額は 1兆1,000〜6,000億ドルと見積もられている。ブッシュ政権終了後に極度に負担が増すのである。

 第三に、年金改革の費用負担。新制度導入によって生じる財政負担が計上されていない。その負担額は、06〜10年度 870億ドル、11〜15年度 6,700億ドルと見積もられている。これも後年度に負担をしわ寄せしている。

 第四に、AMT(代替ミニマム税)改革。高額所得者の過度な節税行為を封じるために設けられた特別税制AMTが制度の不備から中間所得層まで高税額の対象となったため時限的な緩和策がとられてきた。その措置は05年末で期限切れだがその後の費用は計上され
ていない。この負担額は10年で 4,000〜5,000億ドルと評価されている。
※金融市場ウィークリー2005/2/18「2006年度米予算教書:「財政赤字半減策」の評価と問題点」安井明彦
※「日本経済新聞」2005.2.8「米2006年度予算 / 財政赤字の半減視界不良 / 歳出減に限界 / 自然増収頼み / イラク経費重荷に」

 予算教書は、第二期ブッシュ政権の最終09年度の赤字を 2,330億ドルとしているが、これらの要因を考慮に入れれば、それが達成できる見込みはほとんどない。しかし、今は大幅な財政赤字の削減に乗り出しているという「印象」が重要なのである。また、恒久減税や年金改革では、ブッシュ政権終了後に大規模な負担増がやってくる。あとは野となれ山となれ、なのである。

べらぼうに赤字を増大させるブッシュ予算
※このグラフは、財政赤字についての議会の評価と大統領の予算教書の見込みとの落差を示したもの。2011年度以降、落差が急拡大していることが読みとれる。赤字圧力要因をブッシュ任期以降に全面的に先送りしているごまかしがよく分かる。 ("Center on Budget and Policy Priorities"より。http://www.cbpp.org/3-8-05bud.htm)


 財政赤字「削減」のごまかしには、別な側面がある。それは、「09年度までに財政赤字を半減させる」と選挙公約した「半減」の意味についてのごまかしである。教書では、財政赤字の水準は金額よりも対GDP比で評価すべきだという主張がなされている。04年度財政赤字は、当初対GDP比4.5%と予想されていた(04年度実績は 3.6%)。経済成長を前提とした09年度は、約3,300億ドルの赤字で対GDP比2.25%(04年度当初予想から半減)になる。この基準は、きわめて伸縮自在である。経済成長の見積もりを変えさえすれば、赤字額がいくらであっても4年後の「半減」達成を描き出すことができる。この基準でいけば、まだ 1,000億ドルぐらい赤字幅が膨らんでもいいということになるのである。
※『国際金融』2005.3.15「第2期ブッシュ政権の財政政策――2009年度赤字半減は重要か――」安井明彦


(2) ブッシュが異常な粉飾決算に走る背景−−累積2.4兆ドルにまで膨らんだ膨大な対外国家債務、異常に高い対外依存度、とりわけ突出する日本の米国債購入。
 このように、政府はありとあらゆる手を使って財政赤字のレベルを低く見積もり、その深刻さを過小に見せかけようとしている。そう、粉飾決算である。しかし、客観的な現実は否応なく対応を迫ってくる。たとえば、2月のG7での共同声明に米国が財政赤字の削減に取り組むことの重要性が盛り込まれた。そのことによって、大統領選での選挙公約は世界に向けた公約にまで高められた。これは、米国の軍事予算膨張による財政赤字の膨張が国際経済に及ぼす影響の大きさを示している。

 米国の国家債務の最大の問題点は、その海外依存度が先進国としては異常に大きく、しかも近年さらに急増していることである。この点は、国債の90%以上が国内で消化されている日本とは根本的に違う点である。米の03年度の対外債務残高は2.43兆ドル、その海外依存度は37%(そのうち日本は39%)にのぼる。最近では、米財務省証券のネット発行額(新規発行額から償還分を差し引いたもの)の海外依存度は、03年で約3分の2を占めている。これに政府機関債の海外依存も付け加わる。
 これで持ちこたえられているのは、ひとえに基軸通貨国であるからに過ぎない。いいかえれば、米国は自国の経済力、国民の負担力によるだけではなく、海外に、とくに日本を中心とするドル圏にも、戦費を含む財政を依存していることになる。

 数値を操作しマスメディアを動員して国内で米国民を一時的に欺くことができたとしても、いつまでも欺き続けることは困難である。たとえ国内で米国民を欺くことができたとしても、国際社会まで欺くことは困難である。米国民と国際社会を欺くことができたとしても、客観的な現実はなくなるわけではない。




【翻訳資料】
ブッシュの新国防予算
2005.2.14
ロバート・ヒッグス
Bush’s New Defense Budget
February 14, 2005
Robert Higgs
http://www.independent.org/newsroom/article.asp?id=1464


 ブッシュ政権は、先頃、2006年度予算を発表したが、報道メディアは例によって、政府の国防支出案を解説するのに骨を折った。ある程度までは、その混乱をとがめることはできない。というのも、この問題を詳しくフォローしている人々でさえ、政府が国防予算についてさまざまに述べているのをえり分けるのに四苦八苦しているからである。陰謀をこととするような理論家なら、政府が意図的に明瞭な理解を不可能にしようとしているのだと、たやすく結論づけるかもしれない。もっと好意的に言うなら、政府は明瞭な予算案を提起するやり方を知らないだけだと結論することもできるかもしれないのだが。

 この予算では、提案されている支出がさまざまなカテゴリーに分けられている。それは部外者には、ちゃんと読みとるのが困難なものである。「outlays(支出)」というのは、当該会計年度中に支出される金額である。「budget authority(予算権限)」というのは、当該会計年度に支出される新規充当額で、おそらく今後数年間にも同様に支出されるものである。「Mandatory spending(法定支出)」というのは、支出されねばならない(変更を法定で禁じられている)ものから成る部分であり、「discretionary spending(自由裁量支出)」というのは、支出してもしなくてもかまわない(通常は支出される)部分のことである。

 予算の中の「Protecting America(アメリカ防衛)」という節に、次のような言明がある。「この政権の下で、国防総省(DOD)は、レーガン政権以来最大の予算増を受け取った...。2006年度の要求額は2001年度の41%増である。」と。しかしながら、歴史的経過を示した資料表では、表3.2も表4.1も、2006会計年度で提案された国防総省の支出の軍事的部分は、2001年度の数値のほぼ47%増である。ブッシュ政権は、軍事支出増を達成したことについて不必要に控えめにしているのだろうか、それとも単に自らのデータが示していることに気づいていないだけだろうか?

 おそらく41%の言明は、outlays(支出)よりもbudget authority(予算権限)のほうに関わることなのだろうか? 明らかに、そうではないであろう。歴史的経過を示した資料の表5.1と5.2のbudget authority(予算権限)のデータをチェックしたとき、我々は、なによりもまず次のことを発見している。それら2つの表での数値は、2001会計年度における国防総省の軍事に関するbudget authority(予算権限)と対比して、95億ドルの違いであるということ。2001年度についてどちらの表の数値に依拠しても、2006年度の増加は、32%または36%で、上のテキストの41%に近い数値にはならない。もちろん47%の支出増という数値からはほど遠い。

 いずれにしても、国防総省に対する予算額は、軍事的目的に充当される予算総額に対してかなり不足している。実際、私が1年以上前にレポートした研究(私が計算を行なった時点で完全な形で利用可能な最も新しいデータであった2002会計年度のデータに基づいたもの)において、私は次のように結論づけた。連邦予算のあらゆる軍事関連支出の総額を見積もるための大雑把な方法は、国防総省の支出額を2倍することだ、と。

 国防総省そのものの予算――2006会計年度では、広く報告されている総額はdiscretionary budget authority(自由裁量予算権限)で 4,190億ドル――は、核弾頭の経費を含んでいない。これはエネルギー省が負担している。また、国務省が行う防衛関連諸活動もある。それには、「対外軍事援助」が含まれている。退役軍人省を通じて支出される給付金という形での、過去の軍務に対する現在の補償もある。国土安全保障省の防衛関連諸活動、たとえば沿岸警備隊の防衛活動などもある。その他にもいくつもの省のさまざまな防衛関連諸活動がある。また、過去において借金で行なった軍事活動の現時点での利子支払いがある。私のおおまかな計算では、2006会計年度の軍事関連支出の総額は、8,400億ドルあたりだろうと見積もられる。それは、予算総額のほぼ3分の1である。国防総省の要求額 4,190億ドルと総予算要求額2兆5,700億ドルとの対比で16%という計算をしている者もいるが、それとは大違いである。

 国防総省の正規の予算から除外されている項目の中で、特に顕著なものとしては、果てしなく続くようにみえるアフガニスタンとイラクでの戦争を遂行するために支出される額がある。これは現在、月にほぼ50〜60億ドルを食いつぶしている。これまで、政府は、この戦争の出費の大部分を「緊急」補正予算から支出することを強く主張してきた。2月14日、ブッシュ大統領は、820億ドルの補正支出を議会に要請した。そのうちの約750億ドルが国防総省にいくことになっている。国防総省は、アフガニスタンとイラクでの戦争遂行のための追加額50億ドル以外はすべて使うだろう。要請された補正支出の他の部分に含まれるものとしては、バグダッドの巨大で重厚な要塞化された新米国大使館建設のための6億6,000万ドル、イラクを攻撃し占領したときのいわゆる有志連合に参加してくれた小国に報いるための4億ドル、ヨルダンへの2億ドル、パキスタンへの1億5,000万ドルなどがあるが、これらは間接的な戦争経費とみることができる。政府は、今後も継続して、2006会計年度中に戦争経費のさらなる追加的補正支出を追求するつもりでいる。

 共和党のジム・コルビーによれば、議員の多くは次のように考えているという。「この戦争は日常的なものになったので、(国防総省の予算要求を準備する人々が)毎年の予算編成の中にそれを組み込むことができるようにすべきである。また、これぐらいの規模の補正支出は、我々のところへわざわざもう一度持ってくる必要はない。」と。しかしながら、ブッシュ政権は、この支出を正規の要求額から分離しておくことで、予算に対する戦争のインパクトをぼかしている。共和党のジョン・スプラットの言葉で言えば、「収支決算を偽って描き出している」のである。――少なくとも普通の市民の目にはそう見えるように。普通の市民は、政府がしていることを評価するために十分注意を払うということはしないからである。

 ブッシュ政権は、最近、連邦政府のいくつものプログラムに対する財源を削減したりなくしたりすることを追求するという、大々的なショーを行なった。そして、数週間後に国防総省が、「ニューヨーク・タイムズ」や「ウオール・ストリート・ジャーナル」の見出しに活気を与えるような覚え書きをリークすることによって、このインチキに参入した。それは、防衛関連企業に投資しているだまされやすい素人投資家を眠れなくさせたかもしれないようなものであった。つまり、12月30日の「ニューヨーク・タイムズ」の見出しは、「国防総省が言明、数十億ドルの削減提案」と公言し、1月4日の「ウオール・ストリート・ジャーナル」の見出しは、「防衛予算削減はロッキード、ノースロップを直撃 / 国防総省が財布のひもをしめ、軍事契約企業は数十億ドルの受注減に」と警告した。しかし、内情を知っている者は、この見せかけの嵐の中でぐっすり眠れたにちがいない。というのも、彼らは、すべてが政治的茶番だということを知っていたにちがいないからである。

 このいわゆる削減の多くは、数年も先に生じる予定のものだった。つまり予算作成者たちが「out(問題外の)」と呼ぶずいぶん先の話なのである。2005会計年度の軍事支出では、削減など全く提案されてはいなかった。言うまでもなく、政治的脈絡を前提すれば、中東およびあらゆるところで起こることについての不確定要素はもちろんのことだが、このような長期にわたる「計画」はすべて、真剣に提起されたときでさえ、希望的観測という要素を多く含んでいる。しかしながら、この場合のもっと大きな問題点は、このうんざりするような削減案には、そもそもそのような真剣さも全くともなっていなかったということである。

 「国防情報センター(the Center for Defense Information)」のウィンスロー・T・ウィーラーが最近書いたように、提案された防衛予算削減は、内情を知っている者には常にわかっていたことだが、dead-on-arrival(たどり着いたらボツ)になるだろうということである。それは、議会の「pork barrel spenders(自分の選挙区である地方に補助金をバラまく者)」や、了見が狭く腹黒い国防総省の文民軍事官僚のせいである...。予算を復活させるための理論的根拠は不思議と見つかるものである。「実際、国防総省は、毎年この種のトリックをやっている。通常は、議会や予算局の部局員と共謀して事細かに打ち合わせた後に行われる。彼らは、各利害関係者が最終的に実際に何をどれだけ獲得するかをあらかじめ決めていて、誰がどんな役回りを演じるかまで決めているのである。一般大衆だけが、この偽りの押し問答を真剣に受け取るのである。しかしながら、国防総省のとほうもない歳出増加を少なくとも抑制「しようとした」ことをブッシュ政権の功績とする有権者が、数少なくてもいるとすれば、作っては壊すというこの昔ながらの由緒あるゲームは、政治的に意味のあるものなのである。しかし結局のところ、ウィーラーが結論づけているように、「(削減の)この無力な試みは、冷血のなかでつぶされるのである。そしてワシントンでそれを嘆く者は誰もいない。逆に、彼らは、自分たちの英雄的行為をほめちぎり、勝利を祝う。納税者だけが痛みを感じるのである。」

 要約すれば、政府の2006会計年度予算は、戦略的に配置された軍=産=議会複合体(the military-industial-congressional complex)の代表者たちが相も変わらず演じるふざけたごまかしをともなって、軍事予算というボロ儲けの列車が軌道上を疾走し続けることを保証するものである。しかし、納税者には文句を言う権利が全くないのである。大統領がはっきり述べたように、人々は既に「accountability moment(説明責任を求める時)」に参加する機会を得たのだ、だから今やジョージ・W・ブッシュとその副官に関しては、その時は永遠に過ぎ去ったのである。


【翻訳資料】
大統領の予算は2006年度以降いかに国内諸プログラムに影響するか?――州ごとの影響を含む研究――
HOW WOULD THE PRESIDENT'S BUDGET AFFECT DOMESTIC PROGRAMS AFTER 2006? Study Includes State-by-State Effects
CENTER ON BUDGET AND POLICY PRIORITIES
予算と優先政策に関する研究センター
緊急発表 改訂 2005.2.24
ミシェル・バジエ
http://www.cbpp.org/2-22-05bud-pr.htm


 政府予算が今後5年にわたって一連の国内諸プログラムにおける予算削減を要求しているが、当センターの新しい研究は、それが個々のプログラムと個々の州にいかに影響するかを吟味している。この研究は、国土安全保障以外の国内予定プログラム(entitlements(特別な権利)ではないプログラム)に焦点を当てている。これらのプログラムは、今後5年で総額2,140億ドル削減され(これらのプログラムの現在水準との比較で、インフレ調整済額で)、予算削減の大部分をうけもつことになるだろう。国内予定諸プログラムにおいて提案された削減額は、2006年から2010年の間に3倍以上になるだろう。

 「予算の痛みは、主に2006年より後に、毎年毎年削減が深まる形でやってくる。」とシャロン・パロットは説明した。彼は、当センターの福祉改革と生活扶助のディレクターで、この報告の主筆である。

 当研究は、さまざまな国内プログラムが今後5年間に受け取る予算額に関して、行政管理予算局(OMB)が議会に提出したデータに基づいて、2010年に、つまり提案されている削減が完了する年に、どれだけの額になっているかを見積もっている。

 ・K-12教育基金は、46億ドル、つまり12%カットされる。(削減額は2006〜2010年で全体として115億ドルになるだろう。)

 ・州や地方への補助金は、2010年にはほぼ220億ドル削減される。(2006〜2010年で全体として710億ドルである。)

 ・WIC栄養補充プログラムを通じて援助を受け取る低所得の女性、乳幼児、低年齢の子どもたちの数は、670,000人分カットされる。このプログラムは低体重新生児や貧血虚弱児を減らしてきたものである。

 ・低所得勤労者世帯で児童扶助を受け取っている子どもたちの数が、300,000人削減される。

 ・冬期の高額暖房費補助(その他の家庭光熱費補助も含めて)を受ける低所得世帯や老人の数が、350,000人以上削減される。

 ・Head Start(初発援助)を通じて支給される低所得世帯児童就学援助は、100,000人以上削減される。

 ・低所得世帯、老人、障害者で、まずまずのアパートが借りれるように援助する賃貸割引証書の提供を通じた賃貸援助を受けている人の数が、370,000人削減される。

 ・環境保護および天然資源プログラムは、国立公園の財源を含んでいるのだが、23%削減される。この中には、清潔な飲料水の確保や大気汚染の削減、汚水処理施設の改善などに関するEPA(環境保護庁)の諸プログラムがあって、それは28%削られる。

 ・地域社会の発展と経済開発のための財源は、主として困窮をきわめ経済的に恵まれない地域を対象にしているが、それは3分の1以上削減される。

 これらの数値はすべて、2010年の予算レベルをただインフレ調整しただけで現在のレベルと比較したものである。

 この報告は、さまざまな領域(たとえばK-12教育プログラム、子どもと家庭のサービス・プログラム、Ryan White HIV/AIDSプログラム、地域社会発展プログラム、低所得層光熱費支援プログラム)における2010年までの計画された財源削減の州ごとの見積もりと、さまざまなプログラムにおいて援助を失う世帯や個人の州ごとの数を示している。この研究はまた、州政府と地方自治体への連邦政府からの交付金で、各州が失う総額の見積もりも示している。

 この研究で明らかになったのは、提案されている州および地方自治体に関する予算削減の影響は、とても大きいということである。それは、連邦政府が各種プログラムの実質的なコストを州政府や地方自治体のレベルにシフトさせるということを伴っている。当研究が特筆していることだが、連邦予算の大規模な削減に対処するために、州と地方自治体は、目立ったサービスの削減か増税かを選ばねばならないだろう。


予算は2006年以降に削減されるプログラムを明細に述べてはいない

 政府の予算は、2006年から2010年の間に、国内予定諸プログラムで 2,140億ドルの削減を要求している。これらのプログラムは、教育、環境保護、交通、退役軍人保健、医療調査、法施行、食料及び医薬品安全確保のような広範な公共サービスを含んでいる。これらのプログラムの多くは、そのサービスを提供する州政府と地方自治体に財源を配分している。

 これらのプログラムについて 2,140億ドルの削減を提案するなかで、政府予算は、これらの削減の最初の180億ドル――2006年に生じる削減――だけはどこからとってくるかに関して、具体的な情報を提供している。だが、2007年から2010年に生じる残りの 1,960億ドルの削減いついては、予算は、どのプログラムが削減されるかに関する情報を与えていない。

 予定された年度を通じての個々のプログラムの具体的な財源額を政府が提示しなかったのは、少なくとも1989年以来はじめてである。そのような情報がなければ、議会と公衆が予算について、また国家予算の優先事項について、開かれた十分な討論を行うことがより困難になる。

 幸いなことに、予算の中には含まれていなかった表やデータを、行政管理予算局(OMB)が議会の予算委員会に補正予算の表やデータとして提出したが、それは、57のカテゴリーにわたる国内予定プログラム――たとえば高等教育、K-12教育、職業教育、および地域社会の発展など――のそれぞれについての、今後5年の各年の財源レベルをまさに含んでいるのである。これらのデータは、当センターの研究の基礎資料を提供している。


政府のデータから引き出された見積もりと優先事項

 この情報から、当センターは、数多くの主要な国内プログラムに対して2007年から2010年について政府予算が思い描いている財源レベルを見積もった。この研究では、57のカテゴリーの国内プログラムについて政府が2006年に提案した財源配分は、2007〜2010年でも同じであると想定している。言い換えれば、あるひとつのプログラムが2007〜2010年にそのプログラムの属するカテゴリーの財源から配分される取り分は、そのプログラムが2006年に受け取ることになっている政府予算提案と同じパーセンテージのままであるということを想定しているということである。

 さまざまな社会的プログラムに関して提案されている予算削減の影響を判定するために、当研究は、もし州や地方自治体がそのプログラムで受益する世帯や個人の数を減らすことで財源削減に対処するとした場合に、予算カットがもつであろう効果を吟味している。州ごとの削減の影響を見積もるために、当研究は、各州が2006〜2010年にあるプログラムで受け取る予算のパーセンテージは2005年に受け取っているパーセンテージと同じと想定している。もしある州が今あるプログラムの財源の5%を受け取っているとすれば、当研究は、そのプログラムの財源レベルが削減された場合その州は財源カットの5%を負担すると想定している。


政府予算は2007〜2010年における大幅カットを固定化する

 政府予算が2007年から2010年までの期間で国内予定プログラムのために算入している財源レベルは、非常に重要なものであると当研究は注目している。というのも、この予算は、予定プログラムに議会が配分することを許される総額についての、今後5年の各年に対する拘束力のある上限の制定を通じて、削減の固定化を要求しているからである。これらのプログラムに対する政府の財源提案がすべて完全に立法化されると、予定プログラムに対してそれぞれの年に配分される財源レベルがはっきりして、各年の上限が設定されることになる。そこには、さまざまなカテゴリーの国内プログラムに対する予算削減提案のすべてが含まれている。

 もしこれらの上限が法となれば、議会は、2006〜2010年にこの予算が提案している国内予定プログラムでの 2,140億ドルの削減を必ず行わねばならなくなる。もし議会が、防衛や、国土安全保障、国際政治外交で、大統領が要求しているレベルを下回る財源設定をしたくないのであれば、ということであるが。


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「予算と優先政策に関する研究センター(The Center on Budget and Policy Priorities)」は、非営利、超党派の調査研究機関で、広範な政府の政策とプログラムに関する調査と分析を行う政策研究所である。主として基金によって支えられている。