中村哲医師講演会の報告



 11月19日、ペシャワール会の中村哲医師の講演会に行って来ました。中村医師は、現地アフガニスタン・パキスタンで17年間診療活動を続け、この旱魃に際しては1000に近い井戸を掘り、アメリカの空爆が始まってからは「いのちの基金」を呼びかけて、カブール陥落の前日まで食料援助を続けていました。
 中村さんのお話の多くは、著書を読み知ってはいたものの、直接聴くのとは大違い、まさに感激です。日本でのアフガン情勢のマスコミ報道はあまりにも一方的で、現地を知る、しかも現地の尺度で現地の貧しい人間の視線で物事を語れる中村さんの話を聴けたことは、すごく貴重な体験でした。
 北部同盟がカブール入りしたときの報道について、「映像は正しくとも解説は180度違う」そうです。「(住民は旗を何本も持っていて)旗はどこが来ても振る。それが住民の知恵」「凧揚げ、野菜、活気、ドレス、ハイヒール、そんなものは以前からあった。タリバンが去って自由を謳歌しているという解説は嘘。私が訪れた3月には規制は緩んでいて、市民の状況は何も変わっていない。子どもも凧揚げをしていたし、ドレスもあった。タリバンの青年が自分の妻や恋人にハイヒールを買ったりしていた」――アフガン情勢について最も理解しているのはBBCの現地語放送を聴いているアフガン人当人たちで、歪められた報道に曝されている日本人が最も理解していないそうだ。
 また対日感情も変化してきているそうです。一言でいえば「日本人、お前もか」――その反応は至極当然だと思う。もともと反感を浴びている星条旗に並んで、日の丸の艦がやって来るのだ。ペシャワール会の事務長は、中村さんの「自衛隊が難民キャンプを作りにやって来るがどう思うか」という質問に、大笑いしながらこう答えたそうです。「冗談だろう、そんな軍隊があるもんか」……終いには「平和国家日本を貶めるアメリカの陰謀じゃないのか」。中村さんは哀しくなって、会話を続けなかったそうです。日本は「ヒロシマ・ナガサキ」の国として有名で、平和国家として対日感情もいいそうです。それなのに最近は雰囲気が変わり、ペシャワル会の車からも日の丸のマークを消したとのこと。
 日本はタリバンを執拗に非難し、最近まで北部同盟をヒーローのように扱っていました。私たちは事実がどうなのか、中村さんのような人に話を聴くまでは、判断する材料を持ちません。一部の良心的な報道を除き、マスコミに接すれば接するほどアメリカの戦争を支持せざるを得ないような仕組みにできあがっています。これでは「大東亜戦争」中の日本と、どこが違うというのでしょう。餓えと戦争の国に暮らす中村さんたちが唯一正気で、私たち日本人は、私たちの自覚以上に歪んだ狂気の世界に住んでいるような気がします。日本の地からアフガンに思いを馳せるばかりでなく、アフガンの地平から日本がどう映るか想起すべきです。(O)



 copyright © 2001 アメリカの「報復戦争」と日本の参戦に反対する署名運動 事務局