アメリカで次々と発表されるアフガン犠牲者数の研究
ヘロルド教授の最新の研究では、犠牲者は3125〜3620人

 以下の翻訳は、ヘロルド教授が8月8日の英ガーディアン紙に掲載したアフガニスタンの民間人犠牲者についての記事である。この記事では、最新の研究に基づき、昨年10月7日から今年7月31日までで犠牲者数が3125〜3620人に上っていることを明らかにしている。この記事で興味深いのは、タブーとされてきたアフガン民間人犠牲者に関する報道や研究がアメリカ国内で次々と発表されてきていることを明らかにしていることである。もちろん意図的に少なく見積もったものや、全く根拠を示していないものなど様々である。しかし、ヘロルド教授は、10数地域のサンプリング調査であるドネリー=シャーディドやフィルキンスによる研究が、アフガン全土へと類推するならば、自分が集計した数に近いとして好意的に報告している。
 アメリカ国内では、反戦運動を取り巻く雰囲気が変わってきたと言われている。9.11一周年を前に政府は愛国主義の鼓舞に躍起になっているにもかかわらず、市民は比較的冷静にアフガン戦争の意味や犠牲者について問い直そうとしている。特に7月1日の結婚式爆撃・虐殺には米国内からも多くの非難が上がった。8月19日発売の「ニューズウィーク」は、昨年11月タリバン兵捕虜を移送中に1000人以上を窒息死させたという恐るべき戦争犯罪を報じている。これらは数ヶ月前には決して問題にならなかったことである。その背景には混沌としたアフガン情勢と大義無きイラク戦争準備がある。米はアフガン戦争の「成果」を示すことができないまま、次の戦争に突入しようとしているのである。
 ヘロルド教授は、この記事においても、犠牲者を記録する意味について、「戦争の増殖」を防ぐため、米の戦争犯罪を追及するため、そして犠牲者の遺族が補償を要求することを可能にするためと改めて明確にしていることも確認しておきたい。

2002年8月21日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



(翻訳)

死者の計数
米国の爆弾によって殺されたアフガニスタンの民間人の数を隠す試みは、正義への冒涜である
Counting the dead
Attempts to hide the number of Afghan civilians killed by US bombs are an affront to justice

マーク・ヘロルド (『ガーディアン』 2002年8月8日)


 アフガニスタンに対する米国の爆撃が2001年10月7日に始まった時、「死者の公式な集計」は不必要であると考えられた。多くの人々は、民間人の死傷者が出ることを回避するために米英の軍事計画立案者が骨を折るだろうと確信していた。最新の精密誘導兵器が使われ、しかも爆撃が僻地になされるとすれば、この戦争中には「悪い奴」だけが殺されるだろうということを意味した。ところが後に起こった出来事は、これらの主張が間違っていることを証明した。しかし、どれくらい間違っていたのだろうか?今では誰もがアメリカの爆撃によってアフガニスタンの民間人が殺されたことを認めている。しかし、正確に何人であるかは、激しく論争されている。


犠牲者についての様々な報告

 死者の数を数えるということには、公式な関心は払われず、興味を持っている個人および非政府組織の仕事となった。現在まで、9つの研究があり、そのうち8つは公開されている。最初の研究は私自身のもので昨年12月に公表された。ニュース通信社やNGOおよび世界的な新聞報道に頼って私は、爆撃の事実を現在まで調査することを試みて、3500人を越えるアフガニスタンの民間人が死亡したと結論を下した。初期の研究は、紛らわしい地名のために二重計算をしていたという弱点があった。10月〜12月の期間の民間人の死者数は2650〜2970人の間にあったはずである。

 そのすぐ後で、民間人の死者が約1000人という、2、3の雑な評価がル・モンドおよびロイターによって作られた。一見して、これらは私のものより相当に低く見える。しかし、これは爆撃のサンプルだけが調査されたからである。ロイターは、ちょうど14の出来事を見ていた。そのレポートによれば、982人のアフガニスタン人が殺された。サンプルから推定すれば、全体の合計は私が出した数へと拡大するだろう。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ
 2月にウォール・ストリート・ジャーナルは、アフガニスタン人の死者の「正確な」計算をするために、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)がアフガニスタンに3人の研究者を送り出していると発表した。これは、戦争支持者のウィリアム・アーキンによって率いられたものである。HRW当局は、民間人の死者数を12月中100〜350人であると見積もると「非公式に発表」した。これは同グループがユーゴスラビアにおける1999年のNATOの軍事行動で犠牲者数をひどく過少に数えた記録と一致する数字であった。HRWの研究は、(公式には)全く発表されていない。とはいっても、滑稽なことに、ちょっとした影響を与えたのだが。350人という数はいまだにそれがあたかも科学的な根拠を持つかのように話題にされているのだ。

PDA
 同じ期間について、ある主要な研究が著名な米国のシンクタンクPDA(The Project on Defense Alternatives)によって発表された。それは、アフガニスタンへの米国の爆撃はユーゴスラビアへのNATO爆撃より4倍高い割合で民間人を殺したというものである。報告書は2002年1月1日までに1000〜1300人の民間人が殺されたと計算している。爆撃作戦は「正確さを期すために新しい標準を定めるということをしなかった。」アルカイダやタリバンの幹部を彼らの家で爆撃するという決定、複数の武器が使用されていること、情報の信頼性の低さ・・・そこには小さいながら誤爆の余地がある。PDA研究は権威があった。ただそれがもっぱら西側の出所に依存したので、その合計は私のものより低かった。そのためメディアにはより快く受け入れられたが、それは依拠した事実の数が制限されていることを意味した。

AP通信社
 2月11日にAP通信社は、ますます警戒を強める社会を再びはっきりと安心させるために、「死んだのは数百人だ。数千人ではない」と反論を発表した。500〜600人というその驚くほど低い数値は、「病院の記録を研究し、被爆地を訪問し、目撃者および職員にインタヴューをすることにより」到達した。その報告書は方法に問題があった。死んだ人々は直ちに埋められるので、ほとんどのアフガニスタン人の死は病院記録には記されない。インタヴューの方法の詳細やどの爆撃の事実が含まれているのかについての詳細も示されなかった。多くの爆撃が報告されていなかった。また、アフガニスタンの職員は民間人の死傷者をひどく過小評価するようにしばしば教えられた。

ドネリーおよびシャーディドによる報告
 米戦闘機に爆撃され830人の死者を生み出した14の地域についてのはるかによい調査が、同じ月にボストン・グローブのジョン・ドネリーとアントニー・シャーディドによって公表された。「14の地域は目標とされた全地域の小さな小片だけしか表わしていないので、10月以来の合計は1000人かそれ以上と見積もられる」と著者は記している。民間人の死をもたらした第1の罪人は次のとおりであった:不完全な情報、空爆の不正確さ、そして「民間地域にある目標の選択」。ロサンゼルスタイムズによる別の集計では、10月から2月の間に1067〜1201人の死者数に達した。しかし、生のデータも出所も明らかにされていない。

グローバル・エクスチェンジ
 先月、NGOグローバル・エクスチェンジは、戦争開始以来米の爆撃によって引き起こされた民間人の死傷者に関する予備報告書を公表した。11の地域に関する研究は、812人の死を実証していると主張している。この報告書はひどい欠陥がある。彼らが、爆撃されたどの場所を訪れたのかわからない。(アフガニスタンの30の州のうちの4つだけが含まれていることを私たちは知っているのだが。)生のデータは示されず、また爆撃の事実の数は暴露されていない。このような条件を示さずに、死者812人という低い計算は無意味である。

フィルキンス
 最後に、ニューヨークタイムズのデクスター・フィルキンスは、先月伝えられるところによれば、11の爆撃の出来事で396人のアフガニスタンの民間人が死んだという彼の研究を公表した。私のデータ・ベースは、408〜509人の民間人が同じ11の出来事で死んだことを明らかにしている。フィルキンスは多くの死傷者を生み出す圧倒的な軍事力の使用を鋭く突いている。彼の研究はラムズフェルド米国防長官から即時の非難を受けた。


最新の研究では、犠牲者は3125〜3620人

 独自の研究を公表してから8か月経ち、私はデータ・ベースを更新し、修正し、さらに米英の特殊部隊の攻撃によって引き起こされた民間人の死を組み込んだ。昨年10月7日から今年7月31日までの間で3125人〜3620人のアフガニスタンの民間人が殺されことを私の最新の表は示している。これは、ドネリー=シャーディド、フィルキンスおよび(恐らく)ロイターの研究によって行われたサンプル計算と互換性をもつ。PDAおよびロサンゼルスタイムズの報告書については、それらが生のデータや使用した出所を正確に明らかにしていないので、比較することが困難である。AP通信の計算は報道および方法論の両方において欠陥がある。また、グローバル・エクスチェンジの報告書は不完全である。


犠牲者を記録する意味

 戦争中に犠牲者を数えることは無意味ではない。民間人の死者を無視したり過小評価することは、精密誘導兵器を熱狂的に支持する者たちに主導権を与える。それは戦争の増殖への誘惑である。米国の政治・軍事エリートが、民間人が多く住む地域(分離された訓練キャンプは、最初の週に大部分は破壊された)の中で非常に強力な兵器類を使用して爆撃作戦を実行することを決定したことによって、何千人というアフガニスタンの民間人が殺されることになったのだ。

 政治的な理由のために、できるだけアフガニスタンの国の人々の殺戮を西側の公衆に見せないようにしておくことが必要だった。民間のインフラストラクチュア(自動車、診療所、ラジオ放送局、橋)への攻撃や、11月と12月の間にアフガニスタン南部の道路で動くものすべてに加えられた攻撃のように、たくさんの爆撃が戦争の規則を破ったことを考えれば、戦争犯罪が調査される必要がある。不適切な計算は、不法に殺されたものたちの家族が、彼らが権利を有する補償を得ることを不可能にするだろう。さらに、それは国際的な公正を妨害するだろう。


 著者は米ニューハンプシャー大学の準教授である。アフガニスタンの爆撃作戦の犠牲者に関する記録は www.cursor.orgで見ることができる。アフガニスタンの民間人の死傷者の彼のデータ・ベースは以下にある。 http://pubpages.unh.edu/〜mwherold

(原文: http://www.guardian.co.uk/comment/story/0,3604,770915,00.html
*見出しは、署名事務局によるものです。