わたしの雑記帳

2006/2/12 「PTSD(心的外傷後ストレス障害) 事件・事故・災害が及ぼす‘こころ’の影響講演報告



2006年2月8日(水)、多摩区役所で、多摩区役所保健福祉センター主催の「PTSD(心的外傷後ストレス障害) 事件・事故・災害が及ぼす‘こころ’の影響」と題した講演会に参加した。
講師は、聖マリアンナ医学研究所カウンセリング部の主任研究員で、臨床心理士・学校心理士の松浦正一氏。

1.トラウマとは
トラウマとは簡単に言えば、精神的ショックのこと。
・圧倒されるような精神的衝撃で、強い恐怖や不安を伴い、個人がその対処に困難や無力感を感じるような体験
・死にそうな出来事を自分が体験する
・自分自身が重症を負いそうな、または現実に重症を負う出来事を体験する
・他人の死や重症を負うような場面を目撃する
などしたときになる。
日本では、阪神・淡路大震災や池田小学校児童殺傷事件などで、一般にも知られるようになった。


2.トラウマの種類

シングル(単発)トラウマとコンプレックス(反復)トラウマ

トラウマの種類 トラウマになる体験
シングルトラウマ
(単発。大抵1回だけ体験)
・自然災害
・人為的災害
・事件・事故
・暴行傷害
・性的暴力被害
コンプレックストラウマ
(継続的、反復的に体験)
・虐待
・両親の争い、家庭内暴力
・いじめ


コンプレックストラウマは、シングルトラウマに比べて、外から見えにくい。
コンプレックストラウマを抱えているひとが、シングルトラウマを体験すると、ストレス反応が激しく出る。また、回復も遅れやすい。


3.ストレス反応

ストレスによって、自律神経や内分泌、免疫系などのバランスがとれなくなるなど、体への影響。
ストレス反応には、・悲嘆反応・不安・抑うつ反応・急性ストレス反応・障害(ASD)・外傷後ストレス反応・傷害(PTSD)などがある。
心と体に負担がかかる。疲れる。抑うつ状態になる。


子どもの急性ストレス反応・障害(ASD)
*だいたい1日〜3日以内くらいに出て、1週間から3週間程度続くことが多い。日がたつにつれて薄まっていく。
(1)身体反応 息が苦しい、ため息をつく、手足が動かない、意識を失う、発熱、頭痛、腹痛、身体各部の痛み、吐き気、めまい、頻尿、夜尿、吃音、アレルギー反応、空腹、食欲不振、過食、声が出ない、疲れやすい、力が出ない、口内炎など。
*とくに呼吸器系が最初にでやすい
(2)感情反応 過度の自責の念や罪悪感、無力感、悲嘆、怒り、孤独感、そのことに考えがとらわれてしまう、自分の体をたたく、手に傷をつけるなど自傷行為が出る、他者との温かみのある交流の喪失など。
*自責の念から自傷行為に走ることが多い。強くなれば自殺の連鎖にもなる。
*小さい子どもほど、自分が悪いと思いがち。
(3)退行現象 俗にいう赤ちゃん帰り、わがまま、幼児語を使う、大人につきまとう、年齢不相応な甘え方をする。
*思春期では反抗したり、挑発してきたり、規則や約束を守らない、ふざけた言動や派手な服装をして目立とうとする行動などが見られる。
とくに性被害では、このような反応がみられることがある。
*退行現象は素直な子どもがなりやすい。甘えて満たされると元に戻る。甘えることを許すほうが回復が早い



外傷後ストレス反応・傷害(PTSD)
*ストレス反応が1ヶ月以上続く場合で、「記憶の病」とも言われる。
*PTSDであるかどうかは、さまざまな基準があり、医師が判断すること。気分障害、パニック障害、適応障害、人格障害、詐病など、似た症状を出すほかの病気もあるので、思い込まないこと。
(1)再体験(侵入) ・思い出したくないのに、繰り返し思い出して、苦痛を感じる。
(フラッシュバック=体験したときの時空間にいるような感覚)
・突然、ひとが変わったようになる。興奮したり、過度の不安状態(パニック)。
・突然、現実にないことを言い出す。
・怖い夢(悪夢)を見る。
・その体験を思わせるような行動や話を繰り返す。
(言語能力が発達していない幼児が、絵や人形を使って再現することもある)
(2)回避・麻痺 ・感情が麻痺する。
・表情がなくなり、ぼーっとしている。考えがよぎる、集中できない。
・活動性の低下、顕著だと食事などの基本的な日常行動がとれなくなる。
・趣味への興味がなくなる。
・将来のことが考えられない。早く死んでしまいそうな気がする。
(うつに似ている。突然ふりかかってきた出来事に、外の世界に対する信頼がなくなる結果)
(3)過覚醒 ・不眠(寝つけない、途中で目が覚める)
・必要以上に常におびえている。
・少しの刺激でも、過敏に激しく反応する。
・そわそわして落ち着きがない。
・記憶力や集中力の低下。学業への集中困難、成績の低下。



4.ケアについて

ケアが必要なのは、「個」(個人=たとえば生徒)と「場」(環境= たとえば教師や家族)。
二次被害を防ぐことも大切。

ケアのポイント 具体的内容
(1)安心・安全の保証 ・守られている、一人じゃないと実感できること。
・学校と家庭が落ち着いていること。
・危ない、恐いところには近づかなくてよいこと。
・可能な限り日常性の維持。(生活のリズムが大切)
(2)正しい知識と
  対処法
・予測される反応と対処法を知る。
(事前に「こういうことが起こるかもしれない」と話しておく。
 本人に予測させる。心の準備をさせる)
(あたたかい飲み物で緊張をほぐす。リラックスする呼吸法など)       
・「異常な事態」への「正常な反応」であるという理解。
(3)主体性とペースが
   守られること
・話したくないのに、根堀り葉堀り聞かれないこと。
・自分なりの方法とペースが尊重されること。             
*選択肢をできるだけ多くして、本人に選ばせる。



5.その他(順不同)

PTSDは障害。回復には時間を要する(10年スパン)。ならないようにすることが大切。
二次被害(家族・近隣・学校・病院・警察・マスコミなど周囲の対応によって生じる精神的苦痛)の防止。

*苦痛になるのは、
・つらい話を何度も聞かれる。(自分が話したいときに話すのはよい)
・「怪我しなくてよかったね」「時間が解決するんだから」「どうして逃げなかったの」「元気?」「大丈夫?」「がんばって!」などの言葉に傷つく。 
・突然マイクを向けられ、フラッシュを浴びせられる。

*大人の願望を子どもに投影していないか。
特に性的被害などは、親はなかったことにしたい。そっとしておきたいと言う。そのことに触れない、見て見ぬふりをする。これは、大人の願望の投影であることが多い。
このような親の態度に子どもは、放っておかれた、誰もわかってくれないと思う。
同じように、学校で自殺などがあったときにも、校長先生が、「生徒たちは元気にしているから」「休まず学校に来ている」「笑っている」からと専門家のケア、カウンセリングを必要ないと断ることがある。これも、大人の願望。何人も自殺をほのめかす生徒が出てからあわてたりする。
トラウマになっている出来事を本人が忘れている場合、必ずしも原因をつきとめることが必要とは限らないが、原因がわかることで、自分の感情をコントロールできるようになることもある。
グループカウンセリングの場面で、パニックを起こしてしまうかもしれないとき。
事前に「そういうことが起こるかもしれない」と心の準備をさせておく。本人に予測させる。
参加しなくてもよいという選択肢があることが大切。
・こちらがあわてない。あわてるとマイナスに働く。
・グループの外に出して、落ち着くのを待つ。暖かい飲み物を飲ませるなどもよい。
ケアの方法とは、一緒に考えるなかで、そのひとのできること、資源を出していく。
カウンセリング料について。
例えば聖マリアンナ医学研究所の料金(健康保険は適用されない)は、
初回(1時間30分)    15,000円
2回目以降(50分/回)  11,000円 〜 13,000円

料金が高いので、いっそ自分のためにカウンセリングを学んで、対処方法を身に着けていくという方法もある。



***************
ここから個人的感想。

松浦正一氏の話は、OHP資料を使いながら、とてもわかりやすかった。後半の30分ほどは、リラックスするための呼吸法(ゆっくり吐いて、苦しくなる前に、おなかいっぱい吸うなど)や緊張を緩めるためのリラクゼーション(手や足、顔などに10秒間力を入れたのに筋肉を弛緩させることで、力が抜けている状態を感じるなど)を具体的に指導してくれた。

今回、具体例はあまり多く出されなかった。しかし、児童虐待、リンチ事件、いじめ事件などを数多くみてきたなかで、ひとつひとつ具体的な症状や行動が思い当たることも多かった。
異常な事態に対する、自らを守ろうとする当たり前の反応。それが理解されないことで、異常な行動と見られる。そんな性格だから被害にあったと言われる。いつまでも甘えていると思われる。責められる。二次被害の大きさを改めて思い知らされる。

なお、カウンセリングの料金について、「PTSDと診断されているのであれば、精神に障害があることを前提に「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」32条に基づく医療費の補助を受けることができます。かかりつけの精神科医にその旨ご相談されることをお勧めします。」とかつてある弁護士さんに教えていただいたことがある。
私自身は、カウンセリングにはたしてどれだけの力があるのか、回復にどれほど有効なのか、急性期はやむをえないとしても、懐疑的な部分がある。薬の副作用に対しても大いに懸念を抱いている。
それでも、自分自身が無力ななかで、やはり専門家に頼らざるを得ないのだろうかとも思ったりする。
すくなくとも、もっと多くのひとが当たり前のように、心の存在、心の傷について、理解を深めることは必要だと思っている。二次被害をこれ以上出さないために。



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