わたしの雑記帳

2015/8/1 7月24日 院内集会  『学校に於ける重大事件事故発生時の初動調査と、
その後の災害給付支払判断基準の問題点について考える』

7月24日、参議院会館の地下B103号会議室にて、NPO法人ジェントルハートプロジェクト主催、指導死親の会、全国柔道事故被害者の会、 一般社団法人吉川慎之介記念基金が共催で、『学校に於ける重大事件事故発生時の初動調査と、その後の災害給付支払判断基準の問題点について考える』 〜 いじめ防止対策推進法見直しを控え、是非知っておきたいこと〜 という院内集会を行った。

いじめ自殺や柔道事故死、指導死に関わるそれぞれの遺族の話のあと、武田がまとめを行うという1時間程度の報告内容を計3回開催。
会場には、各地から被害者家族や遺族が駆けつけてくださり、国会議員もたいへん多忙ななか、熱心に耳を傾けて下さる方たちもいた。

以下は、いつものごとく、話すことが苦手な私の読み原稿。持ち時間は15分。


NPO法人ジェントルハートプロジェクトの理事で、武田さち子と申します。よろしくお願いいたします。

学校で重大事件事故が発生した時に多くの場合、初動調査は適切に行われていません。それは経験のなさや無知によるものではなく、明確に隠ぺいの意図があると私は思います。
あまりにパターン化していることから、隠ぺいマニュアルがあるのではないかとさえ言われています。資料「学校・教委の隠ぺいの手口」(inpeinoteguchi)は、その典型例です。

なぜ、学校・教委は隠ぺいするのでしょうか?重大な事件事故が起きる以前に、ルールにのっとった適切な対応を学校・教師がしていないからです。つまりやるべきことをやらず、やってはいけないことをやっているから、事件事故が起きたとき、責任追及を恐れて、隠さざるを得ないのです。

現在、「学校事故対応に関する調査・研究」有識者会議の第二期が進行中です。しかし、そこで基本的な検討材料となる「学校事故対応」に関する調査結果は、ジェントルハートプロジェクトが2010年に被災者にとったアンケート調査の結果(  http://npo-ghp.or.jp/wp-content/uploads/2014/03/victim_20140305.pdf )とは大きく異なります。
結果の違いについては、様々な言い分があるでしょう。
しかし、学校・教委の隠ぺい体質という、文科省にとっても不都合な真実から目を逸らし続ける限り、何も変わりません。なぜなら、事件事故、自殺原因のもっとも核心的な部分を欠いた事実認定からは、真の再発防止策は生まれないからです。

いじめについては、2011年10月の滋賀県大津市の中学2年生の男子生徒の自殺がきっかけで、2013年いじめ防止対策推進法(PDF)が議員立法されました。
男子生徒自殺の1年後に第三者調査委員会が設置され、その存在が広く知られることになりました。しかし、実は外部調査委員会は、以前からあります。自殺事案だけでなく、いくつかの保育事故や柔道事故などでも外部調査委員会が設置されています。(20150410chousaiinkai list)
ただし、多くは遺族の希望ではなく、学校・教委主導で、世間から注目されるような事件が発生したとき、学校から問題を引き離し、鎮静化させるために利用されてきました。
そのために、調査委員会の設置さえ遺族に知らせず、メンバーも開示せず、遺族への聞き取りさえ要望がなければ実施せず、根拠も不明確なまま、「いじめは存在しなかった」「自殺の原因は不明」という結論だけが押し付けられてきました。

では、いじめ防止法を根拠に、第三者委員会が調査することで学校・教委の隠ぺいは過去のものとなったのでしょうか?
残念ながら、隠ぺいの手口はまだまだいくらでもあります。
何より、初動調査が遅すぎたり、いい加減であれば、第三者調査委員会が設置される前に、証拠は失われ、証言も歪められてしまいます。

私は様々な調査委員会の情報を収集し、かつ、2つの自殺事案で、第三者調査委員会の委員を務めました。
外部調査委員会が機能するかしないかの鍵は、初動調査と、調査委員、事務局が握っていると思います。
今、公平中立性を担保するために、委員は、大学や弁護士会、臨床心理士会などの団体から推薦してもらう方法を文科省は推奨しています。
しかし、団体推薦で圧倒的に有利なのは行政側です。様々な団体や個人と利害でつながっており、被災者と比べても根回しは簡単です。

もう一つ、固定の調査委員会に調査を委ねるというやり方が推奨されていますが、これも、行政にとって都合のよい委員で構成することは容易です。この委員会が固定化されることに、強い懸念を感じます。実際、いくつかの地域の固定化した委員会の結論に、私は疑念を抱いています。

調査委員として入ってみて思うのは、それぞれの委員がどういう立場にたって、どれだけ事実に対して真摯に向き合う姿勢でいるのか、肩書きや最初の印象だけではわからないということです。
大津の第三者委員会が機能し、遺族の納得感をある程度、得ることができたのは、メンバーの半数が遺族推薦だったからです。
そもそも、今の第三者調査委員会の設置は、学校・教委への不信感から始まっているわけですから、被災者の意見を積極的にとり入れるべきだと思います。

しかし、メディアの関心が高い事件では被災者の意向が尊重されやすくなっている反面、関心が薄いところ、あるいは行政の主導権が強いところでは、被災者への説明責任は果たされず、要望も無視され続けています。

先にあげたジェントルハートの被災者アンケートで、民事裁判をした理由を複数回答で尋ねたところ、
・「被災者の名誉を回復したかった」
・「原因を追究し、再発防止に生かしたかった」
・「何があったか事実を知りたかった」
・「責任者・加害者から謝罪がなかったから」
の4つが多数を占めました。
これらは裁判をするしないにかかわらず、被災者の望むことだと思います。

そういう意味で、日本スポーツ振興センターから、給付を受けるということは、金銭的なこと以上の意味があります。
たとえば、2010年10月、群馬県桐生市の小学生・上村明子さんが自殺した事案では、明子さんの生前から両親はいじめへの対応を学校に要望していました。
市が設置した第三者調査委員会は、いじめを自殺の「大きな要因の一つ」と位置づける一方で、「唯一の原因とは判断できない。」と結論。両親が起こした民事裁判の高裁では、 桐生市は明子さんがいじめを受けていながら、十分な措置を講ずることができなかったことについて謝罪する。 桐生市はいじめに対する安全配慮義務の不完全履行についての解決金として150万円を支払うという内容で和解しました。
いじめが認められたわけですから、センターの死亡見舞金が出て当然だと思いますが、いじめが自殺の直接の原因と認められたわけではないからと、センターは支払いを拒否し、現在、民事裁判で争っています。

そして、高校生の場合、たとえ学校に自殺の原因があっても、学校敷地内での自殺であっても、原則、出ません。
高校生の自殺を「故意による死亡」とみなしているからです。
2007年に閣議決定された「自殺総合対策大綱」には、「多くの自殺は、個人の自由な意思や選択の結果ではなく、様々な悩みにより心理的に「追い込まれた末の死」ということができる。」と明記されています。
自殺を「追いつめられた末の死」と認識して初めて、防止すべきもの、防止できるものという認識が生まれるのだと思います。
また、給付のためにセンターに提出された申請書類が、学校事故の再発防止のためのほぼ唯一の蓄積されたデータになっています。
柔道事故が脚光を浴びて、具体的な対策がとられるようになったのも、名古屋大学准教授の内田良先生が、センターのデータを分析したことが一つのきっかけでした。

平成25年度、文科省の調査では、中学生の自殺は63人、高校生は173人。
中学生の3倍近い高校生の自殺が、学校生活に要因があるかないかを審議されることもなく、切り捨てられるということは、再発防止策さえ切り捨てられかねないということです。


被害にあった子どもたちのために、そして最愛のわが子を亡くした親たちのために、正しく事実調査がなされ、結果が公的にも認定されること。その事実を元に実効性のある再発防止策が立てられることを私たちは望みます。


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