わたしの雑記帳

2003/11/23 教育基本法改正と新しい分離教育の動き−東京都の学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)調査


11/22 午前と午後、2つの講演会をハシゴしてきた。タイトルはまるで違うのに、共通する部分があった。
それは、教育基本法改正の動きを懸念するというもの。
国は今まで、経済界の意見にばかり耳を傾けてきた。それにあわせて、教育をいじくり回してきた。いつも、もっともらしいタイトルをつけて。その流れが、今までのものとは大きく変わりつつあるという。
かつては、子どもたちは全て企業戦士予備軍だった。それが、経済のグローバル化によって、企業が人件費の安い海外に工場をつくるようになると、労働力としての価値をもたなくなった。
今後必要なのは、一握りのエリートだけ。それ以外の子どもたちには、教育に金をかけることさえ渋りはじめたという。とくに障がい者に対して、大金をかけてまで教育をする必要はないとの考え方が出てきたという。
今までは、他の子どもたちの足を引っ張らせないために、障がい児への手厚い教育(養護学校、特殊学級)という名目で分離教育を進めてきたのだけれど。今後はどうなるのか。新たな分離教育が始まろうとしているという。

そこで、気になるのが、2003年8月12日付け毎日新聞の記事。「東京都教委が都内の全公立小中学校を対象に学習障害(LD)などの実態調査を指示した」とある。東京都教育センターが7月11日、区市の教育委員会等に対して、「通常の学級に在籍する児童・生徒の学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、高機能自閉症に対応した教育支援に関する研究」という75項目にわたる調査を依頼、都内の全小中学生約75万8000人を対象に7月から9月にかけて実施されたという。

このことは、2003年10月4日付けアサヒタウンズにも取り上げられている。この調査自体が、教員に通達がなく突然実施、保護者や生徒本人には秘密裏に行われたという。複数の学校が「人権侵害の恐れがある」などとして実施を見送っているとあるが、当然、実施した学校も多くあるに違いない。親や本人の知らないところで、わが子が学習や日常行動に支障がある児童・生徒かどうかが、チェックされている。しかも、その質問内容をみると、かなり主観的な項目が多い。学級崩壊や学校崩壊をすべて生徒側の問題として、困難な子どもは切り捨ててしまおうという動きに見える。かつて、障がい児を差別していた人びとが、今度は自分たちの子どもも差別の対象にされるかもしれない(me020602 参照)。


以下、資料から

小・中学校長殿
                                      東京都教職員研修センター研究部研究課長

「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童・生徒に関する実態調査」等の主旨について」

 平成14年2月から3月にかけて、「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童・生徒に関する全国調査」が実施されました。その調査は、担任教師による回答に基づくもので、学習障害等の専門家チームによる判断ではなく、医師の診断によるものでもありません。したがって、学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、高機能自閉症の割合を示すものではありませんが、全国調査の結果として次のような数値が出ています。

学習面か行動面で著しい困難を示す 6.3%
学習面で著しい困難を示す 4.5%
行動面で著しい困難を示す 2.9%
学習面と行動面ともに著しい困難を示す 1.2%

 また、「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」(平成15年3月28日 調査研究協力者会議)においては、「従来の特殊教育の対象の障害だけでなく、LD、ADHD、高機能自閉症を含めて障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて、その一人一人の教育的ニーズを把握して、その持てる力を高め、生活や学習上の困難ほ改善又は克服するために、適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うものである」と示されています。
 このような背景を受け、東京都教職員研修センター研究部研究課では「通常の学級に在籍する児童・生徒の学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、高機能自閉症に対応して教育支援の在り方等について研究を進めているところです。
 今回お願いしております調査の目的は、東京都の公立小・中学校において通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童・生徒の実態や特別支援教育の推進状況等、研究を推進する上での基礎資料を得ることです。調査の背景や目的を御理解の上、御協力をお願いいたします。





     「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童・生徒に関する実態調査」
                                                           (調査票)

1 学習面での様子についてお答えください。(A)
     (0:ない、1:まれにある、2:ときどきある、3:よくある、の4段階で回答)


聞く
( 1)聞き間違いがある(「知った」を「行った」と聞き間違える) 0−1−2−3
( 2)聞き漏らしがある 0−1−2−3
( 3)個別に言われると聞き取れるが、集団場面では難しい 0−1−2−3
( 4)指示の理解が難しい 0−1−2−3
( 5)話し合いが難しい(話し合いの流れが理解できず、ついていけない) 0−1−2−3


話す
( 6)適切な速さで話すことが難しい(たどたどしく話す。とても早口である) 0−1−2−3
( 7)ことばにつまったりする 0−1−2−3
( 8)単語を羅列したり、短い文で内容の乏しい話をする 0−1−2−3
( 9)思いつくままに話すなど、筋道の通った話をするのが難しい 0−1−2−3
(10)内容をわかりやすく伝えることが難しい 0−1−2−3


読む
(11)初めて出てきた語や、普段あまり使わない語などを読み間違える 0−1−2−3
(12)文中の語句や行を抜かしたり、またはくり返し読んだりする 0−1−2−3
(13)音読が遅い 0−1−2−3
(14)勝手読みがある(「いきました」を「いました」と読む) 0−1−2−3
(15)文章の要点を正しく読み取ることが難しい 0−1−2−3


書く
(16)読みにくい字を書く(字の形や大きさが整っていない。まっすぐに書けない) 0−1−2−3
(17)独特の筆順で書く 0−1−2−3
(18)漢字の細かい部分を書き間違える 0−1−2−3
(19)句読点が抜けたり、正しく打つことができない 0−1−2−3
(20)限られた量の作文や、決まったパターンの文章しか書かない 0−1−2−3


計算する
(21)学年相応の数や意味や表し方についての理解が難しい(三千四十七を300047や347と書く。分母の大きい方が分数の値として大きいと思っている) 0−1−2−3
(22)簡単な計算が暗算でできない 0−1−2−3
(23)計算するのにとても時間がかかる 0−1−2−3
(24)答えを得るのにいくつかの手続きを要する問題を解くのが難しい(四則混合計算。2つの立式を必要とする計算) 0−1−2−3
(25)学年相応の文章題を解くのが難しい 0−1−2−3


推論する
(26)学年相応の量を比較することや、量を表す単位を理解することが難しい(長さやかさの比較。「15cmは150mm」ということ) 0−1−2−3
(27)学年相応の図形を書くことが難しい(丸やひし形の模写。見取り図や展開図) 0−1−2−3
(28)事物の因果関係を理解することが難しい 0−1−2−3
(29)目的に沿って行動を計画し、必要に応じてそれを修正することが難しい 0−1−2−3
(30)早合点や、飛躍した考えをする 0−1−2−3
2 行動面での様子(不注意など)についてお答えください。(B)
 (0:ない、もしくはほとんどない、1:ときどきある、2:しばしばある、3:非常にしばしばある、の4段階で回答)


不注意
(31)学校での勉強で、細かいところまで注意を払わなかったり、不注意な間違いをしたりする 0−1−2−3
(32)課題や遊びの活動で注意を集中し続けることが難しい 0−1−2−3
(33)面と向かって話しかけられているのに、聞いていないようにみえる 0−1−2−3
(34)指示に従えず、また仕事を最後までやり遂げない 0−1−2−3
(35)学習課題や活動を順序立てて行うことが難しい 0−1−2−3
(36)集中して努力を続けなければならない課題(学校の勉強や宿題など)を避ける 0−1−2−3
(37)学習課題や活動に必要な物をなくしてしまう 0−1−2−3
(38)気が散りやすい 0−1−2−3
(39)日々の活動で忘れっぽい 0−1−2−3


他動性

衝動性
(40)手足をそわそわ動かしたり、着席していても、もじもじしたりする 0−1−2−3
(41)授業中や座っているべき時に席を離れてしまう 0−1−2−3
(42)きちんとしていなければならない時に、過度に走り回ったりよじ登ったりする 0−1−2−3
(43)遊びや余暇活動に大人しく参加することが難しい 0−1−2−3
(44)じっとしていない。または何かに駆り立てられるように活動する 0−1−2−3
(45)過度にしゃべる 0−1−2−3
(46)順番を待つのが難しい 0−1−2−3
(47)質問が終わらない内に出し抜けに答えてしまう 0−1−2−3
(48)他の人がしていることをさえぎったり、じゃましたりする 0−1−2−3
3 行動面での様子(対人関係など)についてお答えください。(C)
(0:いいえ、1:多少、2:はい、の3段階で回答


対人関係やこだわり等
(49)大人びている。ませている 0−1−2
(50)みんなから、「○○博士」「○○教授」と思われている(例:カレンダー博士) 0−1−2
(51)他の子どもは興味を持たないようなことに興味があり、「自分だけの知識世界」を持っている 0−1−2
(52)特定の分野の知識を蓄えているが、丸暗記であり、意味をきちんとは理解していない 0−1−2
(53)含みのある言葉や嫌味を言われても分からず、言葉通りに受け止めてしまうことがある 0−1−2
(54)会話の仕方が形式的であり、抑揚なく話したり、間合いが取れなかったりすることがある 0−1−2
(55)言葉を組み合わせて、自分だけにしか分からないような造語を作る 0−1−2
(56)独特な声で話すことがある 0−1−2
(57)誰かに何かを伝える目的がなくても、場面に関係なく声を出す(例:唇を鳴らす、咳払い、喉を鳴らす、叫ぶ) 0−1−2
(58)とても得意なことがある一方で、極端に不得手なものがある 0−1−2
(59)いろいろな事を話すが、その時の場面や相手の感情や立場を理解しない 0−1−2
(60)共感性が乏しい 0−1−2
(61)周りの人が困惑するようなことも、配慮しないで言ってしまう 0−1−2
(62)独特な目つきをすることがある 0−1−2
(63)友達と仲良くしたいという気持ちはあるけれど、友達関係をうまく築けない 0−1−2
(64)友達のそばにはいるが、一人で遊んでいる 0−1−2
(65)仲の良い友人がいない 0−1−2
(66)常識が乏しい 0−1−2
(67)球技やゲームをする時、仲間と協力をすることに考えが及ばない 0−1−2
(68)動作やジェスチャーが不器用で、ぎこちないことがある 0−1−2
(69)意図的でなく、顔や体を動かすことがある 0−1−2
(70)ある行動や考えに強くこだわることによって、簡単な日常の活動ができなくなることがある 0−1−2
(71)自分なりの独特な日課や手順があり、変更や変化を嫌がる 0−1−2
(72)特定の物に執着がある 0−1−2
(73)他の子どもたちから、いじめられることがある 0−1−2
(74)独特な表情をしていることがある 0−1−2
(75)独特な姿勢をしていることがある 0−1−2


 学習面については計12点以上、行動面については計6点以上、対人関係については計22点以上の人数を校長に報告し、校長は学校単位で教委に報告するという。
75の質問項目は、昨年、文科省が5地域で抽出し調査した際のものと同じ。全児童・生徒に実施したのは都が初めて。
 また、児童・生徒の名前を記入した作業シートは、プライバシー保護のため「提出する必要はありません」と印刷されているにもかかわらず、国立市では市教委に提出させたことも判明しているという。(アサヒタウンズ)
他にも名前を報告した学校も多くあるのではないか?また、すでに学校では具体的な生徒名がピックアップされている。それを今後、どのように使うかは、市教委次第となるのではないか。

 上記の内容には、ほとんどの子どもが当てはまるのではないか(大人、自分にも当てはまる項目がいっぱいある?教師同士、お互いチェックしてみたら当てはまる教師はいっぱいいると思う)。今までなら個性として片付けられていたことが、「特別な子ども」「困難な子ども」というラベルを貼られる。子どもの側に何のメリットがあるのか。しかも現場では、「学習面か行動面で著しい困難を示す」児童・生徒が6.3%の数字に縛られて、この数字に満たないと再度、管理職が各クラスを回り、該当しそうな子どもをピックアップしていたという話もある。また、今まで親が何の問題も感じていなかったにもかかわらず急に、教師から児童精神科の受診を勧められ、その結果を報告するように保護者が言われた、などの動きも起きている。

東京都教職員研修センター研究部研究課の統括指導主事は、アサヒタウンズの取材に「教員はこの調査で、子どもを見つめ直すことができた、あるいはこういう見方もあるんだと気づいたと思う」と答えている。
「ピグマリオン効果」というものがある。知能テストを実施したあと、無作為に選んだ子どもたちを「あの子は優秀だ。知能指数が高い」と吹き込むと、そう思い込んだ教師の接し方で、本当に勉強がてきるようになるというもの。これは、その全く逆をしているのではないか。そして、実際に調査をした教師が生徒をそういう目で見るようになったという報告もある。「あの生徒はここにいてもいいのか?本来は特殊学級に行くべきではないのか?」と教師がつぶやく。自分の教える能力を棚にあげて、理解できないのは生徒に問題があるからとしてしまえば、教師は楽になるだろう。うまくいかない理由を生徒に押し付けて切り捨てていけば、最終的に教師の意のままに動く、飲み込みの早い子どもだけが残る。そして、企業はそういう子どもだけを将来の労働力として育てたがっている。

支援費制度という形で、障がい者の自立を名目に予算削減を狙っている国や自治体が、今さら学習困難な子どもに本気で取り組むとは思いがたい。学習指導支援のためというならば、なぜみんな一緒ではいけないのか。子どもたちが大人たちの都合でどんどんバラバラにされていく。階層化されていく。コミュニケーションも、相手を思いやる心もそんな環境のなかで育つはずもない。
「心のノート」といい、今回の調査といい、文科省は保護者に隠れて、子どもたちにいったい何をしようとしているのだろうか?

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なお、横浜でも2003年11月29日(土)、12:00−14:00 開港記念会館(「関内駅」下車歩5分?)2階9号室で、横浜弁護士会子どもの権利委員会主催の「ミニシンポジウム 教育って、誰のため?何のため? 子どもの視点から、教育法「改正」問題を考える」 講師 西原 博史 早稲田大学教授(憲法・教育法学会)の講演がある。(問い合わせ:横浜弁護士会事務局 045−211−7707)




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