『ピープルズ・プラン研究所ニュース』 No.4 (1998/06/27)


ちいさいつむじ風を!

ピープルズ・プラン研究所発足に当たって

武藤一羊

 ピープルズ・プラン研究所は一年三カ月の準備期間をへて、六月一五日に新しい運営委員会がきまり、発足しました。第一期を五年とし世紀末をはさんで二〇〇三年まで活動し、第二期につなげようというものです。この期間に世界がどう動くか、わたしたちの身辺がどうなるか、そしてわたしたち一人一人がどう変わるか、予測はつきません。PP研は未来を予測しようという試みではなく、未来が形作られる今日の場にちいさい一粒の能動的な要素として参加しようという企てです。世界がどのような決定論をも退ける「複雑系」であるとすれば、小さな風が嵐を呼ぶかもしれないのです。あるいは木の葉一枚そよがすことができないかもしれません。いずれにせよ、小さな風を起こすにもかなりの集中力が必要とされます。研究所は、さまざまな社会運動の活動者と研究者の双方に開かれた会員制をとります。活動者と研究者が噛み合いつつ回転するちいさいつむじ風をおこす試みに加わって下さい。

研究所では当面二つの部会をつくります。(一)社会運動研究部会と(二)オルタナティヴ研究部会です。それについてすこし説明します。

 社会運動研究部会では、とりあえず戦後の日本の社会運動の総括をやりたいのです。もちろんただ過去を振り返るのではなく、これからの社会を変える運動のあり方を探るためです。時代(時代風潮)の変わり目ごとに前のことは忘れていく、という仕方で日本社会は推移してきたという反省があります。日本帝国の戦争責任をあいまいにしたまま五〇年以上の「戦後」の経過を許したということがその背景にあります。けじめをつけないために同じ誤りが繰り返されます。この部会では、一九六〇年代後半から、それまでの社会運動の文法が変わったという仮説の上に、もう一度日本の戦後の民衆運動を振り返り、今日の状況をそれとの関連でつかみ直すという作業をやりたいと考えています。すでに準備会の段階から東京では数回にわたって運動分野別の研究会を積み重ねていますが、今年から、戦後期の運動者からの聞き取りを系統的に始める予定です。連絡を取り合いながら日本各地で聞き取りを始めませんか。

 むろん日本の経験は世界の、そして二〇世紀の経験の一部です。とくに六〇年代後半は「六八年革命」という言葉があるように世界的な同時性をもって新しい社会運動の質が一斉に出現した時期でした。部会では、この間の社会運動理論の世界的な展開を学び、吟味してゆく場をもうけます。とくに女性たちの運動の新しい波が、思想的・理論的な新しい衝撃力をそなえて出現し、既存の社会の関係や文化そのもの、また運動のあり方を揺すぶりました。「ジェンダー」の視点なしにオルタナティヴな世界を考えることはできないのです。部会ではすでに「ジェンダー視点からの戦後日本労働運動のみなおし」という研究会をもうけて、圧倒的に「男の運動」であった労働運動を切開する作業にとりかかっています。

 研究所では、社会運動部会とならんで、もう一つ「オルタナティヴ研究部会」をこれから立ち上げたいと思っています。以下の三つのレベルで、できるところから作業を始めるつもりです。(一)ガヴァナンス(グローバルな民主主義、民衆自治)、(二)オルタナティヴな経済社会システム、(三)オルタナティヴな価値の領域。望ましいシステムとは何か、という問題領域を、それを創造する主体・運動と切り離さずに考えていきたいのです。

 こうした研究活動や会員の研究論文、問題提起、海外の動向の紹介などを、新しい形の定期刊行物で発表してゆくつもりです。準備段階でのこの形でのニューズレターはこれが最後となります。つなぎの形を模索しつつ、来年から研究所報のような形で会の内外にこうした内容を提供する予定です。また最初の二冊を発行したPPブックスのシリーズも引き続き数点を準備しています。

 研究所はアジアを始め海外に多くの仲間をもっています。とくにアジアの活動的な研究者のネットワークARENAとは密接な関係のなかで、共同作業を発展させてゆきたいと思っています。

 以上のような活動の中にどんどん参加してください。

(ピープルズ・プラン研究所共同代表)


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