『ピープルズ・プラン研究所ニュース』 No.2 (1997/11/01)


巻頭言

武藤一羊

 

 出発して半年あまり、準備会としての足慣らしのなかで、ピープルズ・プラン研究所はゆっくりではありますが、なんとか形をとりはじめてきました。この間、ホットな問題に切り込むテーマでの公開討論(ラウンド・テーブル)を主軸に、さまざまな関心、領域の研究者・活動者の問題意識のすりあわせをはかるとともに、八月に伊豆で開いた合宿で、社会運動研究部会が発足、月一回の研究会が軌道に乗りました。また国際労働研究センター(戸塚秀夫代表)との共同研究会として、「ジェンダー視点からの戦後労働運動の総括」の研究会も発足しました。九月には京都で研究所の関西での活動を議論する小さい集まりをもつこともできました。香港にあるARENAや台湾をベースにするcultural studiesのネットワークとの連携など、国際的な回路との接続も部分的に始まりました。九月二三日の第三回目準備委員会で、来年六月に正式に発足することを決め、それに向かって、出資金の募集、会員の募集、出版計画の具体化、「哲学・倫理部会」(仮称)の立ち上げ、など準備活動に向かうことになりました。活動はとりあえずそこまで来ています。(活動日誌参照)

 だが、新しい現実とかみ合いながら根本的に(ラデイカルに)現状を変える道をさぐることがピープルズ・プラン研究所の目的だとすれば、世紀末の現状は楽観を許さない厳しいものです。現状とかみ合う(参画する)ための一定の仕方が国家その他支配の側からしつらえられ、ある約束事をうけいれてそこに参加すれば陽のあたる衛生的な世界に入れるけれど、根本的な変革からは遮断され、明らかに行き詰まっている二〇世紀世界と運命をともにすることを余儀なくされる。他方、それを拒否すれば現状とのかみ合いを絶たれ、周縁化される。どちらを選ぶのか。このような選択の強制は、社会運動、NGO、アカデミア、マスコミまで、いたるとろに働いています。メディアが圧倒的な規制力を発揮しています。主流メディアに発言権を確保しようとすれば、日米安保の破棄とか市場原理・規制撤廃への反対とかは口にしてはならないのです。これは日本だけではなく世界的な状況ですが、とくに自社政権と総与党化という不健全な政治構図の下にある日本では、上記のような二者択一があたかも自明なもののように受容されるにいたっています。

 この二項対立自身をどのようにして内外から打ち壊していくのか、現状とかみ合うことが根本的な変革のプロセスであるような回路をどうつくってゆくのか、それに貢献することがピープルズ・プラン研究所の存在意味だろうと私は考えています。そのためには、このような二項対立をつくりだしている構造自体を議論の俎上に乗せることが必要です。この構造の最大の弱点は、それがとうてい抱えきれない広大な外部を持っていることです。その外部との関係によってはじめて構造自身はわれわれに可視的になるでしょう。

 


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