People's Plan Forum Vol.3 No.5 (Nov, 2000)


【特集】地域と自治はいま

 

「周辺事態法」――非協力の動き

 

新倉裕史(にいくらひろし/非核市民宣言運動・ヨコスカ)

 

周辺事態法九条解説

 七月二四日、政府は「周辺事態法九条解説(案)」から案をとった「解説」を発表した。四つのQ&Aが増え、六項目についての説明が補足された。ここでは、新たに設けられたふたつのQ&Aに注目しよう。

 一つは日米地位協定五条についてのQ&Aだ。地位協定五条は、提供施設以外の港湾や空港に、米戦艦や米軍機が入港・着陸する際の日米のとりきめだ。「通告」すれば、自動的に入港・着陸が可能であると外務省は解釈する。

 周辺事態法九条は、自治体が管理する港湾や飛行場(一般に民間港、民間空港と呼ぶ)の軍事使用についての協力要請の手続を定めているのだが、この九条の解説文書に、なぜ地位協定五条解説を入れるのか。

 「周辺事態法九条」そのものには法的強制力はない。たとえば港湾の使用について、「九条解説」はこのように書く。

 「周辺事態においても、通常と同様、地方自治体(港湾管理者)の許可を得る必要がある」。

 「周辺事態法九条」による有無をいわせない民間港湾・空港の使用は、実際には難しい。こうした理解は、自治体間にも広がりつつある。私たちは神奈川県内の全自治体へ、周辺事態法について、一年の時をおいて二回のアンケート調査を実施したが、このアンケートによっても、こうした傾向を確認できる。

 だから、地位協定五条の登場というわけだ。平時における、民間港・空港の強制使用の切り札を、九条解説のなかに組みこむことで、周辺事態法の法的弱さをカバーするというのが、政府のねらいだ(地位協定五条にも、入港の強制力はない。詳しくは私たちのニュース『たより』一二一号等を参照してください)。

 「周辺事態法九条」は、自治体や民間が協力してくれるだろうという政府の「期待」を法的な根拠をもった「期待」に格上げするだけだ、と私たちは主張してきた。それは甘いという批判を随分受けてきた。しかし、「周辺事態法九条」の強さを強調して、だから自治体が断るのは実質的に困難と解説するだけでは、喜ぶのは政府だ。

 いま、民間港や民間空港の軍事使用をめぐって、自治体と政府間の綱引きが各地で現れてきている。私たちに求められていることは、「周辺事態法九条」の弱点を徹底的にあばき、すこしでも抵抗しようとする自治体を励ますことではないだろうか。

 

小樽市のがんばり

 この原稿を書いている最中、横須賀を母港とする空母キティーホークの小樽港寄港が発表された。九七年、インディペンデンスの小樽寄港抗議のために、私たちは平和船団を小樽港に浮かべての抗議行動のあと、自治体や民間の能力活用の実際を現地で調査していらい、小樽市の対応に注目してきた。その理由を、山田勝麿小樽市長宛ての入港拒否の「お願い」に、次のように書いた。

 「(略)私たちは九七年の空母インディペンデンスの小樽入港以降、米軍艦入港に対する小樽市の対応に注目してきました。港湾の非核化・非軍事化を望むものにとって、見過ごすことの出来ない動きが、そこにあるからです。

 新谷前市長は、インディペンデンスの小樽出港後の記者会見で『これを前例にしない』といわれました。前例をつくりにいった米海軍にとって、これほど『痛い』言葉はありません。であるがゆえに、インディペンデンスに替わってヨコスカを母港としたキティーホークは、入港したその日(九八年八月一一日)に『小樽に行く』と再度実績作りのための小樽寄港を発表したのでした。

 新谷前市長は、さらに重要な見解を表明します。『度重なる入港には賛成できない』『小樽を拠点的に位置付けることにも賛成できない』(北海道新聞九八年八月一二日)。他に軍事的な理由もあってのことですが、市長の実質的な『拒否』の前に、キティーホークは小樽寄港を取りやめます。

 今回の再入港表明は、新谷前市長が指摘した『拠点としての位置付け』にほかなりません。インディペンデンスが小樽に入港した際、戦闘軍司令官は記者会見で『朝鮮半島の有事の際は、空母インディペンデンスとキティーホークが部隊を乗せて一番最初に駆けつける使命を担っている』(朝日新聞九七年九月一〇日)と述べました。だから、こうして民間港を拠点化しておくのだといわんばかりの、露骨な発言でした。平時の入港そのものが、有事のために必要な、軍事的な意味をもった入港であることは明らかでしょう。米軍はなんとしても『前例』をつくりたいのです。

 私たちは小樽市が『検討した上で判断する』といわれていることに注目し、深い敬意を表します。地位協定五条を振りかざしての入港通告に『検討した上で判断する』と自治体の施設管理権を明確に示されていることは、とても大切なことです。(略)」

 現時点で、小樽市長はまだ「判断材料がそろっていない」(神奈川新聞九月二三日)と空母入港についての態度表明をしていない。結果はどうなるかわからないが、この時点での「綱引き」をこそ、私たちは注目しなければならない。「お願い」でも触れたが、小樽市は地位協定五条を振りかざしての入港通告にしばられることなく、「検討した上で判断する」という。ここには、入港の可否を決めるのは地位協定ではなく、自治体の権限に属すことがらだという明確な主張がある。

 小樽入港時のインディペンデンスの一般公開に、三五万人の見学者があったが、その数は米国にとってなんの担保にもなっていないことが見えてくるだろう。前市長の「これを前例にしない」という言葉がもつ重みをどれだけ実感できるか、ここが勝負だ。

 キティホーク入港通告五日前の八月三一日に、小樽市民は一年間の準備期間をへて、「非核平和条例制定運動」を発足させていた。インディペンデンスの入港がこの町ぐるみの運動をつくらせた、といっていいだろう。キティホークの寄港通告は、この新しい市民運動への牽制といえるタイミングで発表された。寄港拒否か、受け入れか。どっちに転んでも、だから条例が必要だという町の声が高まるに違いない。

 発足集会には、すでに条例制定運動をスタートし、六万人の署名を集めている函館の仲間もかけつけた。函館も、九七年一〇月に第七艦隊旗艦ブルーリッジが入港したことが、運動のきっかけとなっている。

 発足集会に参加する機会をあたえられた私は、インディやブルーリッジを寄港させたことを、米軍が悔やむ日がそこまできていると報告したのだが、その日は案外早くくるかも知れない。

 

民間空港でも

 港湾法―港湾条例に基づく港湾管理権を根拠に、港湾の軍事使用を拒否するというのが、函館や小樽で始まった「条例制定運動」だ。神戸市がすでに二五年間積み重ねてきた実績が背景にあることはいうまでもない。

 同じようなことが、自治体管理の飛行場でもできるはずだと私たちは仮説を立てた。この春、願ってもない実践がとびこんできた。

 四月二四日、米陸軍の小型ジェット機が、地位協定五条を振りかざし、帯広空港に強制着陸した。陸自第五師団で行われる研修に参加する八人の将校を降ろすためだ。

 帯広市は「空港管理条例三条」に定める届けが出ていない、地元五団体との覚書「自衛隊機もしくはそれに類する飛行機の乗り入れはさせない」に反するとして、帰路は民間機を使うように米軍に要請。ぎりぎりまで、軍用機を使うとしていた米軍は二七日、一転して軍用機を放棄し、民間機による帰還となった。地位協定五条を根拠とする強制使用を、条例と覚書が打ち破った、画期的な例が生まれたのだ。

 迷惑施設である飛行場は、設置者(国あるいは自治体)と設置される自治体や周辺住民間で、「覚書」「協定書」をとりかわす。「軍事使用を認めない」という項目が存在する例は多い。中国地方の九つの飛行場のうち五つに「軍事使用を認めない」内容をもつ「協定書」が存在する。「空の神戸方式」が生まれる条件はそろっているといっていい。

 

議会決議の力

 九条解説に加えられたもうひとつの重要なQ&Aに、「議会決議は拒否の理由にならない」がある。けしからんといきり立つ前に、冷静にQ&Aを読もう。港湾の使用に関していえば、拒否する法的根拠は港湾法であって、議会決議が港湾法にかわって法的な力を発揮することはない。政府の解説はこれだけだ。

 では、議会決議にはなんの力もないのか。そうではない。「非核神戸方式」がそのことをみごとに証明している。核搭載軍艦の入港を認めない神戸市議会の全会一致の決議をもとに、神戸市は神戸市港湾条例を法的根拠として、入港しようとする外国軍艦に非核証明の提出を求める。提出があれば停泊バースの指定を行い、なければバースの指定をしない。これが「非核神戸方式」だ。港湾施設使用を拒否する法的根拠は港湾法―港湾条例で、議会決議ではない。しかし、議会決議がなければ、神戸市がこの法的根拠を「非核神戸方式」の枠組みで発揮することはない。

 この関係を理解すれば、政府がなぜ「議会決議は拒否の理由にならない」と繰り返すのか、その理由が見えてくるはずだ。

 議会決議は自治体の「決意」を支えるものだ。「決意」さえあれば「法的根拠」は個別法のなかにいくらでもある。政府は、全国各地の地方議会が、戦争非協力の「決意」を確認しだしたらたいへんなことになると考える。だから、議会決議などしても何の意味もありませんよ、とキャンペーンを展開する。これが議会決議の問題がQ&Aに加えられた理由だ。

 昨年、私たちが集めた周辺事態法に関する地方議会での決議(意見書の採択等)は二四二件。成立促進決議はわずか一件。他はすべて、慎重審議や反対決議、あるいは設置されている施設の軍事使用反対決議だ。

 舞鶴市議会が「自治体尊重」の意見書を可決したのは九九年三月二六日。反対していた保守系議員も加わっての全会一致だった。

 「護衛艦が出払っていると思ったら、日本海でバンバン撃っている。ショックだった。自治体協力では地元の意見を十分聞いてもらわないと困るとみんなが思った結果だ」(朝日新聞九九年三月二七日)。意見書の採択の過程でおきた「不審船」事件と護衛艦による砲撃。「北朝鮮脅威論」に引きずられるのではなく、事態を引き戻そうという力が、ここには生まれている。政府が議会決議を重要視するのは、こうしたことが各地で起こりうるからだ。

 

非協力宣言

 二ヶ月後、今度は舞鶴市職労が、市長への要請書のなかで、「軍事行動及びこれに類する業務は一切行わない決意です」と「非協力」を宣言する。私たちが知る限りでは、これが最初の「非協力宣言」だ。

 川崎市職労は「良心的戦争非協力権」という考え方を、市長への「要請」のなかで展開している。業務命令に対抗する工夫として注目したい。他に、立川、横須賀、横浜、鎌倉、神戸、名古屋、佐世保、長崎県、練馬区等の職員組合が、「非協力宣言」を行っている。

 議会が「非協力宣言」をしたところもある。京都府日向市では、市民から提出された請願の採択をもとに、三月二四日、「周辺事態法に基づく戦争協力を行わない決議」をあげた。

 民間企業からも非協力の声は上がっている。全港湾横浜支部は、横浜港を活動拠点とする港湾企業四四社に非協力の要請を行ったが、うち四社から、有事の際の米軍物資のとりあつかいを拒否する回答を得た。生活の糧である仕事を拒否するのは、労働組合が業務を拒否するのとは別の困難があるが、それでも四社が「非協力」を宣言している事実に、私たちははげまされる。

 周辺事態法は、基地がある自治体だけではなく、全国すべての自治体が「軍事の現場」となることを想定する。それは、当事者となった全国の自治体、あるいは自治体への働きかけから、政府も思わぬ展開が生まれる可能性をつくり出した、と言いかえることができる。

 「たいへんだ」を繰り返すだけではなく、現にいま起きている「綱引き」を見逃さず、小さな変化を大切にし、非協力のとりくみを全国からつくり出そう。

 

〈追記〉 小樽市は空母キティホークの寄港は容認したが、随伴艦ビンセンスの寄港は拒否。空母の一般公開も中止するよう、札幌の米国領事館に要請した。寄港拒否を求める市長あての要請は前回の七五〇件から二〇〇〇件に増え、見学者は三五万人から七万人に激減した。小樽はがんばった。

 


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