TOPに戻るアーカイブINDEXに戻る

2002年6月10日発行171号ピースネットニュースより

【連載】もうひとつのグローバリゼーションを求めて(14)
ファーストフード店労働者の闘い

ATTAC Japan 事務局  田 中 徹 二

 今回は、ATTAC Japanの会員である湯川順夫さんが、フランス紙「ル・モンド」、「リベラシオン」などの報道をもとに“ファストフード店労働者の闘い”について書かれたレポートを送ります。日本こそアメリカナイズをまともに受けて、駅の周りという周りはファストフード店に占拠されている感がします(消費者ローンと並んで)。若者を使い捨てにするような労働、自然環境を収奪して作られる食材料等々 ―― 経済のグローバル化の象徴とも言えるファストフード店とその文化からの決別が求められていると言えましょう。

フランス:マクドナルドで114日間のスト
青年の闘いがグローバリゼーションの象徴=マックを打ち負かす

 パリのサン・ドニ大通りにあるマクドナルド店の労働者は、ストライキから114日目の2月15日に、同店支配人と協約を結び、ほぼ4ヵ月ぶりに仕事を再開した。「背任」を口実に店から解雇されていた2人の労働者も職場復帰する予定である。他の3人の解雇者はすでに労働審判所や労働監督機関の裁定によって職場復帰が決定していた。ここに5人の労働者の解雇に端を発したマクドナルド店の労働者の闘いは全面勝利を勝ち取った。

ファストフード店労働者の闘い
 この闘いの中心的担い手であるアブデル・マブルキ君は、マクドナルド店の労働者ではなく、1995年以来、ピザ・ハットで働いている。1996年以来のCGT(フランス最大のナショナルセンター)の組合代表として、かれはファストフード・レストランで3回のストライキに参加してきた。2000年12月のサンジェルマンのマクドナルド店のスト、2001年1月のオペラのピザ・ハット店でのスト、そして今回のストラスブール・サン・ドニのマクドナルド店のストである。昨年2月には、ピザ・ハットのストライキの後、ファストフード店やディズニーに働く労働者の権利を守るためにCGTファーストフード・チームを結成した。こうした闘いによって自身もピザ・ハット経営陣によって2001年5月に一度解雇されたが、職場復帰を勝ち取ったばかりである。闘いの前進のためにけっしてCGTの枠だけにこだわることなく、CFTC(キリスト教系労働組合の流れをくむナショナルセンター)やCFDT(フランス第2位のナショナルセンター)ともいっしょになって闘っている。

 今回のパリのストラスブール・サン・ドニにあるマクドナルド店の闘いの発端となったは、5人の従業員が職場従業員代表選挙に立候補する意向を表明したまさにその時に、経営者側が突如として、店のレジから百万フランを盗んだとしてこの5名を解雇したためである。すでにその前の九月に、店の経営陣が従業員代表の活動を妨害しようと試みたのに対して、労働者が短いストでこの反組合的試みを阻止するといった事態が起こっていた。こうした組合活動つぶしの一環としてに、経営陣は新たに、解雇によって一挙に組合切りくずしを図ったのであった。この店の労働者はこの暴挙に抗議して5名の職場復帰を求めてストライキに突入し、長い闘いが始まる。

青年を使い捨てるファストフード大資本
 今日の資本主義的グローバリゼーションの中では、マクドナルドをはじめとするファストフードの大資本チェーンは、労働の世界におけるグローバリゼーション的経営方式導入の世界的な尖兵としての役割を果たしてきた。20年前にマクドナルドがフランスに上陸したとき、それはディズニーと同様に、それまで労働者によって獲得されてきていた労働条件と権利を踏みにじるようなファストフード・レストラン業界の団体協約を強引に導入した。夜間労働は午前2時以前に開始しなければならないという協約は撤廃され、休日労働の支払いは2倍ではなくなり、「補充労働」時間が「超勤」時間にとって代わりそれについての手当もはるかに少なくなった。こうしてファストフード産業で働く労働者の権利は労働法規が保障するもの以下に転落する。この部門で闘争することは非常に象徴的な意味をもっている。なぜなら、マクドナルドのこの導入されたシステムは他のすべての部門でも経営者たちによって模倣されているからである。極端な変則労働時間制、慢性的な人員不足などに象徴されるこのシステムは、このままでは労働界全体にまで拡大していくだろう。その意味でこの闘いは象徴的であるが、困難な闘いでもあった。

ではこの産業にはどのような労働者が働いているのであろうか。1999年度のフランスの失業率は、男性平均で9.6%といぜんとして高率であるが、15歳から24歳まで青年になるとそれは倍近くの19.6%になる。女性の失業率は平均13・2%だが、それが15歳から24歳の青年女性になると24.2%にも達する。こうして、若者は、高校、大学を卒業してもなかなか職が見つけることが困難であり、当面「アルバイト仕事」で食いつないでいかざるを得ない情況にある。また現役の学生も同じである。現在、自分の勉学の資金を得るために働いている学生が70万人いると言われている。こうした学生は同じ労働者であり、20時間契約や30時間契約の安月給の使い捨て労働者となっている。こうした失業青年や学生を「使い捨て労働」としてこき使うことによって急成長してきたのが、マクドナルドやピザ・ハットなどのファストフード大資本である。…

広範な支援戦線の結成で反撃
 こうした諸条件のもとでその部門では組合を組織することはほとんど不可能であったのだが、マブルキ君たちは、企業の枠を超えたファストフード業界での闘いを組織する試みを開始した。…より広範な戦線、「ストップ不安定雇用ネットワーク」が結成された。これは、経営者側の「世論」に訴えようとする大々的な宣伝に対抗するためであると同時に、サービス産業に働く多数の不安定雇用労働者を組織するための新たな試みであった。AC!(反失業共同行動)やATTACやAarrg(グローバル・レジスタンス・ネットワークのために煽動する見習い労働者)ならびに組合ではCGT系の組合やSUD(新しい戦闘的独立労働組合)系労組などもこのネットワークに結集し「ストップ不安定雇用」ネットワークが少しずつ建設されていった。こうして、失業者と不安定雇用労働者と常勤労働者の広範な共闘が、また同時に労働者と学生の共闘が形成されていった。

マクドナルド店占拠へ
 ストライキが始まると、労働者たちは毎日、毎日、10時から19時まで営業の再開を阻止するためにスラスブール・サン・ドニの店に詰めかけ、「われわれはハンバーガーではない」などのスローガンを叫び続けた。運動は、すでに述べたように5人の解雇撤回から始まったが、従業員が職場の従業員代表選挙に立候補する意向を表明したときにレジから百万フランを盗んだという口実で解雇されたことに見られるように、闘争は、組合活動の承認と自由という本質的問題を問うものへと発展していく。労働者によれば、職場では経営者の強権的態度、権力の濫用や言葉の上でや心理面での攻撃が日常茶飯事のように続いているという。…

 12月中旬になると闘いをさらにエスカレートし、労働者たちは支援の労働者・学生とともに守衛を追い出し、このマクドナルド店を占拠してしまった。これを契機に闘いはさらに上げ潮に入り、2002年の年頭からこの店の営業を再開するというマクドナルド資本のもくろみは完全に粉砕される。今年1月に入ると、ストラスブール・サン・ドニ店以外のマクドナルド店へと占拠が拡大され、地域デモや支援委員会によるコンサートが開かれ、1月19日にパリの会場ゼニトで開催された7000名のATTAC大集会に招待されたマクドナルド労働者はそこで万雷の拍手を浴びる。そして、1月24日には、パリの労働審判所が、「要求を集団として提出したとき、あまりにも露骨に労働者を排除しようとした」として経営側を非難し、2名の職場復帰、罰金の支払いを経営側に命じる裁定を下したのであった。そして、最初に述べたように、とうとう2月15日の和解によって労働者は事実上全面的な勝利を収めることになる。巨人マック資本に立ち向かった青年労働者たちが一矢を報いたのである。

新しい青年運動
 この闘いの勝利の意義は、不安定雇用と未組織が圧倒的なファストフード産業労働者、サービス部門労働者の今後の闘いにとってきわめて大きい。…マブルキ君自身は、CGTの組合員であるが、闘いの展望をけっしてCGTの枠内に限定しようとはしなかったし、現在もそうしていない。事実、ナショナルセンターからの闘いへの支持はあるかと聞かれた彼は「支持はない。CGTはわれわれの闘争に反対しなかった。それだけだ」と答えている。マクドナルドに象徴される資本主義的グローバリゼーションは同時に、それに対する抵抗運動のグローバル化をももたらしつつある。フランスのマクドナルド店で勝利したということは、全世界のマクドナルド店でもまた勝利できる可能性があることを意味する。

さらに注目すべき点は、これがフランスにおける新しい青年運動の出発を告げる闘いでもあったということである。この間、フランスでは社会運動が大きな高揚を見せてきたにもかかわらず、教育をめぐる青年、学生の運動は高校生や学生の間欠的な大規模な闘争の爆発にもかかわらず、持続的な青年運動という点では、イギリスやアメリカに比べるとほとんど見られなかった。「ストップ不安定雇用ネットワーク」に結集する青年たちは、労働者として職場での闘いを組織しなながら、同時に、ATTACやAC!などとともに、イタリアのジェノバの大規模な街頭デモにも参加している。マブルキ君は、この点を次のように語っている。「グローバリゼーションの問題が取り組まれているのは、とりわけ『ストップ不安定雇用ネットワーク』を通じてである。われわれはVamos(「連帯のグローバリゼーションの万歳」)とともに、ATTACやAC!などと並んでジェノバで行動した。この経験は私個人を大いに豊かにしてくれた。この1年で私は多くのことを学んだ。われわれはほとんど至るところに出かけて行った。…われわれは同じ地球上にあるすべてのものを見たが、問題は至るところで同じである。連中がわれわれに強制しようとしているこの単一のモデルに反対して闘わなければならない」。これらの若者は、青年労働者であると同時に学生でもある。この闘争の支援に駆けつけた学生のエティエンヌ君は「大学と外部との結合を考えている。学外での学生の闘いの存在を示すことは重要である。これによって、わわれわれの諸要求、とりわけ、青年全体の社会的所得という要求を結びつけることができる」と考えている。…

 この闘いはさらに、FNAC(フランスの一大レコード店チェーン・グループ)など、サービス産業の他の部門にも拡大しつつある。

TOPに戻るアーカイブINDEXに戻る