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2004年10月10日発行198号ピースネットニュースより

ロシア・日本そして世界を覆い始めた「茶色の朝」
今起きている現実を見つめ直そう!

ピースネット・市民平和基金 青山 正

フランスでの極右台頭への警鐘
 「茶色の朝」という本を読まれたでしょうか。これはフランスでフランク・パヴロフ氏が執筆したわずか11ページの寓話小説です。パヴロフ氏はフランスでの極右政党国民戦線の急激な台頭に危機感を感じて、特に若い世代に読んでもらうためにこの短い寓話をわずか1ユーロで出版しました。特に2002年のフランス大統領選挙の際、国民戦線のルペン候補が社会党のジョスパン候補を抑えて2位となり決選投票をシラク大統領と争うことになった時にこの本が読まれ、大きな反響を呼び「極右にノン」の運動が広がりルペン候補の敗北に結びつきました。この寓話に高橋哲哉氏の非常にわかりやすく明快な解説とメッセージ、及びヴィンセント・ギャロ氏の絵が加えられて「茶色の朝」日本版が昨年12月に大月書店から発行され版を重ねています。
 この寓話はそのテーマにもかかわらず、非政治的でごく普通の庶民であった主人公の身の回りで起きたことがとても淡々と語られていきます。茶色党に支配され茶色だけが許される社会の恐ろしい結末が象徴的に描かれていて、ファシズム・全体主義とはどういうものか、どうやって人々の中に入ってくるのかを、わかりやすく伝えてくれています。

ロシア・米国・日本で進行すること
 この本を紹介しようと思ったのは、前号でも触れたロシアの政治状況の変化があります。第二次チェチェン戦争を通してプーチン政権による強権的な政治・社会体制が作られました。そして先月のロシア南部北オセチア共和国のベスランでの学校占拠事件での悲惨な結末を受けて、プーチン政権は「対テロ」のためという名目でさらにそれを強化し、知事や自治共和国の大統領を実質任命制に切り替える法案を作るなど、地方自治すらも完全に否定してしまいました。そしてソ連時代の巨大な情報・監視機関であった旧KGBを継承するFSBの強化を図り、KGBをもしのぐような権力を持たせつつあります。チェチェン戦争の進行に伴い言論機関への統制も図られ、テレビなどはすでに大半が実質国営化され、新聞機関に対する統制も今回の学校占拠事件を機に強化されています。議会では多くがプーチン政権の実質与党に占められていますが、今度は小選挙区を廃して比例制を導入することで、無所属の候補者を締め出そうとしています。これまで野党を支援してきた新興財閥に対しても強硬な捜査や経営者の拘束などにより、実質解体か国営化に追い込んできており、あらゆる批判勢力の一掃を進めています。
 そしてこのようなロシア社会で進行している非民主主義的な動きは、9.11事件以降米国、そして日本を始め全世界へ広がってきているように思えます。米国では反テロの掛け声のもとで、「愛国者法」ができ個人の人権やプライバシーを規制し、管理し始めています。それがどんどん強化されています。日本でも有事法制ができ自衛隊のイラク派兵が繰り返され、さらにJRの駅や空港などでの警備が強化され、個人の情報や交信の秘密も国家により脅かされかねない状況にあります。あるいは日の丸・君が代の強制に見られるように個人の思想・表現の自由すら否定されかねない状態にもなっているにもかかわらず、それがおかしいという声は残念ながら大きなものにはなりません。

「やり過ごさないこと、考えつづけること」
 「茶色の朝」に描かれている例は極端かもしれません。けれども今私たちの周りで進行していることは「茶色の朝」に至る過程にあるのではないでしょうか。次の投稿掌編はいわば日本版「茶色の朝」の情景を描いています。それが単なる杞憂に終わることは今のままでは残念ながらなさそうです。ではどうすればいいのでしょうか。「茶色の朝」の解説で高橋哲哉さんもメッセージとして「やり過ごさないこと、考えつづけること」と書いていますが、確かにこれが大事なことだと思います。私たちはともすれば「大したことはない」と考えたり、あるいは「しかたがない」とあきらめたりしがちです。しかし、問題が起きた時に「今何が起きているのか」をよく考えて、問題の本質を探ることと、どうすればいいかを「考えること」「考えつづけること」はとても重要です。
 チェチェン問題でもそうです。確かにロシアでの学校占拠事件は許しがたいテロ事件でした。そして9月17日になってチェチェン独立派の強硬派であるバサーエフ野戦司令官が自ら犯行を声明しました。しかしだからと言ってそれをそのまま信じることもできません。バサーエフ司令官が絡んでいるとしても、一体誰が計画したのか、真の目的は何か、犯行グループは一体誰だったのか、など不確かなことだれけであり、一方結果から言えば、今回の事件を利用して特をしたのは結局自らの権力基盤を拡大したプーチン政権だけであり、残されたのは北オセチア人のチェチェン・イングーシ人に対する憎しみと隠されたままのチェチェン戦争です。このままではチェチェン戦争はカフカス全域の民族間対立へと拡大され、なおさらチェチェンの人々の苦悩は深まることになりかねません。表面的な報道や動きの裏で進行している問題にも目を向けながら、私たちは真実を、そして民主主義を求め続けていきたたいと思います。

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