歴史教科書から「南京大虐殺」を消し去る動きをゆるさず、「ノーモア南京」の声をねばりづよくおしひろげよう。


2001年5月12日、江東区亀戸文化センターにおいて、ノーモア南京の会 第4回総会を開催しました。今回は、名古屋大学名誉教授・安川寿之輔さんから『福沢諭吉のアジア認識−日本近代史像をとらえ返す』と題する記念講演を受けたあと、総会議題に入りました。2000年度の活動報告、2001年度の活動方針、会計・同監査報告、人事を確認しました。以下、2001年度「ノーモア南京の会」活動方針を掲載します。(「ノーモア南京の会」事務局)
                        

 2002年から中学校で使われる社会科の歴史・公民教科書検定で、4月3日文部科学省は「新しい歴史教科書をつくる会」編集、扶桑社発行の教科書を検定合格させたことを発表しました。1996年に発足した「新しい歴史教科書をつくる会」(西尾幹二会長)は「従軍慰安婦」「南京大虐殺」などの記述を「反日的・自虐的」とし、教科書から削除するキャンペーンを張ってきた団体であり、当会でも以前からその動きに注意を払って来ました。 その教科書の内容を簡単に見ますと、神話をあたかも史実であるかのように描き、日本の歴史を天皇の権威が一貫して存在していたかのように記述しています。なかでも、近代日本史のとらえ方に大きな問題が含まれていて、アジア太平洋戦争を「大東亜戦争」とよび、それが侵略戦争だったことを認めず、アジア解放のために役立った戦争として美化し肯定する立場がつらぬかれています。そこには、韓国併合・植民地支配への反省はなく、むしろ正当化する考えは残っています。

 従来の日本では「ノーモア広島、長崎」に代表されるように、戦争の被害の側面が強調され、被害の前に、南京大虐殺を始めとする加害があったという側面が軽視されてきました。そこで、歴史の事実を知ることを通し、加害の側面に目を向け、侵略の歴史を二度と繰り返さない運動をすすめようという考えから、1997年に当会は始まりました。そうした当会にとっては、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書の内容を容認することは絶対に出来ませんし、このような教科書が子どもたちの手にわたることも許すことは出来ません。

 また、当会が従来から推し進めてきた、歴史の事実を知る、という面から見て、この教科書はどうでしょうか。南京大虐殺については、修正前には、「東京裁判で中国民衆20万人以上を殺害したと認定された」とし、「その当時の資料により、当時の南京の人口は20万人で、しかも日本軍の攻略の1か月後には、25万人に増えている」と従来からの彼らの「ウソ」をそのまま記していました。さすがに検定意見でも、「南京事件の実否や犠牲者数についての研究状況に照らして、誤解するおそれのある表現」だとしています。

 しかし、修正後でも、「なお、この事件の実態については資料の上でも疑問点が出され、さまざまな見解があり、今日でも論争が続いている」として、事実を認めようとしていません。これを読まされる子どもたちにとっては、南京大虐殺はなかったかもしれないと、思わされるような記述になっています。

 このような教科書に対しては、当然のように、日本軍の侵略を受けた地域、とりわけ韓国および中国から強烈な非難の声があがっています。韓国の金大中大統領は、韓国訪問中の鳩山由紀夫民主党代表に対し「心に受けた衝撃は大きい。誤って処理された場合、両国関係に悪い影響を与えることを強く懸念する」と述べました。韓国では国会での非難決議や被害を受けた方々などを初めとして大きな抗議運動が繰り広げられています。いっぽう、中国では、外交部の朱邦造スポークスマンは4月3日、「 日本政府は本日、右翼学者の編纂した2002年版歴史教科書が検定に合格したと発表した。日本政府が中国側の度重なる厳正な申し入れを顧みず、アジア各国の人々の正義の声を無視して、是非をあいまいにし、黒白を転倒させた教科書が出ることを放任したことに対して、中国政府と中国人民は強い憤りと不満を表明」しました。

 5月8日の夕刊で各紙はいっせいに韓国からの教科書修正要求を報道しました。そこには、「韓国の韓昇沫・外交通商相は8日、日本の寺田輝介駐韓大使を呼び、今春に検定を通過した日本の中学校の歴史教科書について、事実をわい曲した記述や欠落している部分があるとして、合計で35ヶ所の再修正要求を文書で伝えた。このうち『新しい歴史教科書をつくる会』のメンバーが執筆に加わった扶桑社の教科書への再修正要求は25ヶ所に及んだ。」(日経新聞)とあります。扶桑社の教科書はもちろん、他の7社の教科書の記述も、従来に比べて大きく後退させられていたことは、私たちも指摘をしていましたが、まさに、日本の歴史教科書全体に対して批判が向けられました。ことは教科書だけの問題にとどまらず、また、こうした教科書を検定合格させようとする勢力だけの問題でも、もちろんありません。改憲や靖国神社公式参拝を公言する総理大臣に対して、8割もの国民が支持をするという、今の日本社会の総体に対する批判が、アジア諸国から沸き起こったと見るべきではないでしょうか。

 こうした一見絶望的とも思われる状況の中で、「ノーモア南京の会」およびその会員一人一人は何を、どうして行かなければならないのでしょうか。昨年末の「ノーモア南京2000年東京集会」の際に、「内容のすばらしさに比べて入場者が少ない」ことを指摘されました。それは「主催者の怠慢」だけではなく、多くの問題を抱えていると思います。問題の大きさに押しつぶされそうにもなります。しかし、だからこそ私たちは、歴史の事実に向き合い、多くの人に「ノーモア南京」を呼びかけていくという運動を、苦しくとも推し進めていかなければならないのではないでしょうか。

 幸いにして、私たちの運動には多くの仲間がいます。それは日本全国の仲間にとどまりません。昨年は、ミニー・ヴォートリンの日記を学習し、南京師範大学の張連紅副教授をお招きもしました。ヴォートリンは、今から60年前の1941年5月14日に自殺をしましたが、その追悼の行事が中国・南京師範大学とアメリカで行われています。南京師範大学南京大屠殺研究中心の主催による、ヴォートリン逝世60周年記念「南京大屠殺国際学術論壇」は今日から14日まで開かれ、一方、ミニー・ヴォートリン60周年特別追悼行事は今日現地時間の午後1時からミシガン州シェパードの教会で行われます。どちらにも私たちは連帯のメッセージを送りました。それは、中国語と英語に訳され、英語はヴォートリンの親戚の方々などにプリントして渡されるはずです。

 今年は、日本の中国侵略が始まった柳条湖事件(9.18事変)の70周年です。まさに現在の日本の社会状況は、当時に似てきています。しかし私たちは、「いつかきた道」を繰り返さない運動を、粘り強く行っていくつもりです。一緒に頑張りましょう。

具体的な活動

1.調査、研究活動   「ノーモア南京の会」として南京大虐殺の調査研究活動を行う。資料研究、証言の聞き取りなどを通して被害者の怒り、悲しみを知り、それを広める活動を継続して行う。 南京現地を訪れ、調査研究をするとともに、犠牲になった方々の追悼を行いたい。 同時に、元日本兵の加害者としての証言を収集したり、証言集会などを開く。

2.学習会・連続講座の実施   会員自らが学習し、発表する学習会を重ねて開く。南京大虐殺に限らず、広く戦争犯罪・戦争責任に関する連続講座を開き、現在の状況・課題への認識を深める。

3.南京大虐殺の事実を教科書から消し去ろうとする動きとの対決   教科書の採択に際して、現場の教師などの意見を取り入れない動きに断固反対し、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書を採択させない運動を展開する。

4.東史郎さんの「戦争の語り部」支援   支援する会に協力し報告集・資料集の販売を協力する。東史郎さんの講演会の設定・協力、著作の再販・自主出版などで加害の事実を伝える運動の意義を広める。

5.広報活動・ホームページの充実   ニュースを定期発行し、ホームページを引き続き充実させる。   特に若い人たちに「ノーモア南京大虐殺」を広め、97年度の「報道から」パンフを豊富化して再刊することなどを通して会の活動を知らせていき、参加を呼びかける。

6.12月集会の開催と追悼デモの実施   2000年に引き続き、12月13日前後に12月集会と追悼デモを行う。   規模は小さくても、人々の心を打つ集会を行いたい。

7.国内外の運動団体との連携、交流。中国や世界の人々との交流。会員の拡大。   中国・南京師範大学に、会員の加藤実さんが日本語教師として赴任。情報交換の促進と、現地訪問の旅の企画、受け入れなどへの協力をお願いする。

8.会員の拡大。

9.その他

[ホームページへ] ・ [上へ] ・ [次へ]


メール・アドレス:
nis@jca.apc.org