いろんな人に聞いてみました。森との関係。  

森の列島に暮らす・21  

マンガ林業白書とギルガメシュと
共感のためのドラマ

橋本陽子さん
漫画家

 

 

 橋本陽子さんは、1995年から5年続けて「マンガ林業白書」を、また2000年には自らの企画で、特別版の「森を滅ぼした男−ギルガメシュ叙事詩より」を執筆されている。「それまでは、まったく森林・林業関係に興味がなかった」という橋本さんに、今回はお話しを伺った。

 「マンガ林業白書」は、固い白書を子供向けに分かりやすく伝える方法はないか、といった話から始まったものです。最初のマンガ林業白書が発行された1995年には、たまたま主人が林野庁の白書班におりまして、私がちょうど子育て中で仕事をしていなかったものですから、「じゃあマンガで出してみるか」ということになりまして。
 基本的に私は、森とか植物といった静物を描くのがあまり好きじゃなくて(笑)、ストーリーのなかで人間を描くのが好きなんです。そのころ官公庁が出していたマンガって、いかにも教科書的だったでしょう。ですからマンガ林業白書は、ストーリーがちゃんとあって、その中で伝えたいことをキチンと伝えていくようなものをつくろう、という考え方でやってきました。
 ここ2年は「絵で見る森林・林業白書」という冊子で、絵を描かせてもらっています。マンガにしても絵本にしても、子供たちがそれで知識を得るというより、それが森に出掛けるきっかけになってくれればいいなと思っています。


 5冊続いたマンガ林業白書は、森林の歴史や国産材問題、海外協力といったテーマがあったうえで、白書班の方と協働でつくってきました。その後の2000年に発行された「森を滅ぼした男」は、その年でマンガ林業白書が最後になるかもしれないという話にもなっていましたので、企画の段階で私から「ぜひギルガメシュを描きたい」と発案しました。
 自らの力を過信し物質的な豊かさを追い求め、森を征服した半神半人の王ギルガメシュが、最後には大切なものを失い落胆するといった話ですが、それまでの5冊を描くうえで資料を調べているときに、梅原猛さんや安田善憲さんの本で知って、ちょっと惹かれていたんです。4000年も昔に書かれたものなのに、人と自然との関わり、友情といったテーマがうまく表現されていて、今でも通用しますし、すごく共感できたんですよ。
 「森を滅ぼした男」は個人的に気に入っている仕事で、描いていて楽しかったですね。商業誌のように反響が聞こえてこないのが、描き手としては気になっているのですが(笑)。

 森の必要性を普及・啓蒙することは、とても大切なことだと思います。でも、「森は大切だ」というきれい事だけ言っていても、それを言い過ぎてしまうと「もう分かったよ」という感じになってしまいますよね。実際には、そこに必ず人間が関わっていくわけで、そうなるときれい事だけでは済まずに、どうしても汚い部分や悪い部分も出てきます。「森は素晴らしい」と思うことは、共感とは違いますよね。そこに人が関わって、様々なドラマが生じることによって、初めて人は共感できるのではないでしょうか。
 ドラマとして悪い人や悪い状況が出てきたとき、それが現実だと生々しくて伝えるのが難しいのですけれど、フィクションならばいくらでも描くことができます。そこが、普及・啓発の手段としてのマンガの強みかもしれません。マンガ林業白書でも、もうちょっとそういう要素を入れておけば、もっと面白いものになったかな、という反省はありますね。

 人間がいる限りは、私の中ではあくまで人間が主体なんです。そして、人間が人間本意で考えていけば、自然と“森とともに暮らす社会”になっていくのではないでしょうか。
 本当に森がなくなってしまったら困るということを、たぶん人間は分かっているはずです。人間が「自分が自分が」と思っている限りは、悪い状況にもどこかでブレーキがかかるんじゃないかなって、ちょっと楽天的に考えているんですけれどね。人間はそこまでバカじゃないだろうって。


 (編集部)

YOKO HASHIMOTO


東京生まれの福岡育ち。1981年「架事くんの告白レポート(りぼんオリジナル)」で漫画家デビュー。集英社から3冊のコミックスを出版。出産を契機に一時休筆。1995年からマンガ林業白書(日本林業調査会)をVol.5まで、2000年には特別版の「森を滅ぼした男(同)」を描く。昨年、今年は「絵で見る森林・林業白書」のイラストを手掛けている。

 

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