いろんな人に聞いてみました。森との関係。  

森の列島に暮らす・6  

I&Iと循環バランスと幸せを感じる感覚

 

中村雅志さん (指圧・整体師)

 

 「うちの近くに面白い指圧の先生が いるんだよ。一度話を聞いてみたらどうだい?」と言う我が坂井事務局長の推薦により、今回はあきる野市に治療院 『平安堂』をかまえる指圧・整体師の中村さんにお話しを伺った。

 大学時代、経済学部だった中村さんがこの道に軌道修正をしたきっかけは、 ふたつある。ひとつは、そのころ興味を持ち始めた自然食の雑誌の投稿欄に載っていた話から、手に職をつければ自然の中で 子育てをしながら生きていけると気付いたこと。もうひとつは、学生時代に出会ったレゲエである。
 「レゲエには、 ラスタの思想というものがあります。なかでも私がキーポイントとしているのは、“I&I”という言葉です。I&Iは “私とあなた”。あなたもIなんです。シンプルな言葉なんですけれど、奥行きの広さ感じますよね。人と人とが対立したり ケンカするのは、相手を“彼”とか“お前”と認識するからですが、相手も自分なんだと考えるわけです。学生生活に漠然と 違和感を感じていたのですが、レゲエに触れて、なるほどと思ったんです」
 I&Iの対象は、人だけではない。 自然も宇宙も、すべてひとつのものから派生した生命。何もかもがIなのだという。

  指圧師という仕事を通して、自然というものをどう感じて いるのだろうか。

 「この仕事をしていると、言葉ではなくて、体に触れることで 細胞を通して会話をします。人は、木に触れることで感じる何かがあるじゃないですか。元々人間というのはそういう感覚が あって、だからこそ地球上で生きていられるんですよ。自然と人間の持っている感覚が調和すると、この世界に違和感なく 存在できるんです。ところが、人間は脳が発達しすぎたために、頭で考えることで感覚を閉ざしてしまっています。 その内と外のギャップによって、体にゆがみが出てしまい、新しい病気が増えているのだと思います」

 近年、アトピーを始めとして、内臓の不完全形成や機能異常といった病気が増えている。何か運動を起こすには共通の危機感が必要となるが、その危機感は生命そのものだと中村さんは言う。

 「元々この世は、生命を産み出すことが基本で、だからこそ私達は生まれてきたのです。 これからは、自然から搾取するだけでなく、生命を産み出せるような社会に戻さなければなりません。自然農法の世界には、 肥料もなにもやらずに時間をかけて微生物などの循環バランスをととのえ、作物を育てる手法があります。豊穣な生命の 中から生まれた生命を食べることで、私達も強い生命を授かるわけです。人間社会もそこにある小さな循環系を活かす社会に するべきでしょう。まずは、森と自分自身が同じものなんだというI&Iの感覚を育ててなければなりません。そのために、 みんなが使える共有の森、入会地のような場所が必要だと思います。その周りで様々な経済活動を行いつつ、そのなかで 人生の喜びを見つけ、健康でいられたらいいですね」
 現在の環境ブームも、理屈だけが先行して、自然とともに 生きているという感覚がなければ、結局は違う形で自然を破壊してしまうだろうと言う。
 「家庭の中で調和がとれている と感じたら、幸せでしょう。それと同じで、森の中に入ったときに、心から溶け合った感覚になったときは、幸せだと 感じるはずです」
 環境問題が語られるとき、真の豊かさ云々といった言葉をよく聞く。しかし、“豊かさ”よりも “幸せ”という言葉の方が、これからの人間の生き方を語る上で核心をついている言葉なのかもしれない。         (編集部)


TADASHI NAKAMURA
1959年長崎県生まれ。88年東京都国立市で開業。95年から丹波山村へ親子山村留学で移住。98年よりあきる野市で「平安堂」を開業。 中村さんが指圧・整体、奥様の淳子さんがはり、灸と二人三脚のお仕事だ。丹波山村での経験からは「やはり山村の人と都会の人では体が違います。言ってみれば地鶏とブロイラーの違いみたいなものですね」

 

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