六ヶ所再処理工場
安全管理のずさんさを示す配管継手からの漏えい事故
昨年7月のウラン試験中に類似箇所で漏えい事故
今回の漏えい箇所は、表面目視だけで問題なしとしていた

アクティブ試験を中止し、ウラン試験の結果をすべて再点検せよ


2006年5月20日 美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会

 またも、六ヶ所再処理工場の配管のT字継手で、5月17日19時頃に漏えい事故が起きた。実は、昨年7月のウラン試験中に類似のT字継手で漏えい事故が起きていた。その「処置」として原燃は、漏えいした部位だけを取り替え、類似の54カ所の継手部位については、表面の目視検査をしただけで問題なしとしていた。今回の漏えいは、その54カ所の一つで起きたのである。
 この漏えいは実に深刻な問題を提起している。第1に、日本原燃の管理が実にずさんであり、アクティブ試験を継続すればあらゆる部位で事故が起こりうることを如実に示している。第2に、ウラン試験での日本原燃のずさんな「処置」に基本的な問題があるのに、それを簡単に見逃し容認した原子力安全・保安院や原子力安全委員会などの管理姿勢が問われている。第3に、原燃のずさんな管理を事実上容認している青森県の姿勢が厳しく問われるべきである。
 原燃は、ずさんな管理の原因、その責任をまず自ら明らかにすべきである。ただちにアクティブ試験を中止し、ウラン試験の結果を妥当と判断したそのすべてを再点検すべきである。
以下で、今回の漏えい事故そのもの、なぜ漏えいが起こったのか−その原因と必然性、本質的な問題はどこにあるか、などについて明らかにしたい。

1.精製建屋内のT字継手からの漏えい
 今回漏えいが起こった箇所は、精製建屋内で、硝酸ウラナス貯槽からプルトニウム洗浄器に硝酸ウラナス溶液を導くための配管のT字継手である(下図参照)。ここは管理区域内ではあるが、セル内ではなかったため作業員の出入りができた。
  

 T字継手は直径17mmのステンレス製と報道されており、また入手情報では、管厚は約2mmである。プルトニウム洗浄器は、精製建屋内のプルトニウム精製系統にある。逆抽出塔で硝酸プルトニウム溶液を抽出するために使用した使用済み有機溶媒に微量に残っているプルトニウムを除去するための装置である。その除去のために必要な硝酸ウラナス溶液は、同じ精製建屋内のウラン精製系統で、ウラン濃縮液から製造される。ウラン濃縮液は元々は使用済み核燃料から分離・分配過程を経て作られたものなので、結局硝酸ウラナス溶液にはさまざまな核分裂生成物やプルトニウムなどが完全に除去されずに残っている。すなわち硝酸ウラナス溶液は単なる試薬ではなく、放射性の試薬(アクティブ試薬)なのである。
 事実、日本原燃の公表によれば、漏えいした7リットル中に、ベータ線を出す放射能が約330万ベクレル、アルファ線を出す放射能が約4万5千ベクレル含まれていた。

2.なぜ漏えいしたか−漏えいの必然性
 今回の漏えいの詳細は公表されていないが、漏えい箇所は溶接部ではなく継手の貫通孔であり、その原因は硝酸溶液による継手壁の腐食にあることが、下記のように推測できる。さらにこの漏えいが起こることは十分に推察できたのに継手の取替え処置をとらずに放置されていたことが明らかになった。すなわち今回の漏えいは必然的に起こったのである。
 実は、昨年7月8日にもウラン試験中のT字継手で試薬の漏えいが起こっており、それと今回のT字継手は同類であるということだ。この昨年の漏えいは、日本原燃の「再処理工場における不適合等(平成17年7月分)」報告にある精製建屋内での「硝酸ヒドラジン供給配管T字部からの液滴(非放射性)」のことである。もう少し詳しくは、昨年11月1日付のウラン試験報告書(その1)の表−22のNo16(51ページ)で報告されており、次のように書かれている。「巡視において、硝酸ヒドラジンを供給する配管のT字継手部に貫通欠陥による微量の液滴を発見した。原因は、材料製造工程において偶発的に存在していた不純物により継手部が侵食され、貫通したためであった」。すなわち、硝酸溶液による腐食によって継手壁に貫通欠陥が生じたこと、その原因は製造工程において不純物(炭素など)が混ざったために腐食しやすい材質になっていたためだ。これらが遅くとも昨年11月1日には判明していたのである。
 この漏えいの「措置状況」欄には、「配管T字継手部を交換し、漏えい確認により健全性を確認した」と書かれている。すなわち、この漏えい継手自体は交換し、漏れないことを確認している。では、他に同様の製造欠陥をもつT字継手はなかったのだろうか。新聞報道によれば、このとき日本原燃は同様のT字継手54箇所を点検しており、その中に今回漏えいしたT字継手も入っていたという。54箇所の表面に傷がないことを表面に塗料を塗って目視で確認したという。
 この昨年7月の目視確認は、明らかに腐食による貫通傷が表面に達していないことを確認するだけの措置である。通常であれば、製造工程に欠陥のあったことが確認された以上、同類のT字継手はすべて交換するのが、だれが考えても当然の処置ではなかっただろうか。それらの内部の腐食状態を綿密に調査して製造工程の欠陥を明らかにし、今後の教訓にするべきであった。
 昨年7月の日本原燃の報告では、この発生事象は「不適合」事象と分類されているが、「不適合」とは、「要求事項を満たしていない状態」だと規定されている。この場合は、硝酸で腐食されないという要求事項が満たされない材質になっていたということになる。原燃は確かにこの漏えい継手自体は交換することで「処置済み」にした。しかし、他の同類の継手は腐食されやすい傾向をもったまま、放置されたのである。
 以上の事実からすれば、今回のT字継手からの漏えいは、やはり腐食による貫通傷によるものであろう。ウラン試験でもこの部位は使ったがそのときには漏えいしなかった。しかし、その間にも腐食は進んでいたために今回の漏えいとなったと推察される。これと同類のT字継手に限っても、同様の明確な危険が50箇所以上も存在するのである。さらに、同様の欠陥材料で作られた配管や継手があるとすれば、そこにも漏えいの危険が存在することになる。

3.無視された漏えいの必然性
 結局、昨年7月の漏えい事故によって、同類のT字継手には、製造過程での欠陥によって腐食しやすい材質になっていることが判明していた。すなわち漏えいが起こるのは必然であることが認識されていた。それにもかかわらず、54の継手を交換せずに、目視により表面を観察しただけで済ませてしまっていた。ここに今回の問題の本質がある。
 漏えいした継手だけを取替え、他は表面観察だけをもって「処置済み」だとしたのはいったい誰の判断だったのか、どうしてそのようなごまかしの判断が通ったのか、その責任はどこにあるのかが明らかにされねばならない。
 次に、昨年11月1日付ウラン試験報告書(その1)には、上記のように、昨年7月の漏えいの状態、その原因が製造工程の欠陥にあることが書かれている。それならばその審査において、水平展開−他の継手の措置はどうしたのか、が当然問われるべきである。ところが、このようなずさんなウラン試験にかかわる「処置」を、原子力安全・保安院、原子力安全委員会、さらには「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」もが容認してしまっている。この容認の結果、原燃はアクティブ試験に進むことができたのである。まさによってたかってスケジュールが優先されたとしか言いようがない。このようなずさん極まりない措置を容認した審査の責任が厳しく問われるべきである。
 さらに、青森県はウラン試験の結果を妥当とし、原燃の品質保証体制に問題がないとの判断に立ってアクティブ試験に進むことを容認したはずである。今回の漏えい事故を受けた県議会でこの点を指摘されたとき、県は「事業者は不具合が出ることを前提に試験をやっている」との認識を示したという(5月20日デーリー東北)。これが県民の安全安心の立場に立っているはずの県のいうべきことだろうか。

4.アクティブ試験を直ちに中止し、ウラン試験の結果の全体を再点検すること
 今回の漏えいが示したのは、ウラン試験の結果で「処置済み」とされて容認された処置が実はごまかしの処置であったということである。
 「不適合等」の情報は、「トラブル情報」や「運転情報」には入らないようなその他の軽微な情報扱いで、一般には具体的に何が起こってどうしたのか、ほとんど分からないほどの扱いになっている。そのような「再処理工場における不適合等」が2004年12月〜2005年12月のウラン試験中に338件あり、そのうち「不適合」が210件、「改善事項」が128件ある。そして、それらはただの1件(2005年9月7日発見)を除けばすべて「処置済み」となっている。しかし、この「処置済み」にまるで信頼が置けないことを、今回の事故は如実に示したのである。
 したがって、54箇所のT字型継手をすべて取り替えるのは当然だとしても、それだけで問題が解決したことにはけっしてならない。このままアクティブ試験を続ければ、どこで何が起こるか分からないようなきわめて危険な状態にあるということだ。セル内で漏えい等が起これば、それはきわめて深刻な事態となる。
 まずは、アクティブ試験を中止しなければならない。その上で、ウラン試験にかかわる「処置済み」の「処置」のすべてを再点検することが不可欠である。
 ずさんな管理を許して今回の漏えいに導いた日本原燃、原子力安全・保安院、原子力安全委員会及び青森県の責任が厳しく問われるべきである。