From: "NAKADA Hiroyasu" <nakada_h@jca.apc.org>
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Subject: [keystone 2163] 国側準備書面(四)−2
Date: Thu, 9 Dec 1999 00:44:31 +0900
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第五 改正法の違憲主張について
  改正法が違憲である旨の原告らの主張は、本件使用裁決取消訴訟の審理の対
 象外であり、主張自体失当であることは、前述したとおりである。
  以下において、原告らの右主張は、次の観点からも理由がないことを念のた
 め付言する。

 一 改正法15条の暫定使用に係る規定の違憲主張について

  1 憲法29条違反の主張について
    原告らは、憲法29条3項が土地収用法にいう裁決手続をも保障すると
   の前提に立って、改正法は、暫定使用権の発生要件として裁決手続を不要
   としているのは憲法29条に違反すると主張する(原告ら準備書面162
   ページ)。
    しかし、憲法29条3項は、「私有財産は、正当な補償の下に、これを
   公共のために用ひることができる。」と規定するのみであって、手続規定
   を設けていないのであるから、同項が原告らの主張するような「裁決手続」
   を保障していると解する余地はない。したがって、原告らの右主張は、そ
   の前提において失当である。
   
  2 憲法31条違反の主張について
    原告らは、憲法31条が、@告知と聴聞の機会が与えられる権利、A中
   立機関(収用委員会)による事前の裁定、B事後の不服申立手続の存在、
   C手続継続による期待権をそれぞれ保障しているとの前提に立つて、改正
   法はこれらの保障を欠いており、憲法31条に違反すると主張する(訴状
   13ページ)。
    しかしながら、以下に述べるとおり改正法は憲法31条に違反せず、原
   告らの右主張は失
   当である。
   
  (一) 仮に、憲法31条による保障が行政手続に及ぶと解すべき場合であ
    っても、保障されるべき手続の内容は、行政処分により制限を受ける権
    利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公
    益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものである。
    (前掲最高裁平成4年7月1日判決参照)ことは、前述したとおりであ
    る。
    
  (二)改正法の定める暫定使用の手続には、以下の事情がある。
    
   (1) 暫定使用は、我が国の日米安保条約6条に基づく義務を履行する
     ために必要な土地等を駐留軍の用に供するものであり、条約上の義務
     を履行するために必要不可欠である。また、これによって得られる利
     益は日本国の安全並びに極東における国際の平和及び安全(日米安保
     条約6条)という極めて高度の公共の利益である。
      しかも、暫定使用は、従前、使用裁決等によって使用が認められて
     いた土地等につき、内閣総理大臣において引き続き駐留軍の用に供す
     ることが適正かつ合理的であると判断したものを対象として、収用委
     員会の裁決その他必要な権利を取得するための手続が完了しなかった
     ことによって生ずる日米安保条約の実施上の重大な支障を回避するた
     めに行われるものであって、緊急の必要性がある。
     
   (2) 暫定使用の要件は、@駐留軍の用に供するため所有者等との合意
     又は駐留軍用地特措法の規定により使用されている土地等で引き続き
     駐留軍の用に供するためその使用について同法5条の規定による内閣
     総理大臣の認定があったものについて、Aその使用期間の末日以前に
     収用委員会に対して権利取得裁決の申請及び明渡裁決の申立てをした
     場合であること、Bその使用期間の末日以前に使用のために必要な権
     利を取得するための手続が完了しないこと、C損失の補償のための担
     保を提供することというものである。
      これらの要件は、その有無が外形的、客観的に明らかなものであり、
     しかも、これらは土地所有者側の事情にかかわらない。したがって、
     右要件適合性を判断するために、事前に土地等の所有者の意見を聞く
     必要はないし、事前に中立機関(収用委員会)の判断を得る必要もな
     い。
     
   (3) 他方、暫定使用により制限を受ける利益は、土地等の所有者がそ
     の使用を受忍しなければならなくなるという私益である。暫定使用は、
     使用裁決等により使用されてきたものが引き続き駐留軍の用に供され
     るというものであって、従前と同じ態様の使用がそのまま継続される
     にとどまる。その使用期間は、明渡裁決において定められる明渡しの
     期限まで等という暫定的なものである。
     
  (二) これらの事情を総合較量すれば、暫定使用に当たり、原告らの指摘
    する、@土地等の所有者に対する事前の告知、聴聞の機会の保障や、A
    中立機関による事前の裁定という制度を採らなくても、手続保障に欠け
    るところはなく、憲法31条に違反しないことは明らである。
     なお、原告らは、暫定使用には事後の不服申立手続がないと主張する
    が、暫定使用には事後の不服申立てが可能である。すなわち、暫定使用
    は、改正法15条の定める要件に該当する限りその使用権が発生するも
    のではあるが、右要件を満たしていないのであれば、暫定使用権は発生
    していないから、所有権に基づき当該土地等の明渡訴訟を提起すること
    ができる。また、右要件の一つである同法5条の規定による内閣総理大
    臣の使用認定に瑕疵があるというのであれば、その取消訴訟を提起して
    暫定使用権の発生を争うことができる。したがって、原告らの右主張は
    この点からも失当である。
     また、憲法31条が「手続継続による期待権」を保障しているとの原
    告らの主張は、その意味内容が不明確であり、既に主張自体失当である。
    この点をおいても、かかる権利が憲法31条の保障するものではないこ
    とは明らかである。
    
  3 憲法41条違反の主張について
    原告らは、憲法41条の「立法」は一般牲・抽象性を具備したものであ
   ることを要するところ、改正法は、沖縄県における駐留軍用地の未契約地
   主約3000人だけを対象とし、右地主らが賃貸借契約を拒否している場
   合にだけ適用されるという点で個別・具体的であり、同条の「立法」に当
   たらないと主張する(訴状14ページ)。
    しかしながら・改正法は、駐留軍の用に供するため所有者等との合意又
   は駐留軍用地特措法の規定により使用されている土地等で引き続き駐留軍
   の用に供するためその使用について駐留軍用地特措法5条の規定による内
   閣総理大臣の認定があったものについて、適正な補償の下に暫定使用を認
   める制度を創設したものであり、一般的・抽象的性格を有するものである。
   このことは、その法文から明らかである。したがって、原告らの右主張は
   理由がない。
   
  4 憲法95条違反の主張について
    原告らは、改正法が沖縄県にのみ適用される地方自治特別法であるとの
   前提に立って、その制定には沖縄県民の住民投票が実施されなければなら
   ないのに、これが実施されなかったのは憲法95条に違反すると主張する
   (訴状16ページ)。
    しかしながら、憲法95条にいう「特別法」とは、地方公共団体につい
   て一般的・原則的な制度を定めている既存の法律に対し、新たに特別的、
   例外的な制度を設ける法律であり、一の地方公共団体の組織、運営又は機
   能について他の地方公共団体と異なる定めをする法律をいう(宮澤俊義・
   芦部信喜補訂・全訂日本国憲法775ページ、清宮四郎・憲法T(第3版)
   421ページ)これに対し、暫定使用制度を創設した改正法は、一の地方
   公共団体の組織、運営又は機能について他の地方公共団体と異なる定めを
   した法律ではないし、また、同法は、前述したとおり一般的・抽象的性格
   を有しており、沖縄県についてのみ適用される特別法でもないから、憲法
   95条にいう特別法に該当しないことは明らかである。(平成8年判決参
   照)。したがって、原告らの前記主張は、その前提において失当である。
   

 二 政正法附則2項の違憲主張について

  1 憲法31条違反の主張について
    原告らは、附則2項が従前の被使用者の権利を剥奪し新たに財産権を制
   約することを目的として創設された新規立法であり、改正前に駐留軍用地
   特措法で保障されていた被使用者の返還請求権を剥奪する点で手続的正義
   に著しく反し,憲法31条に違反する(原告ら準備書面164ページ)。
    しかし、原告らの右主張はあいまいであり、趣旨が不明確であって、既
   に主張自体失当である。なお、改正法が暫定使用制度を創設したことによ
   り、改正前の駐留軍用地特措法の下における使用期間満了による国の使用
   権原の消滅という事態が回避されたが、このような改正法の制定は、国の
   唯一の立法機関(憲法41条)たる国会が立法権能を行使したものにほか
   ならず、何ら違憲の問題は生じない。
   
  2 憲法14条違反の主張について
    また、原告らは、附則2項が使用期間満了により土地等の返還請求権を
   取得していた原告らを含む特定の被使用者を対象としているものであって、
   特定の者に対する狙い撃ち立法であるとの前提に立って、憲法14条に違
   反すると主張する(原告ら準備書面165ページ)。
    しかしながら、前述したとおり、改正法は,駐留軍の用に供するため所
   有者等との合意又は駐留軍用地特措法の規定により使用されている土地等
   で引き続き駐留軍の用に供するためその使用について同法5条の規定によ
   る内閣総理大臣の認定があったものについて、適正な補償の下に暫定使用
   を認める制度を創設したものであり、一般的・抽象的性格を有するもので
   ある。したがって、、附則2項は、原告らが主張するような、特定の者に
   対するねらい撃ち立法でないことは明らかであるから、原告らの右主張は、
   その前提において失当である。

第六 駐留軍用地特措法前の本件各土地使用に係る主張について
  駐留軍用地特措法前の本件各土地使用に係る原告らの主張は、いずれも本件
 使用認定取消訴訟の審理の対象外であり、主張自体失当であることは、前述し
 たとおりである。
  以下においては、原告らの右主張は、次の観点からも失当であることを念の
 ため付言する。

 一 沖縄復帰前における米軍による土地の接収及び使用の違憲・国際法違反主
張について
   原告らは、沖縄復帰前の米軍による布令等に基づく土地の接収及び使用は
  国際法及び日本国憲法に違反すると主張する(原告ら準備書面37ページ以
  下)。
   しかし、沖縄復帰前における原告らの指摘する布令等は、我が国の施政権
  が及ばなかった時期において米国により発布施行されたものであり、我が国
  の憲法秩序の外にあったのであるから、日本国憲法及び国際法に違反するか
  否かを論ずる余地のないものである。したがって、原告らの右主張は理由が
  ない。
  
二 公用地暫定使用法の違憲主張について

  1 憲法14条違反の主張について
    原告らは、公用地暫定使用法は沖縄県民を本土の住民と差別して取り扱
   うものであるから、憲法14条に違反すると主張する(原告ら準備書面4
   5ページ)。
    しかし、公用地暫定使用法は、沖縄復帰に伴い、米軍及び自衛隊基地の
   敷地だけでなく、電気工作物、航空保安施設及び航路標識の各用地等広く
   沖縄における公用地及び公用工作物に対する暫定的な使用権の設定を目的
   とする地域的な特別立法であり、同法の適用対象である沖縄に所在すち土
   地及び工作物について権利を有する者は沖縄県民に限られない。同法の適
   用を受けて権利を制限される結果として、他の都道府県の区域に所在する
   土地又は工作物について権利を有する者との間に差異が出てくるにすぎず、
   同法は沖縄の住民という理由で個人をを差別して取り扱うものではない。
   したがって、同法は、個人の属性による差別取扱いを内容とするものでは
   なく、憲法14条に違反しない。
   
  2 憲法29条及び31条違反の主張について
    原告らは、公用地暫定使用法は収用手続を欠いており、憲法29条及び
   31条に違反すると主張する(原告ら準備書面48ページ)。
    しかし、原告らの右主張は、以下に述べるとおり失当である。
   
   (一)公用地暫定使用法は、憲法29条に違反しない。
      すなわち、公用地暫定使用法は、ある法秩序の下に置かれていた地
     域が他の法秩秩序の下に移行する際に、国等が公用地等の使用を継続
     する必要があるにもかかわらず、契約等による使用権を取得する時間
     的余格がない場合に、その間隙を補充する目的で制定されたものであ
     る。
      本件各土地は同法により米軍の軍用地として引き続き供されたもの
     であるから、この点についてみるに、我が国は日米安保条約6条、日
     米地位協定の規定により合意された施設及び区域を駐留軍の用に供す
     る条約上の義務を負うものであるところ、同法の施行の際沖縄におい
     て米軍のの用に供されている士地等で引き続き駐留軍の用に供する必
     要があるものを、国が権原を取得するまでの間使用することは、条約
     上の義務を履行するために必要であり、かつ、その合理性も認められ、
     私有財産を公共のために用いることにほかならない。以上の事情に、
     暫定使用による損失補償の規定が置かれていること等を併せ考慮すれ
     ば、同法が憲法29条に違反しないことは明らかである。
     
   (二)公用地暫定使用法は、憲法31条に違反しない。
     
     (1) 仮に、憲法31条による保障が行政手続に及ぶと解すべき場
       合であっても、保障されるべき手続の内容は、行政処分により制
       限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により
       達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決
       定されるべきものである。(前掲最高裁平成4年7月1日判決参
       照)ことは、前述したとおりである。
       
     (2) 公用地暫定使用法が日米安保条約との関係で定める土地等の
       暫定使用の手続には、次の事情が認められる。
       ア 暫定使用により制限を受ける利益は、土地等の所有者がその
       使用を受忍しなければならなくなるという私益である。暫定使用
       は、同法施行の際米軍の用に供されているものが引き続き駐留軍
       の用に供されるというものであって、従前と同じ態様の使用がそ
       のまま継続されるにとどまる。その使用期間は、権原を取得する
       までの間という暫定的なもの(当初1年ないし5年とされ、後に
       10年と改正された。)である。
       イ これに対し,暫定使用は,我が国の日米安保条約上の土地等
       を駐留軍の用に供する義務を履行するために必要なものである上、
       これによって得られる利益は日本国の安全及び極東における国際
       の平和と安全(日米安保条約6条)という極めて高度の公共の利
       益である。
        しかも、暫定使用は,従前、米軍の用に供されてきた土地等に
       つき、日米安保条約の実施上の重大な支障を回避するために行わ
       れるものであって、緊急の必要性がある。
       
     (3) これらの事情を総合較量すれば、暫定使用に当たり、原告ら
       の指摘するような、立入調査、事業の認定等の制度を採らなくて
       も、手続保障に欠けるところはなく、憲法31条に違反しないこ
       とは明らかである。
       
  3 公用地暫定使用法2条1項1号違反の主張について
    原告らは、公用地暫定使用法が暫定使用権の発生要件として掲げる、土
   地等が「この法律の施行の際沖縄においてアメリカ合衆国の軍隊の用に供
   されていること」(2条1項1号)とは、米軍において使用の正当な権原
   を有することを意味するとの前提に立って、米軍の土地接収は正当な権原
   によるものではないから、国は暫定使用権を取得することができなかった
   と主張する(原告ら準備書面49ページ)。
    しかし、米国が復帰前の布令等によって取得していた使用権は、我が国
   の法制上定められている賃借権、地上権とは異なる内容のものであって、
   施政権の返還に際しては、当然にはわが国の法制上の権利として存続し得
   ないものである。しかも、沖縄復帰に際し、同布令等よって取得された使
   用権を我が国の法制上の使用権原としてそのまま存続させるような特別の
   立法措置は採られていない。したがって、同布令等によって取得された収
   用権は沖縄復帰によって消滅したというべきである。
    そして、公用地暫定使用法は、沖縄復帰前に公の目的に供されていた土
   地等でその供用に係る機能を引き続き維持する必要があると考えられたも
   のについて、新たに使用権原を設定するために制定されたのである。そう
   すると、同法2条1項1号にいう「用に供されている」とは、布令20号
   等に基づいて米軍の用に供されていることを意味するにすぎないことは明
   らかである。
    したがって、原告らの右主張は理由がない。
   

 三 位置境界明確化法附則6項の違憲主張について
  原告らは、位置境界明確化法附則6項により、消滅した暫定使用権を復活さ
 せることはできず、暫定使用期間を延長させることは憲法31条、29条に違
 反すると主張する(原告ら準備書面61ページ)。
  位置境界明確化法附則6項がいったん消滅した暫定使用権を復活させるもの
 であることは指摘のとおりであるが、この立法には、@国において対象土地を
 引き続き従前と同じ公の目的のために使用する必要があり、改正の前後を通じ
 暫定使用権の内容が同一であること、A当初の暫定使用権の消滅からその復活
 まで四日間しか経過しておらず、しかも、Bその間米軍が対象土地に対する現
 実の占有を続けており、現地の占有状況に何らの変更が生じなかったこと等の
 事情ががあったものである。このような事情からみて、同法附則6項による暫
 定使用権の復活は、国の唯一の立法機関(憲法41条)たる国会の立法裁量の
 範囲内であり、何ら憲法31条、29条に違反しないというべきである。した
 がって、原告らの右主張は理由がない。
 
第七 本件使用認定の適法性
 本件使用認定は、手続的にも実体的にも違法である。

 一 本件使用認定の手続的適法性
  本件使用認定は、以下に述べるとおり、手続き的に適法である。

  1
   (一)那覇防衛施設局長は、平成7年4月6日、被告内閣総理大臣に対し、
    平成7年(行ウ)第9号原告島袋善祐および同原告池原安夫の本件各土
    地につき使用認定の申請をした。
    
   (二)那覇防衛施設局長は、平成7年4月17日、被告内閣総理大臣に対
    し、平成7年(行ウ)第9号のその余の原告らの本件各土地につき使用
    認定の申請をした。
    
  2 被告内閣総理大臣は、平成7年5月9日、本件使用認定をした。
   

 二 本件使用認定の実体的適法性
  本件使用認定は、以下に述べるとおり、実体的にも適法である。

  1 前述したとおり、駐留軍用地特措法3条にいう「適性且つ合理的」とは、
   対象土地等を駐留軍の用に供する必要性及び対象土地等を駐留軍の用に供
   することによる公共の利益と、駐留軍の用に供することによって失われる
   利益とを比較術量し、前者が後者に優っていることを意味すると解すべき
   である。
   
  2 本件使用認定には、次の事情がある。
   
   (一)駐留軍用地提供の必要性、公共の利益
      我が国は、日米地位協定25条に定める合同委員会を通じて締結さ
     れる日米両国間の協定によって合意された施設及び区域を駐留軍の用
     に供する条約上の義務を負う(日米安保条約6条、日米地位協定2条
     1項)。このように、本件使用認定は、日米安保条約に基づく右義務
     を履行するために必要な本件各土地を強制的に使用するものであり、
     条約上の義務を履行するために必要不可欠である。また、これによっ
     て得られる利益は日本国の安全並び極東における国際の平和及び安全
     (日米安保条約6条)という極めて高度の公共の利益である。
     
   (二)沖縄における駐留軍用地提供に至る経緯からみた公共の利益
      また、沖縄において駐留軍用地を提供する経緯は、以下のとおりで
     ある。
     
     (1) 本件各土地は、沖縄復帰時において、沖縄返返還協定3条1
       項の規定に関し両国政府間で行われた協議の結果を示すものとし
       て昭和46年6月17日に交わされた了解覚書により、駐留軍が
       使用する施設及び区域として日米合同委員会において合意する用
       意のある施設及び用地に区分された土地である。
       
     (2) 沖縄返還協定は昭和47年3月22日に公布され、同日、日
       米合同委員会において日米安保条約6条及び日米地位協定2条に
       基づき駐留軍が沖縄県内で使用を許される施設及び区域の提供等
       について合意した。この合意にによれば、本件各土地は右提供に
       係る施設及び区域に含まれている。
       
     (3) 沖縄の復帰に際しての日米首脳会談において、佐藤内閣総理
       大臣は、沖縄の駐留軍施設及び区域が復帰後できる限り整理縮小
       されることが必要と考える理由を説明し、ニクソン大統領も、双
       方が施設及び区域の調整を行うに当たって、これらの要素は十分
       に考慮に入れられる旨を答えた。
       
     (4) その後、我が国は、駐留軍の使用に供された施設及び区域の
       整理統合縮小のために、日米合同委員会、日米安全保障協議委員
       会等において交渉を重ねてきているが、本件各土地については返
       還の合意に至っていない。本件各土地は、いずれも駐留軍用地の
       各種施設の敷地、保安用地などとして使用され、駐留軍用地内の
       多くの土地と一体になつて有機的に機能している。
        以上のとおり、沖縄における一定範囲の駐留軍用地を確保する
       ことは、、日米両国にとって沖縄復帰の際の基本的政策であり、
       両国とも、本件使用認定の時点でも、更には今日まで、右政策を
       変えることなく維持しているのである。このような経緯からも明
       らかなように、沖縄における駐留軍用地の提供は、日米両国の基
       本的な政策であり、本件各土地の強制使用もかかる政策の一環で
       あるから、本件使用認定は、日本の安全と国際の平和及び安全に
       資するものであって、極めて公益性が高いものである。
       
   (三)沖縄における駐留軍用地提供の合理性
      沖縄において駐留軍用地として本件各土地を提供する合理性は、以
     上のほかにも、次のものがある。
     
     (1) 沖縄は,複数の島々から成り、アジア大陸に近く、日本列島
       の南西端にあるため、日本の安全と極東における国際の平和と安
       全に寄与するという日米安保条約6条の目的達成のために駐留軍
       施設及び区域を設けることにつき優れた地理的条件を満たしてお
       り、それが我が国政府の認識である。
       
     (2) 従前駐留軍用地として提供されていた土地をそのまま提供す
       ることは、新たに同種同規模の土地を確保して提供する方法(新
       しい土地の確保に係る経費、施設及び及び区域の建設・設置が別
       途必要になる。)に比べはるかに財政均な負租が少ない。
       
     (3) 従前提供されてきた駐留軍用地の大部分(使用権原を必要と
       する土地の総面積中の約99・8パーセント)は、国が土地所有
       者との間の賃貸借契約に基づき使用権原を取得してきたものであ
       り、今後も賃貸借契約により使用することができる見込みがあっ
       た。したがって、所有者との合意により使用権原を取得する見込
       みのない土地所有者(使用権原を必要とする総面積中の約0・2
       パーセント)に対して駐留軍用地特措法が適用されれば、賃貸借
       契約を締結する所有者の土地と併せて従前の駐留軍用地をそのま
       ま提供することができる関係にあった。
        そうすると、従前提供されていた駐留軍用地をそのまま提供す
       ることは、新たに同種同規模の土地を確保して提供することに比
       べ、はるかに実現可能性・容易性があるだけでなく、基地提供に
       より失われる利益も小さい。
       
     (四)駐留軍基地提供によって失われる利益
       
        (1) 他方、駐留軍用地を提供することによって失われる利
          益は、土地等の所有者がその使用を受忍しなければならな
          くなるという私益である。しかし、使用認定の対象となっ
          た土地等は正当な補償金が支払われるから、当該所有者が
          使用認定により経済的損失を受けることはない。
          
        (2) このほか、駐留軍用地を提供することによって周辺住
          民などに基地から派生する騒音等の問題が生じる。しかし、
          これに対しては、昭和54年に、沖耗県、那覇防衛施設局
          長及び在沖米軍の三者連絡協議会が設けられ、基地から派
          生する問題の軽減のための対策を協議し、軍用機の夜間飛
          行の規制、エンジンテストの時間規制等の措置や基地周辺
          住宅等の防音対策を講ずるなどしてきた。
          
  3 以上のとおりであって、本件使用認定は、本件各土地を駐留軍用地とし
   て提供する必要性がある上、これによって得られる公共の利益が極めて高
   く、これが駐留軍用地として提供することにより失われる利益に優ること
   が明らかというべきであるから、駐留軍用地特措法3条にいう「適性且つ
   合理的」の要件に該当する。
   
第八 本件使用裁決の適法性
 本件使用裁決は、手続的にも実体的にも適法である。

 一 本件使用裁決の手続的的法性
  本件使用裁決は、以下に述べるとおり、手続的に適法である。

  1 那覇防衛施設局長は、平成8年3月29日、被告沖縄県収用委員会に対
   し、本件各土地につき、使用裁決の申請と明渡裁決の申立てをした。
   
  2 被告沖縄県収用委員会は、平成10年5月19日、本件使用裁決(権利
   取得裁決と明渡裁決とから成る。)をした。
   
 二 本件使用裁決の実体的適法性
   本件使用裁決は、駐留軍用地特措法14条によって適用される土地収用法
  47条の2、48条、49条の規定に基づくものであり、実体的にも適法で
  ある。
 

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仲田博康
nakada_h@jca.apc.org



 
  • 1998年     3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
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