Subject: [keystone 3028] [aml]三宅>住民を避難させない行政
From: "M.Shimakawa" <mshmkw@tama.or.jp>
To: keystone@jca.ax.apc.org
Date: Thu, 31 Aug 2000 16:45:16 +0900
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 From: "M.Shimakawa" <mshmkw@tama.or.jp>
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 Date: Thu, 31 Aug 2000 16:45:16 +0900
 Subject: [keystone 3028] [aml]三宅>住民を避難させない行政
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   (from 『オルタナティブ運動情報メーリングリスト』 改行位置等若干変更)
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 Date: Thu, 31 Aug 2000 14:46:35 +0900
 From: 山崎 久隆 <SDI00872@nifty.ne.jp>
 Subject: [aml 18842] 三宅>住民を避難させない行政
 

 @ニフティ会議室に書いた文書を転載します。

 055  SDI00872  山崎 久隆        三宅>住民を避難させない行政
 

 6月に始まった三宅島の噴火は、当初の火山予知連の予想を覆し、2ヶ月以上の長
期噴火になりました。これまで過去3回の噴火は、いずれも割れ目から溶岩が噴出す
るものでしたが、1日から数日で終結しています。
 ところが今回の噴火は、伊豆諸島全体の変動へとつながり、新島や神津島の地震を
誘発しながら長期化していき、その間に大規模噴火を繰り返しています。既に予知連
も、予測困難としていて、18日の噴火では、それまでの事実上の安全宣言も撤回し、
「マグマの位置はつかんでいる」から「雄山の見通しは不透明」へと180度見解を
変えました。

 18日に匹敵する、あるいはそれ以上の噴火もあり得る。火山活動は数カ月以上継
続する可能性もある。これがいまの予知連の見解です。つまりほとんどわからないと
いうこと。

 もともと火山噴火予知連は気象庁長官の私的諮問機関で、防災機関でもないし防災
機関助言組織でもない。科学的に火山で起きている現象を説明し、情報を提供するこ
とで的確な判断材料を与えることにしか、その役割はありません。
 ところが石原知事はことあるごとに予知連の公式見解がなければ全島避難は無いと
いいつづけています。
 「火山噴火予知連が公式な見解を述べてくれて初めて判断ができる。組織として災
害対策をするものにとって、うわさの域で右往左往できないし、(住民を)右往左往
させたら危機管理が乱れる」
 これに予知連は公式に反論すべきです。もちろん予知連会長はことあるごとに「避
難の判断は行政のすること」とは言っています。しかし石原知事は故意に無視し続け
ています。何かあったら予知連のミスとする余地を残そうとしているかに見えます。

 都が全島避難に対して言う言葉も、実はひどいものだらけです。
 

 『いまだ全島避難されず』(坂本正明,ANN8.30.1755から8分)より
画面1
インタビュアー:
都は,全島避難は必要ない,と言います.

東京都応急対策課 井門課長:
それほどですね,緊急性がですね,今すぐ必要じゃあないじゃないかな,と考えて
います.したがいまして,今の段階では,ただちに,全島避難するというようなこ
とは考えていないと.

インタビュアー:
予知連は,かなり危険性を訴えていますよね.

井門課長:
言っていないですよ,危険性なんて.

インタビュアー:
いえ,噴石部分です.

井門課長:
噴石はだから,シェルターを設けさせたでしょう.

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画面2
インタビュアー:
島民のみなさんを,島の外に避難させたい,というふうに東京都に要望されている
わけですよね.

長谷川三宅村村長:
そうです.すべての島民を避難させる,ということで考えてはいるんですけど.

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画面3
インタビュアー:
どなたかが犠牲になられた場合,なぜ,都は対応をとらなかったのかと,批判があ
がった場合,どういうふうにお答えになるのか.

井門課長:
まあ,それはやっぱりそうなったちゃったらあれですね,東京都が甘んじて非難をうけ
るということだと思うんですよね.

だって,念のためにやるっていうのはさあ,私財でやるわけじゃあないんだから,
税金でやるんだから,そのバランスっていうのがあるでしょ.
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テープ起こし:中村正芳@高崎

 このやりとりをきいていて思い出すが、薬害AIDS事件です。まさに「科学的根拠が
はっきりしなかったから血液製剤回収をしなかった」当時の厚生官僚の答弁と通底す
るものがあります。厚生省官僚の一部は、起訴されました。このままではその二の舞
を演ずることになるという危機感は、この課長にはないようです。
 また、これではまるで避難勧告は都が出すように聞こえます。それは間違いです。
避難勧告を出す権限は、災害対策基本法では市町村長の責務です。つまり三宅村長が
「逃げるぞ」と言えば、全島避難が発動されることになるのです。

 8月18日の噴火を受けて、三宅村議会全員協議会と、東京都三宅支庁長を含めた
対策会議がひらかれました。その場で村長も村議会も全員避難を訴えました。
 しかしこれに対して、都は繰り返し「全島避難は現状では必要ない」といい、そし
てこのような発言が飛び出します。

長谷川三宅村長「全島避難をお願いしたい」

三宅支庁長「島を捨てるつもりですか。今の段階で全島避難は現実的ではないでしょ
う」

 三宅支庁長は避難勧告などの行政権限を有するものではありません。いわば一出先
機関の長に過ぎません。一方の三宅村長は首長です。選挙で選出された(直前の選挙
は無投票でしたが)三宅村の最高責任者です。その物言いに怒りを通り越して恐怖を
感じます。
 場所も時間も超越してよみがえるのは、ロシア海軍原潜コムソモーレツでのエピ
ソード。沈没する潜水艦からの総員退去を決断した艦長が、救助船上でロシア海軍司
令部から「貴重な艦を見捨てるのか」といわれ、艦の救出に戻ったところ爆沈、艦長
以下42名が意味のない死をとげました。
 先の大戦では「撤退させろ」「引くな」で大量の犠牲を出したインパール・ビルマ
白骨街道、近くは全員避難を発動しようにも情報が全く入ってこなかったために避難
の時期や区域の決断が遅れて住民被曝を最小限にくい止められなかった東海村JCO
事故、いずれも最悪を想定せずに自らの書いたシナリオに添って事態は動くと決めつ
けての、最高責任者(東海村の場合は国)の失敗が多くの人々を巻き込む結果となり
ました。
 三宅支庁長の発言は、メンタリティとしては全く同列のもの。しかし三宅支庁長の
発言は彼の私見でもなく彼の行政権限上の発言でもない、根拠が不透明な発言です。
つまり、出先機関として都知事の代弁をしているに過ぎないのです。
 陸軍現地司令部が、大本営が撤退を認めない以上、現地部隊の撤退を認めない。構
図はそれと同じです。

 支庁長はせめて「全島避難の決断をするのは村の権限です」と言うべきだった。そ
れであれば村長は決断をしたでしょう。

 「島を見捨てる」これほどひどい発言が行政の長たる立場の人間からでること自体
が、許し難い。しかしこのことは一方で今回の混乱を物語っています。
 三宅村民は村長以下誰も島を見捨てたいなどと思っていません。6月の噴火以来、
二ヶ月もの間続く地震や噴火に耐えながら、復興しようと務めてきたのに、18日の
噴火でその努力も水泡に帰し、さらに農業、漁業、観光といった基幹産業は今年度は
全く見通しが無くなったいま、噴火に耐えて住み続けるだけの現状に「もはや限界
だ」と悲鳴を上げているのが実状です。
 島を見捨てるどころか、島とともに住み続けてきた人々が、全島避難を発動してと
要請しはじめているほど、18日の噴火は人々の気力も体力も奪い去ったことに思い
が至らない。そのことに愕然とするのです。
 しかもそんな言葉が村長や島民の感情をどれほど害し、かつ精神的に打撃を与える
かと、普通ならば考えるところが、全島避難をしなくても良い「安全の証明」が、都
には出来るはずもなく、島に踏みとどまる根拠を精神主義に落とし込むことでしか出
来なくなっていることをも意味しています。つまり「島を見捨てる気か」
 この精神主義は戦争中の日本全体を覆い尽くした悪夢の再現でもあります。
 思えば戦前の軍事演習を彷彿とさせるビッグレスキュー2000を9月3日に控え
た都の幹部のメンタリティは、このような発言をも誘発させたのかもしれません。
 

 石原知事はなぜ全島避難を拒否するのか

 19日から2度目の長期休暇に入り、26日まで一般には「所在不明」、さらに
29日からはマレーシアに外遊、18日に最大級の噴火が起きても、休暇は取り消さ
ずに「英気を養う」と、マスコミなどのは所在を非公開にしての休暇。副知事が職務
代理となるわけですが、副知事は避難勧告を出す権限はない。(都知事は単に休暇で
あって、職務に復帰できない状態ではないため)。
 29日からのマレーシア外遊は「アジア大都市ネットワーク21の提唱都市会議出
席やマハティール首相と会談するため」。
 三宅について「対策本部で陣頭指揮をとらなければならないのでは」との記者の質
問には、「もっと大事な仕事でマレーシアに来ている」。
 18日の噴火で、村は全島避難を求めたのに対し、都は「災害復旧工事を行うなど
で安全確保に務める」から「全島避難は考えていない」というビラを全戸配布しまし
た。
 これは言い換えれば、金をつぎ込んで工事をしているのに島民がいなくなったら困
るということ。
 差し迫った危険はないと繰り返す知事に対し、火山予知連は「18日のような、あ
るいはもっと大きな噴火が起きることは否定できない」「火砕流発生も予想される」
「噴石が飛ぶことも考えられる」と、婉曲ながら「危険が差し迫ることも十分ある」
と警告しています。
 しかし知事はそうは読まない。
 火山予知連の「18日の噴火程度のものがあり得る」という部分だけを切り出し、
29日噴火はその想定範囲であるとし、さらに想定範囲なんだから18日に全島避難
しなかったわけで、いまもその必要は無いとこじつけます。誰も言っていない言葉が、
そこでは予知連見解として作文されるのが「石原流」。

 島の住民からも要求されていた都の災害対策本部設置、6月の噴火の際に設置され
たものの数日後の30日に解散、7月に噴火が断続的に起きても設置されず、8月
18日の大噴火でも設置されず、ようやく29日の噴火で小中高校生全員避難を前倒
しで決断した村の判断を受け、さらに国が非常対策本部を設置することになりようや
く再設置を決めます。その理由についても知事は「メンタルなもんがむしろ主だと思
います。この先通じてどうなるのかなという不安もおありだろうから、万全を期して
ますよということを示すため」つまり設置したことには行政施策上の意味はないかの
言い方。
 「することしてきたし、今もしてるわけだから、最悪の事態が起こらないことを望
むしかない」もはや希望的観測しか残らない。最悪の事態が回避し得ない天災である
ならばいざ知らず、三宅からの全島避難で容易に回避できるにもかかわらずそれをし
ない知事。
 「全島民を引き受ける態勢はとっている」が「とにかく総合的に判断して今は必要
ない。強制されることを不本意に思う人もいるだろう。それで受ける個人の被害だっ
てある」との理由にならない理由付け。
 「相手が自然なので都としては予知連の公式見解で動いている。離島したい人には
便宜を供与している。情報だと、出る必要がないという人もいる。今の認識では(島
民に)選択の幅を与えないとロスも大きい」
 これは重大な嘘があります。離島した人がどのような扱いを受けているか。確かに
住居はあります。しかし住居には家財道具もなにもありません。布団から食器まで、
あらゆるものを調達しなければなりません。現金が無ければ厳しい生活が待っている
だけです。
 特例として雇用保険の基本額の支給をしてはいますが、蓄えの無い人にとっては早
晩生活が成り立たなくなります。家賃は最長6ヶ月は無料ですが、高熱水費は普通に
かかります。便宜供与とは、移動の手段と居住場所の確保だけの話です。
 そのうえ、離島したいと望んでいても出来ない人がたくさんいます。まず公務員。
都の職員や村の職員は、避難したくても業務があるため出来ません。全島避難となれ
ば必要最低限の人員以外は避難できますが、現状では逃げられません。また、NTT
職員や東京電力などインフラに関わる人々も逃げるわけにはいきません。その他、報
道関係など後から島に入っている人も大勢いますが、それらに宿を提供したり食事を
提供したり、交通関係者、いずれも逃げられません。
 選択の幅などといっても、逃げられる人々の多くは既に島を出ています。31日現
在残留1600人という人数は、そのかなりが上記公的機関やインフラ関係者などに
なると思われます。この人々を逃がす手段は全島避難の発動しかないのです。
 逃げたくないと言う人のために執れる手段はあります。災害対策基本法には「避難
勧告」というものがあり、これは勧告である以上、強制力はありません。どうしても
残りたいという人が残るのは、知事の言う「選択の幅」でしょう。しかし現状は逆に
逃げたい人の選択肢を奪っている状態にあるのです。
 

 こんなのでどうして逃がさないのか、石原知事は決断力が売りだったんじゃないか
という素朴な疑問があるかもしれません。しかし知事には「もっと大事な仕事」が控
えているのです。

*********

 名前を明かせない都の職員によれば、以下のような状況です。
 9月3日、空前絶後の大演習が首都圏で行われます。ビッグレスキュー2000と
名付けられた防災訓練ですが、7100名の自衛隊が実戦装備で参加し、さながら軍
事演習といった様相を呈します。
 この準備のために都庁の災害対策部は、フル動員されています。実施本部は前線基
地の様相で、都庁職員が防災服に身を固めて自衛隊などとの訓練の協議を進めていま
す。
 この準備や連絡に膨大な人員が割かれているため、本来の防災行政に人が向けられ
なくなっています。
 都の内部では、三宅の実態は情報として伝わってさえいません。報道で流れている
ことさえ、新聞を読んだりテレビを見る暇もないため、多くの職員は知りません。さ
ながら今浦島状態ですが、軍事作戦にはきわめて重要な要素です。
 ここの人間が個別に状況判断をはじめれば、現場は混乱を来すため、軍事作戦にお
いては部隊指揮官や前線に対しては、司令部が必要と認めた情報しか流さず、かつ独
自の情報収集や勝手な判断は禁じます。
 軍事演習とかしたビッグレスキュー2000でも、防災担当はほぼ缶詰状態にある
ため、三宅がどうなっているかはわずかな担当以外は知るすべもない状況に置かれて
います。また、仮に断片的に知ったとしても、それをもとにして「戦線変更」つまり
ビッグレスキュー2000などは中止して三宅救援に全力をなどと主張しても通りま
せん。
 なぜならば、トップである石原知事自らが「史上最大の作戦」と呼び、「3軍を統
合した大演習」「演習をすることが(騒擾事件の)抑止力になる」といい、参加人員
を見ても全体が24800人のうち自衛隊が7100人を占め、さらに都の職員
1000名、警察約3000名、消防約2500名、住民約7000名を動員する軍
事演習です。
 これほどの大規模演習なので、三宅島全島避難と演習の「二正面作戦」は不可能な
のです。だからこそ全島避難は「現実的ではない」(三宅支庁長)となってしまうの
です。
 森首相も参加する演習にかかる事前準備は、自衛隊も含めて長期間の事前調整など
を行っていますから、今更延期などはできません。出来ることは中止することだけ。
 しかし三宅島1600人の人命よりも、ビッグレスキュー2000が知事にとって
は「大事」なのです。

************

 石原知事は9月2日に三宅島、神津島、新島を訪問する予定です。「行ってもどう
なるものじゃないけど、知事がいけば少しは安心っていうか、得心してもらえると思
う」

 もはや三宅島の人々は全島避難を強く訴えています。しかしこの日程を見れば、少
なくても9月2日までは全島避難が発動される希望は絶たれたと言うことなのです。
この日程の微妙さは計算されたものでしょう。31日に帰国する知事は1日には三宅
に行けるはずです。しかし1日に行き、全島避難を求められ、村長がそれを発動して
は困るわけだ。2日ならば翌3日には大演習だから、時間はない。そういう時間計算
をしていると思います。

                              00/8/31(Thu) 02:20pm  SDI00872 yamasaki



 
  • 1998年     3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  • 1999年     1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  • 2000年     1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月

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