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1999年2月1日、世界経済フォーラム(ダボス会議)でのアナン国連事務総長演説


 今回、世界経済フォーラムに参加させていただいたことを光栄に思う。これは国連事務総長として二年間で三度目の参加となる。
 過去に参加させていただいた際、私は国連と民間セクターとの建設的な協力関係を築きたいという私の希望について述べた。国連の日々の活動 −平和維持、技術的な基準の策定、知的所有権の保護、ぜひとも必要な発展途上国への援助など− が世界中でビジネスの機会を広げるのに役立っていると指摘した。そして極めて率直に、皆様の持つノウハウや資源なしでは国連の行動目標の多くは実現が困難であろうと述べた。

 今日、私は、過去二年間に我々の関係が大きな前進を遂げたことに大きな喜びを感じている。我々は、合同のベンチャーの活動を通じて国連と企業双方のゴールは、政策レベルでも実務のレベルにおいても、お互いに協力しあって達成していける事を証明してきた。

今年、私は皆さんに我々の協力関係をさらに高いレベルに持って行くことを提案したい。ここダボスにお集まりのビジネスリーダーの皆様と我々国連で、共通の価値観と原則を持って、グローバル・マーケットを「人の顔が見える」ものにしていこうではないか。

 グローバル化は否定できない現実である。しかしその脆弱さは過小評価されている。問題は、市場の拡大の速度が、社会とその政治システムが市場に追いつきその進路を誘導していこうとする速度に比べて速すぎるという事だ。歴史は我々に、そのような経済、社会、政治の各分野間のバランスの欠如が長い間続かないと教えている。それは先進諸国が、世界恐慌において学んだ苦い教訓だ。市場の失敗が生んだ犠牲者を保護し、セイフティ・ネットを整備したことなどが、戦後の経済発展の原動力となったリベラリゼーションへの動きを加速したのである。

 今日、我々に課された挑戦とは、この教訓を新たなグローバル経済の時代に生かすことである。それに成功すれば、我々はグローバルな繁栄の時代の基礎を形成する事になるであろう。そこで私は皆様に、特に人権、労働基準、環境保護の分野から取組みはじめることをお願いしたい。これらの分野ではすでに国際的な条約や合意によって世界共通の基準が設定されている。これらの分野に対する規制をもっと強化せよとの声も多く聞かれる。 

 対策は二つある。ひとつは国際政策を通じたもので、我々国連は国際労働機構、国連高等弁務官事務所、国連環境プログラムを通じた活動をしている。

 もうひとつは、皆様自身の企業活動を通して直接状況を変えていくものである。多くの皆様はそれぞれの国の大口の投資家であり、雇用主であり生産者である。全ての国が必要な法律を整備するのを待っていてはならない。ご自分の会社の従業員、またその下請け会社の従業員の人権が守られていることを確かめていただきたい。直接的にであれ間接的にであれ子供や強制労働の犠牲者を少なくとも自分の会社で雇っていないことを確かめて頂きたい。そしてご自分の会社が雇用・解雇の場面において人種・信条・性別・出身による差別をしていないか確かめて頂きたい。

 環境問題に関しても、皆様は予防的措置をとることができる。環境問題の啓発を促進し、より環境に優しい技術の発展・使用を推進する事ができる。

 国連は皆様に、様々な形で協力していく用意がある。国連高等弁務官事務所を始めとする関係各機関は、企業活動に国際的な基準や価値観を導入しようとする際のサポートを提供しており、国連に興味のある企業向けの情報を新設のウェブサイトwww.un.org/partnersで提供している。そして何より、貿易とオープンな市場に有利な環境づくりのために政策分野でも皆様の力になれることと思う。

 各国内の市場において、人々は共通した価値観を持ち、必要最小限度の基準は存在すると知っているので、最悪の場合でもそれに頼る事ができると考えているが、グローバル市場にはまだそのような信頼は寄せられていない。そうである間は、グローバル市場はもろく傷つきやすいものであるだろう −そして、ポスト冷戦の世界の様々な“主義”(ism)、保護主義、ポピュリズム、国粋主義、民族原理主義、狂信主義、テロリズムなどによる挑戦にさらされるであろう。

 こうした“主義” (ism)は、みんなグローバル市場によって脅かされ、あるいはその犠牲にされたと感じて、不安や絶望を抱えている人々を利用する点で共通している。人々がひどい状況に置かれているほど、こうした“主義” (ism)が支持を獲得していくことになるのだ。我々はグローバル市場を、世界共通の価値観によって形成されているネットワークの中に組み込んでいかなければならない。私はそのための具体的な指針を今日示したつもりだ。

 我々は短期的な利益の計算しか考えないグローバル市場と、「人間の顔を持った」グローバル市場と、どちらかを選ばなくてはならない。人類の四分の一が飢えと貧困にさらされている世界と、あらゆる人に少なくとも繁栄のチャンスを与える世界と、どちらかを選ばなくてはならない。自己中心的な勝者が競争の敗れた者の運命を無視する未来と、強力で成功した者たちが自らの責任を受け入れ、グローバルな展望と指導力を発揮していく未来と、どちらかを選ばなくてはならない。

 皆様が正しい選択をすることを私は確信している。


〈日本経済新聞2/2朝刊〉


 

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