第155回国会 法務委員会 第4号
平成十四年十一月七日(木曜日)
   午前十時開会
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  出席者は左のとおり。
    委員長         魚住裕一郎君
    理 事
                市川 一朗君
                千葉 景子君
                荒木 清寛君
                井上 哲士君
    委 員
                青木 幹雄君
                岩井 國臣君
                柏村 武昭君
                佐々木知子君
                陣内 孝雄君
                中川 義雄君
                野間  赳君
                江田 五月君
                鈴木  寛君
                角田 義一君
                浜四津敏子君
                平野 貞夫君
                福島 瑞穂君
                本岡 昭次君
   国務大臣
       法務大臣     森山 眞弓君
   副大臣
       法務副大臣    増田 敏男君
   大臣政務官
       法務大臣政務官  中野  清君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        加藤 一宇君
   政府参考人
       法務省民事局長  房村 精一君
       法務省矯正局長  中井 憲治君
       法務省人権擁護
       局長       吉戒 修一君
       法務省入国管理
       局長       増田 暢也君
       外務省アジア大
       洋州局長     田中  均君
       厚生労働省社会
       ・援護局障害保
       健福祉部長    上田  茂君
       厚生労働省保険
       局長       真野  章君
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  本日の会議に付した案件
○参考人の出席要求に関する件
○政府参考人の出席要求に関する件
○人権擁護法案(第百五十四回国会内閣提出)(
 継続案件)

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○委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 人権擁護法案の審査のため、来る十二日、参考人の出席を求め、その意見を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(魚住裕一郎君) 御異議ないと認めます。
 なお、その人選等につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(魚住裕一郎君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
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○委員長(魚住裕一郎君) 政府参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 人権擁護法案の審査のため、本日の委員会に法務省民事局長房村精一君、法務省矯正局長中井憲治君、法務省人権擁護局長吉戒修一君、法務省入国管理局長増田暢也君、外務省アジア大洋州局長田中均君、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長上田茂君及び厚生労働省保険局長真野章君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(魚住裕一郎君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
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○委員長(魚住裕一郎君) 人権擁護法案を議題といたします。
 本案につきましては先国会において既に趣旨説明を聴取しておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○中川義雄君 自民党の中川義雄であります。
 報道では、人権擁護法案はメディア規制三法案の一つとして非常に大きく取り扱っております。私がまとめただけでも、もうこのぐらいのたくさんの報道がされております。ですから、この法案はまるでメディア規制法案みたいな感じで報道されておりますが、私は、この内容をよく見ると、決してそんなものではないと。そういうことで、まずこの法案の全体像を法務大臣に明らかにしていただきたいと思います。
○国務大臣(森山眞弓君) 人権が尊重される社会を実現するためには、人権教育・啓発に関する諸施策を推進するとともに、現実に起こる人権侵害の被害者に対して実効的な救済を図る必要がございます。ところが、現行の人権救済制度には様々な制度的な限界がございまして、その要請に十分こたえ切れていないということから、そのようなことが人権擁護推進審議会の答申においても指摘されております。
 そこで、人権の世紀と言われる二十一世紀におきまして、真の人権尊重社会を実現するために現行の人権救済制度を抜本的に変革するということを考えて、今、人権擁護法案を御審議いただくということになったわけでございます。
 どうぞよろしくお願いいたします。
○中川義雄君 本法案を政府から提出するに至った経緯について、法務当局の見解を伺いたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) お答え申し上げます。
 少し長い経緯でございますので、長くなりますけれども、お許しいただきたいと思います。
 平成八年の五月に、地域改善対策協議会が政府に対しまして同和問題の早期解決に向けた方策の基本的な在り方について意見具申を行いました。その中で、今後の重点施策といたしまして、あらゆる人権侵害に対する事実関係の調査や被害の救済等の対応の充実強化というものが取り上げられまして、現行の人権擁護制度を抜本的に見直し、二十一世紀にふさわしい人権侵害救済制度を確立するという方向性が示されたわけでございます。
 これを受けまして、平成八年十二月、新しい人権救済制度の在り方等につきまして調査審議いたします人権擁護推進審議会の設置のための法律、人権擁護施策推進法でございますが、これが成立いたしまして、翌平成九年の三月に、この法律に基づきまして法務省に人権擁護推進審議会が設置されたわけでございます。
 この法案につきましては、衆参両法務委員会におきまして、この審議会の答申を最大限に尊重して、答申を踏まえて必要な措置を講ずるよう努力するようにとの附帯決議がなされているところでございます。
 その後、この人権擁護推進審議会におきましては、人権教育・啓発に関する調査審議を終えた後の平成十一年の九月から、新しい人権救済制度の在り方等につきまして本格的な調査審議が進められまして、昨年でございますけれども、平成十三年の五月にこれに関する答申が、次いで昨年の十二月に人権擁護委員制度の改革に関する追加答申がなされたという次第でございます。
 今回お出しいたしております人権擁護法案は、これらの答申を踏まえて立案されたものでございます。
○中川義雄君 時間の制約がありますので、なるべく簡潔な答弁をお願いしたいと思います。私も、質問の内容は詳細に事前に通告してありますが、質問の内容はある程度省略して言いますが、答弁もなるべく簡潔にしていただきたいと思います。
 報道などでは、平成十年に我が国が規約人権委員会から受けた勧告に対応して検討が進められたかのように言われておりますが、今の答弁では、平成八年、地対協意見具申に始まったと、こういうことでありますから、規約人権委員会の最終見解と今回の法案の関連について述べていただきたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) お答え申し上げます。
 先ほど申し上げましたように、今回の人権擁護法案でございますが、当初の出発点は平成八年五月の地対協の意見具申でございます。それを受けて平成九年三月に人権擁護推進審議会が立ち上げられ、その答申に基づいて立案したというものでございまして、今、委員の方から御指摘のございました規約人権委員会からの勧告、これがなされましたのは平成十年の十一月のことでございますので、今回の法案はこの勧告に基づいて立案されたものでないことは明らかでございます。
 しかしながら、勧告に基づいて立案されたものではございませんけれども、その最終見解には内容として十分にこたえる内容になっておるものと考えております。
○中川義雄君 人権委員会の独立性は本法案について大きな論点の一つだと考えます。
 なぜ独立性が必要なのか、そしてこの法案ではどのようにそれが確保されているのか、御説明いただきたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) お答え申し上げます。
 人権委員会は、公権力や報道機関による人権侵害につきましても救済の対象として取り扱いますことから、公正さが確保され、かつ実効性の高い救済措置を講じるという観点からも、また救済機関に対します信頼性を確保するという観点からも、他の行政機関からの影響を排して独立して職務を行う必要性があると考えております。
 そこで、法案では、人権委員会を国家行政組織法第三条二項に基づく独立の行政委員会として設置し、委員長及び委員の任命方法、身分の保障、職権行使の独立性等の保障等によりまして、その職権の行使に当たりましては内閣や所轄の法務大臣などからの影響を受けることがないように高度の独立性を確保することとしているところでございます。
○中川義雄君 今般の人権委員会は、いわゆる三条委員会として新たに設けることにまずどのような意義があるのかということをお尋ねします。
 また、これも大きな指摘になっておりますが、人権委員会を法務省に置くこととなっておりますが、この点については、刑務所や入国管理施設を所管している法務省は適当でない、人権委員会を内閣に置くべきであるとの大きな批判もありますが、なぜ法務省でなければならないのかについて説明いただきたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会をなぜ三条委員会として設けるのか、あるいは人権委員会の設置場所をなぜ法務省にするのかというお尋ねでございます。
 現在、三条委員会といたしましては、御承知のとおり、公正取引委員会ほか五つの委員会がございますが、その中で最後に設けられましたのが昭和四十七年の公害等調整委員会でございます。したがいまして、この人権委員会は正に三十年ぶりに新設される三条委員会、行政委員会ということになるわけでございます。
 行政委員会につきましては、さきの行政改革会議におきましてもその公正中立性や専門技術性等が必要とされる組織と位置付けられておりますけれども、この近年、一定の公正中立性が要求される行政機関につきましてもそのような行政委員会として設置される例がなかったわけでございます。そういうことにかんがみますと、省、庁と並ぶ三条委員会は特に高度の公正中立性が要求される行政機関の組織形態であると考えられまして、人権委員会を三条委員会として設置することは現行の法制下では最大限に独立性を保障したものというふうに評価されるのではないかというふうに考えております。
 次に、人権委員会をなぜ法務省の外局として設置するかということでございますが、これにつきましては以下のとおりでございます。
 まず第一点は、昨年一月に実施されました中央省庁の再編に当たりまして、人権の擁護は国民の権利擁護をその基本的任務といたします法務省において引き続き所掌すべき事務とされ、今後特に充実強化すべきものとして整理されていることがまず挙げられます。
 次に、第二点といたしまして、法務省はかねてから人権侵害に関する調査及び救済措置としての調停、仲裁、訴訟援助、差止め請求訴訟の提起等の職務の遂行のための法律的な専門性を有する職員を擁しておりますとともに、人権救済に関する専門的な知識、経験の蓄積を有すること、この二点が挙げられようかと思います。
 なお、諸外国におきましても、このような独立性を有する国内人権機構を司法省又はこれに相当する行政機関に置く例が少なくございません。例えば、カナダの人権委員会あるいはオーストラリアの人権・機会均等委員会はそれぞれ司法省の所轄の下に置かれておりますし、イギリスの人種平等委員会は内務省の所轄の下に置かれております。
 こういうふうな事情でございます。
○中川義雄君 この委員会は最終的な意思を決定する機関でありまして、実際に相談を受けたり人権侵害事件について調査を行うのは事務局が当たると、こう思いますので、そうしますと、この制度を真に実効性あるものにするためには地方事務所の設置や職員の確保など事務局の体制整備を十分していかなければならないと、こう思いますが、その点についてはどのように考えておりますか。
○政府参考人(吉戒修一君) 正に、委員御指摘のとおりでございまして、人権委員会がその所掌事務を適切に遂行し人権救済制度を実効的なものといたしますためには、実際の調査等に従事する委員会、事務局の組織を充実、整備する必要があるというふうに考えております。特に、全国各地で日々生起いたします人権侵害事案に対しまして実効的な救済を可能とするためには、事務局の地方組織の体制を充実させることが重要であるというふうに考えております。
 そういうふうな観点から、平成十五年度のこの法律の施行に向けまして、事務局の体制の整備に努力してまいりたいというふうに考えております。
○中川義雄君 いわゆる地方事務所についてなんですけれども、地方法務局へ事務委任を行うということは本委員会の独立性から非常に疑問があるというような声が強いわけでありますが、その点についての見解を伺いたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会の事務局の組織でございますけれども、中央に人権委員会があり、その下に中央の事務局があり、さらに地方事務所という地方組織を置くというふうに考えております。ただ、地方組織は今のところ全国八ブロックというふうに考えておりますので、その下の更に都道府県単位、失礼、八ブロック以外の県でございますけれども、四十二か所につきましては地方法務局に事務委任をするというふうに考えております。
 その点の問題点を御指摘のことと思います。この地方法務局長でございますけれども、これは人権委員会から委任を受けて処理する地方事務所の事務、これは人権の救済と人権の啓発でございますけれども、この事務につきましては法務大臣ではございませんで、人権委員会の指揮監督を受けるということになっております上、人権委員会事務局の地方機関として設置されます先ほど申し上げました地方事務所、これが地方法務局管内を含めましてブロック管内全域につきまして、公権力による人権侵害事件やマスメディアによる人権侵害事件など、特に中立公正さが要求される事件の調査を主導的に行うことなどを予定しておりまして、地方組織におきましても人権委員会の独立性というものは十分に確保されているというふうに考えております。
○中川義雄君 報道の中には、規約人権委員会から警察や入国管理施設での人権侵害の救済を図る独立の機関を作れと勧告を受けたにもかかわらず、自民党と官僚が結託してメディア規制に話をすり替えたなどという報道もあります。
 しかしながら、先ほどの説明では、検討の発端はあくまでも規約人権委員会からの勧告ではなく、平成八年の地対協意見具申であるとのことでしたが、また今回の法案は、人権擁護推進審議会において人権侵害一般の救済について十分な時間を掛けて検討した結果を反映したものであるということであります。自民党と官僚が結託して自分たちの都合の悪い報道を規制するために画策したというようなことはこの経緯からはあり得ないと考えるわけであります。
 審議会の答申においては、メディアにある一定の人権侵害については自主規制の取組を尊重しつつ、調停、仲裁、勧告・公表、訴訟援助といった手法で積極的な救済を図るべきであるとなっています。法案にはこのような答申の趣旨がどのように反映されているのか、そして審議会においてなぜこのような結論に至ったのか、結論に至るまで報道による人権侵害に関しどのような議論がなされたのか、説明していただきたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) 先ほど委員御指摘のとおり、政府と与党が結託してメディア規制のためにこういうふうな法案を作ったということは全く事実に反することでございます。これ、まず最初に申し上げたいと思います。
 この法案に至った経緯でございますけれども、特に報道関係の被害の救済についての検討の経緯でございますが、人権擁護推進審議会におきましては、平成九年の五月から諮問第一号、これは人権教育・啓発に関する施策の推進に関する基本的事項でございますが、これについて調査審議を開始し、当初、我が国の人権侵害の状況につきましての調査審議を重ねていましたところ、当時、平成九年当時でございますが、既に御案内のとおり、東電のOL殺害事件でありますとか、あるいは神戸の連続児童殺傷事件、あるいは東京で起きました弁護士夫人殺害事件といった刑事事件が発生いたしました。これらの事件をめぐる報道機関の報道、取材によりまして著しい人権侵害がもたらされたことから、犯罪報道における人権侵害の問題も我が国における重要な人権問題として審議会において取り上げられることになったものと承知しております。
 その後、審議会におきましては、平成十一年七月に先ほどの諮問第一号についての答申を行いました後、諮問第二号、人権救済に関する施策の充実に関する基本的事項でございますが、これについての調査審議の中で、犯罪被害者の方あるいはマスコミの関係者の方などからのヒアリングも行いながら検討を重ねました結果、犯罪報道による一定の人権侵害につきましては積極的な救済が必要との結論に達しまして、その調査方法につきまして更に強制調査権を認めるか否かにつきまして審議会の中で意見が分かれましたけれども、その後の中間取りまとめ、これは平成十二年に行いましたけれども、中間取りまとめに対するパブリックコメント、あるいは平成十三年に行いました地方公聴会での意見等を踏まえた議論の結果、表現の自由、報道の自由の重要性に配慮いたしまして、報道機関に対する調査につきましては任意のものに限るとの結論に達したものと承知しております。
○中川義雄君 この法案をマスコミ規制法案として批判する側から、そもそも報道機関による人権侵害については特別の救済対象としなければならないほどの実情がないんだと、すなわち立法事実がないと指摘する声も大きいわけでありますが、このような指摘についてどのように考えておりますか。
○政府参考人(吉戒修一君) これにつきましては、平成十二年の九月に総理府が実施いたしました犯罪被害者に関する世論調査の結果がございます。
 これによりますと、犯罪の被害者や遺族につきまして、犯罪による直接的な被害のほかに最も問題だと思うものは何かとの質問に対しまして、精神的なショックや苦痛との回答に次ぎまして、マスコミの取材や報道によるプライバシーの侵害との回答がなされております。さらに、犯罪被害者の対策といたしまして政府に力を入れてほしい対策は何かとの質問に対しまして、捜査や裁判の過程における犯罪被害者への配慮、これは五八・一%ございましたが、という回答に次ぎまして、マスコミからのプライバシーの保護、これは五六・七%の回答という回答がされているところでございます。
 この世論調査において示された政府に対する要望のうち一番目のもの、捜査や裁判の過程における犯罪被害者への配慮につきましては、既に平成十二年に刑事訴訟法の一部改正と犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律などが制定されておるところでございます。こういうふうな手当てがなされておりますけれども、二番目のマスコミからのプライバシーの保護につきましては、正に本法案によりましてそのニーズにこたえようとするものでございます。
 また、立法事実に関連して敷衍させていただきますと、犯罪報道に関しまして、その報道、取材の在り方が問題とされた最近の著名な事例を拾いますと、まず報道内容に関するものでは、先ほど申し上げましたけれども、神戸連続児童殺傷事件、これは平成九年、それから東電OL殺害事件、平成九年、堺通り魔事件、平成十年、それから沖縄米兵暴行事件、平成十二年がございますし、取材行為に関するものでは、例えば弁護士夫人殺害事件、平成九年、和歌山毒カレー事件、平成十年、桶川ストーカー殺人事件、平成十一年、京都小学生殺害事件、平成十一年、西鉄バス乗っ取り事件、平成十二年、大阪池田小学校児童殺傷事件、平成十三年などがございまして、このような犯罪報道被害の実情にかんがみますと、社会の耳目を集める犯罪が発生すれば同様の報道被害が生じる状態がなお依然として継続している状況にあるというふうに考えております。
○中川義雄君 ただいまの答弁を聞きましても、私自身、その事件一つ一つ思い出すたびに大変な問題だな、被害者の立場に立つとこれがいかに大きな問題であるかということがよく理解できるわけです。
 このような重大事件が発生するたびに犯罪被害者のプライバシーが非常に侵されている、そのような報道がもう繰り返し繰り返しなされていると。その結果、被害者の方は犯罪そのものによる被害を被っている以上に、追い打ちを掛けるように二次被害というべき被害を報道によって受けていると言っても過言ではないと思うわけであります。
 このような犯罪被害者が受けてきた報道被害についてどのように法務当局としては考えているのか、お聞きしたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) ただいま委員御指摘の報道被害につきましては、昨年五月に人権擁護推進審議会からいただきました「人権救済制度の在り方について」の答申の中でこのようなくだりがございます。報道によるプライバシーの侵害、名誉毀損、過剰な取材による私生活の平穏の侵害等の問題がある。特に、犯罪被害者やその家族のプライバシーを侵害する報道や行き過ぎた取材活動は、二次被害とまで言われる深刻な被害をもたらしているという指摘がなされているところでございます。
 こういうふうな被害に遭われた方につきましてはその大変な御苦労がしのばれまして、心からお気の毒に思っております。新しい人権救済制度の下におきまして、このような被害に苦しむ方を一人でもなくすことができればよいというふうに考えております。
○中川義雄君 一方では、新聞、報道機関、いろんなメディアからは、人権擁護、この法案は、報道の自由、取材の自由、一番大切なものを侵すんだと、これは大変な問題であるというふうに大きな懸念が起きていることも事実であります。
 人権と報道の自由、この調和をどう取るかということは本当に難しい問題でもありますが、しかし大切な問題だと思いますので、この法案ではどのようにそれを取り扱って法案として仕上げたのか、説明いただきたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) 報道の自由、表現の自由というものが民主社会の根幹を成すものである、非常に大事なものであるということは、全く委員御指摘のとおりでございます。ただ、報道の自由と他者の人権というものの調節というのは可能なものであるというふうに考えております。
 この法案におきましては、報道機関による人権侵害につきましてもいわゆる特別救済の対象にいたすこととしておりますけれども、報道被害全般ではございませんで、その対象を現行の法制の下でも既に違法と評価される犯罪被害者等に対する報道による著しいプライバシー侵害と、それから生活の平穏を著しく害する過剰な取材という必要最小限のものに限定しておりまして、何ら新しい取材のルールあるいは報道のルールというものを課するものではございません。また、法案では報道機関に対する調査を任意のものに限っておりますし、それに加えて報道、取材の自由への配慮と報道機関による自主的な取組の尊重ということを特に法文に明記いたしますなど、報道、取材の自由に十分に配慮した内容になっていると考えております。
 したがいまして、本法案が報道、取材の自由を侵すものであるというような御懸念は当たらないというふうに考えております。
○中川義雄君 一方、メディア側からの主張として、報道による一定の人権侵害を特別救済手続の対象として取り上げると政治家など公人に対する取材や報道がやりにくくなる、それが一番心配するんだというような主張もあります。そのようなおそれが本当にあるのかないのか、明らかにしていただきたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) 一部でそういうふうな御意見がありますけれども、全く当を得ないものと考えております。
 本法案におきましては、成人の被疑者、被告人に対する報道や取材は、本法案で言うところの特別救済の対象にはなっておりません。したがいまして、犯罪の疑惑を追及されております政治家でありますとかあるいは官僚に対する報道や取材が特別救済の対象になることはあり得ないことでございます。
 他方、政治家や官僚の家族に対する報道や取材は、これは特別救済の対象になりますけれども、ただ、ここで申し上げたいのは、政治家あるいは官僚を取材するためその自宅を訪れ、それに伴いまして家族にまで迷惑が及びましても、その取材は家族に対する取材ではございません。したがいまして、これは特別救済の要件には該当いたしません。
 また、家族を事件の関係者として取材する場合は、これまた家族としての取材ではございませんので、これまた特別救済の対象とはならないわけでございます。
 したがいまして、本法案が政治家や官僚などのいわゆる公人に対する取材や報道の障害になるということは想定し難いものというふうに考えております。
○中川義雄君 また、メディア側からは、過剰取材を特別の救済対象とすることは、その基準がどうもあいまいであると、そのことが報道機関の取材活動に萎縮効果となって現れることを非常に懸念しているわけでありますが、そのようなおそれがこの法案にはあるのでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 御指摘の点は、法案の四十二条第一項四号イ、ロのところのロの規定のことだと思いますけれども、これはその条文を十分に読んでいただければ御理解いただけることと思います。
 つまり、本法案におきまして特別救済の対象として取り上げております報道機関等の取材活動による人権侵害は、これは取材を拒否している犯罪被害者などの限定された者に対しまして、付きまとい、待ち伏せなどの限定的に列挙した行為を反復、継続して行うなどしてこういう方の生活の平穏を著しく害する行為とされておりまして、要件は、いわゆる構成要件は極めて具体的でございますし、かつ明確で、それに該当するかどうかの判断も容易でございます。
 したがいまして、特別救済の対象としておる報道機関等の取材活動による人権侵害につきまして基準があいまいであるというような御批判は当たらないものと考えておりますし、元々、現行の法制下におきましても、報道機関は取材の対象とされる者の人格権を侵害するような違法な取材活動をしないように注意すべきものでございますから、本法案が成立することで、御指摘のような取材活動に萎縮効果がもたらされるというようなことは到底考え難いというふうに考えております。
○中川義雄君 また、同じくメディア側からは、過剰取材を特別の救済対象とすることは、犯罪被害者と報道機関とを分断するんだ、捜査機関の不祥事事件の隠し、そんなことにも利用されるんだと、そういう指摘があります。
 実際、これまでの新聞の報道によれば、犯罪被害者の方の中にも、例のいわゆる桶川ストーカー殺人事件の被害者の御遺族などはこのような懸念をお持ちであると私は考えておりますが、そういうまた指摘も多いわけでありますが、このことについてはどのように考えておりますか。
○政府参考人(吉戒修一君) 御指摘のありました犯罪被害者の御遺族の方のお考えは、これは報道されたところで承知しておるわけでございますけれども、御遺族の方は、本法案によりまして、過剰取材に対しましてこれを中止するような勧告がなされると報道機関と犯罪被害者が分断されてしまい、報道機関によって暴かれた警察の不祥事などがやみに葬られてしまうことになるのではないかと心配しておられるものと理解しております。
 しかしながら、この法案は、いわゆるメディアスクラムと言われます集団的過熱取材の中で、犯罪被害者等の生活の平穏を著しく害する取材が繰り返し行われた場合に、その犯罪被害者などからの申出を受けてその救済を図ろうとするものであります上、勧告により中止を求めますのはあくまで犯罪被害者の方の生活の平穏を著しく害している付きまとい、待ち伏せ等の行為だけでございまして、およそその取材すべてを中止するよう求めるものではございません。また、取材の方法といたしまして、手紙、その他の犯罪被害者の方に過剰な負担を掛けない方法によるアプローチというものが考えられますけれども、そういうアプローチは何ら制約を受けるわけではございません。
 ということから、本法案によりまして、報道機関と犯罪被害者が分断されたり、あるいは報道機関の適正な取材ができにくくなって捜査機関の不祥事隠しに利用されるといったことなどはあり得ないことであるというふうに考えております。
○中川義雄君 この法案の中で、私は、誤報による人権侵害についてはこの法案では取り扱われないことになっているわけですが、そのことで思い出されるのはあの例の松本サリン事件であります。
 私も、あの報道を見て、まるでこの人が本当にこういう重大な犯罪を起こしたのではないかと、こう思われるような報道が連日連夜なされたことを思い出すわけであります。幸いにして、真犯人が別に出たものですからあの方の人権といいますか名誉というものは回復することが幸いできたわけでありますが、もしこれがこのまま捜査があいまいに終わっていたらあの方の一生というものはどんなことであったかということを考えると、私は人ごとではないと恐ろしい感じさえするわけであります。
 このような誤報による人権侵害は特別救済の対象手続として取り上げておりませんが、なぜ誤報による人権侵害は特別救済手続の対象としなかったのか、そのような事案については人権委員会としても何も対処できないのか、その点について明らかにしていただきたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) 委員御指摘のとおり、誤った犯人報道など誤報による名誉毀損の被害、これまた非常に深刻な問題がございます。
 ただ、これを法案では特別救済の対象としておりませんけれども、それは、人権擁護推進審議会の答申で指摘されておりますように、報道による名誉毀損に関しまして救済を図るためには、これは報道内容の真偽、真実かそうではないかということのほか、仮に虚偽と認められる場合でも、真実であると信じたことにつきまして相当な理由があるかどうかの有無を判断する必要がございます。これは、最高裁判所の判例でそういうふうになっております。
 したがいまして、そのためには取材内容等について調査を行うことが不可欠となりますけれども、行政に属する人権委員会がそこまで介入するということは報道の自由との関係から相当ではないというふうに考えたというのが人権擁護推進審議会のお考えでございます。それに基づいて、今回の法案は立案したわけでございます。
 ただ、およそ誤報による人権侵害がこの人権救済手続の対象にならないかといえばそうではございませんで、この法案の中では、救済の手続として一般救済と特別救済というふうに分けておりますけれども、一般救済、いわゆる人権の相談をし、任意の調査をし、任意の手法で指導、あっせん、紹介、説示というような、任意の措置を取る一般救済の手続の対象にはこれはなりますので、人権委員会といたしましては、その手続の中で、被害者の方の御相談に応じて救済を図っていくということになろうかと思います。
○中川義雄君 今の答弁でもありますけれども、しかしその救済そのものは非常に弱いものでありまして、ほとんど実効性というものは私は考えられないと思うわけであります。
 このような誤報による人権侵害に対する一つの方法としては、民事による損害賠償請求という道が開かれているわけであります。しかし、最近までは、この損害賠償金額が、与えた被害から見ると非常に軽いというような、そのために、せっかく大変な時間と費用を要してやりながらも、救済の実効性がないなどというような批判もあったのも事実でありますが、幸い最近、何かかなりそれが相当の金額になってきたということでありますから、民事当局で結構ですから、最近の事犯について例示していただきたいと思います。
○政府参考人(房村精一君) マスメディアによる名誉毀損に対する損害賠償ですが、網羅的に調査した資料はございませんので全容は把握しておりませんが、公刊されたもの等で承知しているところでは、御指摘のように、最近まで慰謝料としては百万円以下の額を認容するという例が大半であったように思われます。しかし、最近、次第にこの認容額が高まりつつありまして、五百万円以上の賠償額を認めているものも相当数出ておりますし、中には一千万というような賠償額を認めたものもございます。
○中川義雄君 誤報による名誉毀損というようなものは本当に大変な人権問題だと私は思うわけであります。
 その点では、諸外国では、特にアメリカ等では名誉毀損に対して懲罰的損害賠償制度が採用されていると聞いておりますが、国会においてもこの点については随分取り上げた事犯がありますが、このままになっておりますが、法務当局として、外国の事例がどのようになっているのか、なぜこのようなことを我が国では適用できないのか、明らかにしていただきたいと思います。
○政府参考人(房村精一君) 御指摘のように、アメリカあるいはイギリス、カナダなど、主として英米法系の国におきましては懲罰的損害賠償というものが認められております。これは、不法行為の訴訟で、加害行為の悪性が高い場合に、加害者に対して制裁を加えることによって、加害者が同種の行為を繰り返すことを防止し、併せて一般人に対しても警告を与えるという一般的抑止効果を果たすと、こういうことを目的として、実際に生じた損害の賠償に付加して懲罰的な損害賠償を命ずるという制度でございます。
 これを我が国に導入するかどうかということに関しましては幾つか問題点が指摘されておりまして、まず第一に、現実の損害を超えた賠償を認めることは加害者に対する制裁としての刑事責任と損害のてん補を目的とする民事責任とを混同することにならないか、次に、加害者に制裁を加えることにより被害者が損害の範囲を超えて利益を得るのは合理的ではないのではないか、あるいは乱訴のおそれがあるのではないかというような問題が指摘をされております。さらに、最高裁判所において、懲罰的損害賠償制度について、我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相入れないものであると、こういう判断が示されていることもございますので、この懲罰的損害賠償制度の導入に当たっては慎重な検討を必要とするものという具合に考えております。
○中川義雄君 私は、質問はしませんが、非常に最近のいろんな事件が起きるたびに、これ刑事事件でありますが、マスコミと刑事当局の間のリークというような話が平然として、もう平常用語として我々の耳に来る、これも大変大きな問題だと、こう思うのであります。このことについてはよく研究した上で刑事当局その他と議論させていただきたいと思いますが、現実に報道機関との間にリークという話が、報道機関、当局の人たちも平然ともう我々に平気で話されるというような常識語になってしまっているということは、報道機関と刑事当局との間の、これは何かの癒着か何か知りませんが、そういう大きな問題があるということだけは今日は指摘だけさせていただきたいと、こう思っております。
 この法案では、報道機関による人権侵害を特別の救済対象としているにもかかわらず、表現の自由や報道の自由に配慮して四十二条二項のような特別の配慮規定を置いています。
 そこで、この条項の意味について、具体的にどのように配慮し尊重するのか、説明願いたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) 委員御指摘のとおり、法案の四十二条の二項で報道機関に対する配慮規定を置いております。
 まず、「報道機関等の報道又は取材の自由その他の表現の自由の保障に十分に配慮する」という文言がございますが、これは、調査又は救済措置の実施に当たりましては、報道機関等による報道が国民の知る権利に資するものであり民主主義社会の基盤を成すものであるということを念頭に置きつつ、表現の自由の保障と被害救済との均衡が保たれるように常に配慮するというふうに考えております。
 具体的には、報道関係者に対しましていたずらに負担を掛けないよう、より慎重な調査を行うことなどを考えておりますけれども、個別具体的な対応につきましては、こういうふうな趣旨を踏まえて適切に対処いたしたいと考えております。
 次に、「報道機関等による自主的な解決に向けた取組を尊重」するという文言がございますが、これは、報道機関等による苦情処理手続におきまして対応が行われている場合には人権委員会による調査や救済措置の実施を見合わせることなどをいうというふうに考えております。
 より具体的に申しますと、人権委員会に救済の申出がありました場合において、報道機関等による苦情処理手続をまず紹介し、あるいは報道機関等による苦情処理手続において既に対応が行われている場合に人権委員会に対しまして更に救済の申出がされましたときは、人権委員会におきましては、当該苦情処理手続が行われている間は調査又は救済措置を行わずに、その苦情処理手続の終了後に必要に応じまして調査又は救済措置を行うというような対応をすることを想定いたしております。
○中川義雄君 報道機関による自主的な取組というのは私は非常に大切なことだと思っております。
 報道による人権侵害が起こった場合の苦情処理制度など、最近、メディア自身が非常に積極的に取り組んでいると聞いておりますが、しかしまた一方では、現状では全然問題にならないという意見も一方ではあります。
 このように様々な取組が推進される方向にあること自体は非常に結構なことだと思いますが、報道による人権侵害について報道機関による自主的な取組によって対応していくことが本来あるべき姿と思いますが、現状と今後の方向について御説明いただきたいと思います。どのような方向に向かっているのか。
○政府参考人(吉戒修一君) 委員御指摘のとおり、報道機関による人権侵害につきましては、まずは報道機関自身による自主規制というものが図られるべきであるというふうに考えております。
 ただ、報道機関による人権侵害の実情と報道機関の自主規制の現状に照らしますと、犯罪被害者等の弱い立場にある者に対する一定の人権侵害については人権救済制度の中で実効的な救済を図る必要がまずあるものと考えております。
 もっとも、この法案におきましては、先ほど来から委員御指摘のとおり、明文をもちまして報道機関による自主的取組を尊重すべき旨を定め、報道機関がその自主的取組を整備することにより、報道被害に関する苦情処理がその取組によってなされることを促しているところでございます。
 最近の各報道機関等による自主的取組の概要を申し上げましても、新聞、これは大手の新聞でございますけれども、それぞれの新聞におきまして委員会組織をもってして苦情処理あるいは報道の在り方についての検討組織を置かれているものと承知しておりますし、また日本新聞協会におきましては、その中で編集委員会が集団的過熱取材に関する見解を公表され、あるいは集団的過熱取材対策小委員会というものを設置されておるというようなことも承知しております。
 さらには、放送におきましては、これはもう平成九年からございますけれども、BROという、放送と人権等権利に関する委員会機構がございまして、ここでいわゆる放送による苦情に対する処理をされているというふうに聞いておりますし、また日本民間放送連盟におきましては「集団的過熱取材問題への対応について」との見解を昨年公表されたところでございます。さらには、雑誌におきましても、日本雑誌協会におきまして雑誌人権ボックスというものを今年設置され、また集団的過熱取材についての見解を今年公表されたというふうに聞いております。したがいまして、こういうふうに報道機関の側におきまして自主的な取組が進展いたしていることはそのとおりでございます。
 私どもといたしましても、今後とも、報道機関におきまして実効性のあるこういうふうな自主的な取組の整備が更に進められることを期待しているところでございます。
○中川義雄君 いわゆる三条委員会としての人権委員会は、非常に格の高い、非常に大切なものであると思います。その委員長、委員はそれにふさわしいものでなければならない。そのために、人権委員会の委員長、委員はどのような選任をするのか、基本的な考え方を示していただきたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会の委員は、委員長ほか委員が四名、合計五名によって構成されるものでございますけれども、法案に書いてございますように、国会の同意を得て内閣総理大臣が任命するということになっております。
 委員の資格につきましては、法案の九条に書いてございますけれども、人格が高潔で人権に関して高い識見を有する者であって、法律又は社会に関する学識経験のあるものというような要件がございますので、このような要件にふさわしい方、備えた方を、法案成立後、私ども事務当局の方で速やかにそういう候補の方を御選考申し上げ、内閣の方と御相談をさせていただいて、最終的には国会の同意を経て総理大臣に任命していただくというようなことを考えております。
○中川義雄君 この人権の問題は、いかに人権委員会が置かれても、言わば最終的には裁判の場で解決が図られると、そのようになると思います。
 人権救済制度を構築するに当たっては、被害者が司法的救済をより安易に、容易に受けられるように配慮することが非常に大切だと思いますが、その点では、今回の法案はどのようになっているのか、説明いただきたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) この人権委員会の行います人権救済手続は、最終的な救済は司法的救済でございます。その司法的救済のいわゆる前段階で前さばきをやる、いわゆるADR、裁判外紛争処理手続というふうに言われるものかと思います。したがいまして、この手続のやり方は、裁判とは違いまして無料であり、それから形式も柔軟でございますし、解決の手法も様々な裁判とは違う手法を取り得るというふうになっております。
 そういう中で、今、委員御指摘のとおり、ここでできなかったものが裁判との架橋をどう付けるかということでございますけれども、これは法案の四十一条にございますけれども、この人権救済手続で救済できずに司法救済の方に行かれる方につきましては、法律扶助に関するあっせんということを行うということも人権委員会の仕事というふうに考えております。そういう形で人権救済手続と司法救済の架橋を付けていくということを考えております。
○中川義雄君 これが最後になりますが、大臣に決意のほどを聞かせていただきたいと思いますが、つい数日前の新聞報道によれば、メディア規制凍結というような大きな見出しの新聞記事を見まして、何か、今審議するのに際しても何となくむなしい思いをしているわけでありますが、こんなことは私は事実でないと、こう信じたいわけですが、この法案に対する、今国会で私どもは是非成立するために全力を投球するつもりでありますが、大臣の決意についてもお伺いしたいと思います。
○国務大臣(森山眞弓君) 今、るる説明をお聞きいただきましたように、長い年月にわたって、たくさんの関係者あるいは良識のある審議会の委員の皆様などのお知恵をいただきましてようやくできました法案でございますので、私どもといたしましては、これが最善のものというふうに考えておりますので、是非この国会におきまして十分御審議いただきました上で成立させていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
○江田五月君 おはようございます。
 冒頭、個人的な思いを込めた発言を二つだけさせていただきます。
 まず第一は、森山法務大臣は今日がお誕生日だそうで、おめでとうございます。これは質問じゃありません。
 次はちょっと質問、この場をおかりして是非申し上げておきたいんですが、去る十月二十五日に、暴漢によって私どもの同志である石井紘基衆議院議員が無念の死を遂げました。大臣は、先日の所信の中で、冒頭、そのことにも触れていただきまして大変ありがとうございました。
 御承知の方もおられると思いますけれども、石井さんと私とは学生運動以来の友人、もう四十年を超える友人で、その後、彼は旧社会党本部の職員となって、私の父、江田三郎が社会党を離党したときに直ちに黙って行動をともにしてくれた。父の死が間近いというときに、当時、裁判官だった私を説得して政治家になることを勧めた。それで、私が参議院議員に、一九七七年ですが、当選すると、まあ裁判官から政治の世界へ入ったわけですから、政治のことはもう西も東も、右も左も分からない私の師匠役として第一秘書、公設秘書を務めてくれた。九三年に衆議院に初当選して三期議員活動を続けて、その中で、特に数多くの不正、権力悪と真っ正面から闘った。したがって、それはいろんな人に恨みも買っていたかと思います。本当に、何事にも恐れず勇敢に国会の場で不正を追及する活動を続けてきた。これはもう皆さん御承知のとおり。いろんな危ないと思われるような人にも付きまとわれたこともあるかもしれません。
 私は思い出すんですが、私の父が一九六〇年に社会党の、旧社会党の書記長から委員長代行になった。それは、当時の浅沼稲次郎委員長が日比谷公会堂で刺殺をされた後だったんですね。当時、そういう事情ですから、父のところに、それこそ警察の皆さんが警備をしっかりしようといってきて、私の父は何と言ったか。公衆の面前で野党第一党の委員長が殺されるのを何にもできなかったおまえたちに、警備は要らない、してもらうことは要らないと、こう言って、まあそれでも警備はやっていましたけれども。そんな父の姿に石井さんはあこがれて、したがっていろいろ危ないことがあっても彼はもう平然としていただろうと思うんですね。しかし、非業の死ということになって、私は、やはり彼の悪と闘う議員活動とこの非業の死は無関係であるはずがないと信じておりました。
 しかし、今、彼は既に死のふちに沈んで、言葉を発することはできません。犯人の方は幾らでも今しゃべることができる。その犯人の側の一方的な情報だけがどうも報道されているという、そして世間の心証が形成されていくというような感じを私は受ける。金銭トラブルでというけれども、全く無関係な、いわれのない無心をされて、それを断って、それが金銭トラブルでしょうか。そんなことはないですよね。そんなことで人が殺されるんじゃ、それはたまったものじゃない。
 通告ありませんが、森山法務大臣、ひとつ是非これは、この事件をどうとらえておられるか、そして捜査について、捜査の指揮をしろというんじゃありませんが、大臣として、彼が追及してきた悪と刺殺との関係、これはやはり法務大臣としてきっちりと調べてもらうことを期待をするという、そういう気持ちでおられるかどうか、この点を伺っておきます。
○国務大臣(森山眞弓君) 石井代議士のあの事件につきましては、与野党を問わず、また個人的なお付き合いが深い方はもちろんのこと、そうでない方々も大変大きな衝撃を受けたというふうに思います。私は、たまたま事件が起こったところの近くに住んでおりますものですから、なおさら人ごととは思えないという気持ちで大変なショックを受けました。
 そして、犯人が割合に短時間で出頭いたしまして、逮捕され、捜査をされているということで、それはまあよかったというふうに思ったわけでございますが、その後の報道によって承知するところにおきましては、割合に単純な動機というようなことのようでございますので、本当だろうかというような気持ちが同じようにございます。しかし、これは今、捜査の専門家が十分、表に現れたものばかりではなく、その他の動機あるいは背景についても調査をしていることと存じますので、その結果を待ちたいというふうに考えております。
○江田五月君 今日、私ども民主党は、党本部も主催者の一団体になって石井紘基君のお別れの会を持ちます。その場で森山法務大臣の今のお気持ち、お言葉、石井君の霊に報告をしたいと思います。
 さて、人権擁護法案です。実質審議が始まりました。さきの通常国会会期中の三月八日でしたか、政府の人権擁護法案が参議院先議で国会に提出された。本会議の趣旨説明、質疑を行いましたが、当法務委員会では、通常国会では趣旨説明だけで継続審議と。
 私は、通常国会会期中は民主党の法務ネクスト大臣ということで、本日ただいまの法務大臣森山眞弓さんと、私の方はネクストでございますが、法務大臣ということで、カウンターパートのつもりでいろいろなお話をさせていただいたつもりですが、この法案についても直接の民主党の方の責任者でございました。同時に、私は、民主党の国内人権救済機関設置ワーキングチームというものを作って、その座長も引き受けておりまして、これは今でも引き受けておるんですが、そんなことで、政府案に対して私どもの方の法案の大綱をまとめて、これは対案ということになりますが、同時に、対案だけで国会審議に臨むのではなくて、抜本修正を求めようということで修正案もまとめております。十月三日から民主党の新体制で法務ネクスト大臣は衆議院の平岡秀夫議員になっておりますが、私も引き続き責任者の一人として今日は質問させていただきます。
 最初に、法務大臣に伺いますが、私どもは、人権侵害による被害、これに対して救済機関をしっかりしたものを作る、人権委員会を作る、そのことは必ず実現をしなきゃならぬと思っています。その意味では、皆さんと全く対立する立場でお互いに対決をするという、そういう立場ではありません。よりいいものを作ろうという気持ちでおりますが、しかし残念ながら、政府案には余りにも重大な問題があるから反対であって、そして修正案を用意しておるということでございます。
 したがって、政府案を廃案にすべきだとか、いたずらに先送りをしていいとか、それは全く思っておりませんが、国会での実質的な議論を踏まえて、政府案の抜本修正をして、そして遅滞なく法案を成立させたいと強く思っておりますが、そういう意味で、実りのある議論をしたいと思うんですが、森山法務大臣、同様なお考え、そういう、どういいますか、この人権委員会というものを作ろうということに対する私どもの気持ちは分かっていただけると思うんですが、姿勢をまず伺っておきます。
○国務大臣(森山眞弓君) おっしゃるとおりでございまして、よりよい仕組みを作らなければいけないということは、おっしゃったとおり共通の問題意識だろうと思います。そして、先ほども申し上げましたが、そのためにはどのような仕組みでどのようなやり方でやったらいいかということについて、長い間多くの方のお知恵をおかりしてようやくでき上がりましたこの法案でございますので、私どもといたしましてはこれが最善のものというふうに考えて御提案申し上げたわけでございますので、どうぞよろしく御審議いただきたいというふうに思っております。
○江田五月君 最善のものを作ったんだという言い方しかできないのはよく分かりますけれども、しかしいろんな今の行政の仕組みの中でいろいろ考えるとこれが最善だと。しかし、行政の仕組み自体がどうもちょっとおかしいなというところもいろいろあると思うんですね。ですから、これは、やはり理想的なものができたというふうに言われると、えっ、森山大臣の理想はそんなものだったのと、こう言わざるを得ないという気がするんですが、続いて伺います。
 本法案の趣旨説明の中で、我が国には今日においても不当な差別、虐待その他の人権侵害がなお存在していると、こういうことを述べておられますね。
 さてそこで、現在の日本の人権の状況について基本的にどういう認識を持っておられるのか。つまり、国際的に見てもまずまずのところにあるというふうに考えておられるのか、それとも強力な人権救済機関の設置やあるいは教育・啓発活動などによって改善すべき状況にあるんだと、こうお考えになるのか、日本の人権状況についてどういうお考えであるのか、ちょっとざっくりとした質問ですが、お答えください。
○国務大臣(森山眞弓君) 我が国におきます主な人権課題の現状を見ますと、まず女性とか子供、高齢者、障害者、同和関係者、アイヌの人々、外国人、HIV感染者、ハンセン病の患者、同性愛者等の一般的に弱い立場にある人々に対する差別、虐待といったようなものが顕著な問題となっておりますほか、公権力による固有の問題として、捜査手続や拘禁・収容施設内における暴行その他の虐待等の様々な人権侵害の問題があると承知しております。
 これらに加えまして、犯罪の被害者やその家族につきまして、時には少年事件などの加害者本人につきましても、マスメディアの興味本位又は行き過ぎた取材や報道によるプライバシーの侵害の問題がありますほか、特にこのごろは、インターネット上の電子掲示板やホームページへの差別的情報の掲示なども問題となっているというふうに承知しておりまして、非常に様々な広範囲の問題があり、それがなお解決しにくい問題として出ているということを承知しております。
○江田五月君 広範囲の人権に危惧を抱かざるを得ない分野についてお話しになりました。どこの国でも、いわゆる括弧付きですが、先進国と言われる国でも、それは人権侵害というのはどこでもある。どこでもあるからいいんじゃなくて、そういう人権侵害はあるが、それに対してどう救済をしていくかというその気持ちがその社会にあふれているか、そしてそういう気持ちを体していろんなシステムがきっちりできているか、これが大切だと思うんです。日本に人権侵害なんというのはないんだというような状況ではないよと、そのことは森山大臣、しっかりと認識していただいておって有り難いんですが。
 さて、日本の国内に、人権は侵害されちゃいけないんだ、人権というのは何より尊ばなきゃいけないんだという、そういう気持ちが日本の社会の中にちゃんと満ちあふれているかどうかということになると、私はまずそこのところが本当に問題だと。
 人権侵害というのは目をつぶっていればそれっきりで別に何ともないと。あるいは、侵害された本人でも、いや、私が悪いからこんな目に遭うんだなどというふうに思い込んでしまうようなことだってあるんですよね。それを思い込ませるようにする例だってあるんです。例えば、学校教育の中でいじめというのがありますよね。先生によっては、あなたがいじめられるような性格だからいけないのよなんて言って、ああ、私の性格は駄目なのねといってますますいじけるなんてことになるんで。やはり、社会のどこにあっても、人権侵害じゃないかと思われる事例があれば、それはみんな声を出して言わなきゃいけない、そしてそういうことがなくなるように努力しなきゃいけない。
 ところが、どうも最近、例えば人権派なんて言うと差別用語みたいに、何か、人権派だからあいつはそんなことを言うんだよね、本当にうるさいやつで、ちょっとどっかわきへどいていてくれないかなんというような、そんな風潮さえあるような気がするんですが、その点はどうお感じになりますか。
○国務大臣(森山眞弓君) 確かに、我が国において人権思想が、人権を尊重するという思想が満ちあふれていればいろんな人権侵害の事件が起こるはずがないわけでございますから、先ほど私がいろいろと申し上げたようなことが残念ながら散見されるということは、まだまだ意識が十分でないということを証明するものであろうと思います。
 ですから、人権問題の解決のためには、まずその意識を変えるということが基本的に重要だろうと思いますが、それとともに併せて、問題が起こったときにどのように処理していくかと、両方相まって目的を果たすことができるんではないかというふうに考えます。
○江田五月君 そこで、まず伺いますが、やはり国民の中に人権意識というものを普及啓発していく人権教育を行っていく、これは非常に重要なことだと思うんですが、この正に人権擁護の言わば集大成とも、そうまで言うとこの法案の方が顔を真っ赤にするかという気もしますが、そういうこの法案に人権教育ということがない、抜けている。これは、なぜ人権教育をここでうたわないんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) お答え申し上げます。
 委員御指摘の、法案の第一条の「目的」の中に人権教育がなぜ入っていないのかということでございますが、これは、人権尊重社会というものの実現のためには、人権の啓発や、あるいは個別的な人権の救済と並びまして人権教育の役割が重要であるというふうに考えております。
 しかしながら、次のような理由から、この法案におきましては人権教育に関する規定を設けなかったものでございますけれども、もとより人権教育が大事なことは否定するものではございません。
 まず、この人権の教育及び人権啓発につきましては、委員御案内のとおり、平成十二年の末に施行されました人権教育及び人権啓発の推進に関する法律というものがございますけれども、この法律が人権教育・啓発に関する基本理念、それから国、地方公共団体、国民の責務、基本計画の策定、年次報告等の人権教育・啓発を推進するための基本的な事項を定めておりまして、この人権擁護法案が成立した後も、人権の教育、啓発の分野につきましては、この人権教育・啓発推進法に基づきましてその推進が図られていくというふうに考えております。
 それからもう一点は、この法案は、今申し上げました人権教育・啓発推進法の存在を前提にいたしました上で、新たに三条委員会、独立行政委員会としての人権委員会を設置し、その組織、権限等について定めますとともに、これを主な実施機関といたします人権救済制度を創設し、その救済手続その他、これに必要な事項を定めることを目的とするものでございまして、このような目的と直接には関連しない人権教育に関する事項について規定することは相当ではないというふうに考えたところによります。
 御指摘のとおり、人権教育というものも人権に関する重要な施策の一つであることは間違いございませんので、政府といたしましては、人権にかかわる行政全体の中で総合的かつ効果的に推進される必要があると考え、そのような観点から、人権委員会といたしましても、人権教育にかかわる関係機関と密接に連携協力していくということを考えております。
○江田五月君 あっちに書いてあるからこっちに書かなくてもいいという話とは違うと思いますし、また人権教育・啓発法の方はいま一つぴりっとしないというところもあるような気がするんですが。そして同時に、一つ一つの人権救済というもののプロセス自体が実は人権の意識の確立、人権教育につながっていくんだということもあると思うんですが、ちょっとその点は不満ですね。
 次に、この法案の提出に至る経緯、背景、これについて質問をいたします。
 既に同僚議員からの質問もございましたが、私は二つの大きな経緯あるいは流れがあると思います。一つは、部落差別問題を原点とする日本の国内の流れ、もう一つはパリ原則に代表される国際社会の流れです。
 まず、本法案提出に至る国内の流れ、経緯について説明をしてください。さっきありましたので、簡単にぽんぽんぽんとで結構ですから。
○政府参考人(吉戒修一君) 先ほど申し上げましたけれども、平成八年五月にいわゆる地対協の意見具申が出されまして、その意見具申の中で、今後、人権救済制度の充実強化ということが取り上げられたということが一つございます。これを受けて、同年の十二月に人権擁護施策推進法が制定され、翌年から、この法律を受けて人権救済制度の在り方について調査審議する人権擁護推進審議会が法務省に置かれ、その審議会におきまして、ある程度の期間を掛けて、昨年の五月に人権救済制度に関する答申をお出しになり、また十二月には人権擁護委員制度の改革に関する答申が出され、こういうふうなものを踏まえて今回の法案をお出ししたというのが国内的な事情でございます。
○江田五月君 その地対協の意見具申の前に、それにさかのぼってさらに、さらにといいますか、同対審の答申がありますよね。
 それは一体何が問題かというと、日本社会の中で、長い長い歴史の中で被差別部落というものができ上がって、これが日本の社会の言わば差別の構造であると、そういうものを私ども、日本社会を次の世代にバトンタッチする者として解消しなきゃならぬという、その言わば長い歴史の取組が、歴史を経た取組があったと、それが今日のこの人権擁護法案の提出にずっとつながっているんだという認識だと私はしておるんですが、その点はいかがなんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 委員御指摘のとおり、同和の問題といいますのは我が国固有の非常に深刻な問題であるというふうに考えております。
 同和の問題を解決するために同対審の答申があり、長い年月を掛けて同和地区に対する特別対策が講じられてきたと。その特別対策を終了するに当たりまして地対協の意見具申が出され、その地対協の意見具申の中では、従前の同和地区に対する特別対策を総括いたしまして、同和地区については物的な状況は改善されたけれども、なお依然として同和関係者に対する心理的な差別が残っておると、これを解消するためにもしっかりした人権救済制度を確立すべきであるというような御提言がなされたものと思っております。
 そういう認識でございますので、全く委員の御指摘のとおりだと思っております。
○江田五月君 さらに若干伺いますが、部落差別というものは特別の、特別救済で対処する時期は過ぎたと。そして、それは一般救済に移行させようと。しかし、同時に、じゃ、もう部落差別はなくなったのかというと、確かにそういうある特定の地域の物的な条件というのはそれは随分改善された、いや、それでもまだいろいろという話もありますが。しかし、人々の意識の中にまだ依然として強く残っているというのはある。
 最近、インターネットは本当にもう、どういうんですか、とても見ていられないようなひどい差別的な言辞が書かれているようなところがありますね。これの規制というのはまた、どう規制していいかがなかなか難しいので、それはそれで大変なんですが、部落差別はまだ日本で解消されていないと。これをやはりちゃんと解消していくために、この人権擁護法案で作るシステムというのは機能しなきゃいけないものだと、こういう認識をお持ちかどうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 同和地区に対します地域改善対策、これが今年の三月で失効いたしました。これは、昭和四十四年から約三十年にわたります約十六兆円を投じた財政措置によりまして同和地区の物的な状況は改善されたということによるものと思いますけれども、しかしながら今、委員御指摘のとおり、同和関係者に対する差別という問題はまだまだ深刻な問題として残っておるというふうに考えております。
○江田五月君 これは大臣にも一言その点の確認をしておきたいと思いますが、同和問題、部落差別問題というのはまだまだ、特に人々の意識や日常の社会の動きの中にかなり深く残っていて、この解消はこれからも日本社会の人権確立のための大きな課題である。その課題の解決に資するためにこの人権擁護法案というもので作られるシステムは役に立たなきゃいけないものだと、こういう認識をお持ちかどうか、大臣、お答えください。
○国務大臣(森山眞弓君) 委員おっしゃるとおりだと思います。
 同和問題というのは、随分長い間、歴史的にもう昔からずっと持ち越されてきた非常に重要な課題でございまして、最近数十年間の努力で物的には解決したとはいえ、心の中、意識の中にそのような問題がまだまだ根深く残っているということはもうおっしゃるとおりだと思います。これによって起こるいろんな事件については、この新しく作られるべき人権擁護委員会におきまして対処していくべき問題だというふうに思っています。
○江田五月君 そこで、部落差別という現実の中で、現に差別をされている皆さん方がいろんな運動をしておられるわけですが、そういう皆さんの意見というものはこの法案に十分入っているというふうにお考えですか。そうではないんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) この法案の前提となります人権擁護推進審議会の調査審議の過程におきましては、同和団体の関係者からも十分なヒアリングをいたしておりますし、また公聴会の場におきましても御意見をお聞きしております。
 でき上がりました法案におきましては、例えば法案の三条でございますけれども、これはいわゆる差別禁止規定を明確に書いておりますが、この差別禁止規定などは、かねてから同和団体の方が各種の基本法の制定運動をなされておりましたけれども、その中に取り上げている事項と全く軌を一にするものであるというふうに考えております。
○江田五月君 それにしては、同和団体の皆さんが私どものところに大変に強い強い批判的な意見を言ってこられますので、十分意見を聞いたのかなという気はするんですが、同和団体もいろいろありますから、そして同時に我々も、そういう団体の皆さんに言われたからということではなくて、それは立法府にいる者としてこの法案についての対応はしていきますが、いずれにしてもどうも十分な意見を聞いていないんではないかという、そんな心配をちょっといたします。
 もう一つの流れ、パリ原則に代表される国際社会の流れ、これはどういうふうに認識をしておられるか、説明してください。
○政府参考人(吉戒修一君) 委員御指摘のとおり、こういうふうな人権に関する立法に当たりましては、国際的な潮流を十分踏まえる必要があるというふうに考えております。
 この法案は、委員御指摘のとおり、パリ原則、それから国連の規約人権委員会並びに人種差別撤廃条約からの勧告等にも沿う内容を含んでおりまして、国際社会の要請にも十分こたえたものとなっているというふうに考えております。
 まず、少し詳しくなりますけれども、よろしゅうございますか。
 まず、パリ原則との関係でございますけれども、人権委員会は、いわゆる三条委員会として、独立の行政委員会として設置されまして、委員長及び委員の任命方法、身分保障、職権行使の独立性の保障などによりまして、その職権の行使に当たりましては内閣や所轄の法務大臣から影響を受けることがないよう、高度の独立性が確保されておりますこと、それからその所掌事務といたしまして、人権救済事務とともに人権啓発事務を扱うほか、政府及び国会に対する意見提出権、これも非常に画期的なものだと思いますけれども、こういうふうな意見提出権を有することなどから、基本的な部分におきましてはパリ原則の趣旨に沿った国内人権機構と評価し得るものと考えております。
 それから、規約人権委員会でございますけれども、これは先ほども御質問ございましたけれども、平成十年十一月に我が国の報告書に対する最終見解の中で、人権侵害の申立てに対する調査のための独立した仕組みを設置すること、とりわけ警察及び出入国管理当局による不適正な処遇について調査及び救済の申立てができる独立した機関等を設置することを我が国に勧告いたしたわけでございます。
 本法案は、さきに述べましたとおり、高度の独立性を有する独立行政委員会として人権委員会を設置し、人権委員会が被害者の方の申出に基づいて行う人権救済の手続を整備いたしますものである上、公権力による差別や虐待につきましては特別救済という、より実効性の高い救済手続を整備するなど、規約人権委員会の勧告の趣旨にも十分沿った内容になっているものと考えております。
 次に、人種差別撤廃委員会でございますが、これは平成十三年の三月に我が国の報告書に対する最終見解の中で、人種差別を非合法化する法律の制定が必要であると指摘しております。
 この法案は、公務、物品、不動産、権利、役務の提供、雇用という私ども人間が社会生活を営むにおいて必要不可欠な領域における人種等を理由とする不当な差別的取扱いを禁止する我が国で初めての包括的な差別禁止法でございまして、こういう意味からも、人種差別撤廃委員会の指摘にも沿うものというふうに考えております。
○江田五月君 パリ原則についての細かな説明はもう皆、共通の認識ですから省略をしますが、そのパリ原則の中に、この「国内機構の地位に関する原則」というわけですが、「構成並びに独立性及び多様性の保障」というところがあって、その2のところは、「国内機構は、活動の円滑な運営にふさわしい基盤、特に十分な財政的基盤を持つものとする。この財政基盤の目的は、国内機構が政府から独立し、その独立に影響を及ぼすような財政的コントロールに服することのないように、国内機構が独自の職員と事務所を持つことを可能にすることである。」と、こういうような書き方とか、いろいろ書いてあるわけですが、とにかく政府の機関から独立していなきゃならないんだということを強く言っておるんですね。
 ところが、今回作ろうとする人権委員会は法務省の外局ということになっておると。私どもは、これは国際社会から見ると、いかにも日本は何やっているんだというような感じに映るんじゃないかと心配をするんですが。法務省の外局、つまり法務省というのは、これはもちろん必要なことでいけないと言っているんではないですが、一方で入管も所管をされている、矯正も所管をされている。これは、入管にしても矯正にしてもどこか所管がなきゃならぬので、そういう行政があっちゃいかぬと言っているんではないですよ、それは誤解しないようにしていただきたいんですが。
 しかし、そこを所管している者が同時に人権擁護も所管をするということになると、右手で人権侵害しながら、もちろん刑務所に入れるのは人権侵害にそれはそのままで当たるわけじゃないけれども、元々、自由を剥奪するんですからその限りでは人権侵害、ただし、それは所定の手続で所定の理由があってやるわけですから人権侵害にならないということで。一方では、しかし形だけ見ればそれは人権侵害にぎりぎりのところまで行っているわけです。ちょっと間違えば人権侵害になる。現に人権侵害になっている事例もある。それを一方で所管をしながら、行うことをですよ、他方で救済を所管するというんじゃ、一人の人間がそんなことを両方できるわけがないじゃないかというのが国際社会の常識じゃないかと思うんですが、いかがですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会は、先ほどから申し上げておりますけれども、国家行政組織法三条二項に基づく独立の行政委員会として設置され、高度の独立性が確保されていますことから、その権限行使に当たりまして、矯正・入管部門を指揮監督する法務大臣から影響を受けるおそれはございません。
 今、委員、ちょっと例えとして一人の人間が矯正、入管をし、人権というふうにおっしゃいましたけれども、組織上は人権委員会は法務大臣の下にはございませんで、法務省のフィールドにはございますけれども、法務大臣の指揮命令を受けませんので、一人の者が矯正、入管と人権を所管するということではございません。
 また、人権侵害事件の調査に当たる事務局の職員につきましては、これはこれまでの実績あるいはノウハウの蓄積等の観点から、法務局、地方法務局の職員をその主たる供給源とせざるを得ませんけれども、これらの職員も、委員御案内のとおり、矯正・入管部門の業務に携わった者ではございませんで、その影響を受けるおそれはございません。
 さらには、これは委員会発足後のことでございますけれども、こういうふうな矯正、入管の部門との間で人事交流を今後行わないというような配慮も人権委員会の中立公正さを担保するためには必要なことであるというふうに考えております。
 したがいまして、委員御指摘の点につきましては問題がないというふうに考えております。
○江田五月君 今の最後の点、もう一遍確認させてください。この委員会ができたら、何と何の人事交流を行わないと言ったんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 法務省の中で一番御懸念をいただくところは矯正、入管という拘禁施設を監督しているところでございますが、その部門との人事交流は人権委員会は組織的には行わないという配慮をすることが中立公正さを担保するためには必要であるというふうに考えております。
○江田五月君 法務省の中で、入管や矯正の行政に携わる者と法務省のその他の行政に携わる者、それは民事もあるし訟務もあるし、いろいろありますよね。その間の人事交流というのはあるんですか、ないんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 先ほど委員御指摘のとおり、矯正、入管という仕事もこれは本当に必要な仕事でございまして、ただ残念ながら、そういう拘禁施設の中で過去に人権侵害事件があったということも事実でございます。
 したがいまして、そういう部門とは組織的な人事交流を行いませんけれども、そういう問題の指摘を受けておらない他の部門と交流を行わないということになりますと、これはおよそ職員の構成ができませんので、現実的な可能性としてはそれはちょっといたしかねるということでございます。
○江田五月君 いや、今私、聞いたのは法務省の中でですよ。法務省の中で、矯正、入管に携わる職員とその他の部門で携わる職員との人事交流というのはあるんですか、ないんですかということを聞いているんです。
○政府参考人(吉戒修一君) ちょっと私も全体の職員の配置はよく承知しておりませんけれども、少なくとも人権擁護部門には矯正、入管から組織的な人事交流しておりません。ごくわずかに例外的に申し上げられますのは、いわゆるT種職員、キャリア職員でありますけれども、このT種職員は若年の間に法務省の中のすべての部門を経験するということで、一年程度の短期間、各部局を回っておりますので、そういう関係で、人権局にも矯正、入管が本籍地といいましょうか、そういう職員も来ることはございます。そういうふうな状況でございまして、恐らく民事局あるいは訟務もそうではないかなというふうに思っております。
 ちょっと詳細は私も余り十分な確たるお答えはできませんので、この程度で御容赦願いたいと思います。
○江田五月君 官房長はおられるのかな。
 人権擁護局長は、私も、これまでのどういう道を歩いてこられたかを十分存じ上げてはいないんで、今のようなお答えになるのかと思いますけれども、これは後ほどまたちゃんと詰めさせていただきたいと。今のようなことではちょっと、それでいいかなと思いますね。
 保護局はどうなんですか。保護局は、例えば少年院とか保護観察所とかあると思うんですが、そことこの人権委員会との人事交流というのはどうなりますか。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会発足後のパフォーマンスの話でございまして、余り具体的な検討を今しているわけでございませんけれども、先ほど申し上げましたように、矯正、入管の部門との人事交流はいたさないというところは今考えているところでございまして、保護局の所管業務との関係で何か問題があるかどうかはまだ今後詰めるべき点があろうかと思います。
○江田五月君 だれと相談されるかよく分かりませんが、ひとつしっかり相談してください。
 もう一つ、今もうお話しになりましたが、九八年十一月の国連の国際人権規約委員会の日本政府への最終勧告で、警察や入管職員による虐待を調査し、救済のため活動できる法務省などから独立した機関を遅滞なく設置するということが勧告されたと。これに沿っていると言うんですが、これもさて、本当に警察、入管職員などによる虐待を調査して救済できるのかと。法務省から独立したその三条委員会ということでいいのか議論のあるところです。
 この点について国連の、この点というのはパリ原則と両方だと思いますが、国連の人権高等弁務官であったと言った方がいいんでしょうか、メアリー・ロビンソンさんから今年の三月と六月の二度、小泉総理大臣あてに書簡が届いて、森山法務大臣が総理大臣に代わって返事を書かれたと聞いておりますが、これは、どのような内容の手紙にどのような返事を書かれたのか、教えてください。
○国務大臣(森山眞弓君) おっしゃるとおり、ロビンソン前国連人権高等弁務官から小泉総理あてに人権擁護法案に関して二度にわたって書簡が参りました。いずれも我が国における国内人権機構の設置に当たりまして国連人権高等弁務官事務所として支援を申し出るという内容のものでございましたが、二通目の手紙には、日弁連やNGOから人権擁護法案の一部規定がパリ原則と完全には合致していないとの強い指摘があった、法案の非公式訳を入手しましたが、同法案には肯定的な規定がある一方で、表明されている幾つかの懸念は十分根拠があるのではないかと思われたという記載がございました。
 この法案はパリ原則を十分踏まえて起草されたものであること、同法案に関して具体的な懸念や質問がおありであれば十分説明をする準備がありますという趣旨のことを、後に私から国連人権高等弁務官に対しまして書簡でお答えさせていただいたところでございます。
○江田五月君 その書簡は、向こうからのもの、こちらからのもの、これは別にプライベートなお手紙じゃないですよね。この委員会に提出をしていただきたいと思いますが、委員長。
○委員長(魚住裕一郎君) 後刻、理事会にて協議いたします。
○江田五月君 確認、いや、それはよろしいですよね、出させていただくことは。
○国務大臣(森山眞弓君) これは、その当時、既に記者にも発表してございますので、ごらんいただいて結構だと思います。
○江田五月君 ここで問題になっているのは、言うまでもなく、これは法務省の外局に置かれる人権委員会ということで、パリ原則などで求められている独立性が満たされているかどうかという問題ですよね。少なくとも国際社会が独立性の問題について問題意識を持っていると、これはまず言えるんだろうと。国際社会のそういう皆さんの懸念とまで私は言っていいと思いますけれども、そういう問題意識に私どもの作るものはちゃんとこたえるものでなければいけないと、そのことは言えると思います。
 もうこたえられるものになっているということなんでしょうが、国際社会のそういう要請にこたえるものでなければいけないと。これは、森山法務大臣、同じ認識でよろしいですか。
○国務大臣(森山眞弓君) 国際的な批判にも耐えるものでなければならない、そうありたいというふうに思っております。
○江田五月君 私は、政府案は、この独立性の問題と報道規制の問題と、そして人権救済の実効性という三つの問題があると思っておるんですが、そこで、まずこの独立性についてもう少し議論を深めていきたいと思います。
 私ども民主党案は、対案を作って、そこで我々は人権委員会は法務省ではなくて内閣府に設置をするというようにしております。
 今の入管とか矯正とかを所管する法務省の外局という、しかも、今聞きますと、人権擁護局、そして各地方の法務局、また地方法務局の人権擁護部、人権擁護課、これらを含めて職員が全部で二百数十名、これが、みんながみんなじゃないですよね、今度のこの人権委員会の職員になっていく。地方法務局の人権擁護課の職員は事務を委託されるだけであってこの人権委員会の職員とはならないわけですが、つまり人権委員会の職員のほとんどは法務省の職員からの横滑り、予算も法務省の枠の中、これはそれでいいんですね。
 つまり、職員は今の人権擁護局の中にいる職員の横滑りでスタートする、予算は法務省の予算の枠の中、これはそういう制度設計で、誤解をしていないですよね、局長。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会は三条委員会でございますが法務省の外局でございますので、外局の場合には所轄の大臣を経由して予算を要求し、あるいは法律案を提出するということでございますので、人権委員会の予算につきましては法務大臣官房を通じて財政当局に要求するということになると思います。
 それから、職員の点でございますけれども、これは、でき得れば幅広い多様な人材を登用したいというふうに考えておりますけれども、現実問題として、人権委員会の発足当初から新規に採用するということは、これはなかなか困難でございますので、当面は、現在、人権擁護業務を担っております人権擁護局の職員、さらには法務局の人権擁護部あるいは人権擁護課の職員というものに新しい人権委員会の仕事を担当させ、さらにそれに加えて、でき得れば新しい血を導入したいというふうに考えております。
○江田五月君 私は、もうこの際──もちろん、まずスタートのときにはそういう皆さんを大いに採用していくということになるでしょう。なるでしょうが、この際、新しい人権機関を作るんだ、これはもちろん質も高いし、同時に、大きな力量を発揮するには量もしっかりしたものにするんだと、そういう覚悟を持って、法務省の方からこちらの人権委員会の職員になった者はまた法務省の方にはもう戻らないんだ、そして新たに人権委員会の職員は人権委員会の職員として採用して育てていくんだと、そのくらいな覚悟を表明できてしかるべきだと思いますが、どうなんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 委員会組織を担う職員の養成につきましては、将来的にプロパーの職員を養成する方向で是非考えたいと思います。ただ、現実問題として、発足当初はなかなかそこまで行かないであろうということを申し上げているわけでございます。
○江田五月君 私が言ったのはもう一つで、法務省から立ち上がりのときはそれは人が来るでしょう。しかし、その人はもう一遍法務省に戻してというような、そういう人事の構造で、しばらく我慢して行ってこいや、またこっちに戻してやるからという、そういうようなことはないようにしてほしいということなんですが、どうですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 新しい人権委員会の、これは本当に新しい仕事でございますので、それについて専門性を有し熱意を有する職員を登用し、育成していきたい、そういう職員が将来の人権委員会の中枢になっていくような形で養成してまいりたいと思います。
○江田五月君 どうもはっきりしないんですよね。また後に同僚委員が詰めると思います。はっきりしないということだけは言っておきますよ。今の答弁では不満足。
 さて、そのような姿勢で本当にこの人権委員会がちゃんと機能できるかということなんですが、人権侵害というものは、大別すると公権力による人権侵害と私人間の人権侵害の二つ、これはそうですよね。
 人権擁護局長、これまでの人権擁護行政の中で公権力による人権侵害としてどんな事例があるか。法務省の入管行政や矯正施設での人権侵害の事実がこれまでもいろいろあったと思いますが、そういう認識はしておられますか、どうですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 公務員による人権侵害でございますが、当省関係のものといたしまして、まず矯正関係についてでございますが、昨年は三十四件の人権侵犯事件を受理しております。
 処理の態様でございますけれども、これは調査をいたしまして、そのうち、人権侵犯の事実が認められなかったとして処理を終えたものが多いわけでございますけれども、しかしあったということで、例えば刑務官の収容者に対する不当な言動でありますとかあるいは不十分な医療措置に対しまして、人権擁護機関におきましては関係者に反省を促し、あるいは善処を求めた事例がございます。
 それから、入管関係でございますが、これは入管関係で受理した人権侵犯事件といたしましては、今年に入りまして収容者の待遇改善、具体的には、新聞閲読の要望につきまして関係方面を調整して善処を促したという例がございます。
○江田五月君 不当な言動と言うにはちょっと度が過ぎる、いや、ちょっとじゃなくて大いに度が過ぎる。名古屋の例ですよね。これは名古屋刑務所、不当な言動ですか、死亡しているんじゃないんですか。この事件をちょっと報告してください。
○政府参考人(中井憲治君) 名古屋の事件につきましては、ただいま人権局長の答弁のありました範囲の事例では、ございません。
○江田五月君 だから、それはさっきの数字の三十四件という範囲ではないという意味ではそれはないでしょう。しかし、不当な言動という範囲ではないということもそうですよね。不当な言動ですか、これ。違いますよね。ちょっとどういう事件であったのか。
○政府参考人(吉戒修一君) 先ほど御説明申し上げました昨年受理いたしました矯正関係の人権侵犯事件のうちで不当な言動というものでございまして、これはちょっと関係者のプライバシーの問題もございますので、少しちょっと漠然としてアバウトに申し上げますけれども、刑務官が収容者に対して侮辱をしたという事例でございまして、これは名古屋刑務所ではございません。
 名古屋刑務所の事件につきましては、今年九月の段階で関係者の方から人権の相談を受けたというようなことを承知しております。
○江田五月君 名古屋のケース、本年十月四日、複数の刑務官が男性受刑者を制圧し、革手錠を使用して保護房に収容したところ受刑者が死亡した事件が二件あったと。これ発表されたんじゃないんですか。
○政府参考人(中井憲治君) 名古屋刑務所におきましては、本年五月に、委員御指摘のように、保護房収容中の革手錠を使用した受刑者の死亡事案、さらに引き続きまして、九月に同様な受傷事案が生じておりまして、この両件につきまして、その後に発表したと承知しております。
○江田五月君 私はどうもやっぱり気になるんですけれども、今も人権擁護局長は、いや、プライバシーのことなどもあり、余りちょっと、どういう言い方でしたか、要するにはっきりしたことは言えないがというようなことですよね。
 分からぬわけじゃないんですが、法務省に人権委員会を置いたら結局そういうことになるんじゃないか、人権委員会は結局、法務省の中だから、いや法務省のやっていることだから、やっぱり人権委員会、法務省の中としてむにゃむにゃむにゃということになるんじゃないかという危惧があるんですけれどもね。
 今は人権擁護局だから言えない、しかし人権委員会になったらちゃんとやれる、そんなことありますか。どうですか。
○政府参考人(吉戒修一君) これは人権擁護局でありましょうと人権委員会でありましょうと、調査結果の公表ということにつきましては関係者のプライバシーに配慮することは当然のことではないかなと考えます。
 ただ、人権委員会におきましては、法案の中にございますように、年次の報告として、人権状況の公表ということを国会に報告させていただきますし、また適宜、扱った事件につきまして公表するということもまた法案で予定されているところでございます。
○政府参考人(中井憲治君) 若干補足させていただきたいと思いますけれども、ただいま人権擁護局から答弁いたしました案件についての矯正局の受け止め方についてでございますけれども、先ほど申しましたように詳細については省略させていただきますけれども、当時、部内においてもしかるべく調査いたしまして、上司から関係職員に対して注意をする、あるいは研修等においてこれを取り上げまして、人権意識の一層の徹底に努めていたと、かように承知しているところであります。
 また、医療関係についてもまた若干補足させていただきますけれども、一般論で申しますと、非常に多い事例が歯科の医療の関係でございます。歯科医療につきましては、正直申し上げて、治療を申し出てから実施に至るまで相当期間を要する場合が特に患者が多い施設の場合などございます。このような問題につきましては、診療の機会を増加させるなど改善に向けて努力しておりますし、今後とも一層、同様の努力を続けていきたいと考えております。
○江田五月君 これは詳細についてもいろいろともっと聞かなきゃならぬと思いますね。まあ入管局長にも、それから矯正局長にもきっちり聞いていかなきゃならぬですけれども、時間の方がちょっと心配になってきたので、必ずこれは後からまだただしていきたいと思いますが。
 恐らく、今の入管とか矯正とかの場面で起きている人権侵害が必ずしも全部公になったり、あるいは皆さんのところに認知をされておったりするわけじゃない。いや、実はいろんなところへ訴え、私どものところにもいろんな手紙なんかも来るんですよ。それが全部当たっているとは言いません。当たっているとは言いませんけれども、我々のところへ来るのは最後の最後で、恐らく弁護士会とかいろんなところへ人権侵害といって訴えているのがたくさんあると思います。
 そして、矯正の現場、入管の現場、まだまだ人権状況の改善しなきゃならぬところは非常に多いと思っておりますが、特にちょっと入管だけ聞いておきましょうかね。入管の今の拘束の施設、あれは人権上問題ありますか、ありませんか。
○政府参考人(増田暢也君) 委員お尋ねの入管の施設につきましても、種々御意見、御批判があることは承知しております。それにつきましても、私どもとしては改善を要すべき点についてはこれまでも改善に努めてまいりましたし、今後も御意見、御批判については謙虚に耳を傾けて改善に努めてまいりたいと考えております。
○江田五月君 御意見、御批判で謙虚になんて話じゃないと思いますよ。
 私も東京入管、見させていただいたんですけれども、本当に狭い部屋で、冷暖房どうなっているのか。そこで、こんな狭いところで人はもうあふれ返っていて、これはひどいねと言ったら、いや、ここは本当に大変なんです、まあここは今度建て替えますのでと、ちょっとそれまでの間の御辛抱と。ああ、なるほどね、東京入管だけは例外なのかな、日本じゅう、その他のところはこんな状態じゃないんでしょうねと言ったら、いやいや、ほかにもまだちょっと。ほかにはどこがあるんですかと言ったら、いや、名古屋もそうでございますし、どこやらもそうでございますと言って、もう全部それじゃそうじゃないかという話ですよね。
 これで御批判に謙虚に耳を傾けなんて言われてもちょっとこっちも困るけれども、覚悟を聞かせてください、もう少し。
○政府参考人(増田暢也君) このただいま御指摘の東京入管あるいは収容者センターにつきましては、例えば被収容者の運動時間であるとか、あるいは食事の内容であるとか入浴時間であるとか、いろいろと不十分ではないか、配慮が足りないのではないかという御意見がございまして、これまでにも、本年度に入りましても改善できるところから少しずつ、運動時間を増やしてきた、あるいは一週間の入浴時間、入浴回数を増やしてきたなどの措置を講じているところでございます。
 これからもできる限り被収容者の健康であるとか、あるいは人権に沿った拡充に努めていきたいということでございます。
○江田五月君 私は、物足りないのは、皆さん方ができる限り努力をされるのを別に信じていないわけじゃないんです。だけれども、できる限りというのは、皆さんは与えられた条件の中でできる限りしか考えていないでしょう。その与えられる条件を変えようという努力はあるのかどうかということですよ。それは法務大臣にも責任あると思いますよ。ちゃんと予算はしっかりと取ってくるとかですね。
 刑務所なんて、この間も同僚の鈴木委員の質問がありましたけれども、もう過収容。やはり、これは、ちょっと誕生日のときに申し訳ないけれども、今の状況をやっぱりまずいと思いませんか、法務大臣。
○国務大臣(森山眞弓君) おっしゃるとおり、非常に収容をされるべき人が急速に増えておりますものですから、いろんな種類の収容施設が過剰収容になっているということは私どもも日々痛感しておりまして、これを一刻も早く解決して適正な収容人数で適正な処遇が行えるようにするべきであるということも私どもの第一の目標として、今一生懸命努力しているところでございます。
 入管についても同様でございまして、今、ごらんいただいたとき御説明があったようですが、東京では新しい施設を作っておりますし、ほかもできるだけ早く改善していきたいと努力しているところでございます。
○江田五月君 今の入管とかそれから刑務所の過収容とかというのは、個別の人権侵害ではもちろんあるんですが、個別の人権侵害を超えたある種の政策決定によって改善していかなきゃならぬ、そういうものでもあるんですよね。
 私は、この人権委員会というのは、正にパリ原則にあるとおり、政府に対してそういう意味での人権状況の改善に向かった政策提言というものができなきゃいけないと思うんですが、今日、今回のこの政府案はそういうことができるようになっていますか。
○政府参考人(吉戒修一君) 法案に二十条という規定がございますけれども、これは人権擁護推進審議会の答申におきまして、人権委員会が救済や啓発に係る活動の過程で得た経験、成果を政府への助言を通じて政策に反映させていくことも有用であると、人権委員会もこの機能を併せ持つべきである旨指摘をいたしました。
 この指摘を受けてこの二十条を立案したわけでございまして、人権委員会が内閣総理大臣若しくは関係行政機関の長に対しまして、あるいは内閣総理大臣を経由して国会に対しまして、この法律の目的を達成するために必要な事項に関しまして意見を提出することができるということになっております。
○江田五月君 これも一つ議論なんですよね。二十条に確かに書いてあるんだけれども、これで一体本当に国際社会の要請というのにこたえるものになっているのかどうか。もっと明確に、意見の提出を超えたはっきりした政策提言ができるということを考えた方がいいと、あるいは考える必要があると私は思っております。
 もう一つ、独立性の問題で予算の問題があると思いますが、この人権委員会は具体的にどういうふうに予算を策定するんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会の予算につきましては、財政法の規定によりまして、法務大臣が財務大臣に要求し折衝を行うことになりますけれども、その際には人権委員会の独立性に十分配意されるものというふうに考えております。
○江田五月君 法務大臣は、財務大臣に対する予算の要求の案を作るわけですよ。そのときには人権委員会の独立性というのはあるんですか、ないんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 具体的には予算の要求は所轄の大臣を経由して行うというのが財政法の建前でございますので、その限りにおいて人権委員会は予算の元々の案を作り、法務省の大臣官房を通じて財政当局に要求していくということになろうかと思います。
 その際に、人権委員会の独立性に配意を是非お願いしたいという形でいろんな努力を続けていくということだと思います。
○江田五月君 やはり、そこに人権委員会と法務省というものが一体の意識があるような気がしますね。
 つまり、人権委員会は自分で予算作るんだと、その人権委員会が作った予算が法務省のしかるべきところに出されると。そうすると、それはもう法務省として、いや、それはちょっと削りなさいよ、ほかのところが大切なのがあるから、財務当局、とてもそこは通らぬからとかいって削らせるようなことがなく、もうそれは、人権委員会からこういう予算が来ましたから、これをひとつ財務省よろしくというぐらいな独立性を人権委員会に認めるんだという、そのくらいな覚悟が要るんじゃないかと思いますが、どうです。
○政府参考人(吉戒修一君) 三条委員会は公正取引委員会を始め現在六つございますけれども、その三条委員会が行う予算要求の仕組みは、全く私が先ほど申し上げましたとおり、所轄の大臣を経由して行うということでございまして、この点は現行の我が国の法制上、これを超えた直接、人権委員会が財政当局に要求するということは、これはできないことでございます。
 しかしながら、人権委員会の予算につきましては、独立性の点から十分な配意をお願いしたいということで努力をいたしたいというふうに考えているわけでございます。
○江田五月君 経由をするなと言っているんじゃないんですよ。だけれども、言うなれば経由であって、そのときに人権委員会から要求されたものというのは最大限尊重しなきゃいけないという、それはそういうつもりですぐらいなことは言えるんじゃないんですか。財務省に対して法務省の方が、これは人権委員会の予算でございまして、出したのは最大限尊重してくださいだけでは足りないということを言っているんです。
 予算の執行、これは一体だれが管理をするんですか、人権委員会の予算の執行。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会の予算の執行につきましては、これは人権委員会におきまして策定した執行計画に基づき行うことになりますけれども、地方組織につきましては、予算配賦を受けた地方事務所長及び地方法務局長がその配賦を受けた予算の範囲内でその執行を行うということになるものと考えております。
○江田五月君 昨日、私が聞いたのでは、支出、あれは何というんですか、支出管理官ですか、何かというのは法務省におると。その人が法務省全体の予算の執行、支出については管理をしていくんだけれども、人権委員会については別に支出官を置いて、そして人権委員会に置かれた支出官の下で人権委員会の予算の執行は行うんだというような説明を受けたんですが、そうじゃないんですか、そうなんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) そこら辺りの具体的な予算執行の仕組みにつきましては、現在検討しておるというのが正直なところでございます。
○江田五月君 検討だったんですか。昨日は検討をしていることをそうなるというふうにじゃ教えてくれたので、それは失礼いたしました。どっちが失礼か分かりませんが。
 つまり、独立性というのは、私どもも別に内閣府に置けばそれだけで独立できるとも思っていないんです、それはそれでなかなか大変なことで。ただ、内閣府の方が、法務省で、さっきの右手と左手言いましたけれども、そうじゃなくなるからいいだろうということと、もう一つは、今の国土交通省の問題、それから厚生労働省の問題があって、そっちにゆだねる部分が、内閣府に置けば全部、人権委員会に集中できるというようにも考えますので内閣府の方がいいと言っているんですが、しかしどこに置くかだけでなくて、実際には人事はどうするんですか、予算はどうするんですかと、その細かなことがちゃんとなければ、格好だけはできているけれども、いつもカーテンの向こうで全部なあなあになっていますよという、そういうことでは独立になっていないんですよね。そこで、そういう細かなことをきっちり押さえておきたいと聞いておるわけです。
 独立性について、今の、実質的に独立しているという問題が一方である。同時に、独立しているようにちゃんと見える、公正らしさ、この確保も非常に重要だと。これは、私は公正らしさというのは非常に重要なことだと思っておりますが、その認識は、これはよろしいでしょうね。法務大臣にちょっと。どうです、実際に独立している、実際に公正だということと併せて、ちゃんと独立しているように見えている、公正なように見えている、このことは非常に重要なことだというふうにお考えになりますか。なりますよね。
○国務大臣(森山眞弓君) やはり、公正であり独立したものであるということが国民にも分からなければいけないと思いますから、それが、公正らしさ独立らしさというお言葉でおっしゃったのかもしれませんけれども、国民にもよく分かってもらう、そういう体制が必要だというふうに思います。
○江田五月君 それで、内閣府に置けない理由をいろいろおっしゃるんですけれども、これは森山法務大臣、政治家として伺いますが、新たに内閣府に食品安全委員会も設置されるという話ありますよね。所管じゃないのでどういうふうにするかというようなことは大臣御存じなくてもそれは当然だと思いますけれども、もちろん御存じだったら、それはそれで非常に結構なことですが。
 食品安全委員会でも、従来の厚生労働省、農水省のいろんな実績や組織もこれを生かしていくという、しかし内閣府に食品安全委員会を置いていろんな仕事をしてもらうというようにできる、するということなんだそうですが、人権委員会も同じようにできるんじゃないか。仮に、法務省の外局としてスタートするとしても、やっぱり公正らしさ独立らしさということをよく分かる形にしようと思うと、今の行政制度の中では、それは私どもは首相府とか内閣府とかの提案もいろいろして省庁再編のときにやったけれども、これは我々は負けました。皆さんの方の今の中央省庁再編が通って、その中では法務省は人権擁護を所管するということになっている。
 それはそれでおいておいて、将来、制度設計をどう考えるかというときに、私なんかはむしろ、もし機が熟せば、こういう人権委員会なんというのは憲法上の独立の制度として作って、三権のどこでもない、もっと位が高いという、位が高いというと変ですが、そのぐらいまで考えた方がいいと思いますが、会計検査院型というようなことも含めて、法務省に置くのでない制度設計をしてより公正らしさがはっきり分かるということにする、そういう将来の夢といいますか、そんなことはお考えになりませんか、法務大臣。
○国務大臣(森山眞弓君) 独立、公正ということが重要であるということは先ほども申し上げたとおりでございまして、そのことを考えましたので国家行政組織法第三条第二項に基づく独立の行政委員会としてこれを作るのがふさわしいと考えたのがこの法案の趣旨でございます。
 これがスタートさせていただいて、十年も二十年も、あるいは何十年も先の話、そのときはどうなるかということは、今、私が申し上げることは不可能でございますので、お許しいただきたいと思います。
○江田五月君 現に今、法務行政を担当している立場というのではなかなか難しいでしょうけれども、しかし誕生日を迎えられてまだまだ政治家としてやっていかれるわけですから、やっぱり先の展望というものをお持ちになっておってしかるべきだと思いますよ。
 報道規制、これはもういろんなところで批判されていますので、その批判をあえてここで繰り返すまでもないかと思いますし、また報道規制についてはどうやら凍結ということに、法務大臣の知らないところでなっているのかな、なっているようですが、一つ伺っておきたいのは、ロビンソン前人権高等弁務官によって派遣されて来日をされたブライアン・バーデキン弁務官特別顧問が、新聞報道によればですが、メディアに対する規制が設けられている、設けようとしているわけですが、設けられている国はどうもない。
 日本以外の国で、この法案のようにメディアに対する規制を設けている国はあるんですか、ないんですか、答えてください。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権擁護法案と同様の法律で、報道機関による人権侵害を救済対象としている諸外国の例は承知いたしておりません。
 しかしながら、パリ……
○江田五月君 おりますかおりませんかだけでいいです。おりませんですね。
 しかも、これ、電話掛けたりファクス送っても、それもだめだというんですから、ちょっとなかなか大変で、その上、さっきの話で、被疑者に擬せられていろいろやられた場合には一般救済以外にないんだという、何とも制度設計としては、やらなくてもいいことをやり、やらなきゃいけないことをやらないという感じがいたします。
 報道機関等による自主的な解決、これが一番いいんだと、それは法務省もそう考えていると考えて、それはいいんでしょう。
○政府参考人(吉戒修一君) これは法案の四十二条二項にも書いてございますように、報道の自由、表現の自由というのを尊重すべきであるというのが基本的なこの法案のスタンスでございます。
 したがいまして、報道機関の自主的な取組によって問題が解決されるのであれば、そちらの方を優先するというのもまたこの法案の基本的な立場でございます。
○江田五月君 その自主的解決についてもう少し伺いたいんですが、ちょっと時間の方が気になってきた。
 もう一つの重大な欠陥は、実効性、特に地方組織。
 この法案では、地方の法務局の場合は人権委員会の地方事務局を作る、しかし地方法務局の場合には人権擁護課に事務を委託をする、そういう制度設計なんですが、私どもの案は、中央の人権委員会、それともう一つ、都道府県に地方人権委員会を置いて、その下に市町村で活動する人権擁護委員を置くということで提案、考えております。
 生活の場で日々発生するんです、人権侵害事件というのは。その生活の場で現実に起こっているああいったこういったという、日々の生活のことなんですよ。それをいきなり最高裁の判断というような形で本当に機能するかどうかということでして、私は、聞いておきたいのは、例えば情報公開の場合でも、国に情報公開法を作るよりも先行して地方に情報公開条例作っていったじゃないですか。そういうことでずっと地方の情報公開制度ができて、それに触発されて国の情報公開法というのもできていったというような過程があります。
 人権侵害も同じようなことがあって、国の人権委員会、これはもちろんちゃんとしたものを作らなきゃなりません。同時に、地方自治体がそれぞれの地方で人権擁護施策を展開をしていく。これは別に国として、そこは国がやるんだからおまえたちやるななんという、そんなことはないんでしょう。これ、いかがですか。
○政府参考人(吉戒修一君) この法案の取っております制度設計は、中央に人権委員会を置き、地方に地方事務所、それから最末端の方は地方法務局に事務を委任するということで、国民に対するアクセスポイントを確保するという一元的なシステムでございます。
 委員の御指摘の地方人権委員会でございますけれども、これは各都道府県に置かれるというようなことで、言わば分権システムのようでございますけれども、ちょっとその詳細は私、よく分かりませんけれども、今、最後のお尋ねは、仮に地方自治体が同種の人権の救済機関を置いた場合の、この人権委員会との連携いかんということですか。
○江田五月君 違う、違う。もう一回ちゃんと質問しましょう。
 人権確立というのは国だけの仕事じゃないんで、地方もやはり、それは皆そういう仕事は一生懸命しなきゃいけない。今、私は、これは局長、言葉はやっぱり気を付けられた方がいいと思うんだけれども、最末端と言われましたけれども、人権侵害というのは生活の場で起きるんですよ。末端じゃないんです。最先端と言ってほしいですよ、むしろ言うなら。そういう認識だから困るんで、しかもその最末端というのが、幾らですか、八つの地方ブロックには置くけれども、都道府県の数から八つ引いた残りの方は最末端とか言われる話じゃない、もう大部分じゃないですか。そこには人権委員会の地方組織はないんですよ。
 それはそれでいいとして、私が聞いているのは、地方もそれぞれの地方自治体が人権擁護施策の推進のために様々な取組をする。その中に、地方に、地方にというのは地方人権委員会という名前のことを言っているんじゃないんです。その名前は何かかなりアレルギーがあるようですから、名前はどうでもいいんで、地方に何々県人権擁護委員会でもいいですよ、何々県人権相談センターでもいいです。何でもいいです、それは。そういうものを作っていくことは、これは奨励されこそすれ、そんなことは国の仕事だからやるななんてことじゃないと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(吉戒修一君) この法案は、人権の救済を基本的には国の事務として位置付けております。そういう趣旨から、四条におきまして、国の責務といたしまして人権の擁護に関する施策を総合的に推進すべきことを定めるのみでございまして、特に地方公共団体の責務については定めてございません。
 したがいまして、地方公共団体におきまして人権委員会類似の機関をお作りになったという場合には、その機関と人権委員会というものは同じような人権の救済の仕事、ただその所掌の範囲は大分違うと思いますけれども、それにつきまして緊密な連携を図るということでまいりたいと思っております。
○江田五月君 この八十三条に、「法律の運用に当たっては、関係行政機関及び関係のある公私の団体と緊密な連携を図るよう努めなければならない。」という規定があるということは、全部自分のところで一手引受けという頭じゃなくて、関係行政機関も人権救済いろいろやっている、公私の団体もある。その公の団体の中には、あるいは関係行政機関の中には国じゃない地方の行政機関もあるでしょう。その皆さんがやっていることと密接な連携を取るよう努めなきゃならぬというんですから、その皆さんがいろんなことをやっていることは当然の前提だし、そのことはむしろ皆さんとしても、連携の相手ですから、相手が頑張ることはいいことですから、これは奨励されるというふうに考えているんじゃないですか、法律からもそう読めるじゃないですかと言っているんです。
○政府参考人(吉戒修一君) 八十三条に書いてあるとおりでございます。関係行政機関、関係自治体、関係の民間の公私の団体と密接な連携協力を図ってまいりたいというふうに考えております。
○江田五月君 その連携の在り方、これは何か具体的に、いや、こういうことをやっていきたいと思っているというようなことはあるんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 八十三条に「緊密な連携を図る」というふうに書いておりますけれども、これは例えば被害者の方から相談を受けた人権侵害事案につきまして、他の専門性を有する機関において対応した方がより適切な被害救済が図られるというような場合におきましては、当該機関に被害者を紹介する。それから、それまでに人権委員会の方におきまして収集した情報、資料等を引き継ぐなどするというようなことを考えております。
 さらに、引き継いだ後も、その紹介先機関における手続の進捗状況に十分に配慮しながら更に連絡調整を密にし、場合によっては人権委員会の権限を行使いたしまして、全体として実効的な人権救済が図られますような体制を構築する。さらに、人権問題に関係いたします公私の団体からヒアリングあるいは研修講師の招聘などを通じまして、相互に知識、経験を補うというようなことを取りあえず考えております。
○江田五月君 冒頭申し上げましたとおり、私どももしっかりした人権委員会を作りたいと思っておる、法務省、法務大臣始め皆さんもそう思っておられる。しかし、今まだまだ私、これ、ところどころ同僚委員にと言いましたけれども、たださなきゃならぬことが山ほどあるんです。これはやっぱりそこをきっちりただして、すばらしいものを作るためにお互いに努力していきたい。
 委員長におかれても、是非これは精力的にこの人権擁護法案については十分な審議をするということを要請して、時間が参りました、私の今日の質問を終わります。
○委員長(魚住裕一郎君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時三十分まで休憩いたします。
   午後零時二十六分休憩
     ─────・─────
   午後一時三十分開会
○委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、人権擁護法案を議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○浜四津敏子君 公明党の浜四津でございます。
 それでは、人権擁護法案につきまして、条文に沿った形で質問をさせていただきます。
 まず、第一条、立法の趣旨及び目的についてお伺いいたします。
 日本にはこれまで一般的、包括的な人権救済法は存在しませんでした。そういう意味で、今回の法案は、差別や虐待に代表されます人権侵害の禁止をうたい、人権侵害の防止、救済を図るための体制整備を定める一般的、包括的な人権救済法と理解しております。すなわち、この立法は人権救済制度の改革のためと理解しております。
 従来、虐待や差別などの人権の問題は主として法務省の保護局やあるいは人権擁護局で取り扱い、そこには年間一万六、七千件の申立てがあったと報告されております。事例としては、同和関係のほか、女性、子供、高齢者、障害者、アイヌ、外国人、HIV感染者、同性愛者、刑を終えた人など多岐にわたっておりまして、また役所など公権力からの差別のみならず、家庭内暴力、いじめなど私人間のものも多く、問題は多様さ、複雑さ、広がりを増し、件数も年々増加してきております。
 こうした申立てに対しまして、従来の救済方法としては、あくまでも任意の調査や指導によるもので法的強制力がありませんでした。そこから、その実効性に限界があるという点が指摘されていたわけでございます。
 そこで、実効性ある適切な救済方法及び救済機関による迅速かつ的確な救済がなされることが必要と、このニーズの高まりが今回の立法の背景の一つにあったと言えると思います。しかし、この法案に対しましては、メディア規制法であるという厳しい批判、疑義も唱えられているところでございます。
 そこで、この法の原点を確認しておかなくてはいけないという意味から、まず初めに、この立法の趣旨及び目的について法務省から御説明を伺います。
○政府参考人(吉戒修一君) お答え申し上げます。
 今、委員御指摘のとおり、本法案の目的は第一条に規定されておりますけれども、人権侵害に係る被害の適正かつ迅速な救済及び実効的な予防並びに人権啓発に関する措置を講ずることにより、人権擁護に関する施策を総合的に推進し、人権尊重社会の実現を図ることにございますけれども、主たる目的は人権救済制度の整備にございまして、主なポイントは次の三点でございます。
 第一点は、今言及されましたように、人権侵害行為の禁止でございまして、特にこれまで違法性が明確でなかった私人間の不当な差別的取扱いを禁止しております点で、この法案は我が国初の包括的な差別禁止立法の性質を有しているものと考えます。
 それから二点目は、これは人権救済手続の整備でございまして、専ら任意の調査と措置による一般救済手続、これは従来からやっておりましたけれども、これに加えまして、特別救済手続という、より実効性の高い救済手続を整備いたしております。
 それから三点目でございますが、これは人権救済を担う組織体制の整備でございまして、独立行政委員会としての人権委員会を設置し、その下に地方組織も含めて全国的な事務局体制を整備するというものでございます。
 以上のとおりでございます。
○浜四津敏子君 平成十年十一月、国連の規約人権委員会は日本に対しまして、警察や出入国管理当局による不適正な処遇に対する申立てを行うことができる独立した機関の設置等を勧告をいたしました。
 また、昨年三月、国連の人種差別撤廃委員会は我が国に対しまして、人種差別撤廃条約の規定を国内において完全に実施することを考慮するよう勧告するとともに、人種差別を非合法化する特定の法律が必要であると信ずるとの見解を示しております。
 これらの勧告及び見解というのは、本法案の立案に当たりまして、どのように考慮され具体化されたのか、お答えいただきます。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権に関する立法に当たりましては、我が国の国内事情のみならず、国際的な潮流を十分に踏まえる必要があると考えます。今、委員御指摘のとおり、二つの国連の機関からの勧告がございますけれども、結論から申し上げまして、本法案はこの勧告に沿う内容を含んでおりまして、国際社会の要請に十分こたえたものとなっていると考えております。
 勧告の内容は、今、委員の方から紹介ございましたので、法案ではどういうふうに取り扱っているかということを申し上げますと、まず規約人権委員会の勧告に対しましては、本法案は、高度の独立性を有する独立行政委員会として人権委員会を設立し、人権委員会が人権侵害の被害者の申出などに基づいて行う人権救済の手続を整備するものであること。次には、公権力による差別や虐待につきましては、特別救済という、より実効性の高い救済手続を整備するなど、規約人権委員会の勧告の趣旨に十分沿う内容になっているものと考えております。
 次に、人種差別撤廃委員会の勧告の関係でございますけれども、勧告では人種差別を非合法化する法律の制定が必要であると指摘しておりますけれども、本法案では、公務上、公務、物品、不動産、権利、役務の提供それから雇用という、社会生活のすべての領域における人種等を理由とする不当な差別的取扱いを禁止する我が国で初めての包括的な差別禁止法でございまして、これまた人種差別撤廃委員会の指摘に沿うものと考えております。
○浜四津敏子君 ところで、今回のこの立法につきましては、平成八年五月の地域改善対策協議会の意見具申を契機とするものでありまして、いわゆる同和問題の早期解決を図るための方策という一面を持っております。
 そこで、二点お伺いいたします。
 本法案は同和問題の解決に果たして実効性があるのかどうか、どのように本法案は同和問題に寄与するのか。二点目は、同和問題について、その関係者の方々の納得と理解が得られることが不可欠だと思っておりますが、その点について法務省としてはどのように努力をしてこられたのか、またこの法案につき十分な納得と御理解が得られているのかどうか、法務省の認識をお伺いいたします。
○政府参考人(吉戒修一君) まず、第一点でございますが、同和問題の解決にどのように法案が資するかという点でございますけれども、まず第一点、私人間における不当な差別的取扱いについては、これは従来必ずしもその違法性が明確ではございませんで、運動団体もこれを明確に禁止する差別禁止法の制定を求めてきたところでございます。
 本法案は、同和地区の出身であるという社会的身分に基づくものも含めまして、人種等を理由とした社会生活における不当な差別的取扱いをこれは明確に禁止いたしております。とともに、いわゆる部落地名総鑑の頒布でありますとか、あるいは差別的取扱いを行う意思を表示する広告の配布等の不当な差別的取扱いにつながるおそれの極めて高い一定の行為を禁止するものであること。
 次には、本法案、これらの不当な差別的取扱いや差別助長行為などに関しまして、調査権限や救済措置の点でより実効性の高い救済手続を整備し、部落差別の被害者を含む人権侵害の被害者に対しまして、簡易、迅速、柔軟な救済を提供するものであること、以上の点につきまして同和問題の早期解決に大きく寄与するものと考えます。
 それから、第二点目のお尋ねの、この法案につきまして同和関係者の理解を得る努力をどのようにしたのかということでございますが、私どもといたしましても、同和関係団体の理解を得ることが重要であると考えております。
 まず、この法案に先立つ人権擁護推進審議会の調査審議の場におきまして、いわゆる同和三団体からヒアリングを行い、また答申の中間取りまとめ、これ平成十二年でございますけれども、の公表後の公聴会、これは昨年の一月から二月にかけて実施いたしました。その公聴会におきまして同和三団体のそれぞれ関係の方から意見の発表をしていただき、さらに法案の提出後、これは今年の三月八日でございますけれども、提出後にも法案につきまして私どもの方から説明の機会を持たせていただいております。
 これまで同和団体の方からは、賛成、反対双方の御意見をいただいているところでございます。三団体のうちの一団体からは法案の早期成立の要望が法務大臣に対してなされているところでございます。残る法案に反対あるいは批判的な二団体につきましては、これまでの間にも意見交換の場を設けるなどしてまいりましたけれども、現時点におきましては必ずしもこれらの団体に十分な御理解いただいている状況にはございませんで、今後も引き続き法案について理解を求める努力を続けてまいりたいというふうに考えております。
○浜四津敏子君 この法案につきましてはまだ幾つか課題を抱えておりまして、これで終わりというわけにはいかないと思いますので、さらにこれからも誠実に関係の方々の御理解が得られるような努力を続けていただきたいことを要望いたします。
 次に、第二条に入ります。人権擁護法案における人権とは何かということにつきましては、この第二条一項の定義の中にも、「「人権侵害」とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為をいう。」とだけ規定されておりまして、差別、虐待が例示として示されておりますけれども、人権の定義そのものはなされておりません。
 世界人権宣言、また日本国憲法にも具体的な基本的人権についての規定がいろいろありますけれども、その規定のほかにも、例えば環境権あるいは人格権といった新しい人権なども議論されてきているところでございます。また、刑務所や拘置所などや、あるいは入管施設などにおける公権力による人権侵害からいじめや家庭内暴力、差別、虐待など民間における人権侵害まで多様にわたっております。本法案において救済の対象となる人権というものをどのようなものととらえているのか、法務省にお伺いいたします。
○政府参考人(吉戒修一君) 申し上げます。
 人権とは一般に、人はその固有の尊厳に基づき当然に有する権利、言い換えますと各人に生まれながらに備わる権利を言い、これ実定法的に申し上げますと、憲法により保障された権利、自由というものがその中核になるというふうに考えております。
 確かに、今、委員御指摘のとおり、人権は歴史的、沿革的には国家を始めとする公権力からの不当な侵害を抑制する原理として発展してきたものでございますので、基本的人権を保障する憲法の規定の多くも直接的には公権力との関係を規律するものと解されているところは御案内のとおりでございます。しかし、今日におきましては、公権力による人権侵害のみならず、差別、虐待に見られますように、私人間における人権侵害の問題も極めて深刻な社会問題となっておりまして、私人による人権侵害の被害者の人権を擁護することも重要な国の課題であると、こういうふうな認識から、本法案では私人間におきます人権侵害についても救済の対象にいたしたところでございます。
○浜四津敏子君 第二条二項では、「この法律において「社会的身分」とは、出生により決定される社会的な地位をいう。」と定めてあります。一方、憲法十四条一項に、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と、憲法にも社会的身分という規定が出てまいります。
 憲法十四条に規定されております社会的身分の解釈につきましては、これを広く解する立場と狭く解する立場とがございます。狭く解する立場は、人が社会において後天的に占める地位で一定の社会的評価を伴うものをいうというのが狭義に解する立場でございます。一方、広く解する立場は、広く人が社会においてある程度継続的に占めている地位をいうと、こう解しておりまして、判例はその広義に解する立場を取っているものと理解されます。
 本法案の規定では、むしろ狭い立場の狭い解釈の立場で規定されておりますけれども、なぜあえてこういう狭い解釈を取った規定になっているのか。こういう狭い定義でいいのか、またその理由、またこういう狭い定義にいたしますと、それでは一体、門地とどういう違いが出てくるのか、これについてお伺いいたします。
○政府参考人(吉戒修一君) 委員御指摘のとおり、憲法第十四条第一項におきまして、社会的身分というものが差別禁止理由の一つとして掲げられております。その意味につきましても、今詳しく御説明いただいたとおりのことでございます。
 端的に申し上げまして、社会的身分については、広く人が社会において占めている地位又は身分を指すという見解と、もう一つは出生によって決定される社会的な地位又は身分を指すという見解とがあるところでございます。
 そこで、本法案ではどういう考え方かを申し上げますと、本法案の前提となりまする人権擁護推進審議会の答申でございますけれども、その答申の中で、人権救済制度の在り方につきましてこのようなくだりがございます。つまり、一般に自らの人権を自ら守ることが困難な状況にある人々に対して、積極的救済を図る必要があるというような答申の趣旨がございます。この答申の趣旨を踏まえまして、さらには我が国におきます人権侵害の実情等も勘案いたしまして、自らの力では変えることができない出生によって決定される社会的な地位をここでの社会的身分の意味としてとらえることにいたした次第でございます。
○浜四津敏子君 同じく二条の五項に、「「人種等」とは、」と定めてありまして、列挙されております。これは限定列挙なのかどうか、これだけで十分網羅されているのかどうか、どういう考えでこれを整理されたのか、お伺いしたいと思います。
 例えば、皮膚の色あるいは性的自己認識、婚姻上の地位、年齢、こういったものも加えるべきだという意見もありますけれども、これらについては、ここに規定されていなくても当然のこととしてこれらを理由とする差別が禁止されていると解釈していいのかどうか、法務省に伺います。
○政府参考人(吉戒修一君) 法案の第三条第一項一号でございますけれども、これは一般に自らの人権を自ら守ることが困難な状況にある人々に対して積極的救済を図る必要があると、こういうふうな人権擁護推進審議会の答申の指摘を踏まえまして、現に発生している類型的な社会生活上の不当な差別的取扱いを特別救済手続の対象とする前提といたしまして、その違法性を明確にしたものでございます。
 この法案三条の「人種等」の定義規定が二条の五項でございますけれども、そこでは差別理由として、「人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向」という九つの事由を挙げておりますけれども、これは限定的に列挙したものでございます。
 今、委員御指摘の幾つかの事由をなぜ差別理由として取り上げなかったのかということでございますが、順次申し上げますと、まず皮膚の色でございますけれども、これは人種の識別における生物学的諸特徴の最も代表的なものであるというふうに言われております。したがいまして、通常、人種という観念に含まれるものと思われます。
 それから、次に性的自己認識でございますが、これは身体上の性別と、それから他方、性別に関します自己認識との間にそごが生じている状態を指す性同一性障害を意味するというふうに考えますけれども、性同一性障害を有する方は、単にそのそごに悩むだけではございませんで、これに起因して様々な医学的、心理的、社会的、家族的又は経済学的な問題を抱えていることが多いものと思われます。したがいまして、その程度によりますけれども、この性的自己認識というものも障害、この法案二条五項の中の障害に含まれる場合があるものと考えております。
 さらに、婚姻上の地位につきましては、例えばいわゆる女子の結婚退職制等の差別的取扱いは、これは性別による差別としてとらえることが可能でございます。他方、性別による差別的取扱いには含まれないもので特別救済手続の対象とすべきものが他にあるかどうかは、私どもとしては承知いたしておりません。
 さらに、最後に年齢でございますけれども、年齢につきましては、年齢による異なる取扱いの問題が特に顕著に現れますのは、主として雇用の場においてでございますところ、定年制でありますとかあるいは終身雇用、年功序列といった年齢にかかわる我が国の雇用慣行を勘案いたしますと、年齢を理由とする差別の問題については許されない差別の範囲が必ずしも明確ではないと。少なくとも、現時点でこれを一般的な差別理由として類型的に取り上げることは困難であるというように考えたからでございます。
○浜四津敏子君 それでは、次に三条についてですが、三条の規定の仕方が、「何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。」という規定の仕方になっております。この規定の規定ぶりからして、これは単に訓示規定にすぎないのではないかと、何ら実効性を持つ規定ではないのではないかという批判がありますが、この規定の条文の性格及び実際にはどういう効果を持つ規定なのか、簡単にお答えいただきたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) 結論から申し上げますと、これは訓示規定ではございませんで、例えば不法行為に基づく損害賠償請求訴訟等において裁判規範として作用する規定であると、かように考えております。
○浜四津敏子君 それでは、次に第二章の人権委員会についてお伺いいたします。
 この人権委員会につきましては、その独立性につきまして多々議論があるところでございます。この委員会でももう何人かの同僚から同様の質問が出ましたので省略させていただきますけれども、ともかくこの独立性に非常に疑問が大きいということも事実であろうと思います。
 パリ原則に果たして合致しているのかどうか、こういう、法務大臣の所轄に属するということになっていて、公権力による人権侵害の十分な効果がある救済ができるのかどうかという疑問が呈されているところでございます。これについては、また後ほど触れさせていただいて、具体的な問題に入ります。
 十六条の一項及び二項で定められておりますこの人権委員会の地方事務所の規定でございますけれども、これについては一項で、「所要の地に地方事務所を置く。」、二項で、それは「政令で定める。」と、こうなっているわけですけれども、全国高裁の所在地八か所が検討されていると伺っておりますが、地理的、歴史的条件からいきまして沖縄にも置く必要があると考えますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 委員御指摘のとおり、人権委員会の地方事務所、これは現在、法務局が所在いたします全国八か所、すなわち東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松に設置し、沖縄県につきましては、今御指摘のような固有の地理的、歴史的な要因を踏まえ、福岡地方事務所の分室を設置したいと考えておりまして、平成十五年度の概算要求においてその旨の要求を行っているところでございます。
○浜四津敏子君 同じく十六条の三項では、人権委員会は、「地方事務所の事務を地方法務局長に委任することができる。」と、こう規定されております。人権委員会固有の地方組織ではなくて、なぜ地方法務局への事務委任という仕組みを設けているのか、人権救済を実効的に行うためには本来、固有の地方組織を全国的に整備すべきではないかと考えますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会の地方組織の在り方につきましては、全国各地で生起いたします人権侵害事件に適切に対処いたしますため、所要の地に地方事務所を置くと。具体的には、先ほど申し上げましたように、八か所ということでございますが、そういうことにした上、国民のアクセスポイントを確保し、その他一般の事件の処理などを円滑に行うために、人権委員会の指揮監督の下に地方法務局長に地方事務所の事務を委任することができるようにしたものでございます。これは、地方法務局長のその管内の事務でございます。
 また、公権力による人権侵害事件やマスメディアによる人権侵害事件など、特に中立公正さが要求される事件につきましては、地方法務局管内で発生したものにつきましても、その上級庁であります地方事務所が主導的に調査を行うなど、人権委員会が適正な判断を行うために必要な組織体制を整備することを予定しておりますので、地方法務局長に事務委任をしたとしても人権委員会の独立性は確保することができるというふうに考えております。
○浜四津敏子君 人権委員会につきましては、その組織の在り方、独立性、又は組織、人事の独立性の担保等につきまして、ともかく様々議論があり、問題点が指摘されているところでございます。
 そこで、パリ原則を十分満たす独立性を持った組織にしていくとか、あるいは委員会のメンバーに民間からも専門家を入れるとか、あるいは固有の地方組織を設置すると、そういった方向での見直しがやはり必要であると思われます。こうした方向での見直しを例えば三年以内に見直すというようなことで検討してはどうかと考えますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会につきましては、先ほど来から申し上げておりますとおり、現在の規定におきましても高度の独立性が確保されているというふうに考えておりますけれども、人権救済制度につきましては、さきの人権擁護推進審議会の答申におきましてもこのようなくだりがございまして、つまり従来の様々な救済制度も併せた広い視野に立っての見直しが今後も引き続き要請されるという提言がございます。こういうふうな提言があるところから、今後とも、人権委員会の組織体制の在り方あるいは救済手続の在り方につきましても、不断の見直しをしていくことが重要であるというふうに考えております。
○浜四津敏子君 それでは次に、四十二条一項四号の、報道機関等による人権侵害についての規定に関連してお伺いいたします。
 報道機関による人権侵害につきましては、本来は、メディアにおける自主的な救済策にゆだねるというのが本来あるべき姿であろうと思います。なぜ報道機関による人権侵害をここで規定したのか、その真意をお伺いしたいと思います。
 報道機関による人権侵害を差別や虐待と同列に扱うのは不当ではないかという批判があります。確かに、人権擁護の基本法的な性格を持つこの法案の中で、報道機関による人権侵害の部分が差別や虐待より、より詳細な規定となっているというのはいささか奇異な感じを受けます。これにつきましても、なぜこのような規定ぶりになっているのか、その理由を御説明いただきたいと思います。
○政府参考人(吉戒修一君) 報道機関による人権侵害につきましては報道機関の自主規制にゆだねるべきではないかという最初のお尋ねでございますけれども、これも先ほど来からお答えしておりますように、本来的には、報道機関の方において実効的な苦情処理を図る体制の整備がされることが望ましいと思っております。
 しかしながら、報道機関による人権侵害の実情については、人権擁護推進審議会の答申も、「報道によるプライバシー侵害、名誉毀損、過剰な取材による私生活の平穏の侵害等の問題がある。 特に、犯罪被害者やその家族のプライバシーを侵害する報道や行き過ぎた取材活動は、二次被害とまで言われる深刻な被害をもたらしている。」等々の指摘をしております。
 したがいまして、現状におきましては、報道機関の自主的な対応によって報道機関による人権侵害の予防、救済が十分に図られているとは言えないと。このような現状に照らしますと、最低限、犯罪被害者等の弱い立場にある方に対する一定の人権侵害につきましては、人権救済制度の中で実効的な救済を図る必要があるというふうに考えたところから、この法案で特別救済の対象としたところでございます。
 それから二点目の、報道機関による人権侵害を差別や虐待と同列に扱うのは不当であるとの批判があるがどうかという点でございますけれども、これは、結論から申し上げまして、同じ特別救済の対象とされる差別、虐待と同列には扱っておりません。
 なぜかと申し上げますと、これらの人権侵害についての調査の手法を見ると、差別、虐待につきましてはいわゆる強制調査権を認めておりまして、例えば事件関係者に質問をする、あるいは関係のある文書の提出を求める、あるいは人権侵害が行われた場所に立ち入って検査をするなどの調査に対して、正当な理由なく応じなかったときは過料の制裁に処するというようなことに対しまして、報道機関による人権侵害につきましては、調査は任意のものに限っておりまして、先ほどのような過料による制裁というものはございません。
 それから、報道機関等による人権侵害につきましては、委員御案内のとおり、法案の四十二条の二項という規定がございまして、その調査及び救済措置の実施に当たりましては、報道、表現の自由の保障に十分配慮するとともに、報道機関等による自主的な解決の取組を尊重することを明記しているところでございます。
 したがいまして、決して、差別、虐待と同列に扱っているというものではないことは明らかであろうと考えております。
○浜四津敏子君 これは、ある著名なジャーナリストの方やあるいは作家の方の批判でございますけれども、犯罪の疑惑を抱かれている人物に対する取材活動のほとんどが違法行為となり、罰せられることになる、今回のこの法案によると、そういう取材行為が違法行為であり、処罰されることになるんだと、こういうふうに批判をしております。また、これも著名な方ですけれども、人権擁護法案では、張り込みなんかしたら間違いなく報道機関として罰せられることになると、こういう批判がございます。
 いささかちょっと条文の解釈について十分な御理解がなされていないという感のある批判ではございますけれども、これは報道機関による人権侵害とされる行為態様につきましては四十二条の一項四号イ、ロで特定されておりますから、成人の犯罪疑惑者あるいは被疑者、被告人といった者はこの対象となっていないという規定ぶりになっております。また、人権侵害に対して人権委員会のなし得る措置につきましても処罰の対象とはなっていないわけですね。
 こういう基本的なところについて、きちんと法務省が御説明したのかどうか疑問なんですけれども、ともかく、時間がありませんからそれはともかくとして、この報道機関の関係につきましては、本来、マスコミの自主規制にゆだねるべきことだというのが先ほどお話ししたとおりでございまして、今ここで、こうした形でマスコミによる人権侵害についての規定を実施させるのではなくて、しばらくマスコミの自主規制の努力を見守った方がいいと考えておりますが、どうでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 今、委員御指摘のとおり、高名な方々から御批判等もございますけれども、それは、委員がおっしゃいましたように、これは法案をよくごらんになれば当を得ない御批判であるということは明らかでございまして、そういう方に対しまして私どもの方から十分に説明したいというふうな申出は既にしておるわけでございますけれども、なかなかお会いできないというような状況でございます。
 そういう中で、今、報道機関による人権侵害について一定期間、報道機関の取組を見てはどうかというような御指摘でございます。先般来から申し上げておりますように、四十二条二項に書いておりますが、既にこの法案では、報道機関による自主的な取組が整備されるべきであり、その自主的な解決に向けた取組を尊重すべきことを明記しておるところでございます。近時、報道機関を構成員として自主的に組織された団体におきまして、メディアスクラムへの対応その他の取組が進められていること、これは事実でございます。
 そういたしますと、私どもといたしましては、この法案は答申の趣旨に沿った現在の時点でベストのものと考えてはおりますけれども、このような取組が進められていることを勘案いたしますと、報道被害に関する規定については一定期間の凍結、この間に自主的な取組の進展状況を見守るということも一つのお考えなのかなというふうに考えております。
 いずれにいたしましても、報道機関による実効性のある自主的な取組の整備が期待されるところでございます。
○浜四津敏子君 今お話が出ました四十二条二項と八十二条の関係について確認させていただきます。
 八十二条におきましては、この法律の適用に当たって、一般的な人権相互の関係への配慮が規定されております。四十二条二項では、その中でも特に表現の自由の保障への十分な配慮を規定されております。
 表現の自由というのは、もちろん大変最も基本的な大事な人権の一つでございますけれども、ほかにも思想、良心の自由、あるいは信教の自由、学問の自由といった、殊に内心の自由につきましては基本的人権の核心を成す重要な人権でございます。
 なぜ四十二条の二項で、その中では表現の自由だけを特記しておられるのか。八十二条と四十二条二項との関係、また他の人権への配慮についてお伺いいたします。
○政府参考人(吉戒修一君) まず、四十二条の二項でございますが、規定の位置から明らかでございますけれども、特別救済の対象として報道被害を扱う場合の人権委員会の配慮条項として特に四十二条の二項を書いたものでございます。
 八十二条の方でございますが、八十二条は、私人間における人権侵害につきましては、被害者とされる者の人権と相手方の人権とが衝突している事例が少なからず存すると。そういうことから、救済手続の実施等に当たりましては、被害者救済の名の下に、相手方や関係者の人権を不当に侵害することがないよう、本法の適用に当たりましては人権相互の関係に配慮すべき旨を特に明記したものでございます。
 委員御指摘の思想、良心の自由、信教の自由、学問の自由は、これは表現の自由とともに、いわゆる憲法の保障いたします精神活動の自由の一環を成すものでありまして、個人の尊厳の原理から直接に派生する最も基本的な権利として保障されているものでございます。個人の人格的な自立に欠かすことのできない極めて重要なものと認識いたしております。
 したがいまして、八十二条が規定する被害者とされる者の人権と相手方の人権とが衝突されるような場面におきまして、後者、相手方の人権がこのような精神活動の自由にかかわるものであるときは、調査方法や救済措置の選択、事実認定等に当たりまして、これらの自由が不当に制約されることがないよう最大限の考慮が払われることとなるものと考えておるものでございます。
 また、元に戻りますけれども、四十二条二項では、表現の自由に対する配慮にも特記しておりますけれども、そうであるからといいまして、人権救済手続の中におきまして他の人権を軽視するというようなことでは毛頭ございませんので、この点は念のため付け加えておきたいと思います。
○浜四津敏子君 それでは次に、具体的な人権侵害の事例、また人権救済の必要性がある問題として、性同一性障害の問題についてお伺いいたします。
 本年三月二十八日、プロの競艇選手である安藤千夏さんが、この方は戸籍上は女性でございますけれども、性同一性障害を理由といたしまして名前を安藤大将さんと変えまして、男性選手として活動することを全国モーターボート競走会連合会が発表したことが大きな話題になりました。
 また、昨年放映されました人気のあるテレビドラマ「3年B組金八先生」という番組で取り上げられた大きなテーマの一つが性同一性障害の問題でございました。
 さらに、本年九月三十日、東京都小金井市議会において、「ストーカー対策及び本人による訂正請求権等に関し戸籍法の早期改正を求める意見書」が採択されましたが、その意見書の第四項には、「性同一性障害者の性別記載については性別の書換えのできるみちを開くこと。」とあります。この意見書が全会一致をもって採択をされております。
 このように、ここ半年を見ただけでも、性同一性障害をめぐる数多くの話題がありました。この性同一性障害について、社会での認知がようやく少しずつ広まりつつあると見られます。しかし、まだまだその誤解あるいは無理解が大きく存在していることも事実であります。そのために、性同一性障害の方々は社会生活上様々な差別を受けているのが現状でございます。
 例えば、このような方々がトイレを使用するときにどっちを使用すればいいのか、あるいはおふろ屋さんに行ったときにどちらを使用すればいいのか、あるいは入院するときにはどちらの病棟に入ることになるのか、あるいは万一犯罪を犯した場合に収監されるときにはどちらの房に収監されることになるのか、戸籍上の性によって決められるのか、あるいは身体上の性によって決められるのかと。こういうほんの一例ですけれども、様々な問題を抱えております。就職をするとき、あるいは住居を借りるとき、あるいは学校への入学、パスポートと、様々な社会生活の場面において性同一性障害の方々にとっては大変生きにくい社会になっていると言えます。
 この性同一性障害の方々の苦悩に向き合ってきた医学界では、平成九年五月二十八日に「性同一性障害に関する答申と提言」という提言を発表いたしました。これはいわゆるガイドラインをここで決めたわけでございますけれども、これが決められる前は性転換手術をした医師が処罰されるという、世界でも大変珍しい例だと言われておりますけれども、処罰されたということがありまして、ともかくきちんとしたガイドラインを作って、こうした悩みを抱える方々にきちんと真摯に対応していこうということで作られたものでございます。
 このガイドラインに沿いまして、平成十年、埼玉医科大学で国内初の性別適合手術、いわゆる性転換手術が行われまして、現在では同大学病院及び岡山大学において正規の治療としてこの手術が行われております。
 また、先ほどのガイドラインを制作した委員会の委員長の山内俊雄教授はこういうことを言っておられます。これらの方々を悩みから解放するために医学が手助けをすることは医療の立場から正当なことと言えると、こういうふうに発言をしておりまして、この問題につきましては医学界はかなり対応が進んでいるという状況にあると思われます。
 そこで、まず厚生労働省にお伺いいたしますが、厚生労働省では性同一性障害をどのようにとらえておられるのか、伺います。
○政府参考人(上田茂君) WHO、世界保健機関の定めました国際疾病分類第十版でありますICD10によりますと、性同一性障害とは自分の性別について不快感や不適当であるという意識を持ち、異性として暮らし、受け入れられたいという願望を有する状態とされております。
 現在、我が国における性同一性障害に対する医療といたしましては、精神療法、ホルモン療法、手術療法などの治療が行われておりまして、このうち手術療法につきましては二か所の大学病院で実施されていると承知しているところでございます。
 これらの性同一性障害の診断、治療につきましては、平成十四年に日本精神神経学会が取りまとめました性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン第二版でございますが、これにより行われておりまして、また、特に手術療法につきましてはそれぞれの医療施設の倫理委員会等の審査も経て行われているものと聞いているところでございます。
○浜四津敏子君 今お話がありました治療方法としてカウンセリング、そしてホルモン療法、また性転換手術、この三つが行われているわけでございますけれども、この中で保険が適用されているものはどれでしょうか。
○政府参考人(真野章君) 今お話がございました三つの療法でございますが、まず精神療法につきましては、医師が一定の治療計画の下に危機介入や社会適応能力の向上などを図るための指示、助言等を継続して行う場合には保険適用が認められるというふうに考えております。
 それから、ホルモン療法についてでございますが、薬事法上、ホルモン剤がこの性同一性障害に対する治療薬としての効能を有しないということでございますので、保険適用は認められないということになります。
 それから、手術療法でございますが、これにつきましては、他の療法による治療が十分に行われたにもかかわらず、治療効果に限界があるなどの治療上やむを得ない症例かどうか、それから手術に用います術式が適切かどうか、それから先ほど部長からお話ししました医療機関におきます倫理委員会等の承認があるかどうか、そういうような状況を勘案をいたしまして個別に判断をするという必要があろうかと思っております。
○浜四津敏子君 現在では特に欧州の国々を中心に、例えばイギリス、フランス、オランダ、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、こうした国々では手術などにも健康保険を適用していると報告されております。やはり、日本でも保険の適用、公的支援の拡充というものを検討する時期に入っていると思っておりますので、是非検討を開始してくださるようにお願い、要望しておきます。
 現在、手術が行われております埼玉医科大学そして岡山大学での手術の件数については、厚生労働省は掌握しておられるでしょうか。
○政府参考人(上田茂君) お答えいたします。
 埼玉医科大学で九例でございまして、また岡山大学で三例でございます。
○浜四津敏子君 これは民間の方が各医療機関へ聞き取り調査をしたものが報告されておりますが、性転換手術を両大学で受けた、病院で受けた総計は二十一名と、こうなっております。また、患者さんの推定総人数は約二千六百名。また、性転換手術を希望する方、その人数が約二百六十名。また、この性転換手術、先ほどのガイドラインですけれども、それに適合するという意見書といいますか診断書でしょうか、それを発行した人数は二百一名と、こんな数字が出ておりまして、ともかく少なくない方々がこの手術を望んでおられるという現状でございます。
 この精神神経学会から法曹界に対する要望として、先ほどの平成九年五月二十八日の答申の中で次のような要望を述べております。性の転換に伴い、性別や戸籍の変更など様々な問題が生じるのは当然のことである。このような法的問題が性同一性障害の治療効果を妨げ、生活の質を損なうことも既に指摘されているとおりである。したがって、法曹界はこれらの法的な問題について早急に議論を開始し、適切な結論を出すことを要望するものであると、こういう要望が出ております。
 この法的問題のうち、名前の変更の許可についてはかなり対応が進んでおります。
 現在では、性同一性障害を理由に、例えば男性の名前から女性の名前に、女性の名前から男性の名前にと、こういう名前の変更が家庭裁判所で非常に審理も早く、ほぼ認められていると。性同一性障害の診断書と一年以上の使用実績、通称としての使用実績があれば、ほぼ一〇〇%名前の変更が認められているというところまで来ております。
 また、法的問題の二つ目といたしまして、一番問題なのが戸籍の性別の変更でございます。
 この戸籍の変更につきましては、かつて家庭裁判所で一例だけ認められたケースがございますが、その後は全部不許可となっております。平成十二年二月九日の東京高裁の決定によりますと、戸籍法第百十三条に言う「法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があること」に当たると言うことはできないと。そういう理由で、性同一性障害を理由とする戸籍の性別の変更については現行法上は無理だという決定が出ておりまして、この判決、決定の中で、結局のところ立法にゆだねられるべきものと考えられると、こうありますが、この戸籍法第百十三条の錯誤というのを拡大解釈して、戸籍の訂正を認める余地があるのではないか。つまり、戸籍法が、これが制定されたときにはこういう問題というのは予測されていなかったわけですから、現状に合わせて、この錯誤に当たるんだということで訂正を認めてもいいのではないかと思われますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(房村精一君) 御指摘のように、戸籍法百十三条では錯誤がある場合に訂正をできることとなっております。
 ただ、現行の戸籍法を作ったときに性同一性障害というようなことを想定していなかったのは御指摘のとおりでございますが、戸籍法での性別は遺伝的に規定される生物学的性によって決定されるという考え方で立法されたことも間違いのないところだろうと思います。
 この拡張解釈ができるかどうかということにつきましては、最終的には法律の解釈権限は裁判所にゆだねられておりますので、現に御指摘のとおり東京高裁の決定で、こういう性別について錯誤ということはないという判断が現在示されているところでございます。私どもとしては、その判断を尊重して行政実務を運営していかざるを得ないだろうという具合に考えているところでございます。
○浜四津敏子君 現状において戸籍法百十三条の拡大解釈による変更が無理だということであれば、それでは特別立法をして戸籍の性別変更を認める道を開く必要があるのではないかと考えております。例えば、諸外国におきましては、スウェーデン、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ、オーストラリア、カナダ、アメリカ合衆国の一部の州、こういうところでは性別の変更に関する特別立法が既に行われていると報告をされております。特別立法がない国々でも、イギリスなどのように現実に社会生活上の不便や不利益を回避する方策を取っている国もあります。
 今、法務省のお答えではこの戸籍法百十三条の拡大解釈は無理だということであれば、特別立法を検討するべきと考えますけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(房村精一君) 常識的に戸籍の性別というのは生物学的性だという具合に考えられてきたことは先ほど申し上げたとおりでございます。
 ただ、性同一性障害というものが疾患として社会的に認知をされ、その治療法として外科的手術を行うということも、ガイドラインも定められているという状況にございますのも、社会の変化の表れとして我々も認識しているところでございます。
 ただ、その場合に戸籍の性をどうするかということは非常に大きな問題でありますので、このガイドラインの内容あるいは性同一性障害に係る国民的議論の動向、こういったものを十分踏まえつつ、関係機関とも連携の上、真剣に検討をしていきたいという具合に考えているところでございます。
○浜四津敏子君 是非、真剣な検討を開始していただきたいと思います。
 今のお答えの中で、国民的議論の動向を見ながらというお答えがありましたが、人権問題につきましては、これは世論がどうとかという問題も一面大事なこととは思いますけれども、むしろ世論をリードしていかなくてはいけない責任が立法にはあるかと考えております。
 本来、人権が不当に侵害されているという状況があるのであれば、それを法の解釈あるいは立法によってきちんと救うというのが本来の責任であるというふうに思っておりますので、是非、今法務省のお答えの中で、関係機関と連携しながら真剣に検討するというお答えでしたので、是非また機会を見ましてその真剣な検討の進捗状況をお伺いしたいと思っております。
 ともかくも、性的自己認識を理由とする差別というものも人権擁護法案の第二条五項に言う、ここで禁止される差別に当たるわけでございますので、是非ともこれの解決に向けて前進をお願いしたいと思っております。
 以上で質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 この人権擁護法案は、各界の強い反対の中で継続審議になってきました。反対世論の中で、読売新聞の修正試案なるものまで出た異例の法案であります。しかも、今、与党内での修正の動きも報道をされておりまして、本格審議を前に政府案の不備を認めたものだと私は思います。報道されている修正の中身も、いわゆるメディア規定部分の凍結ということで、法案の重大な問題点についてはそのまま残すものであり、到底修正の名にも値しないものだと思います。
 さらに、人権救済機関の命とも言える独立性の問題では、先ほどもありましたように、国連人権高等弁務官が懸念表明の書簡を小泉総理に出すと。そういう点で国際水準に達しないものでありますから、私どもは廃案にしてやはり出直すべきだということをまず最初に申し上げておきます。
 国連の規約人権委員会は、我が国の入管施設や刑務所における人権侵害を速やかに調査をし救済するための政府から独立した人権救済機関を求める勧告をいたしました。そして、九三年に国連で採択をされたパリ原則は、独立した人権救済機関の要件として、法律上、運営上の自立権、財政的自立権、任命、解任の手続、社会の多様性を反映した代表による構成、これを挙げています。朝からの審議で、法務省は、三条委員会だから独立しているんだということを繰り返し答弁をされているわけですが、問題は実際の手足になる事務局が本当に独立性を保てるのかどうかと、ここが問われております。
 人権委員会が発足するときに、この事務局の職員の規模、その中で法務省から出向する人数はどういうふうになるでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会の組織でございますが、中央の事務局のほか、公権力による人権侵害事件など、特に中立公正さを要求される事件に適切に対応する必要がありますので、全国を八ブロックに分けて、東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松にそれぞれ地方事務所を設置するとともに、国民のアクセスポイントを確保し、その他の事件の調査などを円滑に行うため、人権委員会の指揮監督の下、全国四十二か所に設置されている地方法務局にその管内の事務を委任することを考えております。
 そこで、具体的に申し上げますと、人権委員会が所掌することとされております人権擁護事務は、現在、本省二十一人、法務局七十六人、地方法務局百三十三人の計二百三十人の職員によって処理されているところでございますが、平成十五年度の概算要求におきまして、この本省分二十一人、これを人権委員会中央事務局に、それから法務局分七十六人を地方事務所にそれぞれ振り替えた上、人権委員会の体制整備のため三十五人、内訳を申し上げますと、中央事務局七人、地方事務所二十八人の増員をお願いしているところでございます。
○井上哲士君 この増員分の三十五人もかなりの部分は法務局からということをお聞きをしておりますが、今ありましたように、正に人権擁護局の横滑りで地方は法務局長に委任ということになります。しかも、法務省との人事交流が行われるということですから、国民から見ますと名札がちょっと変わっただけと、到底、国民の常識では法務省から独立しているとは私は言えないと思うんです。
 朝から、公正らしさとか信頼が大事だと言われましたけれども、そういう実際は名前だけ変わって従来の法務局の、法務省の職員がしていると。こういう状況で本当に国民の信頼が得られるのかということが問われておると思うんですね。
 最初から人権委員会の独自の職員をきちっと確保して、そして、朝もありましたけれども、法務省とは人事交流しない、将来的には独自職員を主流にしていくと、本当に独立ということを考えるならばそういうふうに明らかにすべきだと思うんですが、その点いかがでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権擁護推進審議会の答申にも指摘がありますとおり、新しい人権救済制度を実効的なものにするためには、委員会の事務局に法的な知識、素養や各種の人権問題に対する理解を含む専門性を有する職員を確保する必要があると考えております。
 このような観点から、まず第一次的には、これまで人権擁護行政や他の法律事務に携わってきた法務省の職員を有効に活用することが必要であると考えておりますけれども、多様な人材の確保という観点から、人権問題について専門性を有する者などを委員会独自に採用することについても今後検討してまいりたいというふうに考えております。
○井上哲士君 人権委員会に出向して将来、法務省に戻る職員に入管や刑務所などの法務省内部の問題を独自に本当に調査できるのかと、こういう国民の目があるわけです。出発点でそういう皆さんの専門性を確保するというお話はありましたけれども、やはり将来は法務省には戻るのではないということ、そして検討するだけでなくて、そういう独自の職員をむしろどんどん採用していくんだということを、本当に独立ということを考えたらやっぱり言うべきじゃないですか。もう一度お願いします。
○政府参考人(吉戒修一君) 職員を独自といいましょうか、プロパーの職員を将来的には養成いたしたいというふうに考えております。ただ、人権委員会の発足時につきましては、これは法案の附則にも書いてございますように、来年七月末までということでございますので、そのような時間的な制約もあり、いささか困難な面があるというふうに考えております。
○井上哲士君 結局、本省との人事交流のことについても明言がないわけですね。ですから、将来にわたって法務省の職員がずっと中心になっていく、ごく一部、独自の採用はあるのかもしれませんけれども、そこについてのお答えは結局ないと、こういうことになるわけです。
 午前中の答弁で、例えば入管とか矯正からの人事交流はないんだと、だから大丈夫だというような御答弁もありました。しかし、そういう問題だけではないんですね。私、四月の本会議でも指摘をしましたけれども、昨年、東京入国管理局の不祥事がありました。これ、マスメディアが報道するまで半年間も法務省は放置をしてきたわけであります。今年の二月の十五日の大臣の記者会見でも、この入管当局の逃亡事件について、昨年七月ごろから入管当局から報告を受けていた、半年以上公表しなかったことについて、当局に任せていた、私も反省しなければいけないと記者会見で述べたという報道もあったわけであります。ですから、単に入管局だけじゃなくて、法務省全体の身内意識があの問題は指摘をされたわけですね。ですから、やはりこうした法務省の外局という形では、国連からも指摘をされた入管や刑務所などにおける人権侵害に実効性があるのかというのがやはり国民の厳しい批判なわけであります。
 韓国では、委員会の独立性が確保できないということで最初出された法案を廃案にして法案を、法律を作り直しております。先日、NGOとして三年間運動して、今は韓国の委員会の職員をしているナム・キュソンさんという方のお話を私、直接聞きました。実際にこの委員会が動き出してみて独立性というものが本当に大切だということを言われておりました。
 例えば、韓国の場合は、警察署長を処罰に追い込んだ事例もあったということですが、訴える相手が国家機関の場合に、人権委員会が独立した機関でなければ、関係省庁との話合いの中で訴えなかっただろうということをナムさんは言われておりました。そして、この日本の法案はアリバイだと、国連のアジア人権フォーラムにも加入できないんではないかと、こういう懸念を出されていたということを指摘をしておきます。
 それで、やはり公権力による人権侵害の歴史ということを重く受け止めていないということが、私はこういう独立性の問題にも現れていると思うんです。この間も公権力による人権侵害というのは後を絶たないわけでありますが、まず防衛庁のいわゆるリスト問題についてお聞きをいたします。
 情報公開法に基づいて防衛庁に情報公開を求めた市民の個人情報を、逆に防衛庁が独自に収集、蓄積をし、それをネットにまで流したという事件でありましたが、公権力による市民のプライバシー侵害という重大な人権侵害事案だと思います。
 人権委員会の特別救済手続の対象にはこういうものは該当しないと思うんですが、いかがでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 法案におきまして、特別救済手続の対象となる人権侵害は、法案の四十二条の第一項に列挙されているものに限定されております。したがいまして、委員御指摘のとおり、公権力によるプライバシー侵害は原則として特別救済手続の対象にはならないというふうに考えます。
 ただし、四十二条の一項には第五号という規定がございまして、いわゆるバスケットクローズでございますが、人権擁護の観点から看過し難いものにつきましては、この四十二条第一項五号に基づきまして、特別救済手続の対象として取り上げられる可能性があるということを御指摘申し上げたいと思います。
○井上哲士君 基本的にはこれ、原則的には対象にならないという御答弁だったと思うんです。一般救済の手続ですと、やめさせるということはできないわけですね。
 防衛庁は、この問題で、イニシアルなら問題ないんだという姿勢で、リストの作成自身はやめておりません。しかし、総務省自身も指摘していますが、イニシアルであっても幾つかの資料を合わせると個人が特定をできるわけです。結局、情報公開請求をした市民の個人情報を集め蓄積する、そのこと自体が人権侵害だという認識には立っていないということになります。
 ところが、メディアに関しては事細かく規定をしているわけですね。第四十二条では、犯罪被害者や犯罪者の家族などについて、「私生活に関する事実をみだりに報道し、その者の名誉又は生活の平穏を著しく害すること。」等の取材の規制をしております。一方、公権力のプライバシー侵害は基本的に特別救済の対象にならぬと。
 余りにも私はこれ、バランス欠けると思うんですね。むしろ、公権力のこうしたプライバシー侵害こそ直ちにやめさせるべきことだと思うんですが、メディアによる被害よりも、こうした公権力のプライバシー侵害の方が軽いと、こういうお考えでしょうか。大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(森山眞弓君) この法案は、人権擁護推進審議会の、特別救済手続に該当する積極的な救済は、「差別、虐待を中心に、救済の必要性が高く、人権救済機関が有効な関与をなし得る人権侵害を対象として行うべきである。さらに、差別、虐待等の一定の類型に属さないものについても、人権擁護の観点から看過し得ないものに対しては、機動的かつ柔軟に積極的救済を図ることができる仕組みを工夫する必要がある。」と指摘している答申を踏まえて作られたものでございます。
 報道機関による一定の人権侵害も、このような観点から答申において積極的救済を図るべき人権侵害として取り上げられたものでございまして、この法案におきましても、特別救済手続の対象として位置付けたものでございます。
 他方、公権力によるプライバシー侵害としてどのような範囲のものを申すのか、いろいろ考え方があるかとは思いますが、仮にそれが現在検討を進められている個人情報保護の範疇に属するものであれば、まずはそちらで保護の在り方が議論されるべきではないかと思いますし、この法案におきましても、いわゆるバスケットクローズである第四十二条第一項第五号の規定により、必要に応じて特別救済手続の対象とすることは可能でございますので、アンバランスとの御批判は当たらないのではないかと思います。
○井上哲士君 現行の様々な法律では、行政機関のプライバシー侵害は罰則なしということでありまして、現にああいう事件が起きております。実際、やはり法律の作りとしては、こうした公権力のプライバシー侵害は軽視したということを私は指摘せざるを得ないんですね。
 一方、法案は、メディアの方は、六十条で取材行為をやめさせて、予防するということまで規定をしております。しかも、公人を除く規定がありませんので、様々な政治家の汚職の粘り強い取材が規制をされるという懸念が出されているわけであります。
 関連して、午前中の審議で、松本サリン事件でのいわゆる誤報問題についての質問がありました、河野義行さんのことでありますが。確かに、メディアによる当時の犯人報道はすさまじいものであり、許されないものでありますが、あの問題の本質は、河野さんが犯人だという誤った情報が捜査当局、つまり警察によって流されたということにあるんです。
 河野さんは、その後、雑誌に登場されておりまして、報道被害以上に公権力による人権侵害は恐ろしい、県警が、犯人はおまえだと決め付け、自白を強要した、そしてメディアに私が有力容疑者だという情報を流したということをちゃんと雑誌で語っております。そして、河野さんは、この人権擁護法案について、人権の保護や擁護をうたっているが、それは大義名分にすぎない、本当のねらいは公権力がメディアを規制することであり、ひいては公権力があらゆる言動を統制すること、私にはそうとしか思えないということを河野さん自身が言っているということを指摘をしておきたいと思います。
 メディアの被害というものは重大でありますけれども、やはりこれは国民の知る権利に深くかかわる問題でありますから、あくまでもまずメディアの自主規制に任せるものだと思います。メディアをこのように包括的に規制するような機関は世界でもないわけでありまして、公権力のプライバシー侵害には実効がなく、メディアの規制はする。やはり、法案の根本的な作り自身が私はおかしいと言わざるを得ません。
 もう一つ、法案の問題点で指摘を、重大なのが、企業における人権侵害や労働者に対する差別の救済をすべて厚生労働省や国土交通省に任せているという問題であります。
 十月の二十日付けの朝日新聞に、「社員の思想 ランクづけ」という記事が出ておりました。ある防衛産業の一翼を担う大企業のZC管理名簿というのを取り上げているんですが、これ、局長、ZCが何を意味するかというのは御存じでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 新聞記事によりますと、ZCはゼロ・コミュニスト、共産主義者の略であるというふうに書いてございます。
○井上哲士君 これは、ゼロ・コミュニスト、報道によりますと、人事関係者だけが使う隠語で、共産党員を撲滅をするということを目標に社員管理をすることだというふうに書かれております。
 私、手元に厳秘、厳重秘密と書かれた文書を持っております。この朝日の記事が出ましてから私のところに送られてきたものでありますが、この記事の基になった石川島播磨重工の内部の資料であります。
 読んで驚きました。徹底した日本共産党員のマーク。それだけではないんですね。例えば、会社が共産党員だと見ている人が門前でビラの配布をするときに、一体、社員のだれが受け取るか、出勤してくる社員を職制が門前で監視をしておると。それから、組合の役員選挙では、会社と歩調を合わせる組合役員に対して共産党系と見られる候補がどのぐらい票を取るか、このZC管理名簿に合わせて票数をチェックをすると。それから、この組合役員投票も秘密投票ではないんですね。だれがどの票を入れたかすぐにチェックできるように不在者投票が推奨をされております。それは嫌だと疑問を呈しますと、その人自身がこのZC管理名簿に載せられてしまうと。こういう非常に生々しいことがこの文書で出ております。これは正に憲法違反であり、労働基準法の第三条違反だと思うんです。
 関西電力で日本共産党員に対する思想差別というのがありました。これは裁判に訴えまして一九九九年に労働者側が最高裁で勝利しましたが、二十八年間掛かっているんですね。ところが、人権の世紀と大臣自身が言うこの二十一世紀なのに、今紹介しましたように、同じような、あるいは更に徹底した思想差別が現在でも大企業職場でやられていると。こういう分野こそ迅速、簡易な人権救済の機関が私は必要だと思います。
 この内部文書によりますと、この石川島播磨では、人事部が若手社員を集めましてZCリスクマネジメントという研修を行っております。ソビエト連邦が崩壊した後は体制の危機という意識が薄れており、共産党にも変化が生じており、アレルギーも薄れてきている、しかし今もなお共産党が企業にとって危機ファクターであることは変わりないと、こういうことを述べまして、徹底した企業内の組織的な思想差別を、徹底をこの会議で図っているわけであります。
 こういう大企業職場における思想差別、人権侵害というものをなぜ行政任せにしていくのか。諸外国のように、雇用における差別の禁止を扱う独立した委員会がこの分野でこそ私は必要だと思うんです。厚生労働省にノウハウがあるからというのが本会議の答弁でありましたけれども、余りにも安直だと思うんですね。その点どうでしょうか、大臣。
○国務大臣(森山眞弓君) 人権擁護委員会の答申では、既に被害者の救済にかかわる専門の機関が置かれている分野におきましては、当該機関と人権委員会との適正な役割分担を図るべきであるというふうに指摘しております。
 労働分野における差別的な取扱い等につきましては、従来から厚生労働省等におきまして被害者の救済にかかわる制度が整備されておりまして、実施されてきたところでございます。労働分野における人権救済制度の適切な運用に当たりましては、労働法制、労使慣行、労務管理実務等に関する知識が必要不可欠でございまして、そういう知識を有する職員等のいる厚生労働省で救済を図るということが効果的であり効率的であるというふうに考えられます。
 この点につきましては、平成十三年十二月に、公労使三者構成の労働分野における人権救済制度検討会議というのが持たれましたが、そこで取りまとめられた報告にも同様のことが書かれていると承知しております。
○井上哲士君 しかし、本会議でも指摘をいたしましたけれども、そういう従来の労働行政の下で解決をしなかった。そして、先ほど言いましたように裁判は二十八年間も掛かっているわけです、関電の場合ですね。この審議会の答申でも、被害者の視点から簡易、迅速、柔軟な救済を行うに適したこの人権救済制度の整備ということを強調しているわけです。現実にこれまでこういうことが十分に労働行政の中で解決してこなかった、やはり独立をした雇用の問題での差別を扱う委員会が必要だと思うんですが、もう一回、どうでしょうか。
○国務大臣(森山眞弓君) 先ほども申し上げましたように、既に長年の経験によって、知識、経験を積み重ねております厚生労働省の担当される分野のことについては、審議会のおっしゃるように適正な役割分担をするべきであるということが本筋であろうというふうに思います。
○井上哲士君 それでは、結局、本当の意味での職場における人権侵害にはやはり実効のない法案だということを私は言わざるを得ません。
 先ほど紹介しましたこのZC管理名簿には、その対象になる社員の病歴、それから妻のサークル活動もあるとか、家族情報まで載っております。どうやって情報を収集したんだろうかということで大変当事者も不安でありますし、しかも大企業内部にとどまらないと。警察、公権力との癒着ということもあります。先ほどの記事には、別の企業で、顧問に迎えた元警察署長が元部下に頼んで下請会社の求職者の犯歴を調べていたと、こういうことも報道されておりますし、私の手元に届いた石川島播磨の資料の中には社内の会議内容のメモがありました。公安との情報連絡がうまくいっているか再度点検していただきたいとか、田無警察には富岡の労組の動きなど連絡しておいてほしいとか、こういうやり取りが記載をされています。
 こういった企業と公権力が癒着をした形でのプライバシー侵害、人権侵害にもこの法案が私は対応できるとは思わないんですが、その点いかがでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 委員御指摘のプライバシー侵害の問題が、現在検討が進められております個人情報保護のカテゴリーに属するものでありますと、まずはそちらでその保護の在り方が議論されるべきであるというふうに考えます。
 しかしながら、先ほど来から申し上げておりますとおり、本法案におきましても四十二条一項五号というバスケットクローズがございますので、この規定に基づきましてこれを特別救済手続の対象として取り上げることが可能となっているところでございます。
○井上哲士君 先ほども申し上げましたけれども、メディアなどは明確に特別救済としておいて、公権力のいろんな問題については、可能性はあるということはありますけれども、そういう規定がない。やはり、全体として、本来救済をすべき公権力や大企業による人権侵害について非常に実効性が薄いということを改めて指摘をせざるを得ません。
 一方で、メディア規制だけではありませんで、六十五条では、差別助長行為についてだけは人権委員会が被害者の訴えがなくとも差止め請求ができるということになっております。差止め請求訴訟を提起できるというふうになっております。しかし、何が差別を助長し誘発するおそれがある行為なのか、規定は極めてあいまいでありますし、国民の自由な表現活動や言論活動を侵害する危険が私は極めて多いと思います。こうした様々な問題を本法案は抱えておりますけれども、今後の審議の中で改めて問題点を明らかにしていきたいと思います。
 以上、指摘をいたしまして、質問を終わります。
○平野貞夫君 人権擁護法案は三月八日に提出されまして、当法務委員会の実質審議が始まるのは本日が初めてでございます。
 これは誠に異例なことだと思います。私たちも意図的に延ばしていたわけじゃございません。国民世論の力でこういう状態になったということを御認識いただきたいと思うんですが、なぜかといいますと、やっぱり内容がひどいんです。政府案は、人権委員会をやはり法務省のコントロールの利く外局とすることと、それからメディア規制がやはり民主主義社会を壊すおそれがあると、そういうふうに私は考えておりまして、本来ならば撤回して出直すべきだという意見でございます。継続になりましたので今日の審議になったわけでございますが。
 しかし、同時に、私たちは、人権擁護ということは民主主義社会の根本の問題だと思いまして、最も適切な制度を作ることについては是非とも必要だと、そういう意見でございます。
 私は、今日は直接この政府案の中身についての審議は、質問はしませんが、若干の問題を指摘しておきたいと思います。
 第一点は、この法案が出される経緯なんです。御承知のように、同対法の期限切れの後、地対財特法ができて、それが期限切れとなって、そのとき、私は当時、新進党でございましたが、同和対策基本法という形で被差別に苦しんだ人たちの様々な対応を行うべきだということで、新進党案というものの作成に参画しました。しかし、なかなかその流れにならず、結局は、言葉は悪いかも分かりませんが、与党のボスの無理押しで、法務省所管の人権擁護推進審議会という形に押し付けられて、そこの答申が今日の法案になっておるんです。
 このころ法務省は嫌がっていたんですよ。当時の官房長、現原田検事総長、私、二人で随分議論したんですよ、押し付けられたと言って。じゃ、こういうことなら必ず将来、法案にするときに問題が起こりますよということを私は既にそのときに申し上げておいた。案の定、行革の流れの中で法務省は縄張を死守すると。同時に、いろいろのところと約束した与党のボスは何らかの制度を作らないかぬということで、そこで偶然手を結ぶというか妥協をする。元々、提案の動機は、人権擁護という美名の下に極めて不純なんですよ。
 そういう意味で、私は、この法案提出に至った制度の理屈、仕組み、中身の前提に問題があるということをまず申し上げておきます。
 それから第二点は、簡単に言えば、要するに一般日本国民、民衆が法務省及び法務省の出先機関を信用していないということなんですよ。それはどういうことかといいますと、言葉は悪いんですが、例えば被差別体験で人権擁護委員とかあるいはその上部団体の地方の法務局に申し出るケースというのはごくわずかなんですよ。なぜかならば、誠意がないからなんですよ。特に最近、私、高知県の出身なんですけれども、高知県の同和問題なんかはちっとも良くなってないんですよ、その差別の仕方が陰湿、悪質になっているんですよ。一見平等、一見うまくやっているように見えていますけれども、私はやっぱり人間の、日本人の業というものを非常に感ずるんですが、特に結婚関係、婚姻関係なんかについて、法務局なり人権擁護委員の方たちが誠実にやってないということはざらにあるんですよ。
 例えば、群馬県で、群馬県の玉村町の結婚差別事件なんかは、前橋の法務局がそれは差別でないという、訴えた人にとっては全く不本意な結論を出すのに五年掛かっているんですよ。そういう事務手続、姿勢でやっておる。これじゃ、何ぼ中央でいい法律を作ったって、整合性のあるいい言葉で作ったって駄目なんですよ。そこはやっぱり、この人権問題というのは結局、東京の、中央の理屈じゃないんですよ。生きている地域地域の人たちの、何といいますか、気持ちと心と血と涙なんですよ。そういうものをやっぱりうまく対応していくためには、法務局とは違った、特に地方における地方人権委員会というようなものを法務局とは違った形で確立させなきゃ何の意味もないという二点だけを指摘して、答弁要りませんから、申し上げておきます。
 そこで、当面この人権問題といえば、何といったって北朝鮮による拉致被害者の人権問題だと思います。これが一番現在の日本国における人権問題の象徴だと思いますが、人権問題というのは、結局、戦争とかテロとか、そういう問題にやっぱり歴史的にも、現在も世界の国では衝突するものなんです。
 そこで、法務大臣、治安といいますか、日本の秩序の総監督者として、北朝鮮による拉致事件というのは、北朝鮮のテロ事件と、国家テロと同質だと僕は思うんですが、法務大臣の御意見をいただきたいと思います。
○国務大臣(森山眞弓君) 今、先生は国家テロというお言葉をお使いになりましたけれども、国家によるテロ事件というのが具体的にはどのような内容のものを指すのかはっきりいたしておりませんが、いずれにいたしましても、北朝鮮による拉致問題というのは我が国の国民の生命と安全にかかわる非常に重大な問題でございまして、真相の解明に努めた上で厳正に対処することが必要であるというふうに考えております。
○平野貞夫君 私は国家テロだと思いますが、別に国家という言葉を使わなくてもいいですが、ああいう行為はテロ行為じゃないですか。去年、福田官房長官はテロ行為じゃないという、参議院の内閣委員会かどこかで答弁していますが、そのときには北朝鮮は認めていませんからね、それは分かりますけれども、こうはっきりした以上、テロ的行為じゃないですか。主権の侵害でもありますしね。これ以上言いません。
 それと、ちょっと法務大臣にこれ聞くのはどうかと思うんですが、昨日の党首討論で自由党の小沢党首は小泉総理に、ロシアで起こった劇場の、チェチェンの人たちが大変な問題を起こして、最終的にはロシア軍による大変な鎮圧が行われたわけですが、あのチェチェンの、要するにロシアとチェチェンの問題、チェチェンの軍隊と言えるかどうか分かりませんが、ああいう形でああいう犯罪を起こしたということは、要するに単なるテロなのか、あるいは抵抗運動の一つなのかということに対して、小泉総理は答えてないんですね。私は、やっぱり非常に治安も危機管理も不安定なときに、政府としてああいう問題について、対応はいろいろなやり方がありますよ。それはあるんですけれども、認識としては即座にこれは何であるという位置付けというのが欲しいと思いましたんですが、これはちょっと法務大臣に聞く話じゃありませんが、要するに拉致がテロであるかどうかという問題、ああいった問題があるいは抵抗運動の一つかどうかという、そういう位置付けというのは、政府としてやっぱり明確に私はすべきだと思っております。
 そこで、今年の三月十九日に小泉首相が拉致被害者の家族十四名と面会したときに、拉致問題の解決なくして日朝交渉の妥結はないという決意を表明しておりますが、田中局長、外務省としてこの小泉首相の決意に基づいてずっと作業といいますか、そういったものが今も続けられているかどうかということを確認したいと思いますが。
○政府参考人(田中均君) 委員御指摘のとおりだと思います。
 正常化というのは、正にお互い脅威を与えないという存在になるということでもありますし、平壌宣言にも明記がしてありますけれども、正にああいう基本原則に従った正常化であるということでございますし、小泉総理が言われているように、拉致問題の解決なくして正常化交渉が完結をするということはないというふうに考えております。
○平野貞夫君 分かりました。
 このときには、たしか拉致問題の解決なくしてという、解決という言葉を使っていると思います。それから、九月十七日の日朝平壌宣言の後、いろいろな問題があったんですが、小泉首相は、拉致問題が解明されなければ日朝正常化はないという、こういうことをしばしばお話しになっている、発言されているという、私はそういうふうに理解していますが、そういうことでよろしいでしょうか。
○政府参考人(田中均君) 解明と申しますのは、私は、拉致問題の解決ということとほとんど同義である、問題の解決がなくして正常化ということは考えられないというふうに考えております。
○平野貞夫君 今の田中局長のお話で、三月に小泉首相が拉致被害者家族に会ったときの決意、それから平壌宣言後いろいろおっしゃっている方針というのは変わりはないというふうに理解します。
 そこで、その拉致問題には、私の整理の仕方では三つあると思っております。一つは、現在帰国している五人にかかわる様々な問題。それからもう一つは、北朝鮮が死亡したと表明している八人ですか、これを本当にどうなのか、どうなっているかということを確認する問題。それからもう一つ、三番目は、たしか日本が拉致と指定していながら北朝鮮がそれを認めていない、二人ですか、それから日本の中で拉致の疑惑があると言われている多数の人間、これは一緒にしてもいいと思いますが、この三種類があると思いますが、拉致問題の解決あるいは拉致問題の解明という場合に、この三つの種類の問題をどの程度、どういうふうに解決、解明すれば日本政府としては多とするのか、そこら辺についてのお考えを田中局長、お願いします。
○政府参考人(田中均君) ただいま三つのカテゴリーということで委員は御指摘されましたけれども、当然のことながら生存されている被害者の方々については、本人の自由意思に基づいて永住の帰国、永住という言葉がいいかどうかという問題はありますけれども、それがかなえられなければいけないと思いますし、同時に、これは生存されている方々の問題もそうですけれども、北朝鮮が死亡をされたんだと言っている人々の問題も含めて、やはりきちんとした事実の解明というものがまずされなければいけないというふうに考えるわけです。
 事実の解明、事実関係が明らかになったときにもろもろの問題が出てくるというふうに思いますけれども、今そういう問題について予断を持って申し上げるわけにはいかない。まず、きちんとした事実関係の解明をしなければいけない。
 そういう観点から、先般、クアラルンプールで行いました正常化交渉の場においても、百項目以上の質問、これは、先般、調査団が参ったときに北朝鮮側から手交された資料その他、説明、そういうことの疑問点あるいは整合的でない点を含めて質問を出したということでございます。これは、事実関係の解明ということできちんとやっていく必要があるというふうに考えております。
 それから、拉致の疑いがある云々というお話でございますが、これは、当然のことながら警察当局のお調べ、そういうものを踏まえながら、きちんと警察当局と連携を保ちながら、北朝鮮に対して提示する必要があるものは当然のことながらやっていくということであろうというふうに思います。
○平野貞夫君 分かりました。
 交渉の途中でございますし、微妙なときでもございますし、大体答弁の中からここら辺のことが事実関係ができればまあまあ解明したというような感じは取れましたのでこれ以上申しませんが、問題は、これから交渉する際に外務省当局の姿勢だと思います。
 日朝交渉というのは拉致問題以外に核の問題がありますが、核の問題はちょっと法務委員会で言うわけにはいきませんから、これはまた別のところへおきまして、人権にかかわりのある拉致問題に限定して言うんですが、残念なことに、過去、外務省の幹部がこの拉致問題について被害者の人権を冒涜するような発言をされている。
 一つは、例えば一九九七年ですか、北京での日朝局長級会談で、日本側は拉致問題を行方不明者ならどうかということを提案して会談の決裂を回避したという事実があるようなんです。これも大変にやっぱり拉致された人たちに対する私は冒涜だと思います。
 それから、同じく八月に阿南アジア局長は記者懇で、拉致疑惑には亡命者の証言以外に証拠がない、これは慎重に考えないといけないと、ややもすれば政府当局の考えよりか後退した発言をしております。これも拉致被害者にとっては、私は非常に侮辱的発言だと思います。
 それから、一九九九年の十二月に槙田アジア局長は自由民主党の外交部会で、拉致されたたった十人のことで日朝国交正常化が止まっていいのかという趣旨の発言をしております。
 私は、この三つの、ほかにもあると思いますが、発言というのは、当時、拉致を向こうが認定していないから何でもいいんだ、言えるんだと言えばそれまででございますが、しかし歴史の現実から見て、あのときだって拉致されたということは大体事実上分かっていたわけでございまして、こういう姿勢で今までアジア局、外務省が日朝交渉に臨んでいたとすれば、これは大変な問題だと思います。拉致被害者及びその家族に対しては大変な暴言だと思うんですが、こういう姿勢で今は臨んでいないでしょうね。また、こういう姿勢をアジア局として、今はアジア太平洋局ですか、反省されていると思うんですが、その点、御所見を田中局長、お願いします。
○政府参考人(田中均君) アジア大洋州局でございます。
 今、委員が御指摘になったそれぞれの発言というものを公の場で行われたというふうには私ども承知をしていないわけでございますし、これは拉致の疑惑が明らかになった八〇年代の終わりから、当然のことながら政府、これは独り外務省ということだけではなくて各政党の指導者の方もそうだと思いますけれども、いかにしてこの問題を解決するかということが非常に大きな課題であったことは間違いがないことだと思うんです。
 しかしながら、北朝鮮という国交がない国に対して、果たしてどういう方法で問題が解決ができるのかということについても相当思いあぐねておられたことも事実だと思います。私は、そういうことが決して拉致問題を軽視したということではないんだろうというふうに思っていますし、当時は、国際情勢その他のゆえに、なかなか拉致問題を北朝鮮が認め、何らかの形で解決の方向に向かっていくということはなかった。そのことについては極めて残念なことだと思いますし、果たして十分な手だてが取られたのかどうかということについては当然反省をすべき点もあるというふうに思います。
 ただ、この一年ぐらいになりましょうか、やはり拉致問題を解決できるような国際的な情勢が生まれたということもまた事実だろうと思いますし、これにはいろいろな背景があると思います。
 ですから、そういう意味では、外務省の共通の認識として、拉致問題というものを棚上げにして交渉に入るわけにはいかないと。従来は、方法論としては多分逆であったんだろうと思います。正常化交渉をやろうじゃないか、その中で拉致問題を解決していこうじゃないかと、こういうことだったと思うんですけれども、今回、小泉総理が九月の十七日にピョンヤンに行かれて、正に直談判という形で金正日国防委員長が拉致問題の存在を認め、謝罪をしたと。ただ、問題の解決という観点から見れば、そこから始まっているわけです。幸いにして、生存者の方には日本にお帰りいただいたということがありますし、いまだに生存が確認されていない方々もおられるわけです。
 ですから、そういう意味では、正に、先ほど委員の御指摘に従って私が御答弁申し上げたように、この問題、事実関係の解明というのを最優先課題として進めていかなければいけない。それが政府の方針であると思いますし、政府の方針に基づく外務省の交渉態度というのもそういうことだろうというふうに考えるわけです。
○平野貞夫君 反省しなきゃ駄目なのは別に役所だけじゃなくて、政治家、政党にもありまして、それを一々申し上げると角が立ちますから申し上げませんが、家族会なんかが座込みしているところを党本部の裏口から逃げ出した党首脳がいて、その人が、日本国内で一生懸命ほえても横田めぐみさんは帰ってこないというふうな暴言を吐いたようなこともありますが、いずれにせよ、我々も反省しなきゃいかぬことは多々あると思います。
 そこで、ちょっと具体的なことをお尋ねしますが、現在帰国している五人の問題なんですが、十月十日の参議院外交防衛委員会で田中局長は私に、取りあえず一、二週間の日程で日本にお帰りになることを前提にしていますと、こう答弁していますが、前提にしているという限り、日本と北朝鮮で何らかの合意なり話合いがあったんじゃないかと推測しますが、その点はいかがでしょう。
○政府参考人(田中均君) 当時、参議院の外交防衛委員会で平野委員の御質問に答えて御答弁を申し上げたとおりでございまして、当時、私どもといたしましては、何よりも、早くこの五名の生存されている方々の帰国を実現をするということで北朝鮮側と調整をいたしました。その際は、一時帰国ということで、一、二週間の日程調整をした、具体的な日程については本人の御意向に従って決めましょうと、こういうことでございました。ですから、当時はそういう日程の調整をしたということは事実でございます。
 しかしながら、五人の方々が日本に帰られて、家族の方々とお話しになり、日本に滞在をされ、そういう状況を踏まえ、それから日本におられる家族の方々の御意向、こういうものを踏まえて総合的に政府として検討した結果、やはり引き続き日本に滞在をしていただくということが正しい方針ではないか、永住などについて御判断をいただくためには、やはり自由な環境の中で、家族を日本に来てもらって、それで判断をするのが正しいことではなかろうかと、これが政府の方針になったわけでございます。
 ですから、そういう事情の変更ということはありますし、当然のことながら、これは日本人の方々であるということ、それから拉致をされたという方々でございます。二十四年間、一種の強制の中で住んでこられた方々ですから、当然、日本で、その五人の方々あるいはその家族、ずっと引き離されてきた家族の方々の意向をおもんぱかるのは政府として当然の責務であろうというふうに思っているわけでございます。
○平野貞夫君 その件については集中審議のときより歯切れが良いものですから、それはそれで結構だと思うんですが。
 北朝鮮は約束があったと言っておる。それから、アメリカの、十月十七日ですか、北朝鮮の核開発の継続という突然のニュースがあった。勘ぐる人によっては、五人を一時帰国させて、また北朝鮮に戻す、そして横田さん、おじいさん、おばあさんをある意味では納得させて、それで拉致問題を一応決着して正常化交渉妥結というシナリオがあったんじゃないか、それが核問題で壊れたというような見方もありますが、そこのことについてはもう聞きません。今の局長の話で大体の誠意は分かりました。
 あと、最後に聞きますのは、齋木参事官がジュネーブに行って、国連人権委員会に拉致家族からの要請をしているというこの経過と、どのくらい時間が大体調査する場合掛かるか、その見通しをお答えください。
○政府参考人(田中均君) 委員御指摘の点は、ジュネーブの人権委員会の下に設置されている強制失踪作業部会という作業部会でございまして、これは五人の個人を、要するに、個人として参加をする五名の専門家から成る作業部会でございまして、これも個人の申立てを受けて、強制的に失踪されたとされている人の所在確認を行うということを基本的な任務にしておるということでございます。
 これについては、拉致被害者の家族の方々は昨年来申立てをしておられたわけでございますが、昨年、作業部会の方で、十分な調査ができないということで審議が継続することができないという判断が下されたわけでございます。今回につきまして、御家族の御要望がもう一回提起をしたいということでございましたので、齋木参事官はその家族の方々の代理人という形で、これはあくまでも個人の申立てということでございますから、代理人という形で資料を提出したということでございます。
 この強制的失踪作業部会については、約五万件ぐらいの申立てが行われて、過去、おりまして、いまだに四万二千件ぐらいは調査が完了していないという状況であります。ですから、これは、北朝鮮、相手国政府がどれだけ協力をするかということいかんにもよるかと思いますけれども、かなり多数のケースが提起をされているという状況を見ますと、どれくらいのスピードで調査が行われ得るかということについては、今の段階で私が申し上げられる確たる見通しはございません。
○平野貞夫君 最後に一言。
 法務大臣、この拉致被害者の人権をどう、日本政府だけじゃなくて国民も含めて尊重し守っていくかというのが、私はこれからの人権擁護の根本だと、スタートだと思います。しっかりとひとつ御精勤いただくようお願いして、終わります。
○福島瑞穂君 社民党の福島瑞穂です。
 世界じゅうに、あるいは日本の中にたくさんの人権問題があります。部落差別、女性差別、外国人差別、先住民族差別、婚外子差別、様々あるわけですし、それ以外の人権侵害もまだたくさんあります。人権のためには人権救済システムの確立と人権啓発の両方が必要なわけですが、今回出されています人権擁護法案は、世界の水準から見て本当に人権救済機関とは認められない内容のものであると考えております。
 国際人権規約B規約は、一九九八年、日本に対して勧告を出しております。人権侵害の調査、救済を与える制度的な仕組みが欠如していると指摘をされ、特に警察や入管職員による虐待を調査し、救済のため活動できる法務省などから独立した機関を遅滞なく設置するよう勧告をされております。
 つまり、法務省では駄目である、入管や刑務所や警察の中での人権侵害をぴしっと取り上げる場所が必要である、それは独立していなければならず、法務省から独立していなければ駄目であるということを駄目押しをされております。にもかかわらず、今回、法務省の外局の法案が出されている。これはなぜでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 規約人権委員会でございますけれども、いわゆる人権B規約の実施を監視するための条約監視機関でございます。ここに対しまして数年おきに加盟国が人権状況に関する報告をしておりまして、これにつき審査が行われていると。その審査の結果、懸念事項とか勧告を含む見解が出されているというところでございます。
 委員今御紹介いただきましたように、この委員会では、我が国の報告に対しまして一九九八年、平成十年十一月に最終見解を出しておりまして、その中では、人権侵害の申立てについて調査するための独立した仕組みの設置、さらに警察及び出入国管理当局による不適正な処遇について調査及び救済の申立てができる独立した機関等の設置などが勧告されております。
 本法案による新しい人権救済制度におきましては、何人も、人権侵害による被害を受け、又は受けるおそれがあるときは、人権委員会に対し、その旨を申し出て、当該人権侵害による被害の救済又は予防を図るため適当な措置を講ずべきことを求めることができ、そのような申出を受けた人権委員会は、本法案の定めるところによりまして、遅滞なく必要な調査をし、適当な措置を講じなければならないこととされております。
 とりわけ、公権力による差別、虐待の事案につきましては、過料の制裁を伴う調査権限、調停、仲裁、勧告・公表、訴訟援助、これは資料の提供、訴訟参加でございますが、といった救済手法を用いて、より実効性の高い救済を図ることとされておるところでございます。
○福島瑞穂君 済みません、短くお願いします。
○政府参考人(吉戒修一君) はい。
 また、人権委員会につきましては、先ほど来から申し上げておりますように、独立の行政委員会として設置され、委員長及び委員の任命方法、身分保障、職権行使の独立性の保障等によりまして、職権行使に当たりましては内閣や所轄大臣からの影響を受けることがないよう高度の独立性が確保されているところでございます。
 したがいまして、本法案は、規約人権委員会の最終見解に十分こたえる内容のものとなっていると考えております。
○福島瑞穂君 済みません、問いに対して端的に答えてください。
 法務省では駄目だと、法務省から独立した機関を作れと言われて、法務省の外局で、なぜこの回答になるんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 最終見解ですね、私、今手元にありますので読みますが、委員会は、人権擁護委員は、法務省の監督下にあり、また、その権限は勧告を発することに限定されていることから、そのような仕組みには当たらないと考えておる、というようなくだりがございますけれども、法務省に置いては駄目だと、国内人権機関を法務省に置いては駄目だという見解は示されていないわけでございます。
○福島瑞穂君 独立したという意味は、その外局では駄目だという意味だと思います。特に、特記されている人権侵害が入管施設そして警察なわけですから、どうして法務省の外局でこれらの救済ができるのか。ましてや、地方の法務局ですと、これは人権擁護委員制度の横滑りです。これは、規約人権委員会が駄目だと言ったことをそのまま法案にしているんじゃないですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 本日、午前中から御説明申し上げておりますけれども、この人権委員会は法務省の所轄の下に置かれますけれども、我が国の法制上、極めて高度の独立性を有する三条委員会として設立されると。しかも、人権委員会は法務大臣から一切の指揮命令を受けないという仕組みでございます。そういう仕組みをもってして、何をもって、法務省から影響を受ける、独立していない、独立性がないというふうに言われる根拠はないものと思います。
○福島瑞穂君 法務省の外局で、これが法務省から独立したと言うことは非常に難しいというふうに思います。
 法務相の指揮命令を受けなくても、先ほどから、地方の法務、例えば地方事務は地方法務局長に委任されることになっています。地方法務局長のトップはだれですか。済みません、地方法務局長の一番の要するに上司はだれになりますか。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会が地方事務所を持ち、地方事務所の事務を地方法務局長に委任するわけでございまして、この人権救済、人権啓発の事務に関する上司というか最上級庁は人権委員会ということになるわけでございます。
○福島瑞穂君 しかし、その地方法務局長が要するに人権の担当部門と地方法務局と両方やるわけですね。じゃ、その人権の部分ではない部分の地方法務局長のトップは法務大臣ではないですか。
○政府参考人(吉戒修一君) 登記とか戸籍、供託、要するに人権以外の仕事につきましては委員の仰せのとおりだろうと思います。
○福島瑞穂君 今までずっと仕事をやってきた地方法務局長の上司は法務大臣です。ですから、人権の問題は別だと言われても、身内じゃないですか。
 では、人権擁護委員会がどれだけ身内調査をやっているか。これは平成十四年四月二十五日の毎日新聞ですが、法務省への人権侵害の救済申立てのうち、拘置所など同省所轄機関に関する訴えは、この十年間、全体の〇・一%以下で、人権侵害と認められた事例も六件にとどまっている。これは、これでよろしいでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) ちょっと今手元にそのデータがございませんので確認ができませんけれども、また改めてお願いしたいと思います。
○福島瑞穂君 ほとんどその内部の人権救済については救済がされておりません。
 では、質問を変えます。
 人権救済の機関で諸外国で法務省の外局としている国はあるでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会類似の国内人権救済機構として法務省と同様の司法省に置かれているものとして、カナダとオーストラリアの人権に関する委員会があるというふうに承知いたしております。
○福島瑞穂君 カナダ、オーストラリア以外ではいかがでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) もう一つございまして、イギリスの人種平等委員会、これは内務省の所轄の下に置かれております。
○福島瑞穂君 済みません、オーストラリアともう一つ何とおっしゃいましたか。カナダ。済みません、オーストラリアはこの調査室の資料によりますと、人権・機会均等委員会、南オーストラリア州機会均等委員会は独立委員会となっております。また、カナダも、カナダも独立委員会というふうになっておりますが、司法省の外局ではないのではないんですか。
○政府参考人(吉戒修一君) カナダの人権委員会とオーストラリアの人権・機会均等委員会、これは独立の委員会でございまして、なおかつそれに、司法省の所轄の下に置かれておるというふうに承知しております。
○福島瑞穂君 アジアの中においても、ネパールそれからインドネシア、韓国などは法務省から独立した人権委員会ということでよろしいですね。
○政府参考人(吉戒修一君) ネパールと、ちょっとどこでしたっけ、インドネシアはちょっと承知しておりませんけれども、韓国は大統領に直属する委員会というふうに聞いております。
○福島瑞穂君 インドネシアそれから南アフリカ共和国の人権救済の委員会を訪問し、調査を行ったことがあります。インドネシアでは完全に独立した委員会でした。南アフリカ共和国も人権委員長にお会いしましたけれども、完全に独立した委員会です。
 それで、韓国、韓国も実は、御存じのとおり、九八年、韓国でも人権法案が提出され、法務部が作成した法案で独立性が問題になりました。それで、先ほどもありましたが、広報担当官、韓国国家人権委員会広報担当官ナム・キュソンさんのお話で、法務部が法案を作ったということがボタンの掛け違えの始まりでした、法務部による人権侵害の是正が目的なのに、法務部に人権委員会を置くということは、韓国のことわざで猫に魚を任せるようなものという例えが当たっているでしょうと。それで、九八年、頑張って、いったん廃案にした後、韓国は法案を法務部ではなくてきちっとした独立性のある人権救済機関に作り替えました。
 韓国では、この人権委員会は、現在三分の二が公権力、拘置所や警察や様々なところでの人権侵害になっております。そうしますと、猫に魚を任せるようなもの、日本語で言えば猫にかつぶしということになるかも分かりませんが、この点について、韓国の法務部が作成した法案がそれを作り直したという点は、お隣の国、韓国の非常に勇気付けられる事案だと考えます。この点についてはいかがでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 基本的に国内人権機関の在り方につきましては、それぞれ法律制度あるいは人権状況が違いますので、ある国がこうだからこうだという議論は当てはまらないものと考えます。
 まず、今おっしゃいました韓国の人権委員会のことでございますが、私どもが承知している限りの事情を申し上げますと、韓国の法務部、これは日本の法務省に相当するというふうに聞いておりますが、が立案いたしました人権委員会を設立する法案の内容に関しまして、当初、一部市民団体が反発いたしましたのは、主に人権委員会を非国家機関として設立することとしていた点についてであったものと承知しております。この点で、私どもの人権擁護法案は国家機関として人権委員会を設立することとしておりますので、韓国とはおよそ状況が異なるものと思います。さらに、韓国の法務部におきましては、日本の法務省と違いまして元々、人権侵害事件の調査、救済を行っていないなど、我が国とは背景事情が異なるということがございます。
 したがいまして、韓国の国家人権委員会設立に至る経緯に照らしまして我が国における人権委員会の位置付けの在り方、これを論じるというのはかなり難しいことではないかなというふうに考えるわけでございます。
○福島瑞穂君 ただ、韓国で法務部の中に置いていたものが独立した経過があります。
 それから、先ほども江田委員からもありましたけれども、メアリー・ロビンソンさんが人権擁護法案に懸念ということで、元国連高等弁務官のメアリー・ロビンソンさんですが、なぜこのような親書が送られたのか。それは正しく、国際人権規約B規約が勧告をして、きちっとした独立したもの、入管や警察などの人権侵害を取り上げることができる人権救済の機関を作れということを言ったにもかかわらず日本の法案に問題があるからだと考えますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) メアリー・ロビンソン前国連人権高等弁務官から小泉総理あてに、本法案に関しまして本年の三月と六月と二度にわたりまして書簡が寄せられております。
 基本的には人権高等弁務官は、何か技術的な支援ができることがあればどうぞというようなスタンスでのお手紙と思いますけれども、二通目の書簡に、日弁連やNGOから人権擁護法案の一部規定がパリ原則と完全には合致していないとの強い指摘を受けたと、法案の非公式の訳を入手したが、同法案には肯定的な規定がある一方で、表明されている幾つかの懸念は十分根拠あると思われたとの記載があったことは事実でございます。
 しかしながら、これは今の手紙、私、読み上げました手紙の文面からも明らかなように、専ら批判的な御意見のみをお聞きになり、しかも法文の非公式の訳を見た限りの感想を、私どもの国に対して支援を申し出る前提としてお述べになったものでございます。
 ということで、先ほど法務大臣からも御答弁ございましたけれども、二通目の手紙をいただいた後に、ロビンソン前弁務官に対しまして法務大臣から書簡で、本法案の内容について御疑念があれば十分説明する準備があるということをお答えしたわけでございます。
 なお、その後、本年の七月だったと思いますけれども、国連の人権高等弁務官事務所のバーデキンという特別顧問が参りまして私どもと意見交換をいたしましたけれども、バーデキン氏も、特定の法案を批判したり、それに関して特定の立場に立って発言することは人権高等弁務官の任務ではないということを明らかにされておりまして、人権高等弁務官やその事務所が人権擁護法案に批判的な態度を取っているという事実はないというふうに考えております。
○福島瑞穂君 このブライアン・バーデキン国連人権高等弁務官特別顧問に私もお会いをしました。パリ原則の観点から、やはり国連の、国連が認める、国連が考える人権救済機関についてパリ原則についてのきちっとした説明があり、人権擁護法案についての懸念が表明をされました。メディア等についても、もちろん彼はこの法案に賛成反対ということは立場上言えないとは思いますが、パリ原則の観点からの懸念は何度も表明をされていると考えます。
 私は、今のままこの人権擁護法案が成立した場合、これが国連が認める人権救済機関とはならないのではないかというふうに考えます。あるいは、これが、アジアの中でももう既に独立性の高い人権救済機関ができている国が幾つもあるわけですが、悪い先例となってしまうのではないかという懸念を持ちます。
 ところで、この間、刑務所における死亡事件等について質問をいたしました。この四年間の間に死亡した、保護房、革手錠で亡くなった人間が五人、病院に運ばれた人間が三人ということなんですが、名古屋刑務所は今年一人死亡、五月に死亡、九月に一人、腹膜炎で病院に運び込まれる。去年も、革手錠、保護房で腹膜炎で死亡というケースがあります。この事案は、九月にようやく刑務所が死亡事件も含めて発表し、去年の死亡事件のケースは法務委員会で質問するに当たって法務省から教えてもらったのでようやく分かりました。要するに、全然、保護房、革手錠の中で亡くなった人間についての公表すらしないと。これは、名古屋の刑務所は今年のケースは二つとも刑事事件になっているわけですが、メディアにも五月時点であるいは公表一切されておりませんし、国会議員である私たちも知る由もなかったケースです。
 果たして法務省は、刑務所内におけるこのような人権侵害をきちっと調査できるのでしょうか。現時点においてもこれだけ死亡があり刑事事件になっているにもかかわらず、何も問題ないということが、所長などは答弁しておりますし、問題があったという答弁は一度ももらっておりません。いかがでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 人権擁護機関の立場でお答え申し上げたいと思います。
 昨年の統計によりますと、刑務職員に関する人権侵犯事件の新受件数は三十四件でございます。それから、関連いたします代用監獄でございますけれども、警察官に関する人権侵犯事件の新受件数は百四件というようなことになっております。
 私ども人権擁護機関の方といたしましては、こういうふうに受け付けた事件について、処理の態様でございますが、法律上の助言など援助を行ったり、あるいは調査の結果、これは人権侵犯の事実が認められなかったとして処理を終えたものも多いわけでございますけれども、刑務所の関係では、刑務官の収容者に対する不当な言動でありますとか不十分な医療措置に関しまして、警察関係では、取調べ中の警察官の不当な言動に関しまして、それぞれ関係者に対して反省を促し、善処を求めた例がございます。
○福島瑞穂君 救済した例がゼロであるというふうには言っておりません。ただ、重い事件ですよね、保護房、革手錠で死亡したケースがあり、刑事事件になっているのに、何ら事件はメディアにも公表されなかった、例えば五月ですね。去年亡くなったケースはようやく知ることができた。こういう事案、いまだに何か問題があったというふうには一切聞いておりません。
 このような状況で果たして、刑務所での何か死亡事件等起きて、法務省はきちっと、法務省の外局できちっと調査をできるのでしょうか。それは本当に一番心配をしているところです。ようやく事案を何かの偶然で知ることができて、いまだにその問題があったというふうには全然ならないと。自浄作用がないのではないかというふうに考えます。この点の刑務所の問題については、刑務所やその他の人権侵害についてはまた引き続き質問をします。
 保護房、革手錠で亡くなった人は、一つは凍死の事件、それからもう一つは熱中症で脱水症で亡くなった二つのケースが国家賠償請求訴訟になり、二つとも勝訴をしております。ただ、裁判の過程で法務省は、最後まで何も問題はないということで否定をしました。保護房は二十四時間監視のカメラが付いておりますが、なぜ監視カメラが付いていながら、二十四時間監視をしながら人が死ぬのかと。凍死や脱水症状で死ぬというのはちょっと異常なことだと思うのですが、そもそも人権意識そのものが実は大きく問われると思いますが、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(森山眞弓君) 人権について問題があるということで訴えがある、その前に、かかわる人たちの人権意識というものが大変大事だということはおっしゃるとおりだと思います。
○福島瑞穂君 メディア規制についてもちょっとお聞きをします。
 先ほど、メディア規制についてやっている人権救済機関はないということが江田委員の質問に対して出ましたが、確かにこれは一見限定されているようにも思います。しかし、実は桶川の女子大生の殺人事件に関して、あの事件はフリーライターの、フリーのジャーナリストがずっと、遺族、家族にずっとずっと面会を申し込み、じっくり話をし、長い時間を掛けて信頼関係を尽くす中で、実は警察がきちっと対応してくれなかったという事案がようやく出ました。ですから、それはそのフリージャーナリストの人がこつこつこつこつと、当初は嫌がられながらかもしれませんが、こつこつとその家族の元に足を運び、信頼関係を築いて、ようやく事件のことを家族が話してくれて、何が問題であるかがようやく分かったケースです。
 家族に対して、これは接近したり付きまとったりすることができないわけですね。メディアの人たちと話していると、こうすると結局、遺族や家族にアクセスができないために真実とは何かということがなかなか分からない、警察発表を一応うのみにするしかなくなってしまうんではないかということも言われています。
 この桶川のケース、もし、そのフリージャーナリストが家族に対して付きまとっている、この場合はこれに当たる可能性が出てくるんじゃないでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 四十二条一項四号でございますが、「放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関」とありまして、いわゆる報道機関がする人権侵害ということで、人権侵害の主体を報道機関としておりますけれども、この報道機関の定義でございますが、これ、不特定かつ多数の者に対しまして客観的事実を事実として知らせること又は客観的事実を知らせるとともにこれに基づいて意見若しくは見解を述べることというような、一般的な意味での報道を業として行う者をいうというふうに解しております。したがいまして、この法案の四十二条一項四号にいう報道機関には、法人、個人の別を問わず、フリージャーナリストもこのような報道を業として行う者に当たる限り報道機関に含まれるというふうに解するわけでございます。
○福島瑞穂君 ですから、例えばフリーのジャーナリストの人も入るということなわけですから、例えば犯罪行為により被害を受けた者、犯罪行為の同居の親族、兄弟姉妹に付きまとい、待ち伏せをすれば、これの例えば取材停止に当たることになりかねない、なってしまう可能性があるということを申し上げたいと思います。
 例えば、これは朝日新聞の二月十六日のケースですが、いろんなケースが、例えば、これはある国会議員が東京佐川急便の元社長から五億円が渡ったと報道され、メディアは都内のその国会議員宅にべったりと張り付いた。もし家族が過剰な取材だとこれを訴えたらどうなるのか。あるいはその人間、家族が避難をした、だけれども、そこに本人の政治家が行くのではないかということでメディアがそこに張り付いた。そういう場合はこれの付きまといに、家族から訴えがあればなってしまうのではないでしょうか。いかがでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) 法案では、成人の被疑者、被告人に対する報道や取材は特別救済の対象にはしておりません。したがいまして、犯罪の疑惑を追及されております政治家に対する報道や取材が特別救済の対象になることはございません。
 今、委員が御指摘の政治家や官僚の家族に対する報道や取材はどうかということでございますが、家族そのものに対する報道や取材は特別救済の対象になりますけれども、政治家を取材するためにその自宅を訪れ、それに伴って家族に迷惑が及ぶというような場合には、その取材はあくまでその政治家に対する取材でございますので、特別救済の要件には該当しないというように考えます。
 それからまた、家族を事件関係者として取材する場合には、これまた家族としての取材ではございませんので、特別救済の対象にはならないというふうに考えるわけです。
○福島瑞穂君 では、例えば、雪印食品による偽装牛肉事件で警察に事情聴取された社員の話を聞こうとメディアが自宅を訪ねる、その家族から苦情が出る、これはいかがでしょうか。これはやっぱり先ほどのケースと同じでしょうか。
○政府参考人(吉戒修一君) これもまた、その後、本人の取材に伴って家族の方に迷惑が及ぶという事態でございますので、これもまた特別救済の対象には当たりません。
○福島瑞穂君 時間ですので、終わります。
 人権救済の独立性の問題については納得をしておりませんし、メディア規制や公権力の人権侵害が果たしてできるのかという点について今後も質問していきます。
○委員長(魚住裕一郎君) 本日の質疑はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。
   午後四時散会