第154回国会 本会議 第20号
平成十四年四月二十四日(水曜日)


   午前十時一分開議

○議事日程 第二十一号
  平成十四年四月二十四日
   午前十時開議
 第一 外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
 第二 防衛庁設置法及び自衛隊法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
 第三 司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
 第四 障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○本日の会議に付した案件
 一、人権擁護法案(趣旨説明)
 一、農業経営の改善に必要な資金の融通の円滑化のための農業近代化資金助成法等の一部を改正する法律案及び農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法案(趣旨説明)
 以下 議事日程のとおり


○議長(倉田寛之君) これより会議を開きます。
 この際、日程に追加して、
 人権擁護法案について、提出者の趣旨説明を求めたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(倉田寛之君) 御異議ないと認めます。森山法務大臣。
   〔国務大臣森山眞弓君登壇、拍手〕
○国務大臣(森山眞弓君) 人権擁護法案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 我が国におきましては、日本国憲法の下、すべての国民は基本的人権の享有を妨げられず、個人として尊重され、法の下に平等とされております。しかし、今日におきましても、不当な差別、虐待その他の人権侵害がなお存在しており、また、我が国社会の国際化、高齢化、情報化の進展等に伴い、人権に関する様々な課題も見られるようになってまいりました。
 このような情勢にかんがみ、平成八年十二月、人権擁護施策推進法が制定され、この法律によって設置された人権擁護推進審議会におきまして、人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について調査審議が重ねられてまいりました。そして、同審議会により、平成十三年五月に人権救済制度の在り方についての答申がされ、同年十二月に人権擁護委員制度の改革についての追加答申がされました。
 そこで、この人権擁護推進審議会の答申を踏まえ、人権の世紀と言われる二十一世紀において、現行の人権擁護制度を抜本的に改革し、独立行政委員会である人権委員会の下に、人権侵害による被害の実効的な救済と人権啓発の推進を図るため、この法律案を提出する次第であります。
 この法律案の要点を申し上げますと、第一に、不当な差別、虐待その他の人権侵害をしてはならないことを明らかにしております。
 第二に、新たに独立の行政委員会としての人権委員会を法務省の外局として設置することとしております。人権委員会の委員長及び委員は、両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命するものとし、その職権行使の独立性を保障することとしております。
 第三に、人権擁護委員について、答申を踏まえて所要の規定を整備し、現行の人権擁護委員法は廃止するものとしております。
 第四に、人権委員会を主たる実施機関とする人権救済制度を創設し、その救済手続その他必要な事項を定めております。
 この人権救済制度には、あらゆる人権侵害を対象として任意の調査及び救済を行う一般救済手続と、不当な差別、虐待等について、過料の制裁を伴う調査をし、調停、仲裁、勧告、公表、訴訟援助を行う特別救済手続とを設けております。報道機関による犯罪被害者等に関する一定の人権侵害についても、表現の自由に十分配慮しつつ、特別救済手続の対象とします。なお、労働分野における人権侵害については、厚生労働大臣及び国土交通大臣もこの人権救済手続を行うこととしております。
 第五に、この法律は、平成十五年四月一日から同年七月三十一日までの範囲内において政令で定める日から施行することとしております。
 以上が、この法律案の趣旨であります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。(拍手)

○議長(倉田寛之君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。福山哲郎君。
   〔福山哲郎君登壇、拍手〕
○福山哲郎君 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました人権擁護法案に対しまして質問をいたします。
 まず冒頭に、法務大臣にお伺いいたします。
 国民にとって大変ショッキングな事件が起きました。正義を守るべき大阪高検の公安部長が暴力団関係者と共謀して詐欺などの容疑で逮捕された事件です。検察に対する国民の信頼は失墜し、併せて検察の調査活動費流用疑惑まで出てきています。
 背景も含めて、全容解明はもちろんのことですが、この事件に対する法務大臣の御見解をお伺いいたします。
 さて、二十一世紀は人権の世紀と呼ばれています。国連や世界各国において、人間の尊厳が尊重される社会の実現に向かって不断の努力が積み重ねられてきました。我が国も、真に人権が尊重され、人権侵害の起こらない社会を着実に築いていかなければなりません。
 とはいえ、現実は大きく異なっています。残念ながら至るところで人権侵害が繰り返されており、そのためには、被害者に対して実効的な救済を行う人権救済制度が必要であることは言うまでもありません。しかしながら、そのような時代の要請を一身に背負って提出されたにもかかわらず、本法案は大きな失望をもって迎えられていると言わざるを得ません。
 なぜでしょうか。
 第一は、本法案が一九九八年の国連人権規約委員会からの我が国への勧告に反しているからであります。
 その勧告とは、警察や入管職員による虐待を調査し、被害者を救済するために活動できる法務省から独立した機関を遅滞なく設置するという内容でありました。にもかかわらず、本法案では、法務省からの独立性を確保できるのかどうか、人権救済の実効性が上がるのかどうか、甚だ疑問でございます。ましてや、公権力による人権侵害からの救済についても大きく後退した内容となっています。
 第二に、本法案は、個人情報保護法案、青少年有害社会環境対策基本法案と並んで、いわゆるマスコミ規制三法案と呼ばれるもので、報道機関に対する過剰な規制となっているからであります。
 我々民主党は、人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律案大綱を作成しました。それは、人権委員会を内閣府の外局に置くこと、地方にも人権委員会を作ること、報道機関に対しては一般救済にとどめ特別救済の対象としないこと等を骨子とした内容となっております。
 以下、具体的な内容についてお伺いします。
 まず、法律の目的について、本法律案は、人権救済及び人権啓発と規定しております。なぜ人権救済や人権啓発と並んで重要な人権教育が含まれていないのでしょうか。
 九三年の国連のいわゆるパリ原則も、国内人権機関の重要な役割として、個別の人権救済活動のみならず、人権教育活動を挙げているではありませんか。
 法律の目的は、明確に救済及び予防並びに人権教育・啓発の措置とすべきと思いますが、法務大臣、いかがでしょうか。併せて文部科学大臣にもお答え願います。
 第二に、第二条では人権侵害の定義はされておりますが、人権そのものの定義はされておりません。人権の範囲が明確でなく、人権委員会によって恣意的に矮小化されるおそれがあります。
 さらに、人権侵害の定義については、本法案では、差別禁止事由として人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向を挙げておりますが、極めてあいまいであると言わざるを得ません。
 例えば、障害のある人に対して許される別異な取扱いと許されない別異な取扱いとはどの程度明確になっているのでしょうか。また、国籍による入居差別やリース契約差別等が間々見受けられますが、「人種等」の中に国籍は含まれますか。法務大臣、明確にお答えください。
 さらに、最大の問題点は人権委員会の独立性が確保されていないということであります。
 本法律案では、新たに設置される人権委員会を法務省の外局とすると規定しております。しかし、九八年の国連の市民的・政治的権利に関する国際規約委員会の我が国に対する勧告では、警察や入管職員による虐待を調査し、救済のため活動できる法務省などから独立した機関の設置こそがその内容ではなかったでしょうか。法務省の外局では、同じ省の矯正局や入国管理局の下で行われる人権侵害に対してはもちろん、警察など他省庁の不祥事に対しても積極的な救済など期待すべくもないではありませんか。
 新たに設けられる人権委員会は、人権救済の実を上げられるよう、その独立性確保のため、少なくとも法務省ではなく内閣府の外局とすべきであります。法務大臣、内閣官房長官、明確にお答えください。
 また、本法律案では、人権委員会は委員長及び委員四名の計五名で構成されるものと規定されております。わずか五名では、年間一万八千件に迫る人権侵害事件、六十五万件もの人権相談に対して到底満足に対応できるとは思われません。
 ジェンダーバランスはもちろん、NGOの関係者や人権侵害の被害経験者の意見も取り入れられるよう、委員会の構成員の多元性を確保し、人権委員会の委員をもっと増やすべきではありませんか。法務大臣、お答えください。
 さらに、本法律案は、人権委員会の下に地方事務所を置き、その事務は地方法務局長に委任できるとした上、その職員も、現在法務省の下にある法務局、地方法務局の職員を横滑りさせることとしております。あまつさえ、法務省は、人権委員会事務局と法務省本省の人事交流を当然行うとさえ表明しています。
 例えば、各地方における入管行政や拘置所において公権力による人権侵害が生起された場合、人権委員会の調査は事務委任を受けた地方法務局長が行うことになります。しかし、地方法務局長は自分が監督を受けている法務大臣の所管部局を調査することになり、正に利害相反であります。
 民主党は、差別事件とは地域で度々引き起こされることを考慮に入れて、地方公共団体に人権擁護に関する施策を推進する責務を有すると定めた上で、各都道府県にも地方人権委員会を設置することとし、新たにそのための専任の職員など体制を整備することが必要と考えます。
 仏作って魂入れずという言葉がありますが、これでは、組織である仏も中身である魂も今までと全く変わっていないではありませんか。法務大臣、お答えください。
 次に、人権擁護委員の問題です。
 人権擁護委員は、本来、私たち国民に最も身近な人権擁護活動の担い手として任務を持った方々でありますが、現実には、無報酬のボランティアとして、事実上の名誉職的存在となっております。本法案では、人権擁護委員制度には事実上全く手付かずの状態です。
 人権擁護委員の方々がその職責を十分に果たし得るようにするため、地方人権委員会の下に人権擁護委員を置き、有給にすると同時に、地方人権委員会による研修の実施も義務付けるべきであると思われますが、法務大臣の見解を伺います。
 本法律案のもう一つの大きな問題点は、いわゆる報道機関による人権侵害に対する過剰な規制であります。
 本法案は、報道機関による人権救済の対象として、プライバシーを侵害する報道と過剰な取材を挙げております。しかし、そこでいう過剰な取材とは一体いかなる程度のものをいうのでしょうか。「みだりに」とか「著しく」としか規定されていない抽象的な条文だけからでは、その境界線は極めて不明確と言わなければなりません。
 本法律案では、取材を拒む被害者や容疑者の家族らを継続して待ち伏せし、見張ることなどのほか、繰り返し電話を掛け、ファクシミリを送信することが過剰な取材に当たると明文化しています。過剰な取材とみなされれば、人権委員会が取材停止の勧告、公表に踏み切ることになっています。一体、電話やファクシミリをどの程度繰り返せば過剰な取材となるのでしょうか。法務大臣、お答えください。
 本法律案は、報道の自由に十分配慮するとか、報道機関による自主的な取組を尊重しなければならないといった規定を置いてはおりますが、それを実質的に保障するだけの手続的規定、例えば、人権委員会の判断に対して報道機関が異議を申立てする権利すら認めておりません。配慮や尊重といった文言のあいまいさを考えれば、事実上、特別救済の対象となるか否かは人権委員会の判断に白紙委任されているに等しいと言っても過言ではありません。
 民主主義社会の基盤を成す国民の知る権利を守るためにも、民主党は、報道機関による人権侵害については、第一に、任意の手続である一般救済の下に置き、特別救済についてはすべて報道機関を適用除外とすること、第二に、その上で報道機関が自主的な救済に向けた取組を行うよう努めることをしっかりと求めております。民主党の言う、報道機関はすべて特別救済の適用除外とすることについて、法務大臣の明確な御答弁をお願いいたします。
 最後に、雇用の場における差別的取扱い等に関して、本法律案が、労働関係は厚生労働大臣、船員関係は国土交通大臣に救済措置を一任すると規定していることも極めて不当であります。
 この点について、人権擁護推進審議会の答申においても、解決が困難な一定の事案については人権救済機関が積極的に救済を行うとされていた以上、すべての領域の人権救済は人権委員会で一元的に行われるべきであります。にもかかわらず、厚生労働省や国土交通省で特別救済を行う旨の特例を設けられたのは、これまた人権委員会を法務省の外局としたことから生じた縦割り行政からくる弊害以外の何物でもないではありませんか。法務大臣、内閣官房長官にお伺いいたします。
 以上、申し上げてきましたように、本法律案は、現行の法務省の人権擁護行政の焼き直しともいうべき人権擁護局再編法案にすぎず、国民の知る権利を侵す可能性があり、冒頭の大阪高検事件、外務省疑惑、農水省BSE問題と、次々と行政の信頼が揺らぐ中で、行政に裁量権を大きくゆだねることになり、極めて不十分な内容となっております。
 私ども民主党は、国会の審議を通じて、このままこの法案を成立させてはいけないということを国民に明らかにするとともに、実効的な人権救済機関を作るためにもあらゆる点で修正を強く求めることを表明し、質問を終わらせていただきます。(拍手)
   〔国務大臣森山眞弓君登壇、拍手〕
○国務大臣(森山眞弓君) 福山議員にお答え申し上げます。
 まず、大阪高等検察庁前公安部長が逮捕された事件に関する見解についてのお尋ねがございました。
 今回の事件は、他人の刑事責任を追及するべき検察庁の幹部としてあるまじき不祥事でございまして、誠に遺憾に存じております。
 検察が暴力団と恒常的に癒着しているというようなことは全くなく、一人の検事のために、日本の安全及び治安を守るため日夜努力している大勢の全国の検事の名誉が甚だしく汚されたことを非常に残念に思っております。
 この事件については、検察当局において、その全容の解明に向けて徹底的な捜査を遂げるものと承知しておりますが、その結果を踏まえつつ、適切な措置を取ってまいりたいと考えております。
 次に、人権擁護法案の目的についてお尋ねがありました。
 人権教育及び人権啓発につきましては、平成十二年末に施行された人権教育及び人権啓発の推進に関する法律が、その推進のための基本的事項を定めており、本法案成立後も、この人権教育・啓発推進法に基づいてその推進が図られていくものでございます。
 本法案は、人権教育・啓発推進法の存在を前提とした上で人権救済制度の創設等を目的とするものであり、そのような目的と直接関連しない人権教育については、目的の中で特段に言及しておりません。
 もとより、人権尊重社会の実現のためには、人権啓発や人権救済と並んで人権教育の役割が重要であることは言うまでもございません。人権委員会としても、人権教育にかかわる関係機関と相互に連携協力していく必要があると考えております。
 次に、人権侵害の定義についてお尋ねがございました。
 まず、障害のある人に対する関係で、何が許されない不当な差別的取扱いに当たるかをあらかじめ一義的に明確にすることは困難でございますが、個別具体的な事案の事実関係に即して適切に判断されることになります。
 次に、第二条で定める差別禁止事由としての「人種等」には、国籍は含まれておりません。国籍は、国家の構成員としての法的な資格でございまして、国政上、合理的な区別理由となり得る場合が多く、判例上も、憲法による基本的人権の保障について、権利の性質上外国人には保障の及ばない権利があるとされております。また、人種差別撤廃条約でも、国籍の有無という法的地位の相違に基づく異なる取扱いを条約の対象外とすることを明示しております。一方、現在、私人間において、外国人に対する差別として問題となっている事案は、実態としては人種又は民族を理由とする差別的取扱いにほかならないものがその多くを占めます。このようなことから、類型的な差別禁止事由として国籍を掲げなかったものであります。
 次に、人権委員会の設置場所についてお尋ねがありました。
 人権委員会を法務省の外局として設置することといたしましたのは、昨年一月に実施された中央省庁の再編に当たり、人権擁護は、国民の権利擁護をその基本的任務とする法務省において引き続き所掌すべきこととされ、今後特に充実強化すべきものとして整理されていること、法務省は、人権侵害に関する調査及び救済措置としての調停、仲裁、訴訟援助、差止め請求訴訟の提起等の職務の遂行のための法律的な専門性を有する職員を擁するとともに、人権救済に対する専門的な知識、経験の蓄積を有することによるものであります。
 また、人権委員会は、国家行政組織法第三条第二項に基づく独立の行政委員会として設置され、委員長及び委員の任命方法、身分保障、職権行使の独立性の保障等により、その職権の行使に当たっては所轄の大臣から影響を受けることがないよう高度の独立性を確保することとされておりますので、法務省の外局として設置いたしましても、独立性の観点からも問題はないと考えております。
 次に、人権委員会の委員について、構成の多元性を確保しつつ、その人数を増やすべきではないかとのお尋ねがありました。
 人権委員会の委員につきましては、多様な人材の確保の観点から、委員長及び委員四名の構成としたものであります。そして、委員会には、その事務を処理させるため、事務局を置くこととしている上、日々各地で生起する人権侵害事案に適切に対応するため、事務局の地方機関として所要の地に地方事務所を置くこととするなどして事務局の地方組織を整備することを予定しております。
 人権委員会は、これらの職員を適切に指揮監督し、事件の調査を実施させるなどして多数の人権侵害事件を適正、迅速に処理することができますので、その人数を更に増やす必要はないものと考えております。
 次に、地方における人権委員会の設置についてお尋ねがありました。
 本法案は、人権委員会の地方組織の在り方として、地方委員会の設置ではなく、委員会事務局の地方における組織体制の整備を図ることが必要である旨提言した人権擁護推進審議会の答申の趣旨を踏まえ、人権委員会を中央に一つ設置することとし、地方に委員会を設置しないこととしております。
 その主な理由は、新しい人権救済制度の下では、人権委員会は、主に特別救済の対象となる人権侵害について、事務局において調査した結果を踏まえ、事実認定及びこれを前提とした救済方法の決定等を行う意思決定機関としての役割を担うことが予定されており、このような職務内容等からして、地方ごとに委員会を設置する必要性に乏しいこと、人権侵害とされる行為の違法性に対する評価については、事柄の性質上、全国的に統一された判断がなされる必要があることなどであります。
 次に、人権擁護委員についてお尋ねがありました。
 本法案においては、人権擁護委員は、人権委員会が委嘱するものとし、従前のとおり、無給で、予算の範囲内において、職務を行うために要する費用の弁償を受けることができるものとしております。
 この取扱いは、人権擁護推進審議会の答申を踏まえ、社会貢献として人権擁護活動に従事するという人権擁護委員の基本的性格や、民生委員、保護司等の待遇との均衡を考慮したものであります。他方、職務を行うために要する費用については、人権擁護委員の活動の充実のため、十分補われるように努めてまいりたいと考えております。
 また、本法案は、人権擁護委員に対する研修の実施も含めて、人権擁護委員の養成に努めるべき人権委員会の責務を定めているところであり、研修の充実を図る必要があると考えております。
 次に、報道機関による人権侵害に関して、過剰な取材についてのお尋ねがありました。
 本法案においては、報道機関等の取材活動による人権侵害を特別救済の対象として取り上げていますが、ここでは、取材を拒否している犯罪被害者等に対して付きまとい、待ち伏せ等の具体的に限定した行為を反復、継続して行うなどして当該犯罪被害者等の生活の平穏を著しく害する場合を対象としております。
 電話やファクシミリをどの程度繰り返せば過剰な取材となるかは、個別事案の判断となりますので、これを一般的に言うことは困難でございますが、犯罪被害者等の置かれている状況や電話、ファクシミリの内容、その反復、継続の程度、態様など、個別具体的な事案の事実関係に即して適切に判断されることとなります。
 次に、報道機関はすべて特別救済の適用除外とすべきではないかとのお尋ねがありました。
 報道機関による人権侵害につきましては、まずは報道機関自身による自主規制が図られるべきでありますが、報道機関による人権侵害の実情と報道機関の自主規制の現状に照らしますと、犯罪被害者等の弱い立場にある者に対する一定の人権侵害については、人権救済制度の中で実効的な救済を図る必要があります。
 そこで、本法案においては、報道機関による人権侵害についても特別救済の対象としておりますが、これは、報道や取材について何ら新たな規制を設けるものではなく、現行法の下で既に違法と評価される報道機関による一定の人権侵害について、その範囲を明示した上、それが行われた場合の事後的な救済手続を整備するものであり、かつ調査も任意のものに限るとともに、報道、取材の自由への配慮と報道機関等の自主的な取組の尊重を特に明記するなど、表現、報道の自由に十分に配慮した内容となっております。
 次に、労働分野の人権救済に関する特例についてお尋ねがありました。
 本法案は、人権擁護推進審議会の答申に基づき立案したものでありますが、平成十三年五月の答申は、人権委員会を担い手とする新たな人権救済制度の創設を提言する一方で、既に被害者の救済にかかわる専門の機関が置かれている分野においては、当該機関との適正な役割分担を図るべきであると指摘しております。
 労働分野における差別的取扱い等については、従来から、厚生労働省及び国土交通省において被害者の救済にかかわる制度が整備され、実施されてきたところであります。労働分野における人権救済制度の適切な運用に当たっては、労働法制、労使慣行、労務管理実務等に関する知識が必要不可欠であり、そうした知識を有する職員等のいる厚生労働省及び国土交通省で救済を図ることが効率的かつ効果的であると考えられます。
 このようなことから、労働分野の人権救済に関する特例を設けたものでございます。(拍手)
   〔国務大臣遠山敦子君登壇、拍手〕
○国務大臣(遠山敦子君) 福山議員にお答えを申し上げます。
 人権擁護法案の目的と人権教育との関係についてのお尋ねでございますが、人権教育につきましては、平成十二年に人権教育及び人権啓発の推進に関する法律が制定されておりまして、我が省では、これに基づいて人権尊重の意識を高める教育の推進に努めているところであります。
 このたびの人権擁護法案は、こうした人権教育に関する法律や取組を前提とした上で、人権委員会の設置及び人権救済制度の創設を趣旨とするものでありまして、これらの施策が相まって人権の擁護が図られるものと考えております。
 もとより、人権の擁護を目指す上で人権教育の果たす役割は極めて重要でございます。文部科学省といたしましては、本年三月に閣議決定いたしました人権教育・啓発に関する基本計画に基づき、学校教育及び社会教育を通じた取組を推進して、人権教育の一層の充実を図ってまいりたいと考えております。(拍手)
   〔国務大臣福田康夫君登壇、拍手〕
○国務大臣(福田康夫君) 福山議員にお答えをいたします。
 まず、人権委員会の設置場所についてのお尋ねでございますが、このたび新たに設置される人権委員会については、人権擁護をその所掌業務とする法務省に人材やノウハウの蓄積があるということを考慮しまして、委員会運営の独立性にも配慮した形で、法務省の外局として設置するということとされたものと承知しております。
 次に、労働分野の人権救済に関する特例についてのお尋ねでございますが、御指摘の特例は、厚生労働省及び国土交通省が労働分野の人権救済について人材やノウハウの蓄積を有することを考慮して、行政組織間における適正な役割分担を定めたものであると承知をいたしております。(拍手)

○議長(倉田寛之君) 井上哲士君。
   〔井上哲士君登壇、拍手〕
○井上哲士君 私は、日本共産党を代表して、人権擁護法案について森山大臣に質問いたします。
 法案に入る前に、大阪高検前公安部長の逮捕にかかわってただすものであります。
 高検幹部が暴力団と癒着し、恐喝まがいのことまでやっていたこと自体、前代未聞の不祥事であります。加えて重大なことは、この逮捕が、前公安部長が検察の機密費とも言うべき調査活動費について、その不正流用を暴露する予定であったときに合わせるかのようにして行われたことであります。
 なぜこの時期の逮捕だったのか。調査活動費とは無関係なのか。また、この際、調査活動費の実態を公表すべきではないのか。法務大臣の答弁を求めます。
 人権侵害を迅速、簡易に救済する新たな人権救済機関は、市民団体や日弁連等多くの人々から求められてきました。それは、我が国憲法が世界でも最も幅広い人権規定を持っているにもかかわらず、長年の自民党政治の下で、国民の人権が憲法の規定から大きく立ち後れてきたからであります。
 国際社会では、人権保障の条約が作られるとともに、九三年の国連総会決議によるパリ原則に基づいて、政府から独立して独自の権限を持つ人権救済機関の設置が進められてきました。ところが、本法案による人権委員会はこれらからほど遠いものとなっております。今日求められているのは、国際的な水準に立ち、憲法の人権条項を実効あるものとする人権救済機関であります。
 法案の問題点は、まず、政府からの独立性の欠如です。
 今日、最も重大で救済が困難なものは公権力による人権侵害です。また、基本的人権は、権力による人権侵害への対抗の中で確立してきた歴史があります。国際規約人権委員会も、我が国に対し、警察や入管職員による虐待を調査し、救済のため活動できる独立した機関を遅滞なく設置することを勧告しています。
 ところが、本法案では、人権委員会は法務省の外局として置かれ、その事務局には法務省人権擁護局が横滑りし、法務省との人事交流も行われます。地方事務所では法務局の職員が兼務します。五人の人権委員以外はすべて法務省と一体ではありませんか。どうしてこれで独立した機関と言えるのか、明確な答弁を求めます。
 昨年、収容中の中国人が逃走した事実を隠すために、東京入国管理局が関係公文書の廃棄や偽造を行うという事件が起きました。ところが、法務省は、報告を受けながら半年間も事実上放置し、マスコミに報道されてからやっと再調査して関係者を処分しました。身内の不祥事を隠すこの事件一つを見ても、法務省の外局の機関では、法務省管轄の刑務所や入国管理施設内での人権侵害を救済できないことは明らかではありませんか。
 法務省の外局である公安調査庁は、日本共産党や市民団体などに日常的なスパイ活動を行っています。九九年には、日本ペンクラブや日本ジャーナリスト会議もその調査対象としていることが内部文書で明らかになりました。関係団体からの人権救済の申立てを受けた日弁連は、今年一月、公安調査庁長官あてに、団体参加者の思想、信条の自由、更にはプライバシーの権利までを不当に侵害するものだとした厳しい警告書を発しました。こうした人権侵害こそ直ちに中止すべきであります。
 人権委員会は公安調査庁による人権侵害も救済の対象とするのですか。また、法案では、国の他の行政機関に嘱託調査ができるとしていますが、公安調査庁に嘱託することはあり得るのですか。あってはならないと考えますが、はっきりお答えください。
 大問題なのはメディア規制の問題です。
 法案は、メディアによる過剰取材、プライバシーの侵害などの報道被害もその対象としていますが、こうした被害は、メディア自らが自主的な対応を一層強化して解決すべきものであります。メディアの粘り強い取材は、政治家の汚職や権力犯罪を暴露し、真実を究明するなど、国民の知る権利と人権を守る上で大きな役割を果たしてきました。このような報道機関を差別や虐待と同列に置いて規制の対象とすること自体が妥当性を欠くのではありませんか。
 表現の自由を保障するとは、何より公権力によってこれを制限することを禁止する意味だ、これが憲法学の常識です。とりわけ、政治家や公権力への取材規制はあってはなりません。ところが本法案では、「みだりに」や「著しく」など極めてあいまいな規定で過剰取材やプライバシー侵害の判断を委員会にゆだね、報道機関からの異議申立ても認められません。これは、憲法二十一条に規定された表現の自由への行政の介入となり、国民の知る権利を奪い、ひいては民主主義の基盤を危うくするものではありませんか。お答えください。
 報道被害の対象を容疑者の家族や被害者とその家族などに限定しているといいます。しかし、政治家の金権・汚職で家族を隠れみのにしてきたものは少なくありません。また、桶川ストーカー事件では、被害者の再三の要請にもかかわらず警察が対応せず、尊い命が失われました。このことを警察は隠していましたが、メディアによる被害者家族への粘り強い取材を通じて明らかになりました。こうした取材を規制するならば、政治家の金権事件や公権力の人権侵害を覆い隠すことになるのではありませんか。報道機関については特別救済から外すべきであります。答弁を求めます。
 さらに法案は、メディアのみならず、広く国民の言論・表現活動も規制の対象としています。しかし、諸外国で厳しく規制されているのは行為としての差別的扱いであり、言論・表現活動を対象とする例はほとんどありません。法案では、不当な差別的言動等や差別助長行為も制裁を伴う調査や停止勧告、差止め請求訴訟の対象とし、何を差別的と判断するかは委員会に任されています。これでは、国民の言論、表現の自由や内心の自由にまで行政が介入することになるのではありませんか。
 もう一つの大問題は、労働分野での差別的取扱いを特例として委員会の対象から外していることです。
 国民の大多数が勤労者である我が国で、雇用の場での人権侵害は極めて重大です。とりわけ、大企業における女性差別や思想信条による差別は深刻で、職場に憲法なしとも言われ、多くは泣き寝入りをしています。裁判に訴えても、関西電力の思想差別事件は最高裁で労働者が勝利するまでに実に二十八年、芝信用金庫における女性差別は十五年近く掛かってもまだ最高裁で審理中であり、裁判の長期化自体が著しい人権侵害になっています。
 厚生労働省の調停委員会や都道府県労働局長によるあっせんなどの仕組みは、全体として会社側の言い分に沿った内容が多く、実効が上がっていません。雇用の平等の分野こそ、独立した人権委員会が、企業に対して文書提出命令、立入調査などを行い、迅速、簡易に労働者の人権救済をすることが必要です。
 なぜ、あえて特例を設けたのですか。先進諸国の人権救済機関は、雇用の場での人権救済をその中心的課題とし、実効ある措置を取っています。こうした例にも学び、労働分野での特例をやめるべきです。答弁を求めます。
 結局、公権力による人権侵害の救済にはつながらない、形ばかりの人権委員会を作って国際的な批判などをかわし、人権の名の下に、政府・自民党の長年の願望であった報道、表現の自由への介入の道を開くというのがこの法案の本質であります。このような法案は撤回をし、抜本的に見直しすべきだと強く指摘して、質問を終わります。(拍手)
   〔国務大臣森山眞弓君登壇、拍手〕
○国務大臣(森山眞弓君) まず、大阪高検幹部の逮捕の問題でございます。
 なぜこの時期の逮捕だったのか、調査活動費と無関係なのかというお尋ねがございました。
 本件につきましては、暴力団を取り締まる責任者の立場にある高等検察庁の現職幹部が暴力団関係者と親密な交際をした上で本件違法行為に及んでいたという悪質、重大な事件であることから、検察当局において捜査を行ったところ、相当な嫌疑が認められたこと、事案の内容から逮捕の必要性が強く認められたこと等を考慮いたしまして厳正に対処したものであり、御指摘の調査活動費の問題とは無関係であると承知しております。
 調査活動費の実態について公表すべきではないかというお尋ねがありました。
 検察の調査活動費については、経費の性質上明らかにできない部分もございますが、検察当局においては、今後の捜査の過程で、三井検事本人の弁解や主張も十分聴取した上で、犯罪事実に該当するものがあれば厳正に対処するものと承知しております。
 次に、人権委員会の組織の独立性についてお尋ねがございました。
 人権委員会は、国家行政組織法第三条第二項に基づく独立の行政委員会として設置され、委員長及び委員の任命方法、身分保障、職権行使の独立性の保障等により、その職権の行使に当たって内閣や所轄の大臣等から影響を受けることがないよう高度の独立性を確保することとしております。
 また、中央の事務局及び地方事務所の職員はもちろん、委任を受けた地方法務局の職員は、高度に独立性を確保された人権委員会の委員長の指揮監督を受け、かつ、特に独立性が要求される公権力やマスメディアによる人権侵害事件の調査については、人権委員会の指揮監督の下で、中央事務局又は地方事務所が行うことなどを予定しているところであり、人権委員会の独立性は十分確保されるものと考えております。
 次に、法務省の機関における人権侵害についての救済手続の実効性についてお尋ねがありました。
 人権委員会は、国家行政組織法第三条第二項に基づく独立の行政委員会として設置され、委員長及び委員の任命方法、身分保障、職権行使の独立性の保障等により、その職権の行使に当たっては所轄の大臣から影響を受けることがないよう高度の独立性を確保することとされております。したがって、人権委員会が法務省の機関における人権侵害の調査、処理をするに当たって、法務大臣から影響を受けることは一切なく、実効的な救済を行うことができると考えております。
 次に、公安調査庁による人権侵害についてお尋ねがありました。
 新しい人権救済制度は、人権侵害一般を対象とする一般救済手続と特定の人権侵害を対象とする特別救済手続とから成りますが、公安調査庁によるものも含めて公権力による人権侵害が認められれば、その内容に応じ、人権委員会により一般救済、特別救済のいずれかが図られることとなります。
 次に、公安調査庁への調査嘱託の可能性についてお尋ねがありました。
 本法案第四十条に定める国の他の行政機関への調査嘱託は、当該行政機関の所掌事務に応じて人権委員会が適切な嘱託先を選定して行うものです。
 公安調査庁の行う調査は、破壊活動防止法及び無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律に基づく規制を目的とする調査に限られておりまして、人権侵害の救済を目的として調査を行うことができませんので、報道機関等によるものも含めて、人権侵害事件について公安調査庁に調査嘱託することはあり得ないものと考えております。
 次に、報道機関等による人権侵害と差別、虐待を同列に扱うのは不当ではないかとのお尋ねがありました。
 しかしながら、本法案では、差別、虐待については、我が国の実情に照らして、特に救済の必要性が高い人権侵害の典型的な類型であるとの認識に基づき、特にその違法性を明確にするための具体的な禁止規範第三条を設けた上で、特別救済の対象として位置付け、かつ過料の制裁を伴う調査も行うことができるようにしております。
 これに対し、報道機関等による人権侵害については、禁止規範を設けず、特別救済の対象となる報道機関による人権侵害を限定するための明確な規定を置いており、かつ調査も任意のものに限るとともに、報道機関等の自主的な取組の尊重を特に明記するなど、表現、報道の自由に十分に配慮した位置付けをしているものであり、決して報道機関による人権侵害を差別、虐待と同列に扱うものではございません。
 次に、報道機関等による人権侵害への特別救済手続の導入は、表現の自由への介入であり、国民の知る権利を奪うことになるのではないかとのお尋ねがありました。
 報道機関による報道及びそのための取材活動は、議員御指摘のとおり、国民の知る権利の保障に重要な役割を果たしております。しかし、本法案は、報道機関による報道、取材について何ら新たな規制を設けるものではなく、現行法の下で既に違法と評価される報道機関による一定の人権侵害について、その範囲を明示した上、それが行われた場合の事後的な救済手続を整備するものであり、かつ調査も任意のものに限るとともに、報道機関等の自主的な取組の尊重を特に明記するなど、表現、報道の自由に十分に配慮した内容となっております。したがって、御指摘のように、表現の自由に不当に介入し、国民の知る権利を奪うことになることはあり得ないと考えております。
 次に、政治家の犯罪の取材などに規制が掛けられることになるのではないかとのお尋ねがありました。
 しかしながら、本法案では、被疑者・被告人本人に対する取材は特別救済の対象としておりません。一方、その家族は特別救済の対象となりますが、取材の対象があくまで本人であり、特段その家族に対する付きまとい等を伴わない場合には、その取材は家族に対する取材とは言えず、特別救済の対象とはなりません。したがって、政治家の犯罪の取材などに規制が掛けられるという御批判は当たらないものと考えます。
 次に、犯罪被害者への取材制限によって、警察の不祥事などを覆い隠すことになるのではないかとのお尋ねがありました。
 本法案は、犯罪被害者等の生活の平穏を著しく侵害する取材を特別救済の対象としておりますが、それは、現行法の下でも既に違法と評価される行為について救済手続を整備するものであり、これにより正当な取材活動が何ら制限されるものではありませんから、御指摘のような懸念はないものと考えております。
 次に、報道機関による人権侵害を特別救済の対象から外すべきではないかとのお尋ねがありました。
 報道機関による人権侵害につきましては、まずは報道機関自身による自主規制が図られるべきでありますが、報道機関による人権侵害の実情と報道機関の自主規制の現状に照らしますと、犯罪被害者等の弱い立場にある者に対する一定の人権侵害については、人権救済制度の中で実効的な救済を図る必要があります。
 そこで、本法案においては、特別救済の対象を犯罪被害者等に対する報道による著しいプライバシー侵害と生活の平穏を著しく害する過剰な取材という必要最小限のものに限定するとともに、調査を任意のものに限り、かつ報道、取材の自由への配慮と報道機関による自主的取組の尊重を明記するなど、表現の自由、報道の自由に最大限に配慮しつつ、報道機関による人権侵害についても実効的な救済を図ることとしたものです。
 次に、言論、表現の分野の問題を差別的言動等、差別助長行為等として特別救済の対象とすることについてお尋ねがありました。
 特別救済の対象となる差別的言動等は、侮辱、名誉毀損、性犯罪といった犯罪を構成し、あるいは民法上の不法行為が成立するなど、従来から違法とされてきたものであります。
 また、特別救済の対象となる差別助長行為等の要件は極めて限定的なものとなっており、これに該当するのは放置すれば不特定多数の者に対する不当な差別的取扱いが行われる危険性が高いものに限られておりますし、その差止めは訴訟手続を経た上で裁判所の判断によって行われるもので、行政機関である人権委員会が自ら強制力を行使して実現を図るものではありません。したがって、これらの行為を特別救済の対象とすることは言論及び表現の自由の保障の観点からも問題はないものと考えております。
 次に、労働分野の人権救済に関する特例についてお尋ねがありました。
 平成十三年五月の人権擁護推進審議会の答申は、既に被害者の救済にかかわる専門の機関が置かれている分野においては、当該機関と人権委員会との適正な役割分担を図るべきであると指摘しております。
 労働分野における差別的取扱い等については、従来から、厚生労働省等において被害者の救済にかかわる制度が整備され、実施されてきたところであります。労働分野における人権救済制度の適切な運用に当たっては、労働法制、労使慣行、労務管理実務等に関する知識が必要不可欠であり、そうした知識を有する職員等のいる厚生労働省等で救済を図ることが効率的かつ効果的であると考えております。平成十三年十二月に公労使三者構成の労働分野における人権救済制度検討会議で取りまとめられた報告にも同様の考え方が示されているところであります。
 次に、人権擁護法案を抜本的に見直すべきではないかとのお尋ねがありました。
 この法案は、パリ原則等の国内人権機構に関する国際的潮流を十分に踏まえたものであり、また、報道機関による人権侵害の取扱いについても、報道の自由、取材の自由に十分配慮した内容になっております。
 この法案は、人権の世紀と言われる二十一世紀において、人権尊重社会を実現するために是非とも必要な人権救済制度の創設等を目的とするものでありますので、どうぞ慎重に御審議いただきまして、速やかに成立さしていただきますようお願い申し上げます。(拍手)

○議長(倉田寛之君) 島袋宗康君。
   〔島袋宗康君登壇、拍手〕
○島袋宗康君 私は、国会改革連絡会(自由党・無所属の会)を代表して、ただいま議題となりました人権擁護法案に対して質問をいたします。
 今年は、戦後五十七年、沖縄の復帰三十年の節目の年であります。沖縄は、二十七か年間の米軍政下で、数多くの人権侵害事件を体験いたしました。今でも、沖縄は、在日米軍専用施設の七五%を抱えて、米軍による事件、事故及び人権侵害に悩まされております。
 私は、人権問題に高い関心を持っております。
 さて、本法案の趣旨説明において、森山法務大臣は、人権の世紀と言われる二十一世紀において、人権擁護制度を抜本的に改革するため本法律案を提出した旨の表明がなされました。
 二十一世紀を人権の世紀にすることの認識については、私も大臣と同じであります。人権は長い歴史の中でかち得た人類普遍の原理であり、自由が保障され、いわれなき差別のない、平等で個人が尊重される社会は民主主義の基盤であります。
 新しい世紀に入った今こそ、我が国が経済的な繁栄だけでなく、人権の実現にたゆみない努力を積み重ねていくことは、国際社会においても尊敬されるゆえんであると考えます。
 しかしながら、その大臣の決意とは対照的に、本法律案の内容は、真の人権擁護にふさわしいものになっているとは到底言えないのではないでしょうか。
 以下、本法律案の問題点を指摘しつつ、政府の所見を求めます。
 その第一は、本法律案が設置を予定している人権委員会の独立性が確保されていないということであります。
 本法律案によれば、人権委員会は法務省の外局とすると規定されております。しかしながら、そもそも一九九三年に国連総会が採択したいわゆるパリ原則及び一九九八年の国連の市民的・政治的権利に関する国際規約委員会の我が国に対する勧告の双方ともに、政府から独立した人権救済機関の必要性を指摘しております。また、我が国の人権擁護推進審議会が昨年五月に出した答申においても、人権救済機関は政府からの独立が不可欠であるとされております。
 すなわち、政府からの独立性の確保こそ人権救済機関の生命線と言っても過言ではありません。このことは、我が国の人権侵害の多くが、公権力の行使に付随して警察や法務省の矯正局及び入国管理局の管轄下で発生しているという現状に照らしても明らかであります。
 大阪高検事件を見ても、法務省の外局に人権という重要問題を扱う機関を設けることは不条理であることを証明しています。真の人権救済を実現しようとするならば、独立性確保のため、人権委員会を法務省ではなく、少なくとも内閣府の外局とすべきことこそ新しい人権委員会の出発点ではありませんか。お答えください。
 さらに、一年に一万七千件以上も起こっている人権侵害事件に対し、本法律案の人権委員会は、委員長及び委員四名のわずか五名をもって組織するとされているにすぎません。果たして、それで山積する人権侵害事件に十分な対処ができるのでしょうか。また、現実の人権救済は、地方でどれだけ実効ある救済が行われるかに懸かっているのであります。
 ところが、この点、本法律案は、人権委員会事務局の地方機関として、現行の法務局、地方法務局を改組した地方事務所を置くこととした上で、その事務も地方法務局長に委任できるとしております。実質的に人権保障に携わる職員の人事が公権力の行使をする部局ともローテーションで配置されることにもなり、独立性の保障は全くないのであります。これでは、現在、地方法務局で行われている人権擁護行政の単なる看板の書換えと一体どれだけ違うのでしょうか。二十一世紀は人権の世紀という言葉が泣きませんか。法務大臣、お答えください。
 地域の実情に応じた実効性のある人権救済を実現しようとするならば、中央の人権委員会と並んで、現行の法務局、地方法務局の改組ではない、新たな組織として地方にも人権委員会を設置し、それにふさわしい人的・物的基盤を整備することこそ不可欠と考えますが、いかがでしょうか。法務大臣の見解をお伺いいたします。
 次に、理由の第二は、報道機関による人権侵害を差別や虐待と同列に並べて特別救済の対象とした結果、メディアに対する規制につながる危険性があることであります。
 本法律案は、報道による人権侵害の類型として報道によるプライバシー侵害や過剰な取材を挙げ、人権委員会が取材停止を勧告したり、勧告内容を公表したりすることまでも認めております。しかしながら、そもそも一体何が過剰な取材等に当たるのかは必ずしも明らかではなく、その判断は人権委員会にゆだねられ、また、報道機関が人権委員会の判断に対して不服を申し立てるための規定すら置かれていないのであります。
 このような規制を許すならば、国民の知る権利にこたえるための熱心な報道・取材行為が萎縮してしまうのみならず、人権委員会の運用次第で報道内容にも影響が及ぶなど、憲法の禁止する検閲に触れるおそれすらないとは言えないと言わなければなりません。
 そもそも、人権の中でも、表現の自由を始めとする精神的自由が民主主義社会においてとりわけ重要な優越的な地位にあるとして、報道の自由が表現の自由を規定した憲法二十一条の保障の下にあることは改めて言うまでもないことであります。にもかかわらず、このような法律が施行されるならば、民主主義社会において不可欠である国民の知る権利を否定することにつながる危険性は計り知れません。
 もとより、メディアは何をしてもよいとは考えません。現に、メディアの過剰取材や誤った報道により、人権侵害が生じている例が数多くあることも事実であります。しかし、そのような場合でも、メディアに対する直ちに公権力が介入するのではなく、被害者の救済に関しては、まず一次的には、報道機関自らの、新聞倫理綱領の改定や第三者によるチェック機関の設置、あるいは放送と人権等権利に関する委員会機構の設立といった人権擁護のための自主的な取組を十分尊重すべきであります。国民の知る権利の重要性にかんがみれば、まず、このような報道機関の自主的な取組を尊重することこそ世界の流れであり、報道に法規制を掛けようとする本法律案の在り方は、民主主義社会に対する権力の極めて不当な介入と言わなければなりません。
 民主主義社会に対する権力の不当な介入といえば、過去に、ある総理大臣は、沖縄の地方新聞二紙が特定の政党に支配されているとの不当な発言をされた記憶もまだ古いことではございません。
 私は、本法律案から表現、報道の分野に対する規制は削除すべきであると考えますが、法務大臣の見解をお伺いします。
 作家の城山三郎氏は、今回の人権擁護法案は、いったん施行されてしまえば取り返しの付かない恐怖の法律であるとし、人権擁護の美名に惑わされてはならないと批判しております。二十一世紀は人権の世紀とおっしゃるのであれば、今、政府の行うべきことは、人権三法という美名に隠れて本法律案や個人情報保護法案あるいは青少年有害環境対策基本法案といったいわゆるメディア規制三法案を強行することではなく、十分時間を掛けて真摯に議論を積み重ね、人権の世紀にふさわしい、真の人権擁護のための法律案としての内容に抜本的に改めることであるということを強く主張いたします。
 最後に、本法律案とは直接の関連はありませんが、一昨日、法と正義の番人である検察官、しかも大阪高等検察庁の公安部長という要職にある検察官が詐欺事件によって逮捕されるという前代未聞の不祥事が発生いたしました。このようなことでは、国民の検察に対する信頼は大きく傷付いたと言わなければなりません。
 この事態に対して、法務行政の責任者として、法務大臣はどのような御所見を持っておられるのかお伺いいたしまして、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔国務大臣森山眞弓君登壇、拍手〕
○国務大臣(森山眞弓君) 島袋議員にお答え申し上げます。
 まず、人権委員会の設置場所についてお尋ねがありました。
 人権委員会を法務省の外局として設置することといたしましたのは、昨年一月に実施された中央省庁の再編に当たり、人権擁護は、国民の権利擁護をその基本的任務とする法務省において引き続き所掌すべきこととされまして、今後特に充実強化すべきものとして整理されていること、法務省は、人権侵害に関する調査及び救済措置としての調停、仲裁、訴訟援助、差止め請求訴訟の提起等の職務の遂行のための法律的な専門性を有する職員を擁するとともに、人権救済に対する専門的な知識、経験の蓄積を有することによるものであります。
 また、人権委員会は、国家行政組織法第三条第二項に基づく独立の行政委員会として設置され、委員長及び委員の任命方法、身分保障、職権行使の独立性の保障等により、その職権の行使に当たっては所轄の大臣から影響を受けることがないよう高度の独立性を確保することとされておりますので、法務省の外局として設置しても、独立性の観点からも問題はないと考えております。
 次に、人権委員会は多数の人権侵害に十分に対応できるのかとのお尋ねがありました。
 人権委員会は、委員長及び委員四名で構成することとしておりますが、人権委員会にはその事務を処理させるため事務局を置くこととしている上、日々各地で生起する人権侵害事案に適切に対応するため、事務局の地方機関として所要の地に地方事務所を置くこととするなどして、事務局の地方組織を整備することを予定しております。
 意思決定機関としての人権委員会は、これらの職員を適切に指揮監督し、事件の調査を実施させるなどして、多数の人権侵害事件を適正、迅速に処理することができるものと考えております。
 次に、委員会事務局の地方機関の独立性についてお尋ねがありました。
 人権委員会につきましては、高い独立性を確保するために、いわゆる独立行政委員会として設置し、事件の調査等の事務を実施する委員会固有の事務局を置いた上、その事務局には、全国各地で発生する人権侵害事件に適切に対応するため所要の地に地方事務所を置き、特に中立、公正さが要求される事件の調査を行わせるなどして、人権委員会の適正な判断に資する組織体制を整備することを考えております。
 また、地方事務所の事務の委任を受ける地方法務局長は、この事務について、法務大臣ではなく、人権委員会の指揮監督を受けることとする上、地方法務局管内を含めブロック管内で発生した公権力による人権侵害事件やマスメディアによる人権侵害事件など、特に中立、公正さが要求される事件の調査については地方事務所が主導的に行うことなどを予定しており、地方機関においても人権委員会の独立性は十分確保されるものと考えております。
 次に、地方における人権委員会の設置についてお尋ねがありました。
 本法案は、人権委員会の地方組織の在り方として、地方委員会の設置ではなく、委員会事務局の地方における組織体制の整備を図ることが必要である旨提言した人権擁護推進審議会の答申の趣旨を踏まえ、人権委員会を中央に一つ設置することとし、地方に委員会を設置しないこととしております。
 その主な理由は、新しい人権救済制度の下では、人権委員会は、主に特別救済の対象となる人権侵害について、事務局において調査した結果を踏まえ、事実認定及びこれを前提とした救済方法の決定等を行う意思決定機関としての役割を担うことが予定されており、このような職務内容等からして、地方ごとに委員会を設置する必要性に乏しいこと、人権侵害とされる行為の違法性に対する評価については、事柄の性質上、全国的に統一された判断がなされる必要があることなどであります。
 次に、本法案から表現、報道の分野に対する規制は削除すべきではないかとのお尋ねがありました。
 報道機関による人権侵害につきましては、まずは報道機関自身による自主規制が図られるべきでありますが、報道機関による人権侵害の実情と報道機関の自主規制の現状に照らしますと、犯罪被害者等の弱い立場にある者に対する一定の人権侵害については、人権救済制度の中で実効的な救済を図る必要があります。
 そこで、本法案においては、報道機関による人権侵害についても特別救済の対象とすることとしておりますが、その対象を、現行法の下でも既に違法と評価される犯罪被害者等に対する報道による著しいプライバシー侵害と生活の平穏を著しく害する過剰な取材という必要最小限のものに限定しており、何ら新たな規制を課するものではありません。
 また、調査を任意のものに限り、かつ報道、取材の自由への配慮と報道機関による自主的取組の尊重を特に明記するなど、表現の自由、報道の自由に最大限配慮した内容となっており、国民の知る権利にこたえるための熱心な報道や取材活動を何ら萎縮させるものではないと考えております。
 最後に、大阪高等検察庁前公安部長の逮捕に関し、私の所見についてお尋ねがありました。
 今回の事件は、他人の刑事責任を追及するべき検察庁の幹部としてあるまじき不祥事でありまして、誠に遺憾に存じております。
 検察が暴力団と恒常的に癒着しているというようなことは全くなく、一人の検事のために、日本の安全及び治安を守るため日夜努力している大勢の全国の検事の名誉が甚だしく汚されたことを非常に残念に思っております。
 この事件については、検察当局において、その全容の解明に向けて徹底的な捜査を遂げるものと承知しておりますが、その結果を踏まえつつ、適切な措置を取ってまいりたいと考えております。(拍手)
○議長(倉田寛之君) これにて質疑は終了いたしました。


 

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